第7話 ターニングポイント
アルファード視点~
俺は、王太子として婚約者がいることには、何の不満もなかったんだ、相手に対して特別な感情がなかったから。
王宮にいると、お父様から呼び出された貴族が子供を連れてきて、何かと用事を見つけ俺に会わせようとしていたから、着飾った女の子も見慣れていたんけど、5歳の頃に婚約者だと紹介された女の子は、王宮でもめったに見ないぐらいの綺麗な子だった。
でも、婚約者だと紹介された子は、ごく普通に挨拶しただけで、俺にあれこれと話しかけてくることも無くて、こちらが話しかければ応える、そんな程度だったので、正直、がっかりしたのを覚えてる。
ハロウィン公爵家の綺麗な女の子。 ……綺麗なだけの女の子。
その印象は、それからしばらく変わることは無かった、王宮で顔を合わせれば、もちろん挨拶もするし、お茶会も年に2回ぐらいは、してたと思う。
そう、俺の12才の誕生パーティまでは。
あの日、また、今日も一日、お父様の側で一日、挨拶したり、貴族特有の持って回ったあの話しかた! はっきり言うのは、品が無いとか、教養がないとか、言われてるけど、めんどくさいだけ。
綺麗なものは綺麗だし、汚いものは汚いし、バカな奴は何をやってもバカじゃないのか?
そんな、めんどくさい一日が始まる前に、せめて気分を変えようと庭を散歩していたら、女の子の笑い声が聞こえてきた。
誰だろうと思って近づいてみたら、俺の婚約者のシェリーが大きな声で笑っている?もうすぐ夏という頃で、噴水に足をつけてバシャバシャと、大きな水音を立てて遊んでいたんだ。
シェリー? 何をやってるんだ。
おつきのメイドが注意はしてるが、それほど焦ったような様子は感じられない。
「もう、お嬢様、いい加減になさいませ、こちらに来ると羽目を外し過ぎです。誰かに見られたらどうなさるのですか? 」
「別に、私はかまわないわよ、おてんばシェリーでも、ねえ、ロイド。」
ロイド? 誰だ。
「お嬢様、国一番の大貴族で王太子のご婚約者でもあるんですから、もうちっと、お淑やかなほうがいいじゃねえんですかい。」
良く陽に焼けた顔で、咎めるような言葉とは裏腹に仕方がない、
と笑う庭師のロイド。
「普段は十分、お淑やかだもの、今日はこれから一日大勢のお客様にお会いして、殿下の隣でにっこりと微笑んでなきゃならないのよ、疲れちゃうわ。」
と、口をとがらせるが、その様も愛らしいと、苦笑するロイドと侍女のカシス。
「だって、お父様もお母様も、私のことをアストリアのハニーローズって呼ぶのよ、それってこの国の国花なのでしょう、それにふさわしく、気品のある振舞をするようにって、いつもおっしゃられてるから、私は頑張ってるのよ。」
シェリーは、自分が求められている役割を、一生懸命努めようとしているのだ。
「屋敷のみんなも、未来の王妃にふさわしい振舞をって、いつも言ってるじゃないの。それに、アルファード様は、お優しいけれど、お気持ちが顔に出やすい方だって。お父様は人間としては愛すべき点だが、貴族、ましてや王族の中にあっては、欠点になりかねないとおっしゃっているわ、だから、私は皆の前では笑うのも我慢してるのよ、誰もいない時ぐらい自由にしても良いでしょう?」
噴水に付けた足を、大きく跳ね上げ、キラキラと舞う水しぶきを無邪気に楽しんでいる。
いつも、白い顔には赤みが差し、瞳はキラキラときらめき、大きな口を開けて、とても楽しそうに笑うシェリー。
綺麗だけど、つまらない女の子、そう思っていた相手は、水しぶきを浴びながら、弾けるような笑顔を見せていた、決して自分の前では見せない魅力的な顔を。
自分でも、まわりの者達から、感情が顔に出過ぎだと注意は受けていたので自覚はしていたが、あまり気にしたことも無かったのだ。
二つ上の義兄は、母親の身分が低いため王位継承順位も低く、控えめな性格の為、自分が王位に就くのは間違いないし、なにかあれば頼ってしまえば大丈夫だろうと、軽く考えていたのだ。
自分が王位を継ぐべき人間なのに、産まれた時から王太子として皆にちやほやされるのが、当たり前と思っていたため、最低限の勉強はしてきたものの、努力などしてこなかった。
だが、同じ年の婚約者は自分のために、笑う事すら我慢しているなどとは、考えたことも無かった。
自分が、王太子としてふさわしくなれば、彼女は誰の前でもあんな風に笑えるのだろうか?
弾けるような笑顔の彼女の周りは、たくさんの人が集まるだろう、そして、その輝くような彼女の隣に立ち、手を取りながら、アストリアの未来を築いていく。
自分が座る玉座の隣には、知性と美貌と優しさを備えた王妃シェリーがいる未来。
初めて義務ではなく、シェリーを心良く迎えたい、そう思ったアルファードは、王宮の自分の部屋に急いで戻り、自ら進んでパーティの支度をして、お付きの者達を驚かせ、そして喜ばせた。
4回目のルートの分岐点。
未来の王妃候補にふさわしくあろうと肩ひじを張って、間違った方向にずっと努力を続けてきたシェリー、自分の感情を抑え過ぎれば、無表情となり、誤解をされ、皆に優しくしようと思えば、男に媚びを売ると言われた過去ルート。
運命の分岐点が過ぎたことを、シェリーは知らない。
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