人間の少女
森から花畑へと踏み出す。ポツンと一本生える大樹と、咲き乱れる花が視界を埋めた。風が吹き、長い銀髪が背後になびく。爽やかな花々の香りが運ばれてきた。人間よりも五感が鋭敏なのは混血でも変わらない。
美しいこの場所にエゼルは好んで訪れる。
――刹那。
空気が揺れた。風とは違う。
不思議に思って辺りを見回すと、背後に一人の少女がいた。先程までは誰もいなかったはずだ。少女は気配を感じる間もなくそこにいた。
少女は今朝見た夢の女性に顔立ちがよく似ている。ふわふわとしたセミロングの茶髪が風で揺れていた。人間か。
急に現れた少女を見つめる。少女はぼうっとした視線で辺りを見回した。エゼルの姿を認めると、少女も一様に驚く。いきなり出会ったエゼルに対して困惑しているみたいだ。しかし訳が分からないのはエゼルとて同じ。
しかし相手は人間だ。話しかけることは許されない。話しかけられることだってありえない。
だからそのまま立ち去ろうとした。
「あ! 待ってください! あの! 助けて欲しいんです! どうかお願いします!」
すると少女はハッと気づいたように詰めよってくる。エゼルの手を取って、熱い視線で話しかけてきた。
「何でもしますから! どうか! どうか!」
「……少し落ち着いて。何が何だか僕にはわからない」
「あっ……すみません! 慌ててしまって」
たじろぎながら、詰め寄る少女の体を引き剥がす。これまたハッと気づいた少女は、頬を上気させながら頭を下げた。
周りが見えなくなってしまうほど緊迫した状況なのか。もとからそういう性格なのか。
「……何があった」
「はい。お話しさせていただきます」
真面目な顔つきになった少女がエゼルに向き直る。そしておもむろに口を開いた。
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