<<モンスター襲来!? 海水浴場の平和はボクが守る☆>>

第87話:暁光帝は後片付けを忘れません。ゴミはきちんと処理しないと。

街のいじめっ子どもと横暴な神父をぶちのめした、我らが暁光帝♀は新たなトラブルに巻き込まれます。

えっ、巻き込まれ型なの? 巻き込まれ型の消極的主人公なの?

いいえ。ご安心ください。ちゃんと物語に積極的に絡んでゆくタイプですよ〜

只、あんまり積極的すぎると物語が崩壊してしまいますのでね。

作者としては加減が必要なタイプの主人公ではあります(^_^;)

ってゆーか、設定資料の整理にかまけていたらずいぶん遅れちゃいましたよ(>_<)

ええ、ほんと、気がついたら半年くらい経ってました……

むぅ…あれから毎日、執筆していたんですが、初期プロットが膨れに膨れて新章が17万文字くらいになっちゃいましたよ(ToT)

分割したら27章ですわwwww

これ、いつもどおり、一日おきに投稿したら2ヶ月くらい過ぎちゃいますね。

…なので、今回は毎日投稿することにします。

まぁ、一応、仕上がってはいますからね。

よほどのことがない限り、問題なく連載できることでしょう。


お楽しみください。


キャラクター紹介&世界観はこちら〜>https://kakuyomu.jp/works/16816700426749852718

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 南中していた太陽がわずかにかたむいたか。

 自由民びんぼうにんの子供達はホクホク顔でタイやヒラメ、海のさちをどっさり抱えて帰っていった。今夜は家族でおなかいっぱい食べられるだろう。

 うたげの後か、初夏の海辺はずいぶんと静かになっている。

 上流階級の人々はまだ元気だ。

 先ほどの騒ぎでもがっつくことなく、お腹をかせた子供達のお相伴しょうばんあずかっただけだから、今は自分達で食事している。

 浜辺にはお金持ちブルジョア向けの食べ物屋が多く開いているから、彼らが食事に困ることもない。

 今も1台の屋台が焼き立てのパンや惣菜そうざいを売り歩いている。

 「さっきの騒ぎで売り上げが減るかと思ったけど、盛り上がって逆に増えたな」

 「アンタ、紫の髪のおじょうちゃんにお礼を言っとかないとね」

 屋台の夫婦が忙しく働いている。

 客はひっきりなしに立ち寄り、屋台はいつも以上に繁盛している。

 浜辺のあちこちに他の屋台も見え、どこも客が入っている。童女アスタが引き起こした騒動は海水浴客の食欲を刺激したらしい。

 実際、お金持ちブルジョアの家族らは童女のもたらした海の幸にずいぶんかれたものだ。けれども、たくさんの自由民びんぼうにんが目の色を変えて集まってきたので退きもしたのである。

 『金持ち、喧嘩せず』の格言はここでも有効であった。

 アスタがもたらした海の幸に食欲を刺激された上流階級の人々はお金を払ってふつうに食べ物を買うことにしたのである。

 ある意味、当然の流れであった。

 「いやぁ、紫の髪のおじょうちゃんはすげぇなぁ」

 「もうかってもうかって…もう頭が上がらんよ」

 「ありがてぇ、ありがてぇ」

 アスタは本人が知らない内に屋台の店員達からも感謝されていた。



****************************



 そんなアスタは幼女クレメンティーナに命令を下している。

 「クレミー、そこの目障めざわりな4名…えーっと、ウミケムシ未満の神父とバカ3匹を元いた場所にやっちゃって」

 「りょうかいでち!」

 「飼い主が文句を言ってきたら同類だからぶちのめしちゃっといてね」

 「このクレミーにおまかしぇでち! ぱわーあっぷ!」

 幼女は自身に強化&弱化魔法の一種、筋力パワー頑丈さタフネスを強化する魔法をかける。

 相変わらず、呪文を唱えないし、魔術杖メイジスタッフも振りかざさない。それでもいきなり空中に魔気力線まきりきせんの図形が浮かび上がり、魔法陣として機能する。


 ぎゅぅぅぅん!


 魔法が発動し、姿形は変わらないものの、幼女の能力は格段に増した。

 「うわぁっ!! 何をする気だぁっ!?」

 近づいてくるクレメンティーナを見て、先ほどまで横暴の限りを尽くしてきたパトリツィオ少年が悲鳴を上げる。

 「むっしゅめらめら〜!」


 むんずッ!!


 幼女は少年と子分たち、そして神父ファーザーグアルティエロらの襟首えりくびをまとめてつかむと問答無用で引きっていく。

 「畜生ちくしょうっ!! 離せ!っ!」

 引きられながらパトリツィオ少年は抵抗するも小さな幼女の手を振りほどけない。

 「ちんぷしゃまはきょうかいに、おまいたちはいえにもどちてやるでち」

 「やめろ! やめてくれぇっ! 無様ぶざまに負けたとわかったら親父に折檻せっかんされちまうっ!!」

 少年は本気で嫌がっている。

 どうやら父親は少年が負けることを許さないようだ。

 「おまいはあいてが『やめて』っていってもきかなかったでち。だから、あたちもきいてやらないでち」

 幼女は許さない。

 パトリツィオ少年が自分よりも小さい子供達を殴って食べ物を取り上げていたときの所業を憶えているのだ。

 魔法で強化されたクレメンティーナの指は鋼鉄のように頑丈で少年に叩かれてもゆるむ気配はない。

 他の3人はびたままなので動かずに引きられている。

 話を聞かず、腕力に物を言わせようとした神父。

 パトリツィオ少年の下について虎の威を借りて横暴を繰り返してきた子分ども。

 これもまた自業自得じごうじとくなのだ。

 幼女は厳しい顔で突き進んでゆく。

 これからやるべきことはたやすくない。

 だが、自分にはあるじからたまわった魔法がある。

 そして、くじけぬ意志がある。

 社会による正義の復讐。

 それがされることであろう。

 「いひぃぃぃっ!!」

 情けない少年の悲鳴が響き渡った。



****************************



 思いがけない物事は常に起こる可能性がある。

 残った童女アスタも重大な問題に直面して頭を抱えていた。

 「むぅ…これは!」

 まわりに散った残飯、焼き魚のゴミに異様な生き物がたかっていたのである。

 それは童女の小さな手では両手でもつかみきれないほどに大きく、毒々しい色をしてガラスのような鋭いトゲに包まれいる。手も足もない、まるで毛虫のようだ。うねうねとうごめきながら、大きく口を開けて魚肉をむさぼり食っている。

 「ダイオウウミケムシ、海中の生物だとばかり思っていたけど、こうして陸にまで上がって餌を探すんだ…たくましいなぁ!」

 えらく感動している。

 不気味な生き物だ。凶暴でみついてくるし、触れると毒針に刺されてひどく痛む。見た目だけでなく、実際に有害で危険な生き物なのだ。

 生物学的には環形動物に分類されるので、海中にむ肉食性のミミズと言ったところか。このあたりの漁師にとっては別に珍しくもないし、さほど綺麗なわけでもない。

 けれども、水生生物なのに餌を求めて上陸し、こうして人間の残飯にたかっている姿には心惹こころひかれる。何というたくましさか。注視すれば注視するほど生き物としての力強さが伝わって来る。

 只、海中で泳いだり、海底をのたくっているだけの生き物だと思い込んできたが、意外と生活圏が広いのかもしれない。

 これもまた『世界を横から観る』という遊びをしていなければ気づかなかったことだろう。人化じんかの術を教えてくれた親友の緑龍テアルにはいくら感謝しても感謝しきれない。

 だが、それによって重大な問題が起きてしまっていた。

 「ウミケムシ、誤解してたわ! おまい、悪い奴じゃないじゃん!」

 アスタはしゃがみこんで観察し、あふれ出るウミケムシの魅力に参っている。

 「あぁ…あの神父ファーザーを『ウミケムシ未満』とか言っちゃったけど…ほんっと申しわけないわー!」

 これはいけない。

 論拠なくウミケムシをおとしめる発言だ。

 幼いクレメンティーナに言った言葉を訂正せねば。

 童女は力強く決意するのであった。



****************************



 冒険者パーティー荒鷲団あらわしだんの面々は騒ぎを忘れて当初の目的、海水浴を楽しんでいた。

 「ほぉら、行ったわよー!」

 「おうっ! 任せろ!」

 「グギャッ! チョット高イ?」

 童人ホビットのキャロル、ヒトのハンス、侏儒ゴブリンのビ・グーヒは白波しらなみ蹴立けたてながら、ボールを跳ねさせている。

 平和な海辺を眺めていた博物学者ビョルンと妖精人エルフのナンシー、為政者エライヒト2人はホッと一息ついていた。

 「アスタの懸念がいじめっ子の親と神父の教会だったとは……」

 「本当に僥倖ぎょうこうです。てっきり領主様に、いや、王権に逆らうためのものかと……」

 「暁光帝ぎょうこうてい龍のドラコ巫女シビュラが出てきたら3日で国が滅びますよ」

 「剣呑けんのん剣呑けんのん。でも、そうはなりません。龍のドラコ巫女シビュラは教会と悪童あくどうの家に行きましたからね」

 「「はーっはっはっはっ! よかった、よかった☆」」

 声をそろえて笑い、2人は胸をで下ろしている。

 しかし。

 「それにしてもアスタさんはどうして……」

 ビョルンはうつむいて考え込む。

 どう考えてもおかしいのだ。

 いじめっ子の親とか、光明神ブジュッミの教会とか、別に自分1人でも対処できるていどの相手だ。ビョルンはこの瓦礫街がれきがいリュッダ領主の懐刀ふところがたなであり、不埒ふらちな連中など言葉1つでどうとでもなる。腕力で解決させるとしても兵士を連れてゆく必要はない。腕っぷしの強い下男げなんを何人か、連れていけば事足ことたりるのだ。

 どうして、最大級ゲルグンドの雷魔法を操る龍のドラコ巫女シビュラが必要なものか。

 今の幼女クレメンティーナが1人いればオルジア帝国の大軍でさえたやすく撃滅できる。

 明らかに過剰な戦力だ。

 「…にしか見えない敵と戦おうとしている」

 「えっ!?」

 エルフのつぶやきに博物学者が目を見開く。

 「人間にはわからない、ドラゴンにしか見えない敵がいて…それに対応しようとしている、とか?」

 それは意外すぎる意見だ。

 ナンシーも自信なさげに語っていた。

 「それは! いや…ますが……」

 エルフの話にビョルンは考え込んだ。

 人間の目には見えない、透明な怪物、精神だけで動く幽霊のような存在が街に入り込んでいるのか。

 魔力やら生命力やら、アスタは人間の目には見えないものがえるらしい。他にもいろいろえるようだし、瓦礫街リュッダが怪しい存在にむしばまれている可能性は十分にある。

 そうだとしたら恐ろしい。

 けれども、それを童女が見つけて対処しようとしてくれているのならありがたい。

 しかし、すべてが推測に過ぎないのだ。

 「う〜ん……」

 判断するには情報が少なすぎて、どうしたらよいのかわからない。

 悩ましい話だ。

 「まぁ、少なくとも王権に挑む暴力革命って線はないと言うか、考えても仕方のない話ですよ。だって……」

 ナンシーは海岸で遊ぶアスタの方を見つめる。

 遊んでいるのだろうか。

 それとも、瓦礫街リュッダをむしばまんとひそんでいる何者かを調査しているのだろうか。

 何やら、熱心にあとを見つめて考え込んでいるようにも見える。ビキニの黄色いボトムに包まれたお尻が可愛い。紫色の金属光沢にきらめく髪は童女のまわりを踊るように跳ね回っており、虹色の瞳アースアイが何かを熱心に見つめている。

 何か、よほど重要なものを見つけたのだろうか。

 瓦礫街リュッダの、いや、世界の命運を決定するような、きわめて重要な何かを。

 「アスタの中で重大な事項が決定されたのかもしれないし、されていないのかもしれない。けれども、クレメンティーナという龍のドラコ巫女シビュラが生まれてしまった以上、もはや、私達にできることはほとんどないに等しいわ」

 あきらめの空気を漂わせている。

 でも、仕方ない。

 エルフの言っていることに間違いはないのだ。

 超巨大ドラゴン暁光帝に比べれば人間などゴマ粒よりも小さい、アブラムシ未満の存在である。

 どれだけ集まろうと、どれだけ力を合わせようと、どれだけ知恵を絞ろうと、アブラムシの力が及ぶわけがない。

 「そうですね。それとなくアスタさんから聞き出す…これくらいしかできることがなさそうです」

 ビョルンもため息をく。

 ドラゴンの専門家としてわかりきっていたことだが、あかつきの女帝をはかることがどれだけ無理難題なのか。

 今、つくづく、実感できた。

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