揺れる
「じゃあ今日も案内するね」
「頼む」
夜明けとともに目覚め、身なりを整えた。近くの川で水を汲み、準備は完了だ。勇んで出発……するつもりだったのだが、直後に難関。
水を汲んだ川を越えなければ、目的地に行けない。しかし川幅が広いのだ。ところどころ飛び出している岩を伝って反対側に行くことは可能だが、足を滑らせたらと考えると恐ろしい。落ちたら速い水流に飲み込まれてしまう。
「きゃっ!?」
すると急に浮き上がる体。エゼルが平然とした顔つきでアダンの体を持ち上げている。いわゆるお姫様抱っこ、というものだ。
ためらいが顔に出ていたのだろうか。
「なっ……何してっ……!!」
「アダンが怪我したら大変だからな」
「えっ……いや、でも……」
エゼルはしれっとした顔で言うと、岩を足場に飛びながら川を渡ってしまった。
「すごい……」
一瞬、高鳴る鼓動も忘れて、呆けてしまう。
「まあ、一応エルフの血が入っているから」
エゼルは嘲笑とも取れる笑みを浮かべた。そしてそのまま歩き始める。
「え! あの、このままっ……?」
あろうことかエゼルはアダンを抱いたまま進むのだ。きっと真っ赤になっているであろう顔で叫ぶ。
「これならアダンは怪我の心配もないうえに、案内もできる」
「いや、まあ、そうだけど……」
エゼルに羞恥という感情はないのか。それとも鈍いのか。感覚がずれているのか。迷いなく飛び出す言葉に、恥ずかしいと感じる方がおかしいと思えてきた。
しかしそうはいっても胸の高鳴りは収まらない。余計な感情は無用だ。抱いてはいけないのに。
「首に手を回して。落ちたら大変だ」
翡翠色の瞳が見つめてくる。エゼルの整った顔も艶のある銀髪もこの体勢だと否応なしによく見えた。
「ほら」
「……うん」
少しだけ。少しだけならいいだろうか。
そっと首に腕を回すと、男性らしい逞しさと肌の温もりが伝わってきた。
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