第228話 レジスタンス

町の長が語った惨劇に、僕たち一行は唖然とした。


皇帝直属の特務部隊『聖浄騎士団』。


帝国最強の軍隊とは聞いていたものの、その実態は、国内の反対勢力を”粛清”する殺し屋集団だったのだ。


しかも、それに同行している『砂塵の勇者』灰谷幹斗は、情け容赦ない殺人鬼であった。自分勝手な論理で自己を正当化し、人殺しを楽しむ悪質極まりない犯罪者であった。まさか、これほどまでに胸糞悪い男が”勇者”をやっているとは。


僕の隣で聞いていた嫁さんは、顔面蒼白である。


同じ日本人として、激しい憤りを感じ、怒りを通り越して、情けなさと歯がゆさで気落ちしているのだ。そして、だからこそ、これほど許せないことはない、と震えるほどに激怒するのである。


拳を固く握り締め、怒髪天を衝く勢いで彼女は立ち上がった。


「私、文句言ってくる!!!」


それを予期していた僕は、すぐに彼女の手を取った。


「待て。待つんだ百合ちゃん!」


「なんで止めるの!!!」


僕にまで食ってかかるウチの嫁さん。僕は立ち上がり、町長には聞こえないように小声で優しく、冷静な意見を彼女の耳元で語った。


「まだ今の話が真実だと決まったわけじゃない。事は重大だ。片方の言い分だけを聞いて善悪を決めるわけにはいかない。まずは真偽を確かめよう」


「そ、そっか……」


頭が冷えた嫁さんは、座りなおした。



僕たちが落ち着いたところで、町長は、悲嘆に暮れながら現状を語ってくれた。


「焼け野原となった教会を見て茫然自失となっていた我々を、まさか本当に『魔王教団』が助けてくれるとは思ってもみなかった。いったい何が真実で、何が嘘なのか、今では全くわからぬ」


そう言いながら、ゼフィランサスの部下である初老の男性ニゲラに目を向けている。


どうやら表向きは、彼が『魔王教団』の代表者ということになっているようだ。ゼフィランサスが魔王であることを伏せるためだろう。本物の魔王が目の前にいることを知れば、それはそれで大パニックが起こるに違いない。


それにしても意外である。

この国の『魔王教団』は、帝国に蹂躙された人々を支援しているのだ。


黙って彼らの様子を見ていた僕に町長は話を続けた。


「今の我が国は、ご覧の有様なのだ。町の若者たちが、反旗を翻そうと”レジスタンス”を名乗り、密かに武器を蓄えていたことも承知していたが、私はあえて黙認した。”レジスタンス”がいなくとも、魔王が隠れていなくとも、『聖浄騎士団』に目を付けられた時点で、全てはおしまいなのだから」


それを聞いて僕は不思議に思い、町長に尋ねた。


「彼らがこの町に来たのは、誰かが密告したから、というわけではないのですね?」


これには、ゼフィランサスが笑いながら答えた。


「密告なんて無いわよ」


「なぜそう言い切れる?」


「その必要がないからよ。だってこの国では、ほぼ全ての町にレジスタンスが潜んでいるんだもの」


「「えっ!?」」


彼女の言葉に僕たち一行は全員が驚いた。

ゼフィランサスは続ける。


「だから、あいつらは適当な理由をこじつけて町にやって来る。”魔王”が人里に隠れているという根拠のない噂を名目にしてね。そして、暴れれば、必ず抵抗者が現れる。あとは、やりたい放題。『魔王教団』と『レジスタンス』を成敗したって言えば、それが成果になるから」


「そんなの騎士団じゃないよ!盗賊団だよ!」


ここで再び嫁さんが立ち上がった。

僕は即座に彼女の手を取り、互いの体がくっつく位置に座らせた。


「百合ちゃん、落ち着こう」


「だって黙ってらんないよ!ひどすぎるよ、この国!私たちの世界じゃ考えらんないでしょ!」


「ところが、そうでもないんだ」


「は!?」


「国が乱れれば、国家の軍が盗賊と変わらなくなる。歴史上では繰り返し行われたきたことなんだ」


「ウソでしょ!?」


嫁さんのショックもよくわかる。僕自身、実際にこういう国に来て実感する。平和な国に生まれるということが、どれほど幸福なことなのかを。



ひととおりの話を終えた町長は、魔王の部下のニゲラに挨拶し、迎えに来た馬車に乗って自邸に戻っていった。


さらにゼフィランサスは、地下の怪我人の具合を確認するようニゲラに命じた。



部下がいなくなったことで、『凶作の魔王』ゼフィランサスは安心して僕たちに全てを語りはじめた。


「さてと、わたしの本名を教えるわね。桃園ももぞの萌香もかだよ。召喚される前は、中学2年生」


「リアル中二かよ!」


「あら、本名の方がかわいいじゃない」


思わず僕はツッコむように叫び、嫁さんは彼女の本名を賛嘆した。ついでに僕はもう一つの気になることも尋ねてみた。


「なんでゼフィランサスなんだ?」


「知り合った仲間がいくつかの候補を考えてくれてね。一発でそれに決めたのよ。だってカッコいいでしょ。試作1号機って感じで!」


「「あぁ……」」


僕と嫁さんは二人で納得した。この子はガチのオタクなのだ。ちなみに何の”試作1号機”なのかは、ここで説明するほどでもないだろう。どうしても気になる方はググってみてほしい。


「じゃ、これからは萌香ちゃんでいいかな?」


「うん。部下がいない時ならね」


嫁さんが桃園萌香から承諾を得た。思えば、牡丹を除くと、初めて出来た魔王の知り合いである。僕は微笑みながら我が娘にも声を掛けてみた。


「牡丹、萌香だって。仲良くできるか?」


「うん!モカ、まおう!」


牡丹も彼女のことを敵視することはなくなったようで、喜んでそばに行った。それを嬉しそうに桃園萌香は抱き締める。


「ああん!まさか『重圧の魔王』デルフィニウムが、こんなに小っちゃい子だったなんて!癒されるぅ!」


僕たちの仲間であるラクティフローラもベイローレルも、ずっと緊張した様子だったのだが、これを見て表情を緩めた。


カエノフィディアやルプス、ガッルスは、魔王同士がハグしているのを目の当たりにし、嬉しそうに微笑んだ。



それにしても、おかしな事態になったものである。


僕たちのもともとの目的は、”大賢者”の捜索とシャクヤの救出である。そのついでに『魔王教団』の実態を掴むことができると考えていたのだが、いきなり”魔王”に遭遇してしまったのだ。いろいろと順番が入れ替わってしまったように感じる。


また、その過程において、イマーラヤ帝国の圧政に立ち向かう”レジスタンス”とも関わることになった。


それらを整理するため、僕は桃園萌香に質問した。


「さて、萌香、君のことと『魔王教団』のこと、そして”レジスタンス”との関係。詳しく聞かせてくれないかな」


「えーーと……実を言うと、難しいことはよくわかってないから、そんなにちゃんと話せないかも」


そう前置きして、彼女は語りはじめた。


「まず、みんなが『魔王教団』と呼んでるのは、魔王を救世主みたいに信じてる人たちなのよね。でも、彼らが自分で名乗っているのは『常闇とこやみ黎明れいめい』って名前なの。ずっと暗い夜にお日様を昇らせたい、みたいな宗教なんだって」


「なるほど。それはそうかもね」


「まぁ、実態は本当に『魔王教団』って感じだから、わたしもそれでいいかなって思ってる」


「うん」


「でね、『魔王教団』には、国から迫害された人たちが多く集まるみたいなのよ」


そこまで聞いて僕は合点がいった。

目から鱗が落ちた気分だ。


「そうか……『勇者召喚の儀』は、特別な血筋と特別な場所が必要になる大規模術式。それを実行できるのは主に権力を握っている側だ。勇者が体制側に所属するなら、反体制派は魔王を信奉するのか」


「えっと……たぶんそんな感じ」


ここまで聞くと、ウチの嫁さんも鼻息を荒くして相槌を打った。


「私もよくわからないけど、『魔王教団』のイメージが全然、変わっちゃった気がする!」


桃園萌香は説明を続ける。


「さっきも言ったとおり、今、この国はとんでもなく荒んでる。それに立ち向かおうとして、いろんな町で隠れて信仰していた『魔王教団』の子たちを中心に、”レジスタンス”が結成されてるの。でも、それぞれがバラバラだから、帝国に対抗するには不十分すぎるのよね」


「だろうね」


「それで、魔王が本当に『魔王教団』に協力してあげて帝国と戦っちゃおう、ってのが、わたしたちの”会長”の考えってわけ」


「会長?」


「そう。わたし『凶作の魔王』の他に『飢餓の魔王』と『幻影の魔王』は今、帝国の勇者くんたちと戦うために同盟を結んでるの。リーダーを務める『幻影の魔王』が会長なんだ」


魔王が結束している事実も興味深いが、それ以上に僕は会長の存在に驚いた。そこに僕は食いつくように聞き返した。


「え!『幻影の魔王』を知っているのか?」


「うん。『幻影の魔王』ディモルフォセカ。……あ、でもごめん。正体は絶対に教えちゃいけないって言われてるんだ。じゃないと『幻影の魔王』じゃなくなっちゃうからって」


「そうなのか……」


「蓮って頭よさそうだよね。会長と話が合いそうだけど」


「僕も、是非とも会ってみたいな」


「うーーん。蓮と百合華が仲間になってくれるなら、会わせてあげられるよ。『重圧の魔王』デルフィニウムちゃんも加わってくれると、なお嬉しいなぁ」


この提案に、僕は嫁さんと顔を見合わせた。彼女の言い分はもっともだ。しかし、まだその返事をする段階ではないと考えた。


「それについては、もう少し話を聞かせてもらってからかな。君たちがこれから何をしようとしているのか、ハッキリ教えてほしい」


「そうだね。会長の狙いは、各方面のレジスタンスを連携させて、一大勢力にすること。わたしたち魔王も個別に勇者と戦えば、天敵となる相手に負けるだけだから、チームを組んで勇者くんたちを倒す。そうやって、この国の人たちを助けてあげようとしてるんだよ」


「なるほど。人々を助けようってのは立派な考えだ。勇者たちに聞かせてあげたいくらいだよ。で、進捗はどうなんだ?」


「それがねぇーー、なんかいろいろと大変みたいなのよーー。会長が前に解説してくれたんだけど忘れちゃった。わたし、難しいことわかんないから」


「なんか私、萌香ちゃんに親近感、湧く」


「……だろうね」


横から嫁さんが桃園萌香に同調した。難しい話はすぐに忘れてしまう嫁さんだ。僕はそれに笑いながら同意した。


それにしても魔王たちの同盟の目的には感心する。圧政に苦しむ人々を手助けしようとは、まるで勇者ではないか。


彼らの問題もおおよそ見当がつく。


レジスタンス同士が連携できないのは無理からぬことだ。文明的に情報伝達手段が限られているところに、雪に覆われた大地で町ごとの行き来が困難を極め、さらには帝国の軍による監視もある。


おそらく各町のレジスタンスがどこに潜んでいるのかも、互いに認知できていないだろう。全国で一斉に共通の旗印を掲げるには、あまりにも制約が多すぎるのだ。


だが、ここまで考えた上で僕は違和感を覚えた。


「でも、ちょっと待て。なんだか話がずいぶんと近代的になってるな。身分の低い人たちが”レジスタンス”を結成する。とても中世とは思えない。そもそもの話、各地方を治めている領主たちはどうしてるんだろうか。封建社会であれば、民衆が力をつけるよりも貴族が反乱を起こす方が現実的な気がするんだが」


この問いに答えたのは、意外にもベイローレルであった。


「それについては、ボクが帝都の”歓迎宴”で得た情報をお知らせしましょう」


「わ!イケメンのお話!」


彼の風貌が気になっていた桃園萌香は瞳をキラキラさせた。反対に嫌悪感を表に出すのはラクティフローラだ。


「あなた、貴族のご令嬢たちと、よろしくやってたんじゃないの?」


「だから言ったじゃないか、ラクティ。ボクがただ遊んできただけだと本気で思ってるのか、って」


王女に苦言を呈した後、ベイローレルは僕たちに語りはじめた。


「”歓迎宴”に招かれたのは、宰相ヒペリカム氏が集めた貴族ですから、彼の息がかかった人たちばかりでした。しかし、そのご夫人やご令嬢は、いろいろと裏話を知っていましたよ」


そうして、前日に得た情報を教えてくれた。


イマーラヤ帝国の先帝が亡くなったのは6年前。現代社会なら心筋梗塞と診断される症状で急死し、後継者の選定をハッキリしないまま皇帝不在となったため、帝政が一時、大きく揺らいだという。


帝位継承権を持つのは、初代皇帝の血筋である”ヒラリーノルゲイ家”の者。そして、皇帝の任命権は、『火の精霊神殿』の神官長にあるらしいが、その実、『御三家』と呼ばれる最有力貴族たちのパワーバランスが物を言うそうだ。


様々な思惑が交錯した末、結果的に先帝の実子であるアイリスが、わずか3歳で皇帝に即位することになり、それを後押ししたヒペリカムが、後見人として宰相になった。彼は『御三家』の1人であった。


その際、追いやられた先帝の弟が2名いる。


『御三家』のうち、ヒペリカム以外の2貴族は、この2名の皇帝親族をそれぞれ擁護し、独自の騎士団を率いて挙兵したらしい。


しかし、既に勇者を召喚していた帝室は、『聖浄騎士団』に勇者を従軍させ、圧倒的な実力差で反乱軍を鎮圧してしまった。先導した2貴族は、責任を負って隠居し、所領の一部を没収されたという。


それ以降、各地方を治める貴族たちは誰一人、皇帝に逆らうことがないのだ。


「ということで、今の帝国貴族は皆、中央を恐れて手出しも口出しもしません。誰もが恐れる魔王。その魔王を討伐できる勇者を前にして、勇猛果敢に立ち向かえる武人は、おそらくいないでしょう。戦う前から戦意を喪失している、という印象です」


最後にそう語ったベイローレルの言葉に僕も激しく同意するものがあった。深くため息をつきながら、僕は感想を述べた。


「だから今、この国の未来を本気で憂えて行動を起こそうとする人が、魔王を信奉する人たちの中からしか出ないのか……」


ところで、彼の話を聞いていたウチの嫁さんは、頭を抱えて嘆いていた。


「うぅーー、こういう複雑な話、ほんと無理。結局、誰が一番偉いの?なんでみんな仲良くできないの?」


「百合華、わたしたち、仲間ね」


彼女は、同じ思いの桃園萌香と二人で意気投合している。

ベイローレルは、さらに現状の問題と絡めて話をまとめてくれた。


「それに加え、『吹雪の魔王』の到来が噂された7年前から、異常気象が続き、食物の収穫量も激減して経済にダメージを与えています。飢饉で疲弊した人々が決起する事態が年々、頻発するようになりました。その結果、もともとは帝室のお家騒動から始まった『聖浄騎士団』による粛清も、町ごとの小さな反乱を潰しまわる活動へと変貌したようです」


これに僕たち一同は黙り込んでしまった。

あまりにも問題が大きすぎる。


大国の後継者争いから始まったイザコザに異常気象による凶作も重なり、経済は破綻寸前なのだ。この国は、既に滅亡へのカウントダウンが始まっていると言っても過言ではない。


「ねぇ、蓮くん、どうする?もう私、何が正しくて何が間違ってるのか、わかんなくなってきちゃったけど、みんなが苦しんでるのだけは、よくわかるよ。助けてあげようよ」


人の好い嫁さんが、案の定、正義感を燃やしてヒーローみたいなことを言い出した。これに僕はしばらく沈黙してしまった。


いったいどうして、こんなことになってしまったのだろうか。

彼女ではないが、僕も頭を抱えたい気分だ。


僕は正直な気持ちを彼女にぶつけた。


「……百合ちゃん、基本的なことを言うけど、まずこの問題は、イマーラヤ帝国の問題なんだ。しかも人同士が争おうとしている。言わば”内乱”だ。国内の戦争なんだよ。異世界から来た僕たちが、こんな海外事情に本気で首を突っ込むべきだと思うかい?」


「んーー、でも、萌香ちゃんたちは関わってるよ。それに松矢くんも南天さんも、あと、もしかしたら椿くんも、この問題に加担してるかもしれないんでしょ?」


「そ、そうだね……」


「それに灰谷幹斗って人のことも気になるよ。ここで聞いた話が本当なら、私、絶対に彼を許せない」


柔らかい口調で反論しはじめた嫁さんであったが、最後は怒りを含んだ声で固い意志を述べた。これには、僕も同意せざるを得ない。そこに桃園萌香も催促してきた。


「百合華の言うとおりだよ!だから協力してくれるよね?蓮!」


彼女の顔を見て考え込む僕に、さらなる進言をしてくれたのは、なんと牡丹だ。


「パパ、パパ……モカ、こまってる。たすけてあげよ」


まさか我が娘からも言われてしまうとは。

これは、僕も覚悟を決めなければならないか。


「確かにそうだね……最初から、この国に勇者が絡まなければ、ここまで混乱をきたすことはなかったのかもしれない……だとすれば、これは僕たち日本人が招いた問題だ……なんとかしよう」


「「やった!」」


僕が決意を固めると、嫁さんと桃園萌香、それに牡丹までもが一緒に喜んだ。


「ただし、僕がこの国でやるのは、勇者と魔王に、帝国内の争乱から手を引かせることだ。どこかの戦力に肩入れすることじゃない。戦争なんて、まっぴらごめんだからね」


「うん。それでいいと思うよ」


ニコニコしながら嫁さんが同意する。今後の方針が決まったところで、僕は一つだけ気になっていることを確認した。


「萌香、君の仲間は『幻影の魔王』と『飢餓の魔王』だって言ったね。あともう一人、『吹雪の魔王』がいると思うんだけど」


「ああ、うん。彼は方針が合わないみたいで、どっかに行っちゃった」


「この国にはいないのか?」


「たぶんいないよ」


「じゃあ、この国で起きてる季節外れの吹雪は何なんだ?経済不況もそれがなければ、かなり違っていたはずなんだが」


「そんなの知らないわよ。ただの異常気象でしょ?日本だって毎年のように、異常気象、異常気象って騒いでたじゃん」


「………………」


当然のごとく言ってのけた桃園萌香の回答に僕は絶句してしまった。


確かに言われてみれば、”異常気象”とは、そこに住む人々にとって、常と異なるからそう呼ばれるだけで、ただの自然現象だ。


現代社会なら公害問題と絡めて複雑な議論が交わされてしまうだろうが、たとえ公害が無くとも異常気象はある。


だとすれば、秋でも帝国が寒いのは、単純な異常気象ということになる。『吹雪の魔王』が不在ならば、なおのこと、その可能性が高い。


「……なんかごめん。僕も魔王に対して、勝手なレッテルを貼ってたみたいだ」


「わかってくれたら、いいよ」


謝罪すると桃園萌香は笑った。


その後、僕たち一行は、それぞれ名前を告げ、改めて簡単に自己紹介した。ラクティフローラとベイローレルは複雑そうな表情をしていたが。


そして、一息ついたところで、先にこちらの用件を済ませようと思った。


「ところで、実は僕たちがここに来た目的は、萌香に聞きたいことがあったからなんだ。僕たちは、ある証拠品のニオイを追って君に辿り着いた。この黒い十字架に見覚えはないか?」


「あっ、それって――」


黒い十字架を見た桃園萌香が何かを思い出した顔をする。


ところが、ここで僕たち一同は、遠方から聞こえてくる馬の足音に気がついた。それは、馬上の騎士が進軍してくる音だったのだ。


その方角を警戒していると、あっという間に彼らはこちらに接近してきた。


先頭にいる髭を生やした騎士は、最も荒れ果てた町の中央部の惨状を見て、険しい顔をしている。その風貌から来る印象は、騎士というより領主に近い。そして彼は、教会跡地で話し込んでいた僕たちを気に留めた。


「そなたらは?」


僕たちは用心しつつ彼に歩み寄った。

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