呼び出し
ついにサヨコからの電話があった。
「エミ、お願い、風の丘公園にまで来て、来てくれないとサヨコは・・・」
「サヨコ、だいじょうぶ・・・」
サヨコの声に間違いなかったけど、もう弱り切ってるのは電話口だけでわかったぐらい。時間稼ぎの遁辞を入れて、
「警察にも言わないで一人でお願い。そうなったらサヨコは・・・」
「わかった、サヨコを見捨てたりしないから」
お父ちゃんが不安そうに、
「エミ、だいじょうぶか」
「コトリさんとユッキーさんが付いてるから」
自転車で駆け付けると物陰から人相の悪そうなのが、
「小林エミさんやな」
「サヨコはどこ、会わせて」
「後でユックリな」
近づいてきてエミを捕まえようとするのよね、
「何するのよ」
エミは手を振り払って逃げようとしたんだけど、転んじゃったんだ。そこにワラワラと寄って来た。エミはもう必死だった。まさかコトリさんが来てないとか、来てたってこれだけの人数相手じゃ。押さえ込まれたところで、
「は~い、そこまでや」
声の方を見るとコトリさん。
「エミちゃん怖かったやろ、でもよく頑張った」
「コトリさん」
「悪いけど、そのままでおってな」
そのままって言われても・・・男の方みたら固まってる。表情まで固まったまま。そのままでピクリとも動かないんだよ。エミだって男に抑え込まれて動けないけど。
「すぐ警察が来て後始末してくれる。今は便利で助かるわ」
パトカーが十分もしないうちに団体さんで到着。いかにも襲われてますって格好のままだったんだけど、警察官が、
『なにをしている』
この言葉が合図のように動きだし、かなり暴れたけど全員が現行犯逮捕。エミは保護されて警察に。お父ちゃんとお母ちゃんが迎えに飛んできてくれて、
「エミ無事か」
「怪我は、なにもされてないでしょうね」
急に恐怖が甦って来て泣いちゃった。怪我は転んだ時の擦り傷だけど、これも病院に行って検査してもらった。入院も勧められたけど、とにかく家に帰りたくて断った。
翌日は休校。またしてもマスコミが殺到したみたい。でもサヨコは救出されて入院中。お見舞いに行きたいけど、落ち着くまでは無理だって。サヨコも大変な思いをしたから当然か。
半月ぐらいしてやっとお見舞いに行けたんだけど、サヨコはベソかいてた。脅されたとはいえエミを騙したからね。
「ゴメン、いくら謝っても許してくれないだろうけど・・・」
「気にしてないよ。サヨコがそうなるのも予想のうちだったから」
「えっ」
それより気になったのがサヨコの体。取り返しの付かない事になってたら、
「それはなんとかだいじょうぶ。この時ばかりは、エミほど美人じゃなくて良かったと思った」
ワゴン車に引きづり込まれて、アジトみたいなところに監禁されたそうだけど、サヨコの顔見て、
『ちゃうぞ、これ』
そこから犯人たちは慌てたみたい。どこかに連絡取ったり、相談したりしてたみたい。途中で、
『こんなんでもやってまおうや』
こんな話が何回も出たみたいだけど、リーダー格みたいなのが、
『黒亀さんが待て言うとるやろ。お前ら死にたいか』
その代り強要されたのがエミの呼び出し、
「何度も断ったんだよ」
かなり殴られたみたいだし、ご飯だってロクロク食べさせてくれなかったみたい。
「最後も危なかったんだ。もう観念してたぐらい」
エミへの呼び出し電話の後に留守番していたのが襲ってきたそうなの、
「三人がかりで押さえつけられて・・・」
服を引きちぎるように剥がされて、丸裸にされた上に手が縛られたそう。縛られた手は頭の方に持ちあげられて、どこかに繋がれて猿ぐつわまでされたんだって。そうしておいて、足は二人の男に無理やりこじ開けられたみたい。
「三人目の男がズボンもパンツも脱いで・・・」
サヨコも腰を捻って逃げようとしたみたいだけど、手は縛られてるし、足は男にガッチリつかまれてるから、どうしようもなかったらしい。男はサヨコの胸を揉みまわして、サヨコの大事なところまで指を伸ばして来たんだって。
「もうダメって観念してた。だって先っちょが触れたんだもの」
その時にアジトのドアが突然吹っ飛んで、
「ドアが開いたんじゃないの」
「違う、ドアごと中に飛んできた」
華奢そうな若い女性が入って来て、
『サヨコさんね。遅くなってゴメン。でもなんとか間に合ってよかった』
そして部屋から出て行ってしまったって、
「えっ、それじゃ」
「だからセーフだって。サヨコもわかんないけど、連中はそのまま固まってたよ。間もなく警察がやってきて助け出された」
エミと同じシチューションとしか思えない。もっともサヨコの場合は素っ裸にされた上に、手が縛られて、足も抑え込まれた状態だったから、
「セーフだったけど、見られちゃった」
もっともその時にはそんな余裕はなくて、触れるところまで迫ったアレが、これ以上入って来ないか気が気でなかったみたい。まあそうなるよね。
「ところで大伴先輩だけど」
「感謝してる。ミツ兄ちゃん凄かったんだから、顔なんか血まみれになってたんだ。とにかく『ドスッ、ドスッ』て重い蹴りの音がしてたけど」
相手は喧嘩慣れしてる上に四人ぐらい居たそうだし、大伴先輩は足にハンデ抱えてるのよね。犯人だって邪魔になりそうな大伴先輩を先に片付けようとまず袋叩きにされたぐらいで良さそう。
コテンパンにされたんだけど、犯人がクルマに乗り込もうとした時に足にしがみついたんだって。そうされたらクルマに乗り込めないから、再び殴る蹴るの嵐に襲われたんだけど、大伴先輩はなかなか放さなかったみたい。サヨコの耳には、
『サヨを渡すもんか』
こう叫ぶ大伴先輩の声がはっきり耳に残ってるって言ってた。大伴先輩が放さないものだから、殴る蹴るの苛烈さが激しくなって、サヨコも耳を塞ぎたくるほどの呻き声が聞こえたそう。声も出なくなった大伴先輩だったけど、
『ボキッ』
こんな不気味な音がするのと同時に断末魔みたいな呻き声があがり、男たちはクルマに乗り込んで走り去ったぐらいかな。騒ぎを聞きつけた人が警察に通報して、パトカーが駆けつけた時にはその辺が血の海になっていて、大伴先輩は意識を失って倒れていたらしい。
「サヨコ、大伴先輩は・・・」
「ホントにサヨコでイイのかな。だってミツ兄ちゃんもてるんだよ。中学の時もそうだったし、今じゃ学園のセレクト・ファイブの一人だもの。だから絶対無理だと思ってた。妹のままで十分じゃない」
やっぱり。
「好きじゃなければ、あそこまで出来るもんか」
サヨコは、はらはらと涙を流しながら、
「サヨコは穢されちゃった女だよ。全部見られちゃったし、胸だって、アソコだって触られちゃったし、ちょっとだけだけど触れちゃったんだもの」
「穢れてなんかないって」
サヨコはもう涙声で、
「ミツ兄ちゃんもそう言ってくれた。それだけじゃないよ、たとえあいつらに回され尽くされたってサヨコしか考えないって。ミツ兄ちゃんも趣味悪いな」
「そんなことないよ。サヨコはそれだけの価値がある女だもの」
その時に病室のドアが開いて、
「ほんじゃあ、お邪魔虫は退散するね」
サヨコはなんとか救い出されたけど、あれだけ極限の経験をしたら、心に傷が残ると思うんだ。たしかPTSDとか言ったっけ。でも大伴先輩ならきっと癒してくれると思う。大伴先輩のサヨコへの愛は本物だし、それをこんな立派な形で示して見せたもの。
さすがにまだ高校生だから結婚まではわからないけど、なんか行きそうな気がする。だってこれだけのドラマを乗り越えたんだよ。サヨコだって大伴先輩以外の男をもう愛せないんじゃないのかなぁ。
なんかお母ちゃんがお父ちゃんを今でもあれだけ愛している理由がまた一つわかった気がする。本当に愛されるってこんな感じじゃないかって。エミにもいつかそんな相手が現れてくれるかな。
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