メル

 僕は草原にいた。目の前には腹から血を流すメル姉さん。ぎゅっと抱きかかえていると、だんだん冷たくなっていくのが感じられた。

「誰だよ! 誰がメル姉さんをっ……」

 必死に叫ぶ。けれど声が響くだけで、何の生き物の気配も、匂いも感じられない。

 メル姉さんがごぼっと口から血を吐き出す。

「やだ! やだよ、メル姉さん!」

 再び叫ぶと、メル姉さんがうっすら目を開けた。そっと頬に手を伸ばしてくる。

「……聞いて……あの人は……悪くないの…………これは私が……望んだことだから……」

「メル姉さん? それってどういう……」

「エゼル……ごめんね……大好きよ…………」

 苦しみの見えない綺麗な笑顔が、目の前にある。そのまま瞼が落ちていき、手は力なく垂れる。

「姉さん……やだ……置いてかないでよ……」

 自分が血で汚れるのも構わず、メル姉さんの骸を強く抱きしめた。自分の頬を伝う涙だけが熱い。

「ひっ……うっ……」

 声を漏らしながら咽び泣くと、背後から草の擦れる音がする。振り返るとソロンさんが立っていた。

「……ソロンさん」

 森の中から出てきたのは、メル姉さんの恋人である魔術師。顔は土気色で調子が悪そうだった。目は泥を詰めたように濁っていて、光がない。

 そして服には血がこびりついて――

「……まさか、あなたが、」

「ああ」

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