第21話 再びの冤罪

「なんだって! 本当なのか?」


「私は確かに見たんです、彼女が右手を差し出してその先で落ちていくシェリー様のお姿を! 私が先を歩き、彼女がシェリー様の隣を歩いていて踊り場に差し掛かった時に、シェリー様のほうを振り返ると…、その時には、……もう、…間に合わなかったんです! お助けしたかったのに、申し訳ありませんアルファード様、私が落ちれば良かったんです」


 しくしくと泣きはじめるカルーアの肩に手をかけて、ポンポンと軽く背中を叩いて落ち着かせる。


「カルーア、助けられなかったのは君のせいじゃないから、それよりもシェリーの側にいてくれてきちんと状況を見てくれたのだろう、ありがとう。あとは私に任せてゆっくり休んでいて、アリシアとフェリミエーヌの二人は、カルーアが落ち着くまで側についててくれるかな」


「分かりましたわ、カルーア様、あちらに参りましょう」

「アルファード様のおっしゃる通り、カルーア様は何も悪くありませんからどうか、落ち着いて下さい、あとで一緒にお見舞いに参りましょう」

「でも、側にいたのに、私は、ただ、見ていただけで、ヒック、何も出来なかったの、ううっ」


 まだ、グズグズと泣きながら自分を責めるカルーアを囲みながら二人が遠ざかっていくと、アルファードの怒りを受け、がくがくと体の振るえが止まらないラムが残された。


「お前に聞きたいことがあるが、今はシェリーの様子を見に行くほうが先だ。その後で話をきく」


 冷たく言い放つアルファード、その周りに何事かと人が集まり初め、その中の一人と目が合った。


「悪いが、この女をどこかに閉じ込め、逃げられないように見張っていて欲しい、この女がシェリーを突き落としたという証言があるのだ」


 ざわっと人垣から、声が上がる。

 声をかけられた一人がラムに近づき、乱暴に腕を掴み無理やり立ちあがらせる。


「お前、シェリー様に何をしたんだ? アルファード様のご命令だからな、こっちにこい、誰か指導室の鍵を借りてきてくれ。俺がこいつを連れて先に行ってるから」


 一人がわかったと、教職員室に走っていくのをぼんやりとラムを見ていた。

 自分がシェリー様を突き落としたとされ、アルファード様に冷たく蔑まれ、今、周りからも冷たい眼で見られているのだけれど、実感がない。


 シエンタに淡い想いを抱いていたラムは、手紙を貰い嬉しくて授業も上の空になってしまうぐらい舞い上がっていたのに、そこから真っ逆さまにつき落とされて思考と感情が追い付いていないのだ。


 腕をつかまれ、感情が抜け落ちた目をしたまま、引きずられように連れられて行くラムの姿は、見ている生徒達からは、ふてぶてしい、何の反省もしていないようだと見られ、かつてのシェリーが味わったように誰一人として味方もいないままに、ただ、なされるがままに時間だけが過ぎて行った。


 医務室へと急いだアルファードは、シェリーが寝ているベッドを覗き込み、頭に包帯が巻かれているのを見てシエンタと医務室の管理人、アレファ先生に詰め寄っていた。


「落ち着いて下さい、シェリー様は大丈夫です、お体の怪我は足首も頭部も全て治癒魔法で完治しております、ただ、頭部を打撲してしまったようなので今はお眠りいただいております、傷はお治し出来ますが、頭を強打してしまった場合などは安静にするのが一番良いのです」


「頭を強打だと、大したことが無いのではなかったのか?」


「アルファード様、少し落ち着いて下さい、姉がそんなお姿を見たらどう思われるでしょう?」


 そうだった、自分はいつも周りが見えなくなってしまうことがあるのを、シェリーに注意されていたのを思い出し、二回深呼吸をした。


「すまない、シエンタ、もう大丈夫だ」


「姉は今は落ち着いて寝ているだけですよ、アレファ先生が適切に処置してくださいましたから、今はゆっくりと休んでもらって明日、またうかがいましょう」


「では、私は今夜はずっとここにいる、シェリーに付き添っている」


「ダメですよ、アルファード様、いくら婚約者でも異性の方を一晩同じ部屋になど置いておけません」


「いや、私はそんな、やましい気持ちなどは…、」


「あっても無くてもダメですよ、校則で決められてますから、このような場合は結界魔法を張り、私は宿直室におります、王族の権限でも怪我人の処置に口出しは控えて下さいませね」


「既に理事長を通じて、今回の件は王家にも伝わっております、大貴族ハロウィン公爵のご令嬢に万が一も無いように、いつもは学園中に散っている影部隊がお側についております、王侯貴族のご子息、ご令嬢の方々をお預かりしている、このアストリア王立学園の警備を疑われるのは賢明な判断ではございません」


 ぴしゃりと言い切られてしまい、さすがにそれ以上は言い返せない。

 影部隊は王族直轄の護衛部隊、それを信用出来ないというのは、父の国王と魔道戦士長に喧嘩を売るような真似だと言われたのだ。

 

 そして、怪我人には、安静が一番ですからと医務室から追い出されてしまった。


 

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