第4話


「グッ、グフゥ…… ユルサンゾ、ニンゲン」


ルシファーのスキル理の瞳は相手の保有する魔素量、つまりエネルギー量を見ることができる。この世界に勇者?として召喚されたことで決して少なくないエネルギー量を誇る俺だがその量はルシファーに比べて八分の一程度であり、完全にルシファーは俺のことをなめていたことが予想できる。


「ディスワールドオブエンド」


ルシファーの使ったスキル地獄魔法の一つで、この地獄魔法は小規模だが、世界を崩壊させる。そしてルシファーは五次元の虚無空間内での戦闘に持ち込む気なのだ。つまり、虚数空間での殴り合いに持ち込めば、一方的にコアを攻撃される確率は下がる。実際、これならば俺は一方的に虚数空間からルシファーを攻撃することはできない。だがこちらは心理学者であり問題解決能力に至っては天才である。その程度の対応策は考えてある。いくつか、フィニッシュについては考えていたが、そのうちの一つにルシファーは嵌った。


「お前の負けだ、ルシファー」


俺はそういうとスキル滅を発動させる。相も変わらず形は両刃槍だ。


そう、この世界では、物質が座標の情報としてしか存在していない。そのため、エネルギーを全て消したとしても、それを埋めるためにブラックホールが発生することはない。触れればコアでなくともルシファーは消滅する。そしてその能力は俺以外の全てに発動する。


俺は統を使い滅の能力を通常の消滅に戻す。先ほどまでは魔素のみを消滅させるスキルだった滅の最強の、そして本来の能力を解放される。そこに統が相乗的に効果を発動する。


「アルゲルツムホルン」


世界に消滅の霧が球状に広がる。その霧を消した時、そこに残っていたのはルシファーが分解されたために発生した大量の魔素だった。そしてそれを俺は全て取り込む。アルティメットスキルを得るためだ。


俺は自分のステータスを見るためにステータス画面を開いた。水色のような色のアクリル板のような物が浮かび上がる。余談だがこれは他人には特別な方法を取らない限り見せられない。


ルシファーの持っていたスキルは悪魔ノ覇王と理の瞳以外は全て唯我独尊の獲得時に時に消滅したスキルであり、得ることができなかったがその分自分の保有魔素量が増えた。一度消滅したスキルはなどと手に入れられないのだ。増えた魔素量は約八倍にもなる。


今回の一戦、俺はありとあらゆる術を用いてルシファーの対策をしていた。無論それにかけた時間は計り知れない。


挑発から攻撃パターン、能力を加味して相手を誘導したのだ。正直、滅を使ったトドメの指し方はあまり良い手ではなかった。何しろ完の能力が不完全であり少しミスを擬似ブラックホールの生成、すなわち自爆となるのだ。


そのため、俺は虚数世界からの攻撃に拘ったのだ。その打開策としてディスワールドオブエンドを使う未来も見越して、とにかくコアを削り自分が持てる最多の選択肢を残し続けた。無論、これらの作戦は先代の管理者たちが残した日記などを参考にした。そういったものがなければ対策など立てられなかっただろう。


これで、最短ルートで地獄ノ覇王を手に入れ、悪魔たちを好きに使えるようになったわけだ。そして二日後には輝夜姫がここに現れる。地獄ではとくに最下層では、時間の進みがとてつもなく早いため時間にすればあと三十分ほどだろう。そして輝夜が地獄に君臨する時間は十二分ほどだ。


それまでの時間潰しに俺はスキル統を使いスキルを調べることにした。





「あら、こんばんは、新しい地獄の覇王様」


黒く長い髪を携えた女性が話しかけてきた。理の瞳で見ればわかる。この女性は狂っている。まさにエネルギーの塊といっていった存在であり、戦って良い存在ではない。間違いなく輝夜だろう。


二人は対峙する。そして、言葉の裏に何枚もの武器を潜ませる舌戦が始まった。


「はじめまして、貴方が輝夜で間違い無いだろうか?」


「ええ、そうですよ。それにしてもなかなかやるのですね。あぁ、地獄魔法は貴方に効果がないのですか、それならばルシファーが敗北したのも肯けますね」


実力差を見せにきたのだろう、だがその程度のことは既に知っている。


「能力が分かるのか、恐れ入った」


「あら、貴方は考えていることが分かるのでしょう?似たような物ですよ」


「ご謙遜を、私では貴方に太刀打ちできないですよ。それに私は相手の思考を読めるわけではない」


とりあえず知らなかったふりをしてみたが流石にばれたらしい。アルティメットスキルの効果を詳しく知っているものは少ないが、クロードは書庫でアルティメットスキルの効果を詳しく調べていた。


「それこそ、ご謙遜ですわね。貴方なら一撃二撃は攻撃を当てられますわよ」


「二撃だけですか。凄まじいですね。それに貴方の持っているスキルは相手の心情を精神干渉無くして読めるようだ。そんな相手と闘いたくはないですよ」


今度は知っていることを分析したかのように喋る。知っていることを分析したように言ったり、逆に分析したことを知っていたかのように振る舞うのは時に舌戦で使われるテクニックの一つである。


「あら、よく知っているわね。素直に感心したわ。それでは、時間も老けますし、世界の規則に則り、貴方の望み通りアルティメットスキルを与えましょう。それに一年に一度数分間しかここには来れないのですしね。あぁ、ただ一つお約束くださいまし」


形だけの会話、相手に一瞬でも心の隙を見せれば相手の世界に引き摺り込まれる。それを忘れずに返答した。


「約束?」


「来年もここでお話をしましょう。それが約束です」


「僕は食べられるのが嫌なのでそれはご遠慮したいのですが」


「あらあら、うふふ、本当にどこで知ったのかしら。いやなるほどね。そうね、その素晴らしい推理力に敬意をはらい、このスキルを与えましょう」


そう言って輝夜姫は俺に光の玉をぶつけた。アルティメットスキルを含む魔素だ。結局、何を言っても、ダンジョンの最下層で輝夜姫は遭遇した人間にはアルティメットスキルを与えるのが世・界・の・管・理・者・のルールなのだ。


本来自然再生されるはずのダンジョンは最下層に、覚醒の祭壇というものがあり、ダンジョンのクリアボーナスのようなものがあるが、人工ダンジョンにはそれがない。それの代わりなのだそうだ。しかし、輝夜はそれを殺してはいけないとは言われていないため、気に入らなければ惨殺することもあると、書庫で読んだ。


「それでは、またいつか」


「僕はもう二度と出会いたくないですよ。それではまたいつかが来ないことを祈って、さようなら」


その声を聞いた輝夜姫はうっすらと笑い、この世界から消えていった。


輝夜姫は能力だけでなく思考すらもよめる。そのことに気がついたのは話初めて少しした時だ。念のため思考誘導の類を受けないように、綻を自分に纏わせていたことが功を奏した。その空間すら突き破って心をのぞかれるとは思わなかったが、何かが自分に干渉した事をそれで察することができた。相手とのスキルを使った戦闘にはならなかったこともまた幸運である。降臨できる時間が短いこともプラスに働いた。戦闘は絶対勝てないことぐらいは予想がついた。世界の管理者、やはり恐ろしい物だ。


俺は早速手に入れたスキル絶対信者を使いスキル完の補正によるスキルの制御を行いながら、地獄の氷コキュートスから神滅理剣オルネイティアを引き抜く。それと同時に剣が光りだし俺を包んだ。これでスキル運命覇者を獲得したわけだ。氷から完全に取り払わなければスキルを入手できなかったのを調べる事を忘れたが後の祭りだろう。所詮知識欲の一貫であるので何か不都合が起きたりするわけではない。


(この剣の使い方についても考えなければいけないな。やることが多すぎて、頭痛が痛いというやつだ)


榛恃は頭を悩ませながら、自分が王となった地獄をゆっくりといっそうずつ登っていった。歩いたのは数時間程度だが、現実世界での三十四日の時間をかけて、元の世界へと帰還した。



* * *



「約束の五ヶ月が経ったけど、計画に間に合わなかった人はいるかい?」


その質問を全員が否定する。


(あれ、もしかしてスキルの獲得一番遅かったの俺なんじゃね?)


そう思った織守は背筋が冷えた。計画を立てた犯人が計画の実行に失敗すれ面目丸潰れである。


「さて、まぁ一応僕もアルティメットスキルは手に入れたんだけどまだ慣れてなくてね。みんなはどうだい?」


「私も同じく慣れていないわね、アルティメットスキル魔術奏者もだし、自分で作ったオリジナルスキルももっと多くの分野に使えそうだし」


楼 深月たかどの みつきの言ったことはこの中にいる全員が思っているであろう。

俺たちがこの世界に来てまだ半年、この世界の理も法律も文化も俺たちはまだ知らない。


「スキルに関していうなら慣れていくことと、応用法を考えることは並行してやらなければいけないだろうな」


「倫太郎の言う通りね、私たちの持つスキルの応用力の高さは凄まじいもの。慣れるのはもちろんのこと、スキル作成者である私たちにもまだ気がついていないスキルの使用法もあるでしょうしね」


アリスの言葉にケイが反応を示した。


「あぁそういえばアリスの作ったオリジナルスキルは万能型のスキルだったからね。可能性の塊だと思うよ」


俺たちがいつものように話をしていると、そこに意外な人物が現れた。


「お主らは今後の身の振り方は決めたのか?」


声の主は世界の管理者、この屋敷の持ち主であるウリュダラだ。


「いえ、まだ決めかねていますよ」


「そうか、ならば一つ教えてやる。一応お主らが召喚された原因にも関係のあることじゃからな」


あぁなんとなくだが予想がついた。世界の管理者が干渉するような事態なんてそう多くないだろう。


「デュラエナ帝国が動きだしたのが三年前、人口の増加が原因で新たな土地を求めて戦争を開始した。対象はイシュメア国、そして同盟関係にあったフメミア王国とサガノ王国という国だ。しかし、帝国がその三国を下した場合に新たに狙われる可能性がある国々もこれに協力し、一対六の戦争になったわけだ」


第二次世界大戦の図式そのものである。いや、安全条約の絡んだ一次の方が近いか……


「それでも帝国は巨大な軍事力と植民地、属国を従え同盟国軍に連戦連勝、今もその戦争は続いているわけだな」


ここで管理者は俺たちの方を見る。


「それで、そのうちの一つの国が何をとち狂ったのか俺たちを召喚したのか?」


「あぁ、そういうことだ。理解が早くて助かる」


老人はうなずきながら神妙な顔で話を続けた。


「だがな、その国は一度失敗した召喚の儀式再び行った。このままでは召喚が成功するまで恐らく召喚をやめることはなかっただろうからな。今回はお主らの時のように召喚を邪魔することはしなかったのじゃ」


まぁ確かに戦時中、敗戦が濃厚に慣れば何をとち狂った行動をと言いたくなるような行動はする可能性があることは理解できる。巻き込まれた側からすれば溜まったものではないが、それほどまでに連合国とやらは追い込まれているのだろう。


俺は少し下を向き、老人の発言の趣旨を考える。スキル絶対信者の能力は思考知覚能力500万倍という恐ろしいものだ。俺の体感だと五分は思考したが実際の時間では一瞬で結論が出たといえる。


「あぁ、それで俺たちに依頼をしたいのだろう?なにを言いたい?」


老人は俺の言ったことを聞き、目を見開いた。


「流石じゃな、今までの生活費や情報代として脅迫するようなものじゃが、我は、ちと有名過ぎてな、それらの国の内情を知るための潜入調査などできやしないのじゃ」


「つまり、各国の重鎮になり情報を横流しにしろと?」


「それも方法のひとつじゃろうが、結論から言えば情報さえくれれば立場など関係ないじゃろう?」


食えないじじいだ。さて、俺の中ではある程度結論が出ているが他の奴らはどうだろうか?


「お前らは今の話にどう思う?」


俺は話を周りに振る。まず最初に反応があったのは意外なことに白葉だった。


「わ、私は、えっとその、ウリュダラさんには、凄いお世話になったし恩返しって意味でもやってもいいかなって……」


(ウリュダラ?あぁ、管理者の名前か、興味がわかな過ぎて覚えてなかった。これは俺の悪い癖だな)


織守が若干の心地悪さを紙をいじることでかき消した。


「まぁいいんじゃないかしら、スキルのことも含めてこの世界のことを知るいい機会ではあるしね」


次に反応したのはアリスだ。その横で声には出さないが、ヴァイオレット(ヴァイオレット ドワノワ)も同意を示している。


「ん〜、方法を問わないならそれでもいいかなぁ〜、僕のスキルはもはやスパイ系統のそれだからね〜、わざわざ仕官されるようなことは嫌だな〜」


ジョヴァンニの持つスキルは隠密系統のスキルであり、確かに仕官される必要はない。というよりか、仕官されることに向いていない。


「まぁ、僕は仕官される方がいいだろうね、法学と経済学は得意だし、思考加速系のスキルも手に入れたからね」


ケイは法の将軍とまで言われた国際弁護士だ。文官として欲しがる国は必ずあるだろう。


「皆がそういうなら俺も文句はないかな、ただ三つ条件をつけていいか?」


俺はウリュダラ?(興味を失い忘れつつあるため、名前を忘れかけている)に話を切り出す。


「その条件を言ってみろ。」


「一つ、貴方の部下としてではなく独立して行動を行う。つまり命令を受けることはないということだ。二つ目、互いが対等な関係である契約とする。こちらが掴んだ情報の対価をいただく。そして最後、この契約はこちらが辞めると言った時に直ちに廃棄できる。辞めたければいつでも辞められるってことだな」


クロードは大きくふっかけた。何も知らないものを配下に置き、洗脳して、いいように使われては、たまらないからだ。


「ふむ。ずいぶんと大きく出るじゃないか、だがその全てが許諾可能なラインスレスレであることを見越しているのじゃろうな。まぁ、いいじゃろう、その条件で構わない。欲しい国の情報はこれと言ってないが出来る限り一等級の国には潜り込んでもらいたい。それでどうじゃ?」


俺は他の七人を見回す。全員それでいいようだ。


「あぁ、できる限り早く情報を伝えられるように善処するさ。よろしく」


そう言って俺は片手を伸ばし握手を交わした。

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