大伴先輩

 サヨコが攫われた時に大伴先輩が一緒だったんだけど、それを防げなかったことでちょっと評判落としてたんだ。でも、さすがに言い過ぎだと思ったよ。だってだよ、左足が折れてて松葉杖だし、相手だって複数だったって言うじゃない。それなのに、


『セレクト・ファイブが情けない』

『もうファイブじゃないフォーだな』


 大伴先輩はスポーツマンだけど格闘技のプロじゃないじゃない。よくそこまで言えると内心憤慨してたら、大伴先輩が退院して登校してきたんだ。その姿を見てみんな粛然としてた。


 サヨコを守るために怪我させられたって話だったけど、車椅子の上に全身が包帯でグルグル巻き。あれでよく学校に来れたと思ったぐらい。右手まで骨折させられたみたいで吊ってるんだもの。どれだけ大伴先輩がサヨコのために頑張ったか嫌でもわかったもの。でも落ち込みようがひどかった。他のセレクト・ファイブが慰めても、


「ボクがいたのに、目の前でサヨちゃんを・・・」


 どうもいきなり突き飛ばされたみたいだけど、犯人の足にしがみついたんだって。だから犯人は大伴先輩を蹴りまくったで良さそう。その証拠に顔は目と口を残してミイラ男状態。しゃべり方が変だと思ったら、前歯もへし折られてる。


「それ以上は無理だよ」

「死ぬ気でしがみついたんだろ」

「気だけじゃ意味ない、生きてるやないか。死んでこその死ぬ気や」


 最後のトドメは腕だったみたいで折られてる。


「そこまで頑張ったんだから、誰も文句は言わないよ」

「あばら骨だって折れてるんだろ」


 胸や腹にも強烈な蹴りが入ったみたいで。息をするのも大変そう。


「骨ぐらいなんや、たったこれだけの痛みで・・・」


 大伴先輩はサヨコの家にも謝りに行ってるんだよね。玄関先で土下座して謝ってるんだけど、その日は雨。ずぶ濡れになりながら謝ってるんだよ。サヨコを助けられなかったのはすべて自分のせいだって。


 そんなこと言われても、大伴先輩の姿を見て文句なんか言えるはずないよ。サヨコの御両親も大伴先輩を恨む気なんてなくて、なんとか家に上がってもらおうとしたそうだけど、そこから帰ったんだって。大伴先輩は


「サヨちゃんは絶対助ける。命に代えても助けてみせる」


 そうは言うけど、もともとの左足に加えて右手も折れて、あばら骨も折れてる。とにかく全身打撲で車椅子。よく学校に来てると思うもの。


「こんな痛みなんか、サヨちゃんの苦しみに較べたら無いのも同然」


 ただ痛みは強烈らしくて、車いすでも少しでも段差があったりすると、


「うっ」


 うっかり誰かが肩とか背中でも叩こうものなら、


「うぎゃぁ」


 ものすごく顔しかめてるのよね。どれだけ大伴先輩がサヨコのために頑張ってくれたかよくわかるもの。そんな大伴先輩からの情報だけど、


「あの連中の中に北狼会の奴がいた」


 北狼会は北翔高の不良グループの一つらしいけど、一番凶悪なんだって。でもどうして大伴先輩が知ってるんだろうと思ったんだけど、


「ハンドボールの試合に出てた」


 部活をやってる不良が部活っておかしいと思ったけど、北翔高校では風紀を少しでも良くするために部活は全員に義務付けで、サボろうものなら最悪退学になるそうなんだ。そこで不良グループは部活を乗っ取って屯してるぐらいのお話みたい。


 コトリさんとユッキーさんには、とにかくどんな情報でもあれば連絡してくれって頼まれてるんだ。だから連絡したら、


「わかった、こっちでも調べとく」


 エミは大伴先輩にコトリさんの推理を話してみたのだけど、


「サヨちゃんを間違えてか。そのうえに小林君もだと。許せん!」


 そう怒鳴った途端に、


「うぅぅぅ」


 あばら骨をやると、とにかく痛いのよね。


「あのクズどもに必ず天罰を下してやる」


 そしたらセレクト・ファイブが、


「そのためにはまず怪我治せよな」

「車椅子じゃ役立たずだ」

「おまえら・・・」


 大伴先輩の姿を見るまでコトリさんの推理に半信半疑のところがあったけど、今は正しい気がする。大伴先輩はボコボコにはされたけど、ああなるまでに時間はかかったはずだもの。


 誘拐犯は大伴先輩が松葉杖だったから、ごく短時間で叩きのめし、サヨコを攫う作戦だったはずなのよ。それが、あそこまで死に物狂いで抵抗され、時間がかかり始めたら、通常なら誘拐ごとあきらめるか、少なくともその場は一時撤退しそうだもの。


 この辺は現場の成り行きがあるにせよ、大伴先輩の話を聞いても、サヨコをどんなリスクを冒しても攫う気だったのだけはわかる。そう、身代金目当てじゃなく、サヨコの体を目当ての誘拐と言うより拉致。


 コトリさんの言う通り、このままじゃ、サヨコは無事に済まない。最悪殺される可能性もあるし、殺されなくともひどい目に遭って、二度とエミの前に現れない可能性だって十分にあると思う。



 それでも大伴先輩は本当に頑張ったと思う。相手があれほど強固な意志を持っていなければサヨコを救えたはず。あそこまで頑張ってサヨコを救えなかったのは悔しいだろうな。大伴先輩は自分が生き残ってしまったのを不甲斐ないとしてるけど、最高に格好が良いと思うよ。大伴先輩は男の中の漢だよ。


 これもみんなビックリしてたけど、大伴先輩があそこまでサヨコ命だったとは。愛する人を守るために命を懸けると口で言うのはたやすいけど、いざとなると出来ないものなのよね。そりゃ、自分の身が可愛いもの。


 このままで終わらせてはいけない。なんとかしてサヨコを無事に救い出す。そのための協力はなんでもする。

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