第7話
Aランク昇級おめでとうございます」
ギルド職員が織守達に簡素な祝意を伝えた。特に大きな問題もなく、俺たちはAランクに昇格した。大きな障害もなかったため、達成感とかそういった感情はもちろん生まれない。
「それじゃ次は五級への試験を受けさせて欲しい」
そういった矢先、受付嬢は丁寧に腰を曲げ、再び起き上がり口を開いた。
「申し訳ございません。中位階級からの試験には依頼による成功記録が必要になります」
(まぁ信用しきれない人間が上位ランカーになっては困るし妥当な判断か)
俺はそう割り切って、出来るだけ不機嫌な感情などを出さないように気をつけながら受付嬢に応対する。元々これは説明されていたことだが、織守はこれを忘れていた。
「わかった。今日は世話になったな、ありがとう」
そう言って俺はその場を立ち去ろうとする。
「はい、本日はご利用ありがとうございました。またのご利用をお待ちしております」
去り際に横目で見た職員の対応も非常に好感が持てるものだった。やはりこの街は非常に整っている。
「進級の確認をいたしました。これが新しいギルドカードです」
そう言われ、ギルドの受付から新しいギルドカードを受け取った。
(目立っているか、まぁちょうど良い)
情報というものは裏に集まるものだが、裏というもので動くには表でもある程度、もしくは最大級の地位を持っていることが多い。今から適度に目立つことは重要だろう。
「新入り、少しいいか?」
(3rdランカーか)
「なんだ?」
俺がここで敬語を使わなかったのは意図してだ。しかし相手は大人な対応を取った。やはりここはいいギルドだ。
「新入りは今まで、何をしていたんだ?」
「何もしてないさ。強いていうなら、そうだな、机の上で生活していたかな」
ぶっきらぼうに呟き、面倒くさがる。一応相手にも伝わっていると思われる。
「…文官か?確かに体の線は両者とも細いが…まぁ良いか。新人腕に自信はあるか?」
「全くない。頭の方も含めてな」
彼は少し考えるような素振りを見せ、話を続ける。
「そうか、なるほど誘う前に振られてしまったようですね。それではまたいつかお会いしましょう」
やはりここはいいギルドだ。頭もまわる者もいるようで非常に助かる。無駄なお喋りは好まない。
俺は宿への帰り道に、白葉に話しかけられた。
「あれでよかったの?」
「何がだ?」
「彼、きっと私たちを勧誘しに来たのでしょう?きっと地位もかなりあったのだしいい話だと思ったのだけど」
白葉も要点は理解しているはずだが、それの確認をしたいのだろう。
「あの話に乗ったら抜ける時に変な噂が立つだろ、無駄な繋がりはいらないよ」
「クレバーなのね」
ぼそっと呟くように白葉が声を出した。
「現実を見ているだけだよ」
そして俺もぼそっと声を発した。宿はいつものように狭く、それでいて、もの苦しさを感じるようなこともない。
* * *
「おい、避けろ」
ここはダンジョンの第三階層、草原が広がりモンスターが跋扈するダンジョンである。
俺たちは戦闘訓練として超格下ともいうべきモンスターと戦っている。俺はともかくとして白葉には自衛できる程度の戦闘能力を手に入れてもらわなければ今後に差し支えるであろうと考えたからだ。
「別に、ダメージを受けないんだからいいじゃないの」
白葉の戦闘スタイルは天国系のスキルや魔法による力技の防御、召喚によって天使を召喚し、それを強化、回復を施し無限に戦うというものだ。
天国系のスキルは回復と防御、地獄系のスキルは攻撃と想像に特化している。白葉本人に戦闘能力がないとは天国系スキルのみしか使えないためである。
「それじゃ、輝夜にも俺にも勝てないぞ」
「あら、私は女よ?貴方に守られて当然の存在だと思うのだけれど」
輝夜のスキルは八つしかない。しかしそのうちの四つがアルティメットスキルであり、残り四つは非常に厄介なオリジナルスキルである。
「輝夜は信用できんだろ、あの四人は化け物だからな。性格も含めてな」
「まっ、あなたがそういうのならそうなのでしょうね。分かったわ、少し真面目にやってみる」
僅かに顔が曇ったことを俺は見逃さない。スキルはもちろん使わずにその程度のことには気が回る。
「医者として生物を殺めるのは心が痛むのか?」
俺は白葉がとても気にしているであろうことを、当たり前のように質問した。デリカシーのかけらもないと言われそうだが、これ以外に方法はなかった。
「あなたって本当に意地悪なのね。本当に、本当に」
少し目が潤んでいる。少しいじめすぎてしまったかもしれない。
「すまんな、俺は自分の理想を押し付けてしまう癖があるんだ」
(自分でも愚かだと思うけどな)
「そうね、あなたは愚直な男の子だものね」
「意趣返しか?」
横目で白葉を軽く気にする。
「ええ、勿論」
白葉は笑みを浮かべながら、艶やかに笑った。白葉の方が意地悪なのかもしれないとおもったことは秘密である。
――――――――――――――――――――――――
side白葉
医者として生物を殺めるのは心が痛むか?
そういわれてハッとした。私は自分のことを感情に流されずに行動できると思っていた。
けれど無意識に感情に流されていたのかもしれない。彼はそれを見透かしたように指摘してきた。その事実に、少しムッとしてしまった。そして、驚いた。ここまで現実を見ている人がしかと目の前にいる。その事実に。
それでも、彼がここまで頑張っている理由は少し笑ってしまうけれど、私はちょっと嫉妬しちゃうかもね。私に恋愛などできないのだけれど。
それでも少しムッとしたから反撃させてもらおうかしらね。
――――――――――――――――――――――――
その後は白葉が自分で考え、少しずつ行動を最適化していった。
知覚加速系のスキルは白葉も持っているし、これは倍率系のスキルである。元のポテンシャルが非常に高いため、おそらく知覚速度300倍でも知能に関しては俺以上にある。
今日はこの辺りで一度引き上げとした。
***
「あー、テステス、聞こえるか?」
地球を思い出すブルーライトによって6人の顔が映し出される。
「聞こえるよ〜」
ケイの言葉に反応したのはジョヴァンニだ。
「一応近況報告でもしようかとね。僕らはとある文官に目をつけられたからね、僕らの今の地位はお抱え秘書二人組ってところだ」
「俺らは、まぁAランク冒険者になったところだな。まだまだこれからさ」
「俺らは経済力に関してはともかくジョヴァンニが大量に情報を集めてくれたからな。その情報は送った通りだ、有効活用する術はケイに任せる」
「私たちは研究所の整備が終わってないわ。何も変わっていないわね」
「今の情報を纏めると各々足掛かりが築けてきたけれど、いつ崩壊してもおかしくない。しかし、失敗しても痛くはないな。まぁいいさ、深月にある程度情報をまとめておいてもらうとするよ」
彼らはなかなか相方と進展したようだ。最低限、下の名で呼ぶようにはなったようだ。
「それじゃ、また来週な」
そういって各々が電源を落とした。久々に画面を見たため少し酔ったようで、少し気持ち悪かった。
* * *
冒険者になって一ヶ月、首都近くのダンジョンに通い戦闘訓練を行いつつある程度の納品や依頼を受けた。そして今日、五級への昇格試験に達する依頼最高ポイントが溜まったのだ。正直、ランクを上げるならダンジョン攻略で規定階層を突破する方が早い。
「シータ様とホワイト様の昇級試験受験資格を確認いたしました。どうぞこちらへ」
受付嬢が立ち上がり、奥の闘技場に案内してくれた。
心なしか白葉が緊張しているように見える。
「試験内容の説明を行います。中位ランカーの試験には筆記試験と戦闘試験の二つの分野でテストを行ってもらいます。筆記試験については冒険者として必須な知識を問うものです。字が読めない場合は、口頭問題として代用することができます。ご質問はおありでしょうか?」
筆記試験の方がどちらかというと難しいだろう。こちらは最近冒険者登録をしたばかりで圧倒的に知識が足りない。これからは図書館に通いでもしなければならないだろう。
「それでは戦闘試験を開始します」
戦闘試験はアイアンゴーレム、ジトブラックウルフ、ファイヤーリザードマンの三体のうち一体がランダムで召喚される。アイアンゴーレムは一体、ファイヤーリザードマンは二体、ジトブラックウルフは八体を相手にすることになる。
今回はジトブラックウルフ、対一戦闘が得意な俺に取ってはやりづらい相手だ。
狼どもが俺を囲もうと散開し出したため、俺は真っ先に突撃する。狼を一匹ずつ相手取れば問題ない。本来ならばリーダーを狙いたいところだが今回の場合のリーダーは召喚者なので狙えなかった。
適当に首を跳ねる。ステータス差によるゴリ押しではあるが一ヶ月前に比べれば技というものが身についたように見える。
狼どもよりも敏捷力が高い俺は狼に囲まれる前に、一匹一匹各個撃破していった。十二秒。戦闘試験に関しては問題なく合格だろう。
次に白葉、ホワイトの番だ。
「サモン アルティメットセラフィム」
召喚された天使はアズラーエル、一般的には知られていない天使だが知る人ぞ知る最高位天使の一柱だ。
白葉の相手はゴーレムだった。
あぁ、勝負には勿論ならない。アズラーエルが適当に神聖魔法を打っておしまいだ。ゴーレムは光の粒になって消えていった。召喚されたモンスター等は光の粒となり消えていくのだ。
「次に筆記試験に移ります。どうぞこちらへ」
試験の内容はものすごく簡単だった。お試しの筆記試験、五級昇級試験というわけなのだろう。薬草の知識から解体の作業に関する知識などが問われた。
なんとかなったと思うが、あまり自信はない。
「合否判定が出るのは明後日ですのでしばしお待ちください」
不安そうな表情が顔に出たのか、受付嬢が話しかけてきた。
俺は挨拶をして、白葉の手を取り図書館に向かった。
今回のテストでは魔法学的なことは全く問題なく答えることができたのだが、解体やダンジョンについての知識はほとんど答えることができなかった。
こういったわからないことが浮き彫りになるためテストというものはやはり大切だと思う。ただ、テストのために勉強するというものは大嫌いだ。あれになんの意味があるのか理解できない。なんでそんな無駄な知識知ってるの?と聞かれてじゃぁお前らが学校で学んでること何に使うの?と聞かれてテストじゃんと帰ってきたら結局使ってないという気がする。
しかし、今回のテストは冒険者として使用することがある知識だった。知識欲を追求したテストもまた面白いものだが、俺は活用法が多いこういったテストの方が好きだ。そして、使用する知識欲をとはつまり武器になり得る知識ということだ。それらの知識は得ていた方が良いと思い図書館に通うことにした。
知覚能力500万倍といっても調整ができないわけではなく、今はおおよそ15倍で読んでいる。この世界には速読というスキルもあるそうなので目立たないだろう。
「ねぇ、これって知っているという状態じゃダメなのよね?」
「そりゃそうだろうな」
「了解よ」
白葉の言ったことはこの知識を活用できる段階まで昇華しなければならないのか、ということだ。それはもちろんそうだろう。知識は使うためにあるのだ。
この日から3日を掛けて冒険者の基礎知識を全て知っているという段階まではこぎつけた。だがやはり使えるという段階まで持っていくには実戦経験が必須だろう。
ということで
「今日からダンジョンに潜るぞ。この間まで潜ってたギルミャダンジョンな」
「予測はしていたけど、それでダンジョンはどこまで潜るの?」
「七十五層攻略かな、そこが鬼門だし」
このダンジョンは言い伝えによると百層まで存在しているのだが、今までの記録に残っている最高到達階層は九十四層、それも二百八十年前の記録だ。
ここ数十年の記録では八十四層に勲章位一人とハイランカー(勲章位戦出場者)四人1stランカー三人のパーティーが到達したのが十六年前で最高到達階層から帰還することはなかったそうだ。
地獄のようにある程度の情報があれば対策も立てられるのだが七十五層が鬼門であり、それ以降の情報はとてもあやふやになっている。地獄については製作者が輝夜の親であり多くの知識が得られたためボスに直行できたが、あの巨大空洞を飛び降りるということ自体バカのやることだし最下層から帰ってこられる人間もいないだろう。
現在生存している冒険者パーティーの中で75層を突破したパーティーは実に4つしかない。その中には勲章位、ハイランカーが当たり前のように混ざっている。
過去を合わせると20パーティー前後だったはずだ。
「七十五層?フロアボスの名前はウロボロスだったかしらね、二人で行くなんて自殺行為じゃない?」
「そうでもない、俺は一対一なら無類の強さを持つからな、後方支援有りならなんとかいけるよ。アルティメットスキルを使いこなせれば一人でも」
「なるほどね、それで冒険者ランクをあげようって魂胆なの?」
「知識の昇華や、戦闘訓練も兼ねているけどやっぱり地位は大切だからな」
「明日からなのよね?」
「あぁ、勿論そのつもりさ」
ギルミャダンジョンはここから7キロ程度の距離である。そこそこ遠いのでダンジョンで野営するための道具なども買わねばならない。その点は金は多少貯まったしなんとかなるだろう。
そう考えて白葉と二人で買い物に出掛けた。きっと向こうはそんなことを意識したりもしてないだろう。俺もその方が都合がいい。既成事実なんて言われたらたまったものではない。
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