「――なるほど。アダンはソロンという魔術師に仕えている。そしてそのソロンは世界を滅ぼそうとしている。それを止めるために古文書に載っているエルフを探していて、見つけたエルフが僕だった。要約するとこういうことか」

「はい。だからお願いです。私とともに来てください」

「……断る。急すぎる。そもそも信憑性がない」

 情けもなくそう告げると、アダンの顔がショックで歪む。人間らしい表情から顔を逸らした。

「それに僕は混血だ。いくら古文書の姿に似ているといえど、僕なんかが世界を救えるわけがない」

 エゼルの生きる世界では、身分差別が厳格だ。最高位に立つのは魔術師など呪術を使える生き物。魔術を使えれば、人間やエルフ、ドワーフなど、種族は問われない。その次が魔術を使えない生き物。その次、底辺にいるのが混血だった。人間とエルフ。ゴブリンとドワーフ。こういった異なる種族同士の様々なハーフは、どこに行っても疎まれ、蔑まれる。

 その身分差別を人間とエルフの混血であるエゼルは痛いほど理解していた。幼い頃から植えつけられた劣等感は、エゼルの行動を常に制限する。

「お願いします。あなたが必要なんです。あなたじゃないと、だめなんです」

 初めてだった。

 見た目でわかってしまう混血というさが。どんな者からも遠ざけられ、忌避され。それが当たり前。

 しかしアダンはエゼルの身分を気にすることなく、真っ向から向かってきた。こんな風に真摯に声をかけてきた人は初めてだ。

 アダンの瞳は無垢な光を宿しながら、エゼルの返事を一途に待ち続けている。

 向けられる視線は、世界を救いたいという心から芽生えたもの。その視線が見るのは、古文書に描かれたハーフエルフ。

「――わかった」

 理解しているけれど、拒否することはできなかった。初めての温かさを一瞬で失うことは、卑しい混血にできるはずもなかった。

「本当ですか! ありがとうございます! じゃあ、早速行きましょう!」

「ああ」

 この世のおぞましいことなど何一つ知らぬような可愛らしい少女。その顔に綺麗な花が咲く。

 自分がとうに忘れてしまったそれを見つめながら、エゼルは少女について歩き出した。

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