第255話 ジャイアント・キリング②
イマーラヤ帝国で『
互いに本名を告げ合ったことで、彼とベイローレルとの決闘は、正式で対等な、そして信念と名誉を賭けた真剣勝負となった。
ベイローレルは次の攻撃に備えて再び自然体で立つ。カウンター型の究極剣技『
対する柳太郎は、『シフト
彼はまだベイローレルの剣技の本質がわかっていないため、神がかった超絶速度の剣だと思っている。ゆえに何度も瞬間移動しながら接近すれば、相手の不意を突けると考えた。
不規則な空間移動をされ、ベイローレルは柳太郎の動きを全く把握できない状態となった。しかし、それでも彼は落ち着いており、微動だにしない。
そして、次の瞬間、柳太郎が彼の左後ろに出現した。
右が利き手のベイローレルに対し、最も死角となる位置をついたのだ。
(今度こそ!)
怒りに燃える柳太郎には一切の容赦がない。
彼は移動と同時に剣を薙ぎ払った。
ギンッ!!!
しかし、それにもベイローレルの剣が追いついた。
切っ先が届く前に、彼の振り向きざまの一閃が柳太郎の剣を弾いたのだ。
(これにも反応するんですか!!)
驚いた柳太郎は、即座に瞬間移動し、その場を離れた。
「なら、次は!!!」
すぐさま彼はもう一つの秘策に出た。
ベイローレルを瞬間移動させ、空中に置いてしまうのである。しかも方向転換し、頭と足をひっくり返した状態でだ。柳太郎の『シフト
天地が逆転し、頭から落下するだけの敵を背後から剣で突く。これに対応できる剣士など存在するはずもない。卑劣と言われれば卑劣だが、これほど有効的な手段もない。
この技があるがゆえ、柳太郎は仲間の勇者たちの間でも最強と見なされていた。誰もこの剣技を破ることができないのだ。
(終わりです!!!)
自信満々で柳太郎はベイローレルの背中を突いた。
ガギンッ!!!
だが、それにすら反応されてしまった。
あらゆる鍛錬と実戦を経験してきたベイローレルは、空中における戦闘も熟練しており、それへの対応は身に染み付いていた。
ゆえに無意識のまま、凄まじい体幹による姿勢制御で、体を捻り、柳太郎の攻撃に反撃できたのだ。しかも、それと同時に体勢を整え、しっかりと地面に足から着地してしまう。
『
(ウソでしょ!?)
と、柳太郎が驚愕した直後である。
なんとベイローレルの二撃目が柳太郎の頭上から振り下ろされた。
(えっ!!!)
柳太郎は度肝を抜かれた。
レベル56の彼が、弾かれた剣を立て直す前に、それを弾いたばかりのレベル48の剣がもう次の攻撃に移っているのだ。ベイローレルは体勢を立て直すのと第二撃を同時に行っていたのだ。
柳太郎はスピードタイプの剣士であり、彼の速度をここまで凌駕する攻撃を、格下の相手が行うなど、常識的にはありえないことだった。
(ダメだ!!防げない!!!)
必殺の攻撃であると自負していたため、柳太郎は油断していた。この一瞬で、伸びきった腕から剣を戻すことは不可能である。だが、それでも彼は、無我夢中で剣を振った。
シュパッ!!!
「あっ!!!ぐあぁぁっ!!」
これら一連の動作を全て無意識で行ったベイローレルは、柳太郎を斬った音を前方から、そして、その悲鳴を背後から聞いた。
後ろを振り返ると、そこには額から血を流している柳太郎が立っていた。
幸いにも柳太郎は、空間の切り込みを多数作っていたため、慌てて『シフト
額から血が出ているのを手で触り、確認した柳太郎は、激しく狼狽えながら悲鳴のように絶叫した。
「うあぁぁぁっ!!ウソだ!ウソだ!!頭から!!!頭から血が出てるよぉぉぉぉっ!!!!」
「安心しろ。その程度で死にはしない」
「頭は一番大事な所なんだぞ!!なんてことするんだ!!このバカ!!バカ!!!うあぁぁぁーーん!!!!」
なんと場違いにも号泣しはじめた少年勇者を見て、ベイローレルは唖然とし、失望した。
この程度の幼稚な精神性を持つ相手に勝つため、自分は今まで死に物狂いの特訓を続けてきたのか、と。
「まさにお子様だな……。どうだ。このまま戦意喪失ということであれば、ボクの勝利だ。負けを認めるか?」
「うあぁぁぁん!!あぁぁぁぁぁーーーーん!!」
「……………………」
ベイローレルはここで勝敗をつけようと考え、提案した。
ところが、柳太郎は一向に泣き止まない。
しばらく呆然と眺めていたのだが、やがて堪えきれずに激怒してしまった。
「泣いてないで返事をしろ!!!キミはそれでも勇者なのか!!!!」
すると、気難しい性格の柳太郎は逆ギレする。
彼はそういうタイプの子どもなのだ。
「うるさい!!!うるさい、うるさい、うるさい!!!ぼくは好きで勇者になったんじゃない!!こんな世界!ぼくは来たくなかった!!!」
涙を拭って立ち上がった柳太郎は、ベイローレルに激昂して叫んだ。そして、彼に接近しない程度の距離を盛んに移動し、剣をブンブンと振り回した。
「うあぁぁぁぁぁっ!!!」
一見、子どもが駄々をこねているだけに映る光景だが、それが恐るべき彼の必殺技への布石であることをベイローレルも理解している。
柳太郎は、玄関ロビー全体に無数の空間の切り込みを作っているのだ。これにより、瞬時のうちに連続で次々と空間移動を行うことが可能となる。
瞬間移動されながらの連続斬撃には、何人たりともついて行くことができず、何が起こったのかも理解できぬうちに全てが斬り捨てられる。これが、彼が編み出した『シフト
準備を終えた柳太郎が、剣を身構えて吠えた。
「ぼくの最大奥義だ!!!一瞬で全身を斬り刻んでやる!!!!」
それら一連の行動をベイローレルは全て黙って見守っていた。彼は、その最大奥義を打ち破ることを目標に、血の滲む努力を続けてきたのだ。
「来い。勇者リュウタロー」
落ち着いた声で一言だけ告げるベイローレル。
彼は全神経を周囲の空間のマナの流れに集中し、無心になった。あとは、鍛え抜いてきた自分の肉体と剣を信じるのみである。
目を血走らせた柳太郎が、ついに最大奥義を発動した。
シュンッ!!!
物音一つしない静寂なる瞬間移動。
それが一斉にいくつも展開され、移動と斬撃が同時にベイローレルを襲う。
だが、その一つ一つの行動に、頭の良い柳太郎の計算が入っている。いかに瞬間的に移動しようと、それと同時に攻撃しようと、そこに彼の思考が挟まれる限り、ベイローレルの反射が追いつくことは可能だった。
ガギン!ズバッ!シュパシュパッ!
バシュッ!ギギッ!ドシュン!!ビシュッ!!
瞬く間に十数度の攻防が行われた。
「あ……あぐ…………」
この直後、玄関ロビーの正面の壁の前に、力なく膝をついたのは柳太郎である。彼は、腕や脚、頬や肩や胸にいくつもの斬り傷ができ、愕然としている。
反対にベイローレルは、傷一つなく、静かに佇んでいた。
彼の会得した究極剣技『
「あが……あががががが…………」
最大奥義が完膚なきまでに打ち破られた上、全身に痛みを感じる柳太郎は、虚ろな表情で体を震わせている。それでもベイローレルは感嘆していた。
「あれだけ斬ったのに、その程度の傷なのか……やはり異世界勇者ともなれば、半端な攻撃では歯が立たないと見える」
柳太郎は脅えて硬直したまま動けない。
近づけば斬られる。
その恐怖を全身に刻まれてしまったのだ。
もはやこれ以上、立ち向かう勇気を持つことができない。
小学生の彼は混乱し、震え慄いた。
「は……はわわわわ…………」
「どうした。勇者リュウタロー。あと10秒で剣を構えなければ、負けと見なすぞ?」
ベイローレルの言葉を聞いて、負けず嫌いの柳太郎は立ち上がり、再び構えた。だが、顔面蒼白で足元が震えている。とてもではないが、今までのように瞬間移動しながら突撃してくる顔ではなかった。
しかし、ベイローレルはここで逆に感心した。
彼は、自分の勝利が幸運の賜物でもあることを知っているのだ。
(真剣勝負であるがゆえに、ボクは剣技の本質を明かすことはなかった。もしも、この少年が『霧陣刀』の仕組みに気づき、意味の無い空間移動でフェイントを入れてきたり、オトリの物体を瞬間移動させてきた場合、ボクは負けていた可能性もある)
そうなのだ。実は『霧陣刀』はタネがバレた場合、柳太郎の『シフト延斬』で対抗する術はいくつも残されていた。例えば、ベイローレルを領域ごと空間移動せずに、周囲の空間から引き離すように器用に移動させていれば、『霧陣刀』を無効化することは可能である。
また、まだまだ洗練されていないため、自身が静止していないと発動できなかったり、『絶魔斬』との併用ができなかったりと弱点も多い。ゆえに灰谷幹斗や黄河南天との戦闘中では使用できなかったのである。
そして、最大の欠点となるのが、無意識反射であるがために、敵味方の区別がつかないことだ。
(何より、卑劣な手段として、第三者を領域内に入れられていた場合、無関係の人間を斬り捨てる結果となったはずだ。それは、ボク自身の騎士道の敗北を意味する。この闘いは、彼が真面目に真っ向勝負のみを仕掛けてきたからこそ勝てたと言っていい)
そう考え、彼は静かに次の攻撃を構えた。
これまでの自然体ではなく、両手で持った剣を右肩付近で構え、標的に切っ先を向けた体勢だ。
「勇者リュウタロー、先程の非礼は詫びよう。キミはボクに対し、真正面から勝負を挑んでくれた。これからボクは、その返礼として、また、格上であるキミから確実に勝利をもぎ取るため、全身全霊の一撃をお見舞いする」
もはや攻撃する意思を全く感じられない柳太郎に、彼はそう告げた。柳太郎が空間の切り込みを作る気がない以上、瞬間移動されることもない。ゆえに、次の行動に出られる前に、怯んだ彼にもう一つの究極剣技をぶつけるのだ。
「行くぞ!覚悟はいいか!」
「ふっ!ふぐっ……!」
奇しくも初めて二人が王都で対峙した時と同じようなシーンとなった。
あの時、余裕の柳太郎は、攻撃へのカウントダウンを自ら行った。今度は、ベイローレルが宣告どおりに攻撃する番だ。
ただし、今はベイローレルに近づくことすら恐れている柳太郎は、顔を強張らせながら震える声で唇を噛みしめるのみだ。
そこにベイローレルが瞬間移動にも負けない程の速度で突進した。
今の柳太郎にできるのは、向かってくるベイローレルの攻撃を、なんとか剣で受け止めるのみであった。
ズドンッ!!!!!
凄まじい衝撃が彼の剣を襲った。
まるで爆発だ。
――
『四剣豪』の一角、カッサパ家に伝わる攻撃特化の究極剣技であり、格上のモンスターを仕留めるための破壊剣だ。
剣の先端にマナを一点集中させ、標的に接触すると同時に内部に送り込み、爆発させる。敵を内側から破壊する防御無視の必殺スキルである。
ベキンッ!!!!
柳太郎の剣は折れ、さらに爆風のような衝撃波が襲った。
もしもこの一撃を剣で受け止めていなければ、彼は右肩にその直撃を受け、右腕が根こそぎ吹っ飛んでいたことだろう。
「がっ!!!うあぁぁぁっ!!!」
爆散するようなエネルギーが柳太郎の小柄な体を弾き飛ばす。彼は、後方の壁をぶち破って屋敷の外に吹っ飛んでいった。そして、庭で意識を失った。
「未熟で申し訳ない。本当なら、剣で防がれても五体が無事では済まないはずの剣技なんだ」
ベイローレルは、冷静に呟くだけであった。
――さて、次なる場面として、『砂塵の勇者』灰谷幹斗を追い詰めた従姉妹コンビの戦いを見てみよう。
彼女たちを背中に乗せるストリクスは、ただ灰谷幹斗との距離が1キロ程度になるようコントロールして悠々と飛行するのみである。
上位魔法のデジタル宝珠と携帯端末宝珠からの遠隔発動で、常に灰谷幹斗を包囲し続けるラクティフローラとシャクヤであるが、王女は、彼の持久力に感嘆していた。
「なかなか粘るわね!『砂塵の勇者』!私の最初のプランでは、マナ切れを狙うつもりだったんだけど、あの砂の能力は燃費もいいみたいね!」
しかし、最大の切り札として、シャクヤがレベルアップしていることは彼女の嬉しい誤算だ。
「でも、見てなさい!ピアニーがこんなに怒ってるの、私も初めて見るくらいだもの!本気のこの子の恐ろしさ、たっぷりと味わうがいいわ!」
ラクティフローラは不敵に笑った。
一方、あらゆる角度からの上位魔法の連続攻撃で、ひっきりなしに砂のガードを続けている灰谷幹斗は、次第に息切れを始めた。
「くそっ!!オレちゃんも飛ぶことができれば!」
そうボヤく彼だが、それは無い物ねだりであった。彼の魔法能力【
しかし、その持続力と引き換えに、純粋なパワーはそれほどでもなかった。なにげに重い物を運ぶのは不得意なのだ。そのため、砂の壁に自分が乗り、そのまま飛ぶ、ということもできないのである。
ラクティフローラの作戦は、しっかりとそれを見越した上でのものだった。
「彼の砂は、一見、無敵に思えるけど、実はパワーは無いわ!だから飛ぶことも不可能!それは、彼が自動車を見た時に、止めるのではなく、破壊しにきたことからも想像できたわ!全ては狙いどおりよ!オーーホッホッホッホ!!」
「ラクティフローラ、あまり豪語しますと、かえって下品でございますよ」
王女が悠然と高笑いするので、隣に座るシャクヤは感嘆しつつも苦笑している。
ところが、この時、灰谷幹斗を包囲している林から、上空に何かが勢いよく飛び出した。
なんとそれは彼自身であった。
「オレちゃん、飛べないけど!跳ぶことならできるんだヨ!!!」
自信たっぷりに200メートル程の高さまで斜めにジャンプしてきた灰谷幹斗。彼は、足元に砂を集め、一瞬で棒状に固めることで、その反動を利用し、高々と跳躍したのだ。
「ここからなら、オレちゃんの砂が届くヨ!!」
口元を歪ませて灰谷幹斗はストリクスを睨みつけた。飛行しているフクロウ男を撃ち落とせば、勝利となることを『砂塵の勇者』は心得ている。彼が周囲に持ってきた砂が矢になって放たれようとした。
しかし、数百メートル離れているストリクスは余裕の顔で灰谷幹斗を見つめ返す。いや、むしろ嘲笑していた。
「ホウホウホウ。飛べない者が、付け焼刃で空中戦を挑む。それは最大の悪手ですぞ」
と同時にラクティフローラが声高に叫ぶ。
「あれだけ包囲されれば、当然、そう来るでしょうね!!今よ!ピアニー!!」
「はい!!!」
シャクヤは、全力を注いで、上位魔法の三重連携魔法を放った。
空中で放物線を描くことが決定されている灰谷幹斗に。
狙いを定めることが容易な彼の眼前に3つの魔方陣が同時に出現した。
それの恐怖を既に知っている灰谷幹斗は、慌てて全ての砂を壁にし、自分の前に張り巡らせた。
「しっ!しまった!!」
ズバッシュンッ!!!
幾重にも重なった砂の壁を見事に貫通し、巨大な水の刃が灰谷幹斗の胸を斬り裂いた。前回、付けた傷とは角度が異なるため、合わせるとバツ印のようになった。
「あっ!!ぐっはぁっ!!!」
その勢いで、斜めに跳躍していた彼は、同じ方角に逆戻りすることになり、再び林の中に落ちて行った。
幸いにも、木々に当たることでクッションとなったため、落下の衝撃を抑えられた。そうでなければ、いかに勇者といえども重傷を負っていた可能性がある。
「がっ……ふぐあぁっ!!!」
地面に叩きつけられ、口から血を吐く灰谷幹斗。
彼は、仰向けで寝転びながら心の中で叫んだ。
(っざっけんなヨ!!!捕獲しようとか考えてたけど!もうやめダ!!!全力でぶっ殺してやる!!!!)
これまで遊び半分だった彼の目に殺意が宿った。
しかし、立ち上がった彼の周囲を、さらに容赦なく上位魔法の魔方陣が囲む。ラクティフローラは一切の油断もなく、躊躇もなく、彼を追い詰め続けるつもりなのだ。
それを見て、灰谷幹斗は絶叫するように吠えた。
「もうおしまいだヨ!お姫ちゃんシスターズぅぅぅ!!!このオレちゃんをぉぉぉ!!本気で怒らせたんだからナァ!!!!!」
彼は最大奥義を展開した。
砂が彼を中心にして高速旋回する。
それは凄まじい烈風を巻き起こし、林の木々をなぎ倒した。そこから発生する木片と砂利を次々と空へ舞い上げていく。
巨大な竜巻を発生させたのだ。
猛烈な砂嵐に煽られ、ストリクスは肝を冷やした。
「なんという威力!!!このままでは呑み込まれてしまいますぞ!!」
それでも【
「……本当におバカさんね、『砂塵の勇者』。まだピアニーは、遠隔で連携魔法をやるのに慣れていないのよ。だから、この時を待っていたの。竜巻の中心には必ずあなたがいる。何も考えずとも狙えるこの瞬間をね……てことで、ピアニー!ついに来たわよ!思いっきりやってあげなさい!!」
「ええ!本気で怒っているのは!!わたくしでございます!!!!」
そう。シャクヤはずっとこの瞬間を狙っていた。1キロ近く離れた地点から、遠隔で連携魔法を行うための完全な隙が出来上がる、この時を。
竜巻の中心部分に下方に向かって3つの魔方陣が出現する。
それを見上げた灰谷幹斗は顔を真っ青にした。
「え…………?」
自分で作り出した竜巻があるため、彼には逃げ場が無い。
二歩も動けば、自身が巻き込まれてしまうのだ。
自信家の彼は、自分の最大奥義にこのような弱点があることを今まで考えもしなかった。いや、竜巻の中心にいる彼を頭上から攻撃してくることが可能な者など、想定したこともなかったのだ。しかも彼がガードできない威力の攻撃を。
「ヤ!!ヤバいヤバいヤバい!!!砂の壁!!!全力で集まれ!!!!」
と、必死に叫んだ彼であるが、残念なことに砂も多くは竜巻で吹き飛んでいるため、周囲にはわずかな量しか残されていない。なんとかギリギリの大きさで壁を作り上げる。
「参ります!!!【
シャクヤが声高に宣言し、彼女の最大限のマナを込めた奥義が放たれた。
ズッパァァン!!!!
砂の壁を全て砕かれ、さらに慌てて防御に使った槍をも折られ、巨大な水の刃が灰谷幹斗の顔面に振り下ろされた。彼は死に物狂いで、それを回避しようとするが、間に合わない。
ブッシュゥアァッ!!!
「ぐあっ!!!ああぁぁぁっ!!!耳が!耳がぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」
顔への直撃は避けたものの、彼は右耳を切断され、右肩を大きく引き裂かれてしまった。もはや利き腕で槍を持つことも不可能であろう。
気を失いそうな程の激痛に身がヨロける。
すると、バランスを崩した彼は、周囲で旋回する突風に引き込まれてしまった。
「あっ!!!しまっ!!うがあぁぁぁぁっ!!!!」
憐れ『砂塵の勇者』は、自らが生み出した最大奥義の竜巻に巻き込まれることとなった。烈風の中で、大小様々な木片が激突し、彼の全身を蹂躙する。上昇気流に乗った彼は空へと舞い上がっていった。
遠方でそれを観察するラクティフローラは、不憫そうに言った。
「あら、自分の竜巻に呑み込まれちゃったわよ。あのエセ勇者」
「自業自得でございます!」
シャクヤは、一切の容赦も憐憫の情も湧かないようで、ゴミのように飛ばされる彼を厳しく睨みつけるだけであった。そんな従姉妹コンビをストリクスは目を丸くして賛嘆する。
「ワタクシは本日、奇跡を拝見しました。よもや魔法を得意とする本物の勇者を、魔法で倒してしまう人間がこの世に存在するとは……。”聖王女”と”姫賢者”、お二人のお手伝いができましたこと、生涯の誇りと致しますぞ」
「いいえ。これも全てお兄様とお姉様のお陰よ。空を飛ぶ魔族と出会えたこと、その魔族への【
謙遜し、白金夫妻を称える王女に何度も頷きつつも、シャクヤは真面目な顔で告げる。
「ラクティフローラ、悪しき者の成敗は完了しました。直ちに村の火を消しましょう!」
「ええ。そうね!ストリクスさん、お願いするわ!」
「かしこまりました!」
3人は空を飛んだまま、遠隔魔法による消火活動へと移行した。
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