第8話 思わぬ伏兵
「アルファード、女性は無理に口説くものじゃないよ。」
クスクスと笑いながら、控えの間から姿を現すクラウン様。
「クラウン義兄様、私は無理強いなどしておりません。ただ、自分の気持ちを伝えたかっただけです。」
「あれほど、熱烈な言葉を貰ってもシェリーは嬉しくないようだが?」
そう言いながら私の手を取り椅子へ座らせ、
「飲み物は何がいいかな、とっておきのリスリル茶が手に入ったのでいかがですか? お嬢様。」
リスリル茶!
リール茶の最高級品と言われているあのリスリル茶?
滅多に手に入らないことで有名なのに。
「素晴らしいですわ、クラウン様、幻のお茶とまで言われるリスリル茶をご用意されてるなんて、流石ですわね。」
クラウン様?
ずっと私の手を握ってますけど、どうしたのかな?
不思議そうにクラウン様を見ていた私に気付いたのか、そのまま私の手の甲に軽く、くちづけをして、
「すぐにお茶の用意をするから、そのまま待っていてね、ほら、アルファードも席について、さあ。」
と、お茶の用意をされに控えの間に入っていかれました。
クラウン様って、こんなチャラ男キャラだったかな? 女性からの人気は高くてもお付き合いされる特定の方がいなくて、もしや隠れBLルート? なんて言われてたのに。
アルファード様は、からかわれたのが面白く無いのか、少しムッとした顔で席に着いて、ほどなくしてクラウン様が戻られ、手際良くお茶の用意をしていきます。
透明なガラスのティーポッドにリールの葉が少しと、大きめのリスリルの花が入れられ、お湯の中でリスリルの花が完全に開いたらカップに移して、花弁が外側からゆっくりと開き、淡いオレンジの色が付くまでを楽しむのもこのお茶の
カップを持ちあげ、お茶の香りを吸い込みますと、爽やかな中にも少し残る甘みのある香りが広がっていき、カップに口をつけると思わずため息が零れちゃうよ。
はぁぁ、美味しい。
「本当にこのお茶が好きなんだね、蕩けそうな顔をしてるよ? 無理をしてでも手に入れた甲斐があったよ、アルファードがね。」
うん、このお茶を手に入れたのは、アルファード様?
「シェリーに喜んでもらいたくて、必死になって伝手を使って手に入れたんだよ、ね、アルファード?」
「クラウン義兄様、今、ここでそのような事言わなくてもよろしいでしょう。」
相変わらず、機嫌が悪いみたいなアルファード様、クラウン様はとても上機嫌みたいだけど、
「ねえ、アルファード、君は入学式で正々堂々と、シェリーを手に入れようとアピールしたかったのかもしれないけど、私に言わせれば、なんてバカなことをと言わざるを得ないよ、私のことも敵に回したんだよ、そのこと、分かってるのかな?」
敵? ……王族として恥ずべき行為だったとか?
「義兄様、それは…、どういう…、」
「まだ、分からないのかい?、シェリーと同レベルの鈍さだね、シェリーがどれほど皆に愛されてるかを知らないのは、君とシェリーだけだよ。」
そう言って、私の目の前に立ち、再度私の手を取り、口づけを落とされます。
「シェリー、ずっと以前から君を見ていた、義弟のために痛々しいほどの努力をしている君を、ずっとだ。」
クラウン様の瞳にやや熱がこもり、支えられていた私の手がギュと握られ……ク、クラウン様、お顔が近すぎます、覗き込むように私を見ているクラウン様から目を逸らすことが出来ません……、近い、近すぎです、そう思っても、息がかかるほどの距離から身を逸らすことが出来ません。
「義兄様、近づきすぎです! シェリーが驚いていますから、少し離れて下さい。」
そう言われても、相変わらず私の手は握られたまま、今度は髪の毛を別の手で掬いとられ、感触を楽しむように弄ばれてる、いったい私に、何が起きているの? 誰か教えて!
「アルファード、君は本当にバカなことをしたんだよ、今までだってこうやって、シェリーに触れたかった、でも、正式な王太子の婚約者でその為にずっと頑張ってきたシェリーの努力を無駄にしたくなかったし、もちろん身分や立場による遠慮もあった。」
私の手と髪から、ご自身の手を放すことなく、でも、視線はしっかりとアルファード様に向けられ、はっきりと伝えられます。
「だけど、あの一言で君自身がそれを手放したんだ、一度手放したものが、簡単に戻ると思わないでくれよ、それが価値があるものなら猶更だね、アストリアのハニーローズ、私なら、ハロウィン家の婿になることも出来るし、新たに公爵家をいただき、君を迎えることも出来る、どうだろう、君にふさわしい男であると思っているのだが、」
クラウン様の言葉に、私は一気に青ざめます、ルドルフの代わりに今度はクラウン様が破滅ルートを運んでくるの?
そう、二度目のループでアルファード様の私への扱いがあまりにも酷い、だけど王族に逆らうことも出来ない、ならばいっそ一緒に死のうとルドルフが私と無理心中しようとしているのが見つかり、決闘を申し込まれ、足を滑らせたアルファード様の打ちどころが悪く死亡、とういうバッドエンド。
私は青ざめた顔のまま、クラウン様を見上げることしかできません。
「そんな、驚かせるつもりはなかったんだ、急ぎ過ぎたなら謝るから、シェリー、お願いだからそんな顔しないで、ただ、君を愛していることだけ伝えたかったんだ、シェリー、ずっと君を見ていたんだ、君だけを、ずっと愛している。」
私はどうやったら、クラウン様のバッドエンドを回避できるのか考えていた。
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