ふれあい

「重くない……?」

「大丈夫だ」

 アダンを抱きながら、枝から枝へ飛び移っていく。アダンは中身が空っぽなのでは、と疑うほど軽い。

 丈夫な枝を選びつつ進んでいると、前方から淡い光が漏れ始めた。そろそろ森も終わる頃だろうか。枝から飛び降り、地面に足をつく。

 光の中へ出ると、開けた場所が広がっていた。森が終わったわけではなく、少し先では再び木々が生い茂っている。左手側は崖に面し、右手側はごつごつとした岩肌の壁がそびえ立っていた。

「一旦、休憩しようか」

「そうだね」

 疲れたというわけではないが、アダンが心配だ。ずっと同じ体勢で揺らされていれば、自分の足で歩かないにしても多少は疲れるはずだ。

 アダンを地面におろす。ずっと感じていた人肌の温もりがなくなる。

さっきまでアダンに触れていた両手を、開いたり閉じたりしてみる。

 こうやって人と関わるのも触れるのも初めてだ。人というのは思っていたよりもずっと温かい。

 今まで身分差のせいで、人間という種族を誤解していたのかもしれない。こうしてアダンと普通に接し合えている今ではそう思ったりもする。しかしそれはアダンが優しいからだろう。もしくはエゼルが古文書のエルフだからなのだろうか。

 アダンはそんな人ではない。自分自身を見てくれている。

 そう思いたい気持ちも多分にある。けれど自分は人間の何を知っているのだろうか。安易に判断できるほど向き合ってきたわけではない。

 寧ろ、いとうてきた時間の方が。

 人よりも寿命の長いエルフ。ハーフエルフのエゼルだって例外ではない。長年生きている中で植えつけられてきた感情や視線、言葉というものは、なかなか払拭できないものだ。

 アダンを信じたい。けれど穢れた自分が近づいていいのか。そもそも生きている時間が違う人間と、分かり合えるほどの時間を過ごすことができるのか。もしその中途で、幸福を知ってしまったら。

 不安が超えられそうもないほど、うず高く積まれていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る