第20話 失敗してもあきらめない

「きゃああああっー」


 学園にラムの悲鳴が響き渡り、その直後にドスンと何かが床に落ちた音が聞こえてきた。


「姉さん!」

「シェリー様!」


「うっ」  

 短くうめく声が聞こえただけで、動かないシェリー。


 階段を駆け下り、慌ててシェリーの側に駆け寄るシエンタ。

「姉さん、大丈夫?」

 蒼ざめ震えた声で話かけると、

「あっ、ああ、大丈夫よ、ちょっと頭を打ったみたいで、少しくらくらしてるけど」

 起き上がろうとすると、ズキッと、激しい痛みが足首に走り起き上がることが出来なかった。


「姉さん、すぐに医務室に連れて行くから少しだけ我慢してね、俺は治癒魔法を使えないから、ごめんね」

 

 そう言って、そのままシェリーの足と背中に腕を入れて抱き上げる、最大限に気を遣って持ち上げたつもりだったが、痛みで思わず顔をしかめたシェリーを見ると、頭に怪我をしているようでいつもより白くなった顔に一筋の血がつつーと、流れ落ちてきた。


 シェリーの顔にかかる血を見て、怪我をしている当人よりも更に蒼ざめ、唇を噛みしめながら、自分が歩く震動を与えないよう気をつけて、出来る限り急いで医務室に向かう。


 周りが騒めいているが、シエンタの耳には入ってこない。

 聞こえるのは痛みを堪えて、声が出ないようにしているシェリーの息遣いだけだ、こんな時にも痛いとも言わないんだよな、姉さんは。


 顔にかかる血も止まらず、痛みでだろうか、うっすらと汗をかきはじめたシェリーの顔を見ると胸が痛くなってくるのを覚えながら、医務室に急いでいる頃、ラムは階段の踊り場でしゃがみ込み震えていた。


 わ、私のせいで、私をかばってシェリー様が落ちて怪我をされてしまった。手を伸ばしたけれど届かなかった。なんで、なんで、私なんかをかばってシェリー様が……、私が落ちたほうが良かった。私が落ちれば良かったのに。


 しゃがみ込み動けずにいるラムを、憎々し気に見下ろすカルーア。

 ちっ、役立たずが! なんでシェリーが落ちるのよ。

 あいつも本当にバカなんだから。

 

 これじゃあ私の予定と違うじゃないのよ。

 はあー、もう、まったく使えないわねこの女。

 まあ、しょうがない、ここはこいつに悪役になってもらって、気落ちしているアルファード様を私が優しくお慰めするってことでいいか、それで私の魅力に気付いたアルファード様が真実の愛に目覚める。 うーん、今一つ盛り上がりに欠けるけど、大事なのはエンディングだからね。


 ま、結局はヒロインの都合のいいほうに話は進んでいくんだよね。


 お買い物に出かけたアルファード達が学園に戻ってきた頃、ざわざわと落ち着かない様子を不思議に思いながら、本校舎に入ると騒めきは一層大きくなる。


「シェリー様が…、」騒めきの中からシェリーの名前が聞こえてきた。


「すまない、少し外出していたのだが何があったのか教えて欲しい、いま、シェリーの名前が聞こえたようだが」

「アルファード様、大変です! シェリー様が階段から落ちて怪我をされました」

「な、それは本当か? いつ? 怪我は酷いのか?」

「ついさっきです、怪我はされてたようですが、どの程度なのかはわかりません。あそこにいるカルーア様がシェリー様と一緒にいらっしゃたようですから、詳しくわかるかと思います」


 そう目線で示された先を見ると、階段の下で知らない女生徒と一緒に居るカルーアがいたので、すぐにカルーアの近くにいって、声をかける。


「カルーア、シェリーが階段から落ちたと聞いたが一体、何があったんだ?」


 勢い込んで聞いてくるアルファードの後ろに、心配そうに付き添うアリシアとフェリミエーヌが見えた、ふふっ、ちょうどいい時に帰ってきてくれたわ。


「ああ、アルファード様、シェリー様が階段から落ちてお怪我をされてしまいました、足を痛められたようで、今はシエンタ様が医務室にお連れしてるので、大丈夫かと思います」

「そうか、怪我はしたがそれほど酷く無かったのか、良かった」


 カルーアの言葉をきき、ほっとした三人だったが、すぐに険しい顔になった。


「アルファード様、この女がシェリー様を階段から突き落としたのです! 私は彼女が手を伸ばした時に落ちていくシェリー様のお姿を見たのです」


 カルーアの言葉をきき、先程よりも更に蒼ざめガタガタと震えるラムの姿をアルファードは冷たく見下ろしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る