第5話


この日、世界の管理者は十二柱になった。元々いた管理者はウリュダラ、輝夜、蛭児、ダウセスの四柱だ。

そこに俺たちの八人が揃って十二人。そこで俺たちはそれぞれの管理分野を決めるために一度全員で集まった。


「あらあら、一年と経たずまた会いましたね」


ニコニコとした表情で話しかけてきたのは暦の管理者、輝夜だ。まさかこんなに早くフラグを回収するとは思ってもいなかった。


「その節はどうもお世話になりました」


一応お辞儀はしておく。輝夜はいわば俺の先輩にあたる人物である。ついでに皮肉もそのまま返しておく。


「さてと、始めるとするか。よろしく頼むぞ、新人たち」


そう言って話を振ってきたのはダウセス、この集団での統率役だ。


「初めの議題を打ち立てる前に、管理者になる君たちにはそれぞれ管理者項目を選んでもらうのだがそれは知っているだろうか?」


これは先ほども触れたが輝夜は暦、ダウセスは生命、ウリュダラは秩序、蛭児は思念を管理する者だ。


「問題ないよ、項目についてはもう決まっている。それがこれだ」


実はこの管理というのはあくまでも名目上のもので管理者には、管理者用に作られたアルティメットスキルが配布される。そのスキルの内容を決めるためにこの管理項目というものは選ばされるのだ。


織守が、一枚の紙を差し出した。


織守 榛恃  『感情』

伊勢 倫太郎      『物質』

ケイ ジェネシス    『正義』

ジョヴァンニ バトラー 『虚偽』

静宮 白葉       『運命』

アリス アーレトリア スノーデン 『本質』

楼 深月        『情報』

ヴァイオレット ドワノワ『法則』


「ふむ、これでいいのか?それならばスキルに必要な魔素を渡すが」


「あぁ、昨日一日悩んで決めたからな、問題ないよ」


織守が念のため周りを確認するが、問題はないようだ。


「そうか、ならば受け渡すとしよう」


ダウセスはそういうと俺たちに光の玉を差し出した。輝夜姫と遭遇した時にも、もらったものだ。俺たちは詳しく知らないが、この世界に転移してきた際に輝夜は言語系のスキルを俺たちに渡していて、その時にもこの光の玉は現れたようだ。無論眠っていたため詳しくはわからない。光の玉、管理者権限のアルティメットスキル、それは、俺たちは世界の管理者として正式に認められたことを指す。


「あぁ、一番時間がかかりそうな議題が早急に済んだな。助かる。次はそうだな、今までは、世界四柱と呼ばれていたこの集団の名前でも決めるか。何か案はあるか?」


そう言ってダウセスはこちらを見回す。

それに反応を示したのはケイだ。


「デゥオデキム、秘密結社デュオデキムなんでどうだろうか?」


ドゥオデキムの意味を理解できないのはダウセスとウリュダラの2人のみだ。他の十人は知っている、もしくはその意味を理解できるものだ。


「俺たちの世界にあったいくつかある数字のうちの一つで十二という意味ですよ」


「なるほど、悪くはないな。俺たち以外に意味を知るものは知らないだろうしな。代案がないならそれで決定にするが良いか?」


その言葉には誰も反応を示さない。


「よかろう、それではこれからの身の振り方について聞きたいがいいだろうか?」


その言葉にも反応するのはケイだ。


「これからは二人一組で行動をする予定です。そのうちの三組は情報の収集、残りの一組は予備戦力かつ、研究を行う予定ですよ」


「情報の収集の方法は?」


「それは各班に任せます」


ケイが丁寧にダウセスに返答した。ダウセスは管理者の中で進行役を務めている。


「わかった。会議については管理者の誰もがかけることができ、その管理者を含めた四人が賛同すれば開けるものとしたいがどうだろうか?それと、連絡手段としてはこのクリスタルを渡しておく」


ダウセスの言葉に全員が納得したようだ。話を聞く限り妥当な考えだと思う。


このクリスタルは通常の状態では全く光もしないが、赤、緑、青、黄色の四色に発光することがある。また、一度限りだがクリスタルからクリスタルに向けて転移ができる。


赤は緊急会議、緑は三日後に会議が行われる、青は一ヶ月、黄色は援助要請を示す。援助要請については声を添付して送ることができるためどこからの援助要請かわからないということは起こらない。しかし、この後にパソコンを作るため、この機能を使うことはないだろう。


「それでは解散をするとしよう。あぁ、言い忘れていたが輝夜はダンジョンか他の管理者がいる場所にしか降臨できないからな、気を付けろ」


付け足すようにダウセスが言葉を繋ぐ。つまりこの屋敷もダンジョンであるということなのだろう。ウリュダラがいない時にも輝夜はここに来ることがあると聞いた。


「さて、これで今日の議題は終わりだ。各自解散」


それぞれは立ち上がり、部屋から出ていく。俺たちの仕事が始まった。





まず最初に八人が行ったことは組を決めることだった。


「それじゃ、組を決めようかって言っても織守が決めればすぐに終わるんだけどな」


いつも通りケイが話を振る。


「なんだ、俺が決めていいのか?なら感情を排して合理性だけだ決めるがいいか?」


その言葉に吐いての儀を唱えるものはいないため俺は少し思案を巡らせる。思考力、五百万倍は伊達じゃない。


「決まった。白葉と俺、ケイと楼、アリスとヴァイオレット、倫太郎とジョヴァンニでいいだろうか?」


「一応、その分け方について説明してくれ。」


おそらく、質問をした倫太郎も言い方からしてなんとなくの理由は理解しているだろう。


「まぁ簡単だよ、俺は脳筋戦闘系だからテイム系のスキルを操る白葉の手助けができるし、白葉に回復をして貰うこともできるから相性がいい。ケイは政治系に強いし、各国の情報を最大限にいかせる。楼さんは情報整理力や内情整理についてかなりの手助けになるだろう。アリスとヴァイオレットは研究に関して言えばかなり優先度が高い。研究所の作成は手伝うから存分に研究をしてもらいたい。倫太郎とジョヴァンニも研究分野ではアリスとヴァイオレットと同じぐらい働けるし、情報収集に関して言えばジョヴァンニより優れた奴はいない。データ管理は倫太郎が補えるし、バックアップもできる。一応理想的なメンバーだと思うけど、念のために言うと倫太郎ジョヴァンニペアは実験と諜報を同時に行ってもらう。それぞれがそっち方面に適した能力だしな」


言葉にだすとややこしいがなんとなくならば誰にでもわかるだろう。


「まぁそうだな、それで構わないか。しかし、感情を配すと言っていたからてっきりハニートラップでもするのかと思ったぞ」


これに反応したのは倫太郎ではなく、ケイだった。

その言葉に女性陣も少し同意を示しているようだ。少し悲しい。


「全く、俺は合理主義者ではあるが感情を持たない合理主義者ではないぞ。真の合理主義とは感情までも論理的かつ合理的に捉えて扱うんだ。それに、心理学者が、感情の管理者がそこに気を配らなければそれこそブラックジョークにもならないだろ」


「まぁいい、こいつが効率が最も良いというならそうなのだろう。それに反論する余地は俺たちにはない」


倫太郎の言うことは信用の裏返しでもある。そして、それに応えられないものは、ここにいる価値がない。


「それじゃ、各国内情を纏めて配属先を決めるとするか。まず、デュラエナ帝国対同盟国軍だがやはり連合国軍の連携は稚拙だな、上手くやれば勝てたであろうこの戦いも今や勝敗は目に見えている。同盟国軍はこれから搾取される立場だろうからな、諜報活動をするなら一組は間違いなくデュラエナ帝国に行くことになると思うが誰がいいと思う?」


この話題が振られているのは俺だ。全員に聞いているのは体裁というものだろう。それが周りの人間にもわかっているようだ。


「あぁ、それならケイと楼さんの組だろ。帝国は文官勢力と軍事勢力が対等だからな、文官に向いてる二人にはいい場所だと思うぞ。まぁ今の段階でだが」


全員がその意に賛同を示してくれた。因みに、諜報を行う国はケイの政治能力を最大限に発揮するため俺ではなくケイが情報を求めた国に俺たちが派遣されることになっている。


「次に諜報活動をすべき国はメテュシナ連邦永世中立国だな、ここは永世中立国でありながら超巨大国家だ。連邦でありながら、永世中立というと違和感を覚えるが少し特殊な国の成り立ちをしていて国王が三人の公爵家のなかから選挙で選ばれる国だ。そのせいで貴族も多い国だよ。そして冒険者、商業ギルドの両本山であるギルド本部が置かれている、帝国と並ぶ世界最強国家の二代巨頭の一つだな。ここに行ってもらうのは織守と白葉ペアだね」


この国にギルド本部がある理由は主に二つ。ダンジョンが大量にあり冒険者が集まりやすいこと、そして軍事力が強大でありギルド本部への強襲ができないことだ。そのためこの国は永世中立を謳いギルドによって得られる大量の利益にあやかっているのである。


「さて、一組は研究施設に残すことが決まってるから後一組が派遣できるんだけどね、この国はちょっとというかかなりやばいんだ。クゲラ神国、裏世界の頂点だ」


この国は世界各国にポンポンと教会を無償で建て、孤児院などを運営し信者を増やしている国である。この国の厄介な理由は表面上は非常に良い行いをしていることにある。

というのも、こういった活動をすることで信者を増やし、各国における確かな影響力を生んでいるのである。しかも、民衆からの支持も回復魔法を無償で提供するなどしているため信者であるないに関わらず高い。つまり、国としても表立って建設を阻止することができないということだ。これにより、神国は計らずして大量の諜報員を各国に送り込めるわけである。


「いや、それは無理だろ、あの国のセキュリティーは盤石だぞ」


俺は反対意見を唱えたがそれに反対意見を言った奴がいた。アリスだ。


「いえ、問題ないわ。あの国には大きな弱点があるもの」


「弱点?」


「ええ、あの国は確か中央集権国家なのよね?つまり首都に入り込みさえすれば情報は勝手に集まってくるのよ。わざわざ大きな危険を冒す必要がない。そして、あの国は物理的な戦力は情報量に比べて少ないし、資金力も少なくはないけど帝国ほどはないわ」


「あぁ、確かにあの国は資源力も多くはないが決して不足もしていないだろ?それが弱点になることはないだろ」


「えぇ、だからこそあそこには大きな商会はない。旨味がないからね、権力ではなく財力ならば簡単に首都進出も可能なのよ」


織守はアリスの発言に納得した。アリスの言うことはもっともだ。実力行使ではなく財力による侵出ならば首都に入ることは簡単だろうし、大商会ともなれば多くの情報が入ってくるだろう。


「だが、その二人は明らか商人に向いているわけではないだろ、倫太郎は確かに情報整理も得意だが……」


「それはスキルなりを使えばいいんじゃないの?」


アリスが簡単そうに呟く。アリスはおそらく倫太郎とジョヴァンニのアルティメットスキルの能力に詳しくない。


「それこそ無理だろ、倫太郎たちは人心掌握には向いていないぞ」


「それならケイ達をここに配属すればいいんじゃない?」


アリスが簡単そうに織守に応える。ここで織守は帝国に倫太郎たちが行ったときのことを考えた。


「ならば帝国の暗部に倫太郎達が潜り込むのか?あれは多分生まれた時から訓練された集団しか入れないだろ」


「ん…そうね、ペアを変えても将来的には損ね」


アリスが織守の考えに納得をしめした。ここで、倫太郎が口を挟む。


「少しいいか、つまり俺とジョヴァンニが商会の運営を問題なくできれば問題は解決するのだろう?ケイのペアは楼深月だ。それならばC言語の使用ができるだろう?虚数空間でも亜空間でもなんでもいいがそこで回線を繋いでPCなどで運営方針などのアドバイスをもらい情報の交換を行えばいいのではないか?」


「PCって、作れるのか?」


俺はそう言って、ヴァイオレットのほうを向いた。寡黙な彼女だが流石にこの後は汲み取れるだろう。


「PC本体は問題なく作れますが、通信回線となると……」


ヴァイオレットの申し訳なさそうな顔に、深月が反応する。


「いえ、問題ないわ。この間、虚数空間での無線通信の実験をしたのだけれど、声などの振動を虚数空間に流すと声は残り続ける。その虚数空間自体をつまり、新しい並行世界をアリスさんが作成して、その世界への侵入権限を世界の管理者のみに設定すればいつでも情報を出し入れできるのよ」


回線の問題解決ひ当たって、深月が反応を示す。簡単に言えば新しい世界を作ってそこに情報を流し込めばいつでも閲覧できると言うことなのだろう。物理的なサーバーを作るも同然だが、アリスのオリジナルスキル、eternal worldであれば三次元空間、即ち時間という概念がない世界を想像できる。


次元について説明すると、少し長くなるが三次元とは私たちが生きているほんの一瞬、刹那の時間を切り取った瞬間であり、そこに時間という概念はない。四次元を司る空間にはそれに時間という概念、つまり三次元の折り重なりである時間という概念が一般的な解釈だが、この時間という概念が空間という概念に変わることで体積が無限化したものも四次元である。青狸のポケットの中は時間という概念はないため物体の時間は進まないし、空間は無限である。


この説明は俺の記憶があっていればだが……


幾何学や物理学の類は苦手なのだ。


5次元は他の世界が見える空間、6次元は虚数世界である他の世界に干渉できる空間であるということは確かだ。現に俺が使えていることが証拠である。


ここで青い狸のような四次元空間で情報を交換すれば良いのではと思う人間もいるだろうが、それでは瞬時に座標指定から、情報を引き出すということは時間がかかり面倒なので、三次元空間を大量に作った方が良いのだ。


話が逸れた。


「それなら問題ないか、それを一組ごと作れるか?」


「問題ないわよ」


織守の問いかけにヴァイオレットが答えた。この集団で元々面識があったのは織守とアリスの組みの他には、ケイとヴァイオレット程度でほぼ初対面なのだが、意外とコミュニケーションがうまく取れている。


コンピュータの作成が可能である。これは嬉しい誤算だ。現代科学でも最高クラスの便利道具、パーソナルコンピュータの力を多くの人間は理解していない。


榛恃はふと空を眺めた。


夜空の光は見たことのない配列の並び方をしているが、それさえも、今の八人には大きな問題ではないと思えた。

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