第6話 視線と気持ちはかみ合わない

「あの、アルファード様、クラウン様はどちらにいらっしゃいますの? 」


 部屋の入り口で、どうするべきかと迷って声をかけると、


「さあ、とりあえず入って、お茶も用意されてるしね。」


 と、慣れた手つきで椅子までエスコートされて、座ろうとしたら、一瞬、ぐッと力を込めて引き寄せられた、何が起きているのかもわからないまま、支えられた手が少しだけ強く握られる。


 アルファード様、顔が近いです。 そんな潤んだ目で私を見られても、


 うん? 潤んだ目?  なんで、風邪ひいてるの?


「アルファード様、お具合がよろしくないのですか? ならば、無理なさらずにして下さいませ。誰かお呼び致しましょうか? 」


 具合が悪いのかと、顔を覗き込むと少し顔が赤いかな?

 熱はどうかなと、額に手を当ててみると、ちょっと熱い…かな?


 それより、ますます顔が赤くなって、これ、ダメだよね。

 私の前で倒れられたりしたら、私の立場が……ヤバい。


「ああ、どうしましょう、誰か、」


「シェリー、落ち着いて、風邪なんか引いてないから、大丈夫だから。ただ、二人で少し話をしたかっただけだから。」


「本当に大丈夫ですか? 無理をなさってたら、怒りましてよ。」


 まったく、私の立場も考えて下さい、少しだけアルファード様を見上げて睨んでみる、私がもし、本気で怒ったら、この人はどうするんだろう、また、不敬罪になるのかな?


 そんなシェリーの思いなど、これっぽちも知らないアルファードは、こんな時に、怒った顔が見てみたいなんて言ったら、君は怒るかな? なんて、真剣に考えていた。


 アルファードにとってシェリーは幼い頃からの婚約者であり、シェリーが牢獄に入れられた過去も、彼の中にはない。一人の女性を愛するただの男でしかないのだ。


 いつも、公爵令嬢として、王太子妃候補として、毅然として美しい君も好きだけど、怒ったり、泣いたり、笑ったりする君の素顔が見たい、 あの時のように。


 今も、こんなに、私の事を気にかけてくれるだけで、どんなに嬉しいか君は知らないけどね。


「アルファード様、 やはり、誰か呼びましょうか? 」


 ……なんか、アルファード様、へんよね。


「いや、いいよ、入学式の件をシェリーに話したかったんだ、だから、誰も呼ばないで。」


 それは、私も聞きたいけど、

「わかりましたわ、ですけど、そんなにじっと見ないでいただけますか」


 私を、牢獄に繋いだ張本人のクセに、なんで、……そんな優しそうな目で見るのよ、そんな目で見られたことなんかないから……そうよ、こんな、ドキドキするのなんか、


「少し怒ったような顔も、とても可愛いね。」


 やっぱり、優しいんじゃなくて、ただのタラシじゃない、しっかりしなさい、シェリー。


「シェリー、急にあんなことを言って、混乱させてしまったかもしれないけど、 全部、本気だから。

 小さい頃からの婚約者ってだけでじゃなくて、君にふさわしい男になって、君からも俺を選んでもらいたいから。本気で君が欲しいから。」、


 真剣な想いでシェリーを見つめるアルファードと、

 訝し気にアルファードを見つめるシェリー。


 二人の視線は交わっても、お互いの気持ちは、かなり遠くですれ違っていた。






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