サヨコの行方は

 クラブに帰るとなぜかユッキーさんとコトリさんがいた。平日なのに珍しいものだと思ったら、


「心配してたよ」

「稲森小夜子さんって、班研究のときのサヨコさんだよね」


 心配してわざわざ来てくれてたんだ。誰かと、とにかく話をしたかったから、話相手になってもらったんだけど、


「変やな」

「おかしいよ」


 エミは攫われたサヨコがどうなってるか心配で仕方がなかったんだけど、二人の興味はそこもあったけど、そもそもサヨコがどうして攫われたかだった。


「誘拐、それも白昼堂々のやつはリスクが高いんや」

「だって、目撃者もいる可能性が高いし」


 目撃者どころか、一緒にいた大伴先輩を殴り倒してるものね。さらに不可解としたのは、それだけのリスクを冒して攫ったのがサヨコだったこと。


「誘拐するにも目的があるのよね」


 まあ趣味で誘拐するのはいないと思うけど、誘拐と言う犯罪を冒してまで求めるのはカネしかないって。


「サヨコとやるためは?」

「それやったら、あんなムチャはせん」


 レイプ目的で女をさらうのも現実にはあるけど、あそこまでの大事件を起こしてしまうと逃げるのが大変になると言われて納得した。サヨコを襲うにしても、一人で歩いているところを狙うはずだって。今回だって大伴先輩がいなければ、


 ・帰宅が遅くなった家族が心配する

 ・とりあえずサヨコの友だちとかに連絡を取る

 ・学校に問い合わせる

 ・警察に相談する


 警察だってすぐに動いてくれるとは限らないし、上手くいけば翌日以降になってようやくなんてこともあり得るっていうのよね。その間にやるだけやって、サヨコを放り捨てて逃げるのが一番安全だろうって。


「犯された女が警察に訴えたら」


 まず訴えない女がわりと多いんだって。訴えちゃうと、自分がレイプされた女だって公表するようなものだからって。それと訴えても、警察は必ずしも積極的に動いてくれない事も多いのだそう。行きずりの通り魔みたいな犯行だから、調べ様がないぐらいかな。女として腹が立つけど、現実としてそうかもしれない。


「そうなるとカネ目的ね」

「身代金目当てですか」

「その線はないと思うで」


 サヨコの家は普通の公務員。エミの家よりマシかもしれないけど、身代金と言われても困るのはわかる。身代金目的の誘拐は、攫う時より現金の受け渡しの時のリスクがムチャクチャ高いから、サヨコの家じゃ割に合わな過ぎると言われれば納得するしかない。


「他にカネになる方法があるのですか?」

「人身売買や」


 映画やテレビの世界じゃあるけど、ホンマにあるのかな。


「世の中広いからな」


 でも聞いていると身代金目当てよりリスクは低そう。身代金の場合には人質の家とか、会社からカネを取る事になるけど、人身売買の場合はクライアントに売るからだって。


「クライアントって売春宿とか」

「それもあるかもしれんけど・・・」


 売春宿の可能性は低いだろうって。理由は売春するには不特定多数の男性と接触しないといけないし、逃げられる可能性もあるって言うのよね。今回で言えば攫われたサヨコの顔はマスコミが大々的に報道してるから、


「じゃあ、どこに」

「落ち着いて聞いてや」


 そういう女を欲しがる客がいるって言うのよ。簡単に言えば金持ちの変態狒々親爺。買い取って監禁して嬲り者にして楽しむんだって。


「そやから攫われたら二度と解放されへん」


 ここが人身売買ビジネスのポイントっていうから驚いた。売る方は攫うリスクだけで、確実にカネになるし、攫った女はガッチリ監禁されるからバレる心配もないんだって。狒々親爺があきたら転売されたり、始末も請け負うらしい。


 ただいくら攫った後のリスクが低いと言っても、やはり攫う時のリスクは低くしたいんだって。少なくとも今回みたいな大事件にしてしまうのは愚策っていうのよね。


「警察は事件性が高いほど熱心に大規模に動くんよ。動けば人身売買側のどこかに喰らいつくリスクが高くなるやんか。どっかで尻尾捕まれたら、芋づる式にクライアントまでバレてまう可能性だって出てくるねん」


 コトリさんはサヨコを知ってるから、そこまでのリスクを冒してまで攫うのに違和感を感じてるで良さそう。


「でも狒々親父のオーダーの線は?」

「人の趣味って多種多様だから、それは最後まで残るけど」


 コトリさんはサヨコを指名しての誘拐ならともかく、サヨコ程度で良いのなら、もっと安全な調達手段を選ぶはずだって。さらにサヨコ目的であっても、


「あんなムチャせん。サヨコさんが一人で歩いている日を待てば済む話やんか」


 言われてみれば。別に一ヶ月や二ヶ月待ってもサヨコに変わりはないものね。大伴先輩だって足の骨折が治ればいなくなるはずだし。コトリさんは、人身売買組織となるとプロのはずだって。そりゃ、ちゃんと攫った女の売り込み先も組織化してるぐらいだもの。


「だったらサヨコは」

「その前に聞いときたいことがあるんやけど・・・」


 事件のあった日のことをあれこれ聞かれたのだけど。


「コトリ、やっぱりそうよ」

「ユッキーもそう思うか」


 どういう事かと聞いたら、サヨコは間違って攫われたんじゃないかって言うのよね。


「本当に狙われたのは摩耶学園のリボンのシンデレラだってこと」

「エミさんだったら、オーダーが入ってもおかしくないもの」


 そりゃ、あの日にサヨコにリボンをあげたし、サヨコはリボンを着けて帰ったけど、


「じゃあ、サヨコは無事なのですか」

「無事である可能性ぐらいはある」


 推理の上に推理を重ねてる部分は多いってしてたけど、まずなんらかの理由で犯人は仕事を急ぐ必要があったとしか言いようがないって。その証拠があれだけのリスクを冒しての誘拐劇だって。犯人はもうサヨコが別人ってわかったはずだから、


「別人でも女子高生やから売り込み先があるやろうから、そっちに移されてる可能性はある。そやけど、ここのポイントは急ぎの仕事やってことや」

「そこよね。よほど強力なオーダーって考えて良いはずよ」


 犯人はなにがなんでもエミが必要って考えてる可能性があるって言うのよね。


「ここからが難しいのやけど、あれだけサヨコさんにムチャやったから納期は迫ってると見てエエやろ」

「もしエミさんを襲うのなら一週間以内と見てもイイと思うわ」


 えっ、えっ、エミがすぐにも襲われる可能性があるって。話がトンデモない方向になってきた。

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