第22話 目覚め

アルファードは心配で夜もあまり眠れずにいたが、ようやく朝になり、校舎が解放される時間とほぼ同時に医務室に飛び込み、目にしたシェリーは既に目覚めていて、怪我の後遺症も無いようでアレファ先生と朝食後のお茶を楽しんでいた。


「シェリー、良かった、もう体は痛くないのかな、大丈夫?」

「おはようございます、アルファード様、ご心配をおかけしてしまってようで申し訳ございませんでした、先生の処置がとても適切でいらっしゃたので、傷跡も無くもちろん痛みもありませんのよ」


 にっこりと笑うシェリーにほっとするアルファードを、優し気に見つめてアレファが立ちあがった。


「アルファード様、今シェリー様には気分が落ち着くハーブティーをご用意致しましたが、よろしければご一緒にいかがですか、紅茶の用意もありますのよ」


「ああ、ありがとう、では紅茶をいただこうかな」


 では、と紅茶の用意をするためにアレファが下がり、部屋の中にはシェリーとアルファードの二人だけになった。


「シェリー、昨日は本当に驚いたよ、階段から突き落とされたと聞いた時には怒りで目の前が真っ暗になったほどだ」


「アルファード様、今なんておっしゃいました?」

「君が階段から突き落とされたと聞いたんだが、もしかして気付かないうちに巧妙に落とされたのか? だとしたら尚更、あの女は許しておけないな!」


 昨日のカルーアの話を思い出し、怒りを新たにするアルファードだったが、シェリーの顔つきが変わったことに気付いていない、熱血残念王子。


 一人芝居の様に自分の怒りは、愛する女性のための正当なものだと半ば自己陶酔気味だ。


 登校メンバーのクラウン達がシェリーの様子を心配して医務室にやってきた、シエンタから大丈夫だと聞いてはいたが、怪我の様子が良くわからなかったので朝一番に全員で押しかけるのは控えたのだ。


 医務室に入ってすぐにクラウンはシェリーの様子が普通でないことに気付いた。


「シェリー、どうしたの、やっぱり具合があまり良くないのかな? 気分が優れないなら今日はゆっくり休んで、私達も教室に戻るから」


 先程まで、笑顔を見せていたシェリーが蒼ざめ震えている。


 階段から突き落とされた? 私が? いいえ、そんな事は無いわ、ラムさんが足を滑らせたので支えようと手を伸ばしたら、態勢を崩して落ちてしまっただけなんだもの。


 それなのに、私が突き落とされた?  なんで、なんで、そんな事に……、

『お前が私の婚約者など私が望んだものではない! 王位にしか興味が無いお前など誰が選ぶものか、か弱いカルーアを散々いじめて階段から突き落とすような女など目の前から消えてくれ!』


 過去のアルファードの言葉が甦り、動けなくなってしまったのだ。


 クラウンの言葉で様子が変わってしまったシェリーに気付くアルファード、誰かに突き落とされたという言葉にショックを受けてしまったのだろうか、繊細な彼女に迂闊な事を言って不安にさせてしまったのか。


「シェリー、もう大丈夫だ、あの女は既に閉じ込めてあるから、あとは私に任せて今日は一日安静にしていてくれ、か弱いシェリーを階段から突き落とすような女など、私達の目の前から消してやるから!」


 アレファが紅茶を持って戻ってきて、シェリーの顔色を見て驚いた。


「シェリー様どうなされましたか、ご気分が優れないのでしょうか、大丈夫ですか?」


 アレファに声をかけられ、過去の記憶から戻ったシェリーは、アルファードを睨みつけた。

 このおバカは、また、罪のない人を貶めて何をするつもりなの! また、同じことを繰り返すつもりなの! いい加減にしてちょうだい!


「アルファード様、私が突き落とされたと誰が言ったのですか? 私は自分で態勢を崩して落ちただけですよ、誰を、どこに、閉じ込めたのですか、何の罪もない者を!」

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