笑み
アダンはエゼルの前に立って、道案内しつつ森の中を歩く。
まさか瞬間移動した先で目的のハーフエルフに会えるとは思ってもみなかった。そのせいで放心してしまった上に、端麗な顔に見惚れて話しかけるのを忘れてしまった。その後の頼み方も説明もめちゃくちゃだったろう。醜態を晒してばかりだ。
先ほどからそんな自分の行動が頭の中を巡って、いたたまれない。両手で頬を覆って、軽く頭を振る。
「どうかしたのか?」
すると後ろを歩いていたエゼルが隣に並んできた。
「あっ、いや……なんでも、ありません」
まだエゼルの美麗さに目が慣れない。急に覗き込まれると焦ってしまう。
「あのっ! おなかすきません?」
顔を直視できないし、沈黙だって気まずい。
「そうだな、時間的に……」
「ああ! ごめんなさい! 私、食べ物を持ってくるのを忘れて……!」
服を探れど探れど、手に当たるのは小瓶だけだ。
「あっ! それにエゼル様に身の回りの準備をさせる時間を与えずっ……!」
一つ失態をすると、次から次へと失態が見つかる。いつもそうなのだ。
特に今回は一刻も早くと焦っていたから余計に。勢いよくエゼルに頭を下げる。
「いや、僕は平気だ。いつも短刀と弓を持っているし、それ以外必要ないから」
「……そうなんですね。それならよかったです」
なんて優しい人なのだろう。ソロンだったら一つ一つの失態に必ず罰を与えるというのに。
「それで、その……」
「そこに木の実が生えている木があるから、少し助けてもらおう」
「あっ……は……」
最後まで言葉が続くことはなかった。
自然な動きで背から四本の矢を抜き、弓を構える。そして流れるように次々と矢を放つ。それは見事に木の実の茎に命中し、一気に落ちてくる。エゼルはエルフらしい俊敏な動きで、それをすべて受け止める。
その一連の流れがあまりにも美しくてつい凝視してしまったのだ。
「僕のことはエゼルでいい」
そしてまるで何ごともなかったかのように振り向く。アダンを見て、口角を上げ。初めて見せてくれた微笑みはどこかぎこちない。それでも十分素敵だった。
「どうした?」
動けないでいるとエゼルは怪訝そうに近寄ってきた。
「あっ! いえ、なんでもありません……エゼルさ……エゼル……」
「敬語もいらない。アダンは人間なんだし」
「あ……」
「違うのか?」
「……いえ、人間です」
「なら敬語はいらない。僕は混血だ」
「あっ、は……うん。わかった、エゼル」
慣れない口調で四苦八苦していると、エゼルはおかしそうに笑みを浮かべながら木の実を渡してくれた。今の笑みはとても自然だった。
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