対峙
ソロンの残した形跡、匂い。五感をフルに活用して森の中を進む。ちなみにフェアリーはソロンに捕まる危険性を考慮してついてきていない。
枝を飛び移るたびに目の前を黒髪がちらついた。今はそれを見ても、嫌悪を感じなくなった。
昔はそれが嫌で、そこだけ切ってみたり、銀髪に隠しつつ結んだりと、色々やっていた。結局のところ、そうやって自分を騙しても無駄だとわかったのでやめてしまったが。
徐々に隠されていないソロンの気配が強くなってくる。魔術師の気配に邪悪さが混じったものだ。最後の枝を思い切り蹴って、草原に降り立った。
そこは姉の死に際の夢に出てきた草原だった。姉についての記憶は夢の部分以外まだ思い出せていない。
「やっときたか」
「……ソロン」
その中央にソロンが厳然と立っている。短刀に手を伸ばしながら、オッドアイを睨んだ。
「ここに来ても何も思い出さないか?」
「……どういうことだ」
「ふむ……」
「どういうことだと聞いている」
ソロンがエゼルに向かって手のひらを構えた。指先から赤黒い光が放たれる。咄嗟に短刀を眼前に持って行くが、光は短刀をすり抜け、一直線に頭の中に入ってくる。
「ぐっ……」
その途端、視界が明滅し、記憶がなだれ込んできた。それは、姉との記憶だった。
幼い頃に一緒に遊んでいる風景。家族揃って食事をしている様子。軽蔑された時に慰めてくれる光景。両親が死んで、二人きりになった日々。姉が誰かと並んで歩いている姿。
目まぐるしく切り替わっていく記憶は、何故失っていたのかと疑うほど多い。頭を揺さぶられているような気さえして、吐き気が襲ってきそうだ。
「うっ……あっ……メル……姉さん……」
うわ言のように呟くと、急に記憶の流れがゆるやかになった。もう終わりが近いのだろうか。
その記憶に意識が引きずり込まれた。
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