第6話


管理者となってから二ヶ月がたち、ある程度スキルに慣れてきた頃合いを見計らって、俺たちは情報収集のための行動に移り始めた。人類の叡智の一つ、パーソナルコンピューターがものの五時間で八つ完成するとは世も末なのか、管理者の理系組がおかしいのか、織守には判断ができない。これらの機器に加えて個人個人が作った便利グッズを配布し終えれば少しの間お別れだ。


俺の戦闘スタイル的にはオリジナルスキルを封印して戦う場合ただの知覚と筋力補正によるゴリ押しになるため、これがないと駆け出しの頃に死んでしまう。三年に一度のみ管理者が持つアルティメットスキルの能力で死んでも復活するが、あまり使いたいものではない。そしてその蘇生というものも、死んだその場で一瞬にして復活するので死んで逃げるということはできない。


余談だが、それぞれに配布されるアイテムは変わる。

俺の場合は両刃槍、長剣、肩当て、弓、矢、槍、パソコン、食事、そして衣服である。高速移動系のスキルが使えない者には擬似瞬間移動の術式を込めた結晶を大量に作り渡したし、戦闘スタイルや役割によっても配られる内容は違う。倫太郎の作った空間拡張魔法が施されたバックにこれらを入れると大体五分の一程度が埋まる。食事の量は前の世界で換算して三ヶ月分、今の俺たちで換算するのならば丁度一年分ほどある。現地でも調達できるだろうがこれは保険だ。




「それじゃ、一応いつでも連絡は取れるけれど半年間はお別れだ。元気でな」


おいケイ、フラグを立てるな。と心の中でツッコミを入れた。フラグというものは回収してしまうことがしばしばある。


「あぁ、お前も、そして他の奴らも下手なことすんなよ。それじゃぁな」


各々が一時的なお別れではあるが少しは寂しさを覚えていることが窺える。こう言ったことには精神を司るアルティメットスキル、『愛を謳う獣』を手に入れてから敏感になった気がする。このスキルは成長するらしいので、もしかしたらさまざまな感情を享受することでスキルも成長するのかもしれない。


「それじゃ、留守は任せる。実験設備もありさが整えられるんだよな?手伝えることはないけど頑張ってくれよ」


「ええ、言われなくてもね、そっちこそ出来る限り働いてきて頂戴ね」


アリスはそう言って無邪気に笑う。本当にこう言ったところは子どもらしい。


「あぁ、やるべきことはやる。それが俺のモットーだからな」


俺はそう言ってアリスに背を向けた。きっとこうした方が後腐れがないと思って。



* * *



「白葉は俺と二人で嫌じゃないのか?」


メテュシナ連邦に向かう道中俺は、ふと気になったことを聞いてみる。正確にはからかっただけなのだがそれは言わないお約束だ。


「え、なんでそんなこと聞くの?」


白葉は豆鉄砲を喰らった鳩のような顔で返答した。聞かなくてもわかるということをわかっているからだろう。


「いや、だって異性じゃん?襲われるとか考えなかったの?」


「ふふっ、貴方ってエゴサーチに興味がないのね。大学内でも貴方の過去のことは有名よ。7歳の頃からずっと好きな子がいるのでしょ?そんな人が私を襲うの?」


「そうは言っても顔も名前も忘れかけてるんだがなぁ」


これは少しだけ嘘だ。俺はその子の、一目惚れした瞬間の顔だけは今でも鮮明に覚えている。だが、実際名前も覚えていなければ、どこに住んでいたのかなども覚えていない。織守は十歳の頃に渡英してから日本のことを思い出さないようにしていたため、日本にいた頃の記憶はほとんどない。


「それでも、その子のことが忘れられないのでしょ?飛んだヤンデレさんね」


「よく言われるよ。けどさ、愛と性欲は似ていそうで全くの別物だったことを知らないのか?」


「あら、私たちがこちらにきて性欲を感じたことがあるのかしら?貴方も気付いていると思うけれどこの体になってからそういったことは全く感じないのよ」


白葉は医者である。この世界に来てから変化した体についての生態調査は欠かしていないのだろう。織守はこれ以上何か言うべきでないと考えて喋るのをやめた。


それから数分後、織守は再び白葉に話しかけた。


「大学のチュートリアルあっただろ?座学に関して言えば、やっぱあれが一番効率いいよな?」


「そうね、あの方法は家庭教師のようなものであるものね、自分で考えながら問題のアプローチや、付加知識も与えて貰えるし、私の知る中では最も効率がいいと思うわよ。それがどうかしたのかしら?」


「いや、商会を作るなら従業員が必要だろ、そいつらに経済学を教えるとしたらそれが一番効率いいかなって」


織守は歩いたりしている時は大抵考え事をしている。というよりも思考しない時間を彼は嫌う。


「あぁ、なるほど、それはそうね……それにしても貴方っていつもそういう思考をしているの?」


白葉が顔を覗き込んで聞いてくる。さっきからかわなければよかったかもしれない。顔面偏差値=学力偏差値のこの女はある意味強敵だ。


「俺は決してお前らみたいに頭がいいわけじゃない。確かに容量は多少いいがそれでもあの大学では下の方だ。それを補うための思考だよ。可能性を掌握しておけば臨機応変に対応できるだろ?」


実際の話をすると無駄な考慮というものは脳と精神を疲弊させるだけだ。しかし、不安というものは実際人間を動かす原動力になり得る。


「それはそうね、なるほど貴方の合理的な計画性について少しわかった気がするわ。思ってたより貴方ってすごいのね」


「多少なりとも凄くなければあの大学を卒業できないよ」


そんな会話をしながらだらだらと歩くこと八時間、俺たちはメテュシナ永世中立連邦国の首都メリアに到着した。


完全に今更だが俺たちが召喚された山はメテュシナ連邦国内の首都から四十五キロ程度の場所である。


ほら、ダンジョンが沢山あるし、国土も広いからね、言い忘れたわけじゃない。だから、言い忘れたのはしょうがないことなんだ。多分。。。




メテュシナ連邦の首都メリアは標高350メートルほどの海から多少離れた場所にある。この世界では首都を海辺付近に置くことは戦争関連の面で危険があるため海辺では貿易港とその付近が発達し、第二の首都的立ち位置にいる。


しかし、やはり情報という面では二つのギルドの本部がある首都の方が集まりやすく、活動拠点にこちらを選んだ。


「次の人どうぞ」


関所の職員に呼ばれ俺たちは進む。


「身分証明書はお持ちでしょうか?」


「あぁ、これで構わないか?」


俺はそう言って倫太郎が作った身分証明書を何食わぬ顔で提示する。勿論偽装パスポート的なものだ。


世界の管理者なのに犯罪をしていいのかって?

この世界のルールは人間が勝手に作ったものと管理者が持つルールとの間に大きな差があるからいいんですよ。多分。。。


これからの予定だが、まずは冒険者登録を行う。その次に宿の確保である。


しばらく歩きギルドが見えてきた。流石は総本部というべきか、大きさでいうのならば大学に匹敵する面積を持っている。


俺はギルド内に入り、受付にまで真っ直ぐ進んだ。


「ようこそお越しくださいました。本日はどのようなご用件でしょうか?」


「冒険者登録をお願いしたい」


俺がそういうと、ほんの一瞬驚いたような様子を見せ、直ぐに営業スマイルに戻った。


やはりギルド本部で冒険者登録をする人間は少ないのだろう。この街の住人は基本商人だし、依頼を求めて各地方からエリートたちが集う場所でもある。


「冒険者登録ですね、かしこまりました。過去に戦闘経験は、ありますでしょうか?」


「あぁ、私はあるが、連れはない。何か支障があるか?」


織守のいうことは嘘である。白葉は戦闘の経験を多少ならとも持っている。しかし、織守はそれを知らない。


「いえ、問題ありません。これらの書類にサインをお願いします。そしてこちらがギルドカードとなります。身分証明書としても扱えますので大切に保管ください」


織守は受付に差し出されたギルドカードを懐に入れたフリをしてストレージに入れた。勿論偽名を使った。俺はシータ、白葉はホワイトだ。


「次に冒険者の階級についてのご説明をします。冒険者のランクはA〜Eランクの下位5ランク、1〜5級の中位5クラス、1st〜3rdの上位3クラス、そして勲章位戦出場者であるハイランク、そして勲章位戦で勲章位を獲得したその名の通り勲章位、全15ランクのランクに分かれております。上の2ランク以外はギルドに昇級試験を申請すれば参加することができます。勲章位戦への参加は1stランカーたちが、予選を勝ち上がることで参加できます。また、ダンジョン攻略によってもランクが上がる場合がございます。それらの説明についてはギルド内に表として貼ってあります。ランクの説明に関して何かご説明はありますか?」


「昇級試験はいつでも受けられるのか?」


「はい、下位ランカーはいつでも昇級試験を受けることができますが、不合格だった場合は手数料がかかります」


「ランクに関しての質問はない。依頼について教えてくれ」


「かしこまりました。ランクについてですが基本的に自分と同じランクの依頼しか受けることはできません。もしパーティーを組む場合、リそのパーティーのリーダーのランクにまでならば受けることができます。しかし、依頼失敗時には手数料と損害費が嵩みますのでご留意ください」


「なるほど、理解した」


「はい、これからもギルドをよろしくお願いします」


そう言ってギルド嬢が丁寧なお辞儀をした。流石は本部というべきか、その所作は随分とさまになっている。


「あら、今日は依頼も進級試験も受けないの?」


「ん、流石に宿優先かな。もう日が暮れるしね、初心者パーティーが夜戦なんてやったら不自然だろ?」


「さっき話してくれた計画を聞く限り目立つ気満々じゃなかったかしら?」


「それは後々ね、今はまだその時じゃない」


俺はそう言って目を細めた。思考速度500万倍で捉える世界は彼にとって大きな変化をもたらしていることを知っているのは輝夜だけだった。今もなお、織守の体は絶えず変化している。



* * *



「あら、おはよう」


(ん、?あれ、待てよ俺は昨日白葉と寝たのか?睡眠時間3時間かつ眠りの浅い俺が白葉がベッドに入ってきて気付かないわけがない、これはあれか?朝ちゅんってやつか?あ、ちげーや。そもそもこの宿は安い宿だからベットが一つ意外に家具がないんだ)


昨日変にからかわれたせいで意識が動転しているのだろうか?やはり女性というものには慣れないものだ。


「あら、まだ夢現なのかしら?呆けているわね」


「いや、起きてるよ。食事は昨日食べたし、俺はいらないけど白葉はどうする?」


「私もパスね、それより今日は昇級試験を受けるのでしょ?はやくいきましょ」


「ああ、まて慌てるな」


俺はそう言って肩当てとレザースーツを着た。

代金?いやー、うちには倫太郎君という物作りの天才がいるのだよ。PCでメールしたらすぐに倫太郎が鋳造した金貨をウリュダラが、金貨を持ってきてくれた。記念すべき我らの初メールは俺の忘れ物から始まったわけだ。




「昇級試験を受けたい」


ギルドに来て開口一番、受付にぶっきらぼうに告げる。昨日は夕方になりギルドに着いたため、人が多かったが今は人が少ないため大袈裟に目立つこともないだろうと考えて、この時間に二人はギルドに訪れていた。


「かしこまりました。Dランクへの試験で間違い無いですよね?では、こちらにお越し下さい」


かなり酷い言い回しだったが、受付は丁寧に対応した。


受付嬢についていくと闘技場らしき場所に丸太が置いてあった。


「進級試験Dランクは丸太を三秒間、五秒間、十秒間でわけ、それぞれの火力を見るテストです。使う武器及び魔法は任せます。準備はよろしいでしょうか?」


「あぁ、いつでもいいぞ」


「それでは、始め!」




はぁ、三秒か。知覚加速がある俺にとって魔法ならば相性できる時間は千五百万秒、大儀式を三回は行える時間だな。ま、なんでもいいか。


魔剣術、雷光。


俺はこの間支給された剣を引き抜き、それに雷を纏わせた。雷魔法はこの間に組み込まれているのでスキルを対価として消滅させてしまった雷魔法が俺でも使えるのだ。


雷は気を真っ二つに割り、それが枝分かれしてあたりの丸太も粉砕していく。


結果。


「魔剣術、ですか、それもかなりのエネルギー量をお持ちのようで、魔素量ならば3rdランクにも引けを取らないかも…あ、あぁすいません。この威力であれば他の秒数でも合格できますのでパスができます。つまり合格です」


雷光は木を真っ二つにした。それは雷と同程度の威力である。


「なら次はホワイトの番だ。準備してくれ」


「かしこまりました。チェンジスペア」


魔法で的であった丸太が元に戻る。破壊されることを想定して作られているため、再生成も簡単に終わる。


「それでは、始めてください」


無詠唱、神聖精霊魔法 ホワイトアウト。


光の衝撃波が丸太を粉々に砕く。この魔法は攻撃魔法ではなく、防御魔法だ。コアスキルでも最高クラスのスキルを平然と無詠唱で使うことには流石に受付嬢も驚いていた。あぁ、元論俺も驚いた。


「これでいいのよね?」


ニコニコと白葉が受付嬢に話しかける。若干怖い。


「え、えぇ二人とも問題なく合格です。既に合格という結果が出ていますので次の試験を受けられますがどうしますか?」


「そうだな、続けて試験を受けるよ」


そうして俺たちはCランク昇級試験の毒草と薬草の仕分けを当たり前のようにクリアした。

白葉はスキル知の瞳で中身の物質を見れば人体への影響を理解することができる。間違えるわけがない。

俺も似たようなスキルを持つので

間違えなかった。


次にBランクの昇級試験、召喚された簡易的なゴーレムを相手にすることになるのだが結果が目に見えているので召喚者も適当になってきている。


特に何もせず力任せでゴーレムを粉々にする。


次に白葉の番だが白葉は戦闘能力をほとんど持っていない。白葉本人にはだが……。


「サモン コンサイズゴーレム」


召喚士がゴーレムを召喚する。それと同時にもう一つの魔法が詠唱される。


「サモン アルティメットセラフィム」


白葉の持つアルティメットスキルは契約の覇王、終焉契約の二つである。今回使用したスキルは契約の覇王、地獄の覇王と対をなすスキルであり能力は天使を使役すること、そして原初魔法の二つのうちの一つ神話魔法の使用が可能になるというものだ。ちなみに原初魔法のうちもう一つは地獄魔法である。


話が逸れた。


今回召喚された天使はアズラーエル、エノク書では七大天使に分類される天使であり四大天使に次ぐ実力者だ。なぜ、その天使や、悪魔がこの世界にいるのか、織守は知らない。書庫などで探したのだが、それらしき記述は見つからなかったのだ。


ゴーレムについてだが、もちろん粉々に粉砕された。

受付嬢も召喚士も当たり前のようにそれを眺めていた。

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