コトリさんの作戦

 サヨコ救出作戦だけど、この要点は犯人にエミを襲撃させる必要があるって言うのよ。全部推理だけど、犯人は強力なクライアントにごく近いうちにエミを納入する必要に迫られてるはずだって。


「サヨコさんを救出するには、エミさんを襲ってきた時に連中を踏ん捕まえるしかチャンスがあらへん」


 お父ちゃんや、お母ちゃんも相談に加わってもらってるのだけど、


「サヨコさんを救出するには危ない橋を渡ってもらう必要がある。これは強制やなく志願やから怖かったら断ってもらってエエ」


 あれっ、コトリさんの顔から微笑みが消えてる。その代りに見た事もない厳しい顔になってる。


「エミさんのことだけを考えたら、そうやな二週間ぐらい雲隠れしたら安全やろ。納期が過ぎたら、犯人も襲わんやろ」

「サヨコは?」

「二度と会えん」


 そんなぁ、サヨコは一番の友だちだよ。それを見殺しにするって言うの。それもだよサヨコは一生監禁されて、狒々親父のオモチャにされちゃうんだよ。エミはサヨコを救うためなら何でもする。そしたらお父ちゃんが、


「よう言うた。さすがエミや」


 お母ちゃんも、


「見殺しにしたら一生後悔することになります」


 その日から家から駅まではお父ちゃんが送迎することになり、学校から駅まではセレクト・ファイブを合わせた十人ぐらいがガードすることになったんだ。セレクト・ファイブに事情を話したら即答だったもの。


 コトリさんは校内では襲われないだろうって。電車の中も逃げ場がないから手を出さないだろうとしてた。でも家は心配だった。従業員が帰っちゃうと、男手はお父ちゃん一人になるし、近所に家なんかないものね。


「それは心配ないよ」

「ああエミ、それだけは心配ない」


 どうしってって思ったけど、質問しにくい雰囲気。


「警察は」

「今回は使えん」


 犯人も警戒してるはずだって。もし真のターゲットがエミで、これを警察が少しでも守ろうと動いたら、エミ襲撃は断念するはずだって。犯人がエミ襲撃を断念した瞬間にサヨコの運命は決まっちゃうって言うのよね。


「でもそれだけエミをガードしたら襲撃されないんじゃ」

「そこやねんけど、襲うんやったら駅から家が一番危ないけど、さすがに全部カバーできへんねん」


 セレクト・ファイブは学校から家までガードするって頑張ったけど、コトリさんは断ってるのよね。もちろん高校生を危険にさらすわけには行かないのもあるけど、


「どこかで隙を見せて誘い込んでるとか」

「それに近いけど、むしろ追い込んでるとした方が正しいかな。そうすることでサヨコさんが無事である確率が少しでも上がるし」


 まずこの程度のガードやったら、犯人もあの誘拐事件の後だから、ちょっと注意してるぐらいにしか見えないだろうってさ。でも実質として襲いにくくなってるから、最後の手段を採らざるを得なくなるだろうって。


「そういうこっちゃ、サヨコさんを使っての呼び出しや」

「それってサヨコがエミを裏切るってことですか」

「でも恨んだらあかんで、サヨコさんは恐怖の場所におるんや。そんなとこで、いつまでも耐えられるかないな。それとやけど、


『協力せんかったらオモチャにする』


 これぐらいは脅迫されるで」


 そこまでになったら耐えられなくなるのはわかる。


「サヨコは協力したら助かるのですか」

「そんなわけないやろ。サヨコさんは犯人の顔見てるんやで、やっぱり売り飛ばされるか、下手すりゃ殺して埋められる」


 ひぇぇぇ、ギリギリの状態じゃない。


「エミさん、そして社長と奥さん。ここはわたしとコトリを信用して下さい。エミさんは命に代えても必ず守ります」


 うわぁ、ユッキーさんの顔も怖い。あんな顔が出来るんだ、そこからエミが呼び出された時の対応を授けてもらった。コトリさんもユッキーさんも北六甲クラブに常駐できないから、駆けつけて来るまでの時間稼ぎが必要なんだよね。ケースに応じて何パターンか教えてもらったけど、そりゃ、もう芸の細かいこと。


「やるよコトリ」

「ああ、容赦はせえへんで」


 エミはこの二人を信用する。この二人を信用できなかったら、世界で信用できる人はいないと思うし、自信が無ければこんなリスキーな提案はしないはず。なにより信用しないとサヨコは助からない。

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