第227話 砂塵の勇者

「ま、魔王ゼフィランサス様……もう、よろしいでしょうか?」


教会の跡地にて、地下への階段から再び声がした。そこから顔を出したのは、これまた漆黒のローブを着た初老の男性だ。彼は顔を隠していないため、すぐに人間だとわかった。


「あっ、ちょっ、ちょっと待ってて!」


その声に焦った『凶作の魔王』ゼフィランサスは、涙を拭きながら後ろの彼に向かって叫んだ。そして、僕と嫁さんに小声で告げる。


「彼は、わたしの部下なの!泣かされたなんて知られたら幻滅されちゃうから、協力して!」


これを聞き、僕は再度彼女に質問した。


「……わかった。だが、もう一度確認させてくれ。この町を破壊したのは君ではないんだな?」


「そうよ!信じてよ!あなたたちも勇者と魔王が一緒にいるくらいだから、物わかりのいい日本人なんでしょ?怪我人が大勢いるの!手伝ってよ!」


「すまない。すぐに案内してくれ」


彼女の必死な訴えに僕は即答した。怪我人の手当てをしているのだとすれば、どう考えても善良な魔王だ。


「ニゲラよ!この者たちは味方である!速やかに案内せよ!」


振り返ったゼフィランサスは、再びカッコつけた態度になって、初老の男性に命じた。彼の名は『ニゲラ』と言うようだ。彼の案内で、僕たち一行は教会跡地の地下へと続く階段を降りた。


出し惜しみする時ではないと考え、僕は『宝珠システム』による照明をつける。これにゼフィランサスたちは驚いた。


教会の地下は、狭い廊下と暗室がいくつか設けられた空間だった。もともとは何かの修行に使われていたらしいが、今では倉庫として使用されている。


そのうちの2つの部屋に大怪我をした人たちが匿われていた。


「こ、これは……」


腕を失った人、脚の無い人、腹部を斬られた人など、様々な重傷者が寝転がっている。まるで野戦病棟だ。まともな医療器具も無いため、止血と包帯をされただけで、ほとんど死にかけと言える状態だった。


その介護にあたっていた人たちは、急に明るくなった地下と、そこにやって来た僕たち一団を見て、不思議そうに注目した。全員が漆黒のローブを着ている。


ゼフィランサスは悲しそうに告げた。


「こんなにされちゃうと、治癒魔法でも治せないのよ。ひどいでしょ」


「すぐに治療しよう」


僕は直ちに【世界樹の葉ユグドラシル・リーフ】による治療を開始した。失った肉体を取り戻すことはできないが、切断された部位の縫合や、損傷した内臓の復元は可能である。なんとか彼ら全員の一命を取り留めることができた。


「えっ!なになに?すごい!こんなことができちゃうんだ!」


「ふっふっふ、ウチの旦那様はすごいでしょ」


「え、旦那?」


感激するゼフィランサスに嫁さんが自慢げに笑い、僕のことを紹介する。そこからは、ちょっと複雑な僕たちの関係を説明する時間となった。


「そうだったんだぁーー。蓮も百合華も苦労したのねぇ。でも、いいなぁ。旦那さんと一緒に異世界を旅するとか、ちょっと憧れちゃう」


嫁さんの話をウットリしながら聞いていたゼフィランサスは、ため息交じりで僕たちの旅路を羨ましがった。だが、僕はそれよりも今の本題に話を急がせることにした。


「それより、この町で何があったのか教えてくれないか?」


「あ、そうよね。じゃ、外の空気を吸いながらお話ししようか」


僕たちは改めて地上の教会跡地に戻り、瓦礫に腰を下ろして話を聞くことにした。ゼフィランサスは、部下のニゲラに命じて、一人の年配の人物を連れて来させた。


「怪我人を治療してくれたというのは、そなたたちか?」


それは、この町の長を務める下流貴族だった。代表して僕が挨拶した。


「ええ。旅をしているハンターです」


「それは礼を言う。本当に助かった」


「ここで何があったのかを知りたいのですが」


「……そうだな。そなたたちには知る権利があるだろう。では、聞いてもらいたい。この町で起こった悲劇とこの国の惨状を」


ひどく疲れ果て、しわがれた声で町長は語り始めた――




――それは、突如やって来た。


今より3日前のことである。


雪を掻き分けて進むことができるモグラ型のモンスター、『スノー・モール』を先導させて雪原に道を作り、騎馬で行軍してくる一団があった。


レベル30以上のメンバーで構成される少数精鋭の皇帝直属軍。


聖浄せいじょう騎士団』である。


白を基調とした上に黒で文様が描かれた鎧を全員が身に纏い、背には帝室のエンブレムが刺繍されたマントを翻している。


イマーラヤ帝国において、誰一人、逆らうことのできない最強の騎士団。行く手を遮るものは赤子であろうと躊躇なく踏み潰される。そう恐れられている冷酷無比な集団である。


彼らが町内に入るや否や、町中は緊迫したムードに包まれた。報せを受けた町の長が直ちに入口の門に向かった。


「誉れ高き『聖浄騎士団』の皆様、本日は何用でございましょうか」


その声は、いささか震えている。

冷たい表情で馬上から答えるのは、『聖浄騎士団』団長スターチスである。


「この町に魔王がいるという情報が入った。検めさせてもらおう」


彼がそう告げた瞬間、総勢100名の団員たちが一斉に町中の捜索を開始した。


家々の門戸は全て叩かれ、留守であれば、容赦なく扉を破壊される。どの家庭も土足で踏み入られ、隠れ人がいないか調査された。問答無用の家宅捜索である。質問に答えない者がいれば、魔族の疑いを掛けられる。理不尽極まりない捜査だった。


人々は震え慄いた。


ただし町も広い。人口2万人の集落を全て捜索するには時間を要する。騎士団長スターチスは黙って中央で待機していた。


彼らが到着してから1時間後、ある家から黒い十字架を発見した騎士が、住民を連行し、報告に来た。


「騎士団長、彼らは『魔王教団』です」


「そうか。よくやった」


連れて来られたのは、父と母、それに男の子と女の子がいる4人家族である。馬から降りた騎士団長は、無表情で父親の前に立った。


「お前たち、魔王を匿っているな?」


「し、知りません!私たちはただ、その……隠れて信仰していただけで」


父親は全身をガクガクと震わせている。

騎士団長は剣を抜き、彼の首元にそれを当てた。


「それだけでも十分な大罪である。この場で斬首も免れぬが、一つだけ慈悲を与えてやろう。魔王の居場所を吐け。さすれば、命だけは助けてやる」


「ほ、本当に知りません……私たちは……魔王様のご降臨を待っているだけの……」


「魔王に……様を付けるのか」


「あっ!いや――」


ズパンッ!


言い訳をする余裕も与えず、スターチスは剣を横に薙ぎ払った。


なんということだろうか。父親はあっけなく首を切断されてしまった。そばで見ていた母親と二人の子どもは、悲しみと恐怖とで、父親の代わりに断末魔のような悲鳴を上げた。


侮蔑の表情で騎士団長は呟いた。


「やはりこんなクズどもは生きている価値も無いな」


「おいおい。ちょっとちょっと、スターチスちゃん。いくらなんでもサァーー」


そんな彼の後ろにある馬車から、一人の男の声がした。騎士団に護衛されて同行してきた馬車である。不満そうな声で騎士団長の行為を非難するように、その男が馬車の中から顔を出した。


痩せた長身で、鎧ではなく私服を着ており、黒髪に混ざって、ストレスによる若白髪がマバラに生えている。そして、剣ではなく槍を所持していた。


馬車から降りた彼は、あくびをしながら、こう言った。


「こんなんじゃ日が暮れちゃうっショ。もうちょい効率よくやろうヨ」


あろうことか、彼の非難は、父親が殺されたことではなく、捜索活動の進捗に関してだった。さらに彼は後ろに振り返り、手を叩きながら周辺にいる騎士たちに呼び掛けた。


「ハイハイ!てことで騎士団のみんな!こんな町、焼き払っちゃってヨ!」


その言葉に騎士たちが全員、直立する。

騎士団長スターチスは、彼の背後から苦言を呈した。


「ミキトどの、指揮権はこちらにありますので、直接、命ずるのは私にしていただきたい」


「わかったヨ、スターチスちゃん。なら、ちゃっちゃとやっちゃって!」


そう言われた騎士団長は、団員たちに高々と宣言した。


「『聖浄騎士団』に告げる!魔王教団の信徒が隠れ潜むこの町が、魔王を匿っているのは明白である!我らが聖なる審判で浄化してくれようではないか!」


「「おおーー!!!」」


号令された騎士たちは、持参している宝珠を取り出した。上位、中位の火の精霊魔法が一斉に放たれ、家々に火がついた。


逃げ惑う人々。


悲鳴を上げる女性。


取り残されて泣き叫ぶ子ども。


行き場を失う老人。


町は阿鼻叫喚である。


事ここに至って、隠れ続けることが意味をなさないことを知った若者たちが、教会の中から一斉に出てきた。


「ふざけんじゃねぇぞ!!!」


「俺たちが何をしたって言うんだ!!!」


それぞれが剣や斧、槍を構えている。町の青年たちである。


彼らは、”レジスタンス”として、帝国に抗うための戦力を密かに蓄えている最中だった。それを嗅ぎつけられ、聖浄騎士団の調査対象になってしまったのである。


町の人々の多くは彼らの活動を知らない。まして教会の地下が彼らのアジトになっていることを知る者はいなかった。


ゆえに住民たちが家宅捜索を受けても、”レジスタンス”の青年たちは、じっと堪えてやり過ごす手筈であった。


しかし、町そのものを燃やされては、黙って見過ごすことなどできない。我慢の限界を迎えた彼らは、決死の覚悟で騎士団に真っ向勝負を挑むことにしたのだ。


「ほーーら出てきたモブちゃん達が」


それをヘラヘラした笑顔で見つめる細長い男。彼は、自ら前に進み出て、レジスタンスの青年たちに向かい合った。


「ハイハイ!みなさーーん、魔王がどこにいるのか知ってる人いるかナーー?」


「「………………」」


「だーーれも答えないネ。ま、予想どおりかナ。んじゃ、自己紹介するワ。オレちゃん、大地を砂に変えるっつう『凶作の魔王』を倒すために召喚された『砂塵の勇者』なのヨ。灰谷はいたに幹斗みきとってんダ。ちなみにファーストネームが幹斗ネ。ヨロシク!」


軽薄な態度で立ち塞がった男に青年たちはキョトンとしつつも、彼が灰谷幹斗と名乗り、勇者であると宣言したことで、その理不尽さに激しく憤った。


「勇者様が!どうして町を襲うんだ!!」


「んなこと言ったってサ!魔王が人の中に潜伏してるっつうんだから、しょうがないじゃないノ。オレちゃんだって、他に手がないわけヨ!」


灰谷幹斗は話しながら、町の青年団に向かって歩いて行く。


「オレちゃんも最初はネ、真面目に魔王を探してたわけヨ。それなのに魔王のマの字も見つかんない。そのうち2年も過ぎたあたりで悟っちゃったんだよネ。ああ、こんなバカみたいで退屈な世界なら、やりたいことやって楽しんだもん勝ちじゃネ?って」


そう言いながら、自ら青年団に包囲された。槍を一本持っただけで身構えることもせず、無防備に棒立ちする彼に対し、むしろ青年たちの方が不気味がって距離を取る。


「ってぇーーことで!せっかくだから、チート能力持ったオレちゃんは、異世界で無双してみたいわけなのヨ。おたくらん中で、誰でもいいから、オレちゃんを迫害してくんない?」


意味不明な灰谷幹斗の言葉に全員が固まった。しかし、そんな空気など意にも介さず、彼は独り言のように続ける。


「追放系……は難しいかもだけど、イジメてくれてもいいし、理不尽に見下してもいいし、命を狙ってもいいネ。そんでもってオレちゃんはそれを返り討ちにする。その後で言いたいわけヨ。”今さら謝っても、もう遅い”って」


意図は全くわからないが、彼が挑発していることは理解できた。青年団のリーダーは、全員が攻撃準備を十分に整えられたことを見て取り、大声で叫んだ。


「みんな!一斉に宝珠魔法を射出しろ!!!」


「来た来た!」


それを灰谷幹斗は嬉しそうに受ける。

四方八方から襲い来る、火の精霊魔法と水の精霊魔法による攻撃。


それらが全て、突如、空中に出現した砂の塊によって遮られてしまった。

灰谷幹斗は満足そうな笑顔で青年団に告げる。


「この程度じゃダメだナァーー。さっきも言ったけど、オレちゃんは『砂塵の勇者』。周りにある砂と灰を自由自在に操ることができるチート能力の持ち主ってわけ!火なんか砂ですぐに消えるし、水は全部吸っちゃうのヨ」


解説する彼に向かって、さらに風の精霊魔法も飛んできた。しかし、それすらも砂の壁を破壊することはできなかった。


「風で吹っ飛ぶほど、やわな能力じゃないんだナァこれが!」


青年団は息を呑んだ。いずれも中位魔法と上位魔法を使用した最大級の攻撃だったにも関わらず、まるで歯が立たないのだ。


灰谷幹斗の周囲には砂塵が彼を守るように舞い飛び、完全にガードしている。


「こんなもんカァーー。みんな、オレちゃんの敵にはならないつもりかネ?」


残念そうにボヤく砂塵の勇者。

すると、その瞬間、教会の上にある鐘楼から矢が放たれた。


狙いは灰谷幹斗である。鐘楼に登り、隠れて隙を窺っていたレジスタンスの一人が、不意打ちを行ったのだ。鋭い矢が弾丸のように正確に灰谷幹斗の後頭部に届く。


しかし、その矢は直前で止まってしまった。

瞬時のうちに砂を固めた壁が出来上がったのだ。


「ダメダメ。この程度でオレちゃんは殺せないヨ」


平然と振り向き、鐘楼を見上げる灰谷幹斗。


「でもまぁーー、今のはいいネ。ちょっとだけヒヤッとしたかナ。別に弓矢くらいじゃ死なないと思うけど、本気の殺意と受け取ったヨ。ホント……かなり良かったヨ……」


ほんの少しである。

彼は上空からの不意打ちに苛立ちを感じた。

その気持ちを彼は噛みしめ、俯きながら、次第に独りで高笑いを始めた。


「フッ!ハハハハハ!いいネ!やってくれたネ!そこのキミ!オレちゃんを迫害したネ!ありがたいナ!そういうヤツには容赦しなくていいんだからサ!今さらビビったって、”もう遅い”ヨ!」


ズドンッ!


彼が敵意を向けた瞬間、手にしていた槍の先端に砂が集まり、一瞬で固まって長さ20メートル程の強靭な長槍へと変わった。


なんと鐘楼の壁に隠れていたレジスタンスの一人は、刹那のうちに、砂の槍で壁ごと胸を貫かれてしまったのだ。


あっという間の出来事に青年団は言葉も無い。


「こうして砂をギッチリ固めれば、鉄も貫く最強の槍にもなるんダ。どう?オレちゃん、強いでショ?」


味方を殺された青年団のリーダーは、ヘラヘラと得意げに語る灰谷幹斗に怒りの目を向ける。そして、決死の覚悟で号令を掛けた。


「全員、突撃だ!!!」


「「おおっ!!!」」


灰谷幹斗を囲んだ20名の青年たちが一斉に得物を振り上げて突進した。それを余裕の笑みで迎え撃とうとする砂塵の勇者。


ところが、彼のもとに青年たちが辿り着く直前、先に地面が動いた。


一団の中にいるリーダーが地の精霊魔法【大地槍グランド・スピア】を発動したのである。


これは、地面を激しく隆起させ、敵の足元から鋭く尖った土の槍を出現させる上位魔法である。人間もモンスターも、大抵は地面からの攻撃には耐性がない。よほど勘の良い者や気配を感知できる者でない限り、必中で無残な最期を遂げる恐ろしい魔法である。


しかし、レベル55の灰谷幹斗を翻弄できる攻撃ではなかった。


「うおっと!」


突如として地面から複数発生した長さ5メートル程の槍を難なくジャンプし、彼は容易く避けてしまう。そして、伸びきった土の槍の上に器用に降り立ち、嬉しそうに笑った。


「なーーるほどネ。砂だから地面からの攻撃なら当たると思ったわけだ……いいネ。いい線つくじゃない。いちいち必死んなっちゃってサ……真剣にオレちゃんを殺しに来てくれちゃってサ……なら、これくらい、いいよナ!」


彼が指を弾いた途端、青年団のうち、最も近くにいた3人の眼前に砂が集まった。それを彼らが認識するや否や、その額を鋭く尖った砂の塊が貫く。瞬く間に3人が頭部を損傷して即死してしまった。


これを目の当たりにしたリーダーが激昂して叫ぶ。


「こっ!この化け物がぁ!!!」


「お……おぉ……そう来たか」


「帝国の犬めが!何が勇者だ!人を平気で殺す貴様など、勇者でも何でもない!!勇者であってたまるものか!!!」


「あーーらら。勇者なのに勇者じゃないって言われちゃったヨ。オレちゃん本物なのに、本物を見抜けない。いいのかナァ?そうやって理不尽に主人公を見下してくるヤツは、あとで何をされても文句は言えないんだヨ?」


彼は冷ややかに笑いながら地面に降り、リーダーの眼前に立った。そして、苛立ちを含んだ声で宣言した。


「ハハハハハ!ってぇーーことで!これならオレちゃん、本気を出しても構わないよネ!勇者を否定した、おたくらが悪いんだからサァ!!!」


そう叫んだ瞬間、彼の周囲を取り巻く大量の砂が、急速に旋回した。周辺の大気が嵐のように吹き荒れる。


まさしくそれは砂嵐である。


凄まじい砂塵を伴う旋風が、辺り一帯を呑み込み、上空へと舞い上げてしまう。その中には教会を含めた建築物も混じっていた。


風の上位魔法を遥かに凌駕する巨大竜巻が、半径100メートルの物体を全てを空へ吹き飛ばしてしまったのだ。その圧倒的破壊力の前に誰一人立つことはできない。


青年たちは、風速数十メートルという突風に巻き込まれる中で、瓦礫や破片などに貫かれ、砕かれ、潰され、グシャグシャになって死んでしまった。


灰谷幹斗の大技が終了し、風が止むと、全てが地面に叩きつけられるように落下した。砂煙と土埃が舞い上がる中、横たわるのは見るも無残な肉片と血と瓦礫である。残されたのは痛ましい損壊の跡だけであった。


「………………」


その中で、一人だけ灰谷幹斗に胸ぐらを掴まれていたリーダーだけが、被害を受けずに生きていた。幹斗が手を離し、地面に落とされるとリーダーは尻餅をついた。


「ひっ……」


あまりの力の差にリーダーは絶句し、脅えている。


「サァサァ、どうする?もうネタはないのかナ?オレちゃんへの悪口はないのかナ?」


「たっ……助け…………」


「いやいや、もう遅い。もう遅いんだヨ。オレちゃんを勇者じゃないって見下して、怒らせたんだから、もう何を言っても遅いノ。てことで、モブちゃんが息巻くことができたのはここまででしたぁーー。じゃあナ!」


ズバンッ!!!


青年団のリーダーは砂で出来た刃で斬り裂かれ、左肩から右脇腹にかけてを両断されてしまった。その血しぶきすらも、砂でガードされた灰谷幹斗には届かない。


「あぁーーあ、教会も全部、吹っ飛ばしちまったな……なぁーーんか、ここをアジトにしてるっぽかったけど……。ま、いっか。どうせ魔王の気配なんて”微塵”も感じないし……砂塵の勇者だけに……ハ……ハハハハハ!」


乾いた笑い声を上げる彼のもとに『聖浄騎士団』団長スターチスが駆けつけた。


「ミキト殿、お疲れ様でございました」


「スターチスちゃん、結局、今回もハズレだったじゃないノ。いい加減、そろそろアタリを引いてくんないかナ?」


「申し訳ありません。しかし、お陰で不穏分子は一掃できました。教会を根城にするとは、大胆不敵な者どもでしたな」


「んま、ぶっちゃけオレちゃんは、遊び相手がいてくれれば、それでいいんだけどネ。やっつけるべき悪いヤツがこんなに溢れてるなんて、この世界、最高!……ってことで、帝都に帰って、ゆっくり風呂でも入りますカ!」


「はい」


そうして、町の中を好き勝手に捜索し、散々に暴れまわった彼らは、町民には何も言わずに退却し、帝都に戻って行った。

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