第88話:幼女はいい加減な仕事をしません。だって、暁光帝の巫女なのですから。

にぎやかな海水浴場を跡にした幼女クレメンティーナは暁光帝に任された仕事をするために教会へ。

成人男性と少年3人を引きずりながら。

ちなみにドラコシビュラと化したクレメンティーナのステータス表は…

称号: 龍の巫女

名前: クレメンティーナ

職業: 幼女

身長: 1.08[m]

体重: 15[kg]

体型: 0.93

大事: 無乳

魔力: 5900[gdr]

回復量:3000[gdr/s]

MP最大値までの回復時間: 1.97[s]

力: 0.1 (ヒト族の成人男性の筋力を1とした場合)

速さ: 4.06[m/s]

能力: 雷、聖、強化&弱化、防御障壁、時間

…みたいな感じになっております(^o^)

小生は小説や漫画を描く時、先ずキャラ能力表を作ります(^_^;)

こういうのがあった方がイメージしやすいんですよね〜

今、はやりのステータス表っぽい?

でも「AGI(素早さ)」や「DEX(器用さ)」、「INT(かしこさ)」などの数値がありません。

「AGI」は「体重」と古典力学で代用して「速さ」って数値に変換してますw

運動の第2法則f=maに「体重」と「力」をぶち込んで加速度aを求めて、後は100メートル走の最高速度を求めるv=a+6*(a/8*0.67)にぶち込んで速度vを求めるだけ。今の時代、GNU_Octaveがあるので楽勝ですね。

これもネット小説で人気の「勇者」レベルのステータスだと近似できなくなるでしょうからそのうち、別の計算式を探してこないといけませんがね。

でも、「器用さ」は…う〜〜ん、シーフ系のキャラを描いたことがないからでしょうか、あんまり意識したことがありません。

「INT」は…全く考慮してませんね\(^o^)/

これは不味い。

想像力の欠如のそしりを受けかねない(>_<)

で。

クレメンティーナは5歳児の平均的な身長ですね。栄養状態が悪かったので体重は少し軽め。

まんま、未就学の幼児です。

力は弱いけど足はかなり速いものですね。

まぁ、まだドラコシビュラ(仮)ですから。

さすがの暁光帝も髪の毛マッサージだけじゃ完璧なドラコシビュラは作れなかったんですよ。

それでも、体力の不利は強化&弱化魔法である程度は何とかなりますし。

さぁ、そんな幼女がどんな活躍を見せてくれるのでしょうか。

お楽しみください。


キャラクター紹介&世界観はこちら〜>https://kakuyomu.jp/works/16816700426749852718

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 瓦礫街がれきがいリュッダを治めるジャクソン・ビアズリー伯爵は熱心な光明神こうみょうしんブジュッミの信徒である。

 それに領民が付き合う義理はないものの、領主の信仰する宗教をある程度は尊重するものだ。いつの間にやら、信者も増えて光明教団は街でけっこうな勢力を張るようになっていた。

 この英雄にして元勇者であるジャクソンは自他ともに認めるバカである。“勇者”になるにも“英雄”になるにも頭脳は不要らしい。

 それで街の復興資金を優先的につぎ込んでまで光明神ブジュッミの教会を再建してしまった。

 おかげで光明教団ブジュミンド教皇きょうこうおぼえめでたく、教会への人員配置も豊かになり、布教活動も順調だ。

 もっとも、そのせいでリュッダの街は市壁に大穴が空いたままで、未だに瓦礫を撤去し終えていない。立派な港湾都市なのに“瓦礫街”などという不名誉な名称で呼ばれる由縁ゆえんである。

 そびえる立派な教会の尖塔せんとうは周囲の建物を見下みおろしてそびえている。窓には豪華なステンドグラスがはめ込まれ、美しい色彩と光明神ブジュッミの物語を示している。

 立派な教会の門をくぐる者はあとたず、尼僧シスター神父ファーザーも笑顔を絶やさず、信者達を迎え入れている。

 この盛況には光の神もさぞやニコニコ笑顔だろう。

 はる彼方かなたの神界リゼルザインドにおわす光明神ブジュッミは自身も布教に熱心らしく、他の神々と比べてもその神託は多い。

 少々、干渉しすぎとも言われていて、他の神々やその信者達から反省が足りないとそしられてもいる。

 かつて、光と闇の戦いを引き起こして神殺しの怪物に膺懲ようちょうされた事件をかろんじている、と。

 もっとも、それだけ人間に関心が強いことのあらわれでもあると言う。

 そんな光明教団ブジュミンドの教会に小さな騒ぎが起きた。

 「はい」

 小さな幼女が声を掛けると。


 どさっ!


 扉の前に大柄な神父が投げ出されたのだった。

 「むぅっ!?」

 「これは…あらあら! よく見たら神父ファーザーグアルティエロじゃありませんか! 愉快なお顔になっちゃって、まぁ☆」

 扉にかたわらにたたずんでいた神父ファーザーはうなり、若い尼僧シスターは手を叩かんばかりに喜んでいた。

 仲間がぶちのめされて放り投げられたのに心配する気配けはいがない。

 「……」

 2人の前には幼女クレメンティーナが立っていた。

 何も語らない。

 黙って相手の反応を待っている。

 「これはどうしたことかな?」

 神父ファーザーは不信感を込めてたずねてくるも。

 「かいがんでむちゃくちゃいってアチュタしゃんにおちおきしゃれたでち」

 幼女は堂々と答える。この神父ファーザーもグアルティエロ負けず劣らず大柄だ。それでも、ひるむ様子はまったくない。

 「まぁ、凄いのねぇ」

 ぶちのめされた仲間を見て、逆に嬉しそうな尼僧シスターは。

 「ぷふふ…どうしてこんな愉快な顔に?」

 笑いをこらえて尋ねてくる。

 「しおしおのぱ〜」

 グアルティエロは完全に参っている。何事かつぶやいてはいるが、いかつくて迫力満点だった神父ファーザーの顔はアスタのコークスクリューブローを受けて鼻がつぶれ、目やらほおやら部分パーツが中央にめり込んで、すっかり笑える顔になってしまっていた。

 「アチュタしゃんのパンチをくらったでち」

 小さなクレメンティーナはまたしても堂々と答える。

 これを受けて。

 「“アスタさん”はとても凄いのね」

 尼僧シスターはニコニコ顔でうなずき、神父ファーザー目配めくばせしてグアルティエロの身体からだかつぎ上げさせた。

 幼女をとがめたり、問い詰めるようなことはしない。

 布教は必ずしも安全な活動とは限らない。文明国である、この瓦礫街リュッダにも異教徒はいるのだ。光明神ブジュッミを信じない者がいるのだから、危険な目にうことだってある。

 この程度の負傷でいちいち強く反応することはないのだ。

 ついでに言えば、この神父ファーザーグアルティエロは常日頃、“長幼の序”を唱えたり、密かにヒト至上主義を言い募ったり、男尊女卑の傾向が強かったり、煙たがられていたこともある。

 口にこそ出さなかったものの、尼僧シスターはボコボコにされたグアルティエロを見て『痛い目にっていい気味きみだ』『これで少しは反省しろ』とか思っていた。

 「うん、アチュタしゃんはしぇかいでいちばんつよいでち」

 クレメンティーナはさも当然のように答える。自慢するでもなく、ひけらかすでもなく、まるで天気の話でもするかのように。

 「神父ファーザーグアルティエロを運んできてくれてありがとう」

 「どういたちまちて」

 謝意を示されると幼女はペコリと頭を下げて去っていく。

 パトリツィオ少年と子分ども2人を引きりながら。

 「ずいぶん強いね」

 尼僧シスターは首をかしげたが、さほどおかしいとは思わない。

 強化&弱化の魔法だろうと単純に考えている。

 あんなに小さい幼児が使える魔法ではないのだが、専門の魔導師でなければその辺の事情はわからない。

 けん玉の巧い幼児を見て驚くくらいには尼僧シスターも驚いたが、その程度のことだ。

 「……」

 グアルティエロの巨体を担いだ神父ファーザーは手伝って欲しそうに見ていたが、尼僧シスターが信者の話を聞き始めたのであきらめる。

 「はぁ……」

 グアルティエロが重い。

 そして、目を覚ます気配けはいがない。

 なんともはやと神父ファーザーはため息をく。



****************************



 海岸に近い貧民窟ひんみんくつはごちゃごちゃと汚いあばら家が並び、たまに粗末な長屋が伸びている。薄暗い路地は狭く、ゴミが散らかり、酔っぱらいの吐瀉物としゃぶつえた臭いをはなっており、ずいぶん鼻につく。

 ひどい場所だが、住人にとっては慣れたものだ。

 小さなクレメンティーナは元気よく悪童どもを引きってゆく。

 「おい! わかってんのか!? 父ちゃんは愚連隊ぐれんたいのおかしらなんだぞ! すっげぇ怖くて! すっげぇ強いんだぞ!」

 乱暴なパトリツィオ少年はあきらめずに抗弁を続けている。“抗弁”と言うよりは“脅し”だが。

 愚連隊は貧民窟で勢力をひけらかすチンピラの集団だ。腕っぷしが強く、すぐに暴力を振るうので恐れられている。少年の父親はそこの頭目とうもくらしい。

 もっとも、威勢を張っても幼女に引きられながらでは説得力も迫力もない。

 「おーるぉーばきんぐちゅとんたぅんぴってぃってぱっつ♪」

 クレメンティーナは少年の戯言たわごとに耳を貸さず、意味不明の言葉で歌っている。

 「聞いてんのか、テメェ!? ほんとに恐ろしいんだぞ! 父ちゃんにったら後悔するぞ!」

 「じぇぃごっとじゃかーゔぃないふ♪」

 わめく少年と歌う幼女。

 クレメンティーナは小さな右手でパトリツィオ少年の襟首えりくびつかみ、左手で子分ども2人をつかんで引きっている。

 「…」

 「…」

 目を覚ましていた子分どもだが、言葉を発することなくおとなしく引きられている。

 往生際おうじょうぎわのいいことである。

 2人はパトリツィオ少年や神父ファーザーグアルティエロに頼っておこぼれをもらうコバンザメとしての立場をわきまえているのだ。親分が負けたから自分達も負けた、そのことをよく理解している。

 やがて、ひときわ大きな掘っ立て小屋にたどり着いた。

 木板の窓がゆがんだ素人しろうと工事のかたむいたあばら家だが、それは周囲の家々も同じだ。只、この家はそこいらの家の倍はあって一層きつい悪臭をはなっている。

 「おまいんちのバカ、パトリツィオをつれてきてやったでちー!」

 幼女が元気よく呼ばわると。

 「何だぁ?」

 「うちのせがれがどうしたってぇ?」

 「おいっ子に何しやがったぁ?」

 吹き飛ぶように勢いよくドアが開かれて3人の大男が顔を出す。いずれもいかつく怖い顔だ。全力で威圧している。

 「うげっ!」

 「どひゃっ!」

 「ぐぇっ!」

 その前にパトリツィオ少年と子分どもが放り出された。全員が鼻が潰れてゆがんだ、無様ぶざまで愉快な顔になってしまっている。

 「父ちゃん、叔父さん、おっちゃん!」

 少年は泣き声を上げて同情を誘う。

 「テメェ! うちのせがれに何しやがった!?」

 ひときわ大きな男が騒ぐ。

 息子がぶちのめされて戻されたのだ。自分の面子めんつつぶされたことになる。これに激怒したのである。

 「かいがんであばれてみんなをなぐったのでアチュタしゃんにおちおきしゃれたでち」

 クレメンティーナは親切に説明してあげた。

 優しいである。

 「アスタだとぉ!? テメェはそいつの手下だな!? じゃあ、代わりにぶちのめしてやる!」

 父親は激高げっこうして声を張り上げる。ひたいに浮かんだ青筋あおすじが怖い。

 「どうちて?」

 幼女は不思議そうに尋ねる。

 意味がわからない。

 パトリツィオ少年が暴れて他人に暴力を振るったのでらしめられた、只、それだけのこと。自業自得じごうじとくだ。それこそ『息子を懲らしめてくださってありがとうございます』くらいの感謝されてしかるべきだろうに。

 ところが、この父親は。

 「この世は弱肉強食だ! 誰も彼もが強い奴に従う! 強い奴は偉いんだ! 強い奴に逆らった奴は罰を与えられる! お前みたいにな!」

 怒鳴り、幼女を蹴り上げる。


 ドカァッ!!


 哀れ、クレメンティーナの小さな体は大きくゆがんで空中に吹き飛ばされ……

 ……なかった。

 「かえるのこはかえる、でち」

 幼女は微動だにしていない。

 「うぐゎぁっ!」

 逆に凶暴な父親の方が蹴った足を押さえてうずくまっている。岩にでも蹴りつけたかのように足を痛めてしまったのだ。

 「……」

 クレメンティーナはわずかに目を細めて眼の前の乱暴者を見つめている。

 あらかじめ、防御結界魔法で物理的な攻撃に対する魔法マジック障壁バリアーを張っておいたのだ。

 先ほど、歌いながら。

 魔法陣も浮かんでいたがバカなパトリツィオ少年にはわからず、父親に警告できなかったのである。

 「ふぅん……」

 それにしても奇妙奇天烈きてれつ、不可思議なことだ。

 あれほど大きくて恐ろしかったパトリツィオ少年が怖くも何ともない。それどころか、屈強な大人3人に囲まれて何とも思わない。

 アスタと話したわずかな時間、それが自分を大きく変えてしまったのか。

 いな

 『キミには勇気がある。自由な意志がある。足りないのは力だけだ。それはボクがおぎなおう。キミはキミ自身のすべきことをしたまえ』

 アスタの言葉は難しかったが、たましいに直接ひびいて理解できた。

 変化はわずか。

 足りなかったものを補ってもらっただけだ。

 おかげで為すべきことが為せるようになった。

 「じゃくにくきょうちょくのおきてがただちいのなら、どうちてつよいおまいがおうしゃまになってないでち?」

 凶暴な父親に問いかける。

 「テ…テメェッ!! 言うに事欠ことかいて……」

 親父は目を丸くして怒鳴ろうとしたが、言葉をげなかった。

 なるほど、幼女の言う通りなのだ。

 本当に自分が最強でこの世が弱肉強食のおきてに支配されているのなら、自分は王様になっていなければおかしい。

 凶暴な父親は明らかな矛盾を指摘されて反論できない。

 「ここでチンピラどものおやぶんとかやってるおまいはりょうちゅしゃまのもとでとぐろをまいているだけでち。ほんとうはよわっちいんじゃないでち?」

 クレメンティーナは容赦ようしゃなく親父どもの心をえぐる。

 「チ…チンピラだとぉっ!? 俺達はな、泣く子も黙る愚連隊ぐれんたいなんだぞっ!!」

 「弱肉強食のおきてだ! 強い俺達に誰もが従う! どいつもこいつも俺達の奴隷なんだ!」

 凶暴な父親の子分どもが吠える。

 子分も2人で数はパトリツィオ少年と同じ。やはり親子だ。

 親父と同じく、2人とも激高して蹴りつけてくる。

 そして。


 ガッ! ガッ!


 「あじゃぱぁー!」

 「うぎゃぴぃー!」

 同じように魔法マジック障壁バリアーに弾かれて、痛みに転げ回り、足を抱えた。

 「ハァ…こいつら、バカか、げいにんでち」

 ため息をいて。

 「じゃくにくきょうちょくなんてことばをちゅかっていいのはまけてちんだやちゅらとかってしぇかいいちちゅよいじょおうしゃまになったひとりだけでち」

 その論理展開が行き着く先を示してやる。

 強者が弱者を殺して成り上がるのが弱肉強食の掟であり、弱者として死にたくなければ強くなるしかない。だが、その理屈をそのままし進めれば殺し合いの繰り返しで世界は最強の勝者1人とそれ以外の負けて死んだ敗者だけになってしまう。

 つまり、それについて語れるのは死者と暁光帝ぎょうこうていだけということになるのだ。

 なんともはや、馬鹿らしいにもほどがある。

 「う、うるせぇ! 野郎ども! 全員でぶちのめすぞ!」

 「おうっ!! 生意気なガキめ、大人の力を思い知らせてやる!」

 「女は男に従っていればいいんだ! 魔法なんて使えたところで女は男にかなわないんだぞ!」

 大人3人が一斉いっせいに飛びかかるも。

 「びりびりでち」


 バリバリバリィッ!


 瞬時に電の精霊魔法が発動し、クレメンティーナが触れただけで大男達の身体からだに電流がほとばしり、強烈な激痛を与える。

 「あんぎゃぁっ!!」

 「あんぎゃーっ!!」

 「あんぎゃ〜っ!!」

 3人のおっさんは電撃に打ちのめされて飛び上がる。

 感電の激痛に加えて、筋肉が収縮してしびれ、何とも愉快なポーズで固まってしまった。

 「ひめいにちゅこちだけこちぇいがかんじられたでち」

 微笑ほほえむ幼女は無傷だ。

 おっさん達は触れられた瞬間に感電して筋肉が収縮したので一切の反撃ができなかったのである。

 「父ちゃぁぁん!!」

 眼の前の悲惨な事態にパトリツィオ少年が絶叫する。

 小さな幼女に惨敗する大人達の姿はまさしく絶望の形である。

 「ま…負けるものか…この世は弱肉強食なん…だ…強ければ…強くさえあれば……」

 「男は女より…え、偉いんだ…ぞ……」

 「ガキの分際で…大人に逆らうなんて……」

 凶暴な父親を筆頭に大人達は何とか立ち上がろうと痺れる身体からだを無理に起こす。

 だが。

 「じゃ、びりびりでち」


 バリバリバリィッ!


 クレメンティーナの小さな手から電撃がほとばしる。

 容赦ようしゃしない。

 まともに問答もしない。

 そもそも非合理的な理屈を掲げて暴れるだけの愚か者と話したところでまともな議論ができるわけがないのだ。

 「ぶげぇっ!!」

 「ぶげーっ!!」

 「ぶげ〜っ!!」

 3人のおっさんはあまりの激痛に悲鳴を上げてのたうち回る。

 雷撃傷らいげきしょう。電流による火傷やけどである。それは今まで感じたこともない、全く新しい、耐えがたい痛みだ。

 それでも、目の前の小さな幼女にそれだけの魔力があることを認められず。

 「俺は…お…大人なんだ…ぞ」

 「じゃ…弱肉強食の掟には…だ、誰も逆らえない……」

 「ちょ…長幼ちょうようじょってモンが…あるだろーが。ガキは…大人に従わないといけないんだ……」

 親父どもは顔を上げてクレメンティーナをにらみつける。

 なかなかいい根性だ。

 しかし、根性で何とかなるのはせいぜい自分の筋力を2割増しにするくらいである。

 だから。

 「はんちぇいがたりない。びりびりでち」


 バリバリバリィッ!


 3度目の電撃がおっさん達を打ちのめす。

 「ひぎぃぃぃっ!!」

 「ぐゔぇうぇっ!!」

 「おごげぐぇっ!!」

 絶叫する3人は背骨が折れんばかりにのけぞって地面を踊る羽目になった。

 「えゔぅ…強い奴が偉いのに……」

 「あぐぐ…こ…こんなことが……」

 「俺だぢは…一番…強いんだ……」

 あかだらけの汚れた服からプスプスと煙を吹かしながら、おっさん達はしびれている。げた布とあかの悪臭が漂い、ひどい状況だ。

 「父ちゃん、ホントは“弱肉強食の掟”なんて、“長幼の序”なんて嘘っぱちなんだろ? もう駄目だよぉ…その理屈は使えないんだよぉ……」

 鼻水とよだれと涙をあふれさせた無様ぶざまな息子が父親の説得にかかる。

 長年、いてきた嘘がバレたのだ。

 若い分だけ息子は考え方が父親よりも柔軟で現実的だった。“弱肉強食”も“長幼の序”も只の方便であり、自分を“王様”にしてくれるから唱えていただけだと承知していた。

 これらの理屈が自分を偉そうに見せてくれると信じていた。

 けれども、そんな理屈で本当に偉くなれるわけではないと承知してもいた。

 だから、捨てる。

 弱肉強食の掟も、長幼の序も。

 「ううう……」

 父親も泣き出していた。

 息子の心が折れた。自分ももう頑張れない。

 敗北である。

 「ず…ずびばぜん。じょ、調子じょうじに乗っでまじだ……」

 泣きながら許しをう。

 「「…」」

 子分どもも無言で頭を地面に着ける。もっともいつくばっているから簡単だが。

 いい大人が…とは言えないが、それなりに幅をかせてきたチンピラが幼女を相手にみっともない姿だ。

 「もう暴れだりじまぜん。ごでがらは…真面目にはだらいで…ぐららじまず……」

 愚連隊ぐれんたいの終了を認める。

 これでパトリツィオ少年と同じく、凶暴な父親も敗北して心を入れ替えただろう。

 「よろちい。はんちぇいちゅるよーに☆」

 幼いクレメンティーナが裁定する。

 これでいい。

 もちろん、これで終わりになるとは限らないだろう。少年も父親も心を入れ替えたふりをしているだけかもしれない。

 けれども、それならそれでいい。

 クレメンティーナがここで暮らしているのだから。

 こいつらがまた妙ちきりんな屁理屈を掲げて暴れだしたらまたぶちのめすだけだ。

 『悪党の話は聞いてやらない』

 『問答無用でぶちのめせ』

 アスタの助言を忘れていない。

 「こいつらのはなちをちょっときいてちまいまちた。まだまだあまいでち」

 自分の反省も忘れない。

 くるりきびすを返して去ってゆく。

 まだ息のある敵に背中を見せてしまったが、別に残心ざんしんを忘れたわけではない。

 これは誘いであり、確認だった。

 悪党どもが反省しているのか、それとも。

 「…」

 チンピラどもは動かない。

 どうやら背後から不意打ちを仕掛ける余力はないようだ。

 おっさんどもの気配けはいを察知してわずかに口をゆがめる幼女はまるで手練てだれの戦士のようだった。

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