第163話 奇妙な同居人たち

『八部衆』との初めての話し合いは、嫁さんのブチギレにより、牡丹が脅えてしまって中断された。ようやく牡丹の機嫌が直った頃には、そろそろ解散というムードだった。


「あははは……なんか、ごめんね。今日のところは、これでお開きかな」


嫁さんが申し訳なさそうに苦笑すると、ローズが微笑して皮肉を言った。


「フフッ、どうやら、この中で一番偉いのはボタンみたいだな」


「そだね。なんせ我が家の魔王ですからっ」


牡丹を抱きかかえながら嫁さんが賛同すると、全員が笑った。この話題に合わせ、僕は一同に最後の提案をした。


「そうだ。最後にみんなに言っておきたいことがある。今後は牡丹のことは、本名で呼んでくれ。”魔王”という呼称はナシだ」


これには魔族たちが一瞬、目を丸くした。

真っ先に笑顔で応答したのはフェーリスだ。


「い、いいのかミャウ?ウチが魔王様をボタン様と呼んでも?」


「その方がいい。いや、これは命令だ。そう呼んでくれ」


僕のこの回答にストリクスが愕然として反応する。


「し、しかしながら……そのご尊名は、魔王様の真の名でございます。これまで歴代の魔王様は、ごくごく限られた親しき者以外には、真の名を口にされませんでした。あまりにも畏れ多く、ワタクシには……」


「ああ。歴代の魔王も地球から召喚された者なら、きっと本名があったんだろう。何も気にすることはない。親の僕が命令しているんだから」


「そうはおっしゃいますが……なかなかワタクシどもには……」


ストリクスは、いつまでも恐縮している。

そこに嫁さんが微笑して告げた。


「牡丹って名前はね、私たちの国では、”花の王”って呼ばれている由緒正しい花のことなのよ。魔王より全然いいと思わない?」


「な、なんと……」


感嘆しているストリクスだが、僕もまた、予想外の博識を披露した嫁さんに感心してしまった。


「百合ちゃん。よく知ってたね、そんなこと」


「私、花は好きだもん」


僕が珍しく褒めたため、彼女もご満悦の様子だ。

そして、ストリクスは姿勢を正し、納得した態度を見せた。


「……かしこまりました。それでは誠に僭越ながら、これよりは魔王デルフィニウム様をボタン様と呼ばせていただきます」


次いで、ガッルスも恐る恐る宣言した。


「ワタシも……これからはボタン様とお呼びしますね……いいですか?ボタン様?」


「ガッルス!」


言われた牡丹は、大喜びで跳び上がり、ガッルスの胸元に飛び込んでいった。さらにルプスも吠える。


「ガウアウア!!(ボタン様!!)」


残念ながら彼の場合、表面上は変化が全くわからない。

ともあれ、これで現状の話は全てまとまり、解散となる。




「――で、みんなは、これからどこで寝るの?」


嫁さんが魔族たちの住み家を気にした。確かに、これで魔族を森に帰すのは、なんだか申し訳ない。案の定の回答をフェーリスがした。


「なんミャウ?ウチらは、それぞれ適当なとこで寝るだけミャウよ?」


「そっかぁーー。ウチに泊まってもらうのは無理かな?」


言いながら嫁さんは僕に顔を向けた。

気持ちはわかるが、さすがに魔族を屋敷に留め置くのは無理があろう。


「いや……それはさすがに……使用人たちに見つかったらアウトだよ?」


「んーー、でも、せっかくこんなに大きな屋敷に住んでるんだからさーー」


「カエノフィディアは全く問題ないけど、他のメンツはどう見ても隠しきれないでしょうが。大事件になるよ」


「まぁ、そうなんだけど……」


なかなか引き下がらない嫁さんに僕も困惑する。

するとそこに、オドオドしながらもガッルスが一つの提案をしてくれた。


「あ、あのーー」


「なんだ?ガッルス?」


「実はワタシ、特技が一つありまして、恐ろしい相手から逃げるのによく使ってきたんです。コレです」


言うや否や、ガッルスの身体がみるみる縮んだ。

なんと、普通のニワトリと全く同じ大きさになってしまった。


「「えっ!何それ!!」」


驚愕する僕と嫁さん。いや、人間の女性陣も驚いているが、牡丹までもがビックリしている。どうやら初めて知ったようだ。


「バウアウガオ!!(オレもできます!!)」


吠えるように言ったルプスも同じように小さくなり、ただの狼になった。さらにストリクスが解説しながら同様の変身を遂げる。


「ワタクシども人獣タイプの魔族には、この特技を持っている者が多く存在します。ですが、ガッルスの申すとおり、これは危機を回避するためのものですので、あまり誇らしいものではありません。仲間うちでも、この姿を晒すことは、めったにないことでございます」


「それにコレ……裸になっちゃうのが難点なんですよねぇーー」


ガッルスが相槌を打った。


彼女の言うとおり、魔族はそれぞれに個性的な服を着ているのだが、小さく変身したために脱げてしまった。しかし、そのお陰で、パッと見では普通の動物と見分けがつかない姿になっている。


ガッルスとルプスは、自分の服の中に潜り込み、上手に服を着ながら元のサイズに戻った。慣れたものである。


残ったストリクスには、どういうわけか嫁さんが瞳をキラキラさせて呼びかけていた。


「ねぇねぇ、ストリクス、その格好、かわいいわね!ちょっとそのまま私の肩に乗ってみて!」


「よ、よろしいのですか?」


「いいから、ほら!」


嫁さんは戸惑うストリクスを捕まえて、半ば強引に自分の肩の上に乗せた。見た目には、ペットのフクロウを乗せたようにしか見えない。


「あら、意外と重いのね」


「申し訳ございませぬ。小さくなろうとも質量は変わりませんので、重さも変わりはございません」


「いいの、いいの。私には関係ないから」


そして、目を輝かせた嫁さんは僕に意気揚々と告げた。


「蓮くん!私、一度でいいからフクロウを飼ってみたかったんだ!いいかな?いいよね?」


「えっ!……本気で言ってる!?」


「それに犬と猫とニワトリも増えちゃうんだよ!なんか楽しいことになってきた!」


「ま……待って……まだ彼らがそれを望むと決まったわけじゃないでしょ……」


なんだか頭が痛くなってきた。あろうことか、嫁さんは、魔族が動物サイズに変身できることを知った途端、彼らをペットのように飼おうとしているのだ。


魔族を仲間に引き入れるのはわかる。

魔族と人間がチームを組んで『八部衆』になるのもまだわかる。

しかし、魔族をペットのように屋敷に住まわせるのは、度が過ぎていないか。


僕の混乱をよそに、嫁さんは明るい声で魔族たちに提案した。


「みんなはどう?小さい姿でウチに住めば、毎日おいしい物が食べられるわよ!」


「「…………!!!」」


嫁さんの料理に魅了されてしまった魔族たちは、そのプライドもかなぐり捨て、ゴクリと唾を呑み込んで黙考した。


沈黙した彼らを見て、僕は困惑しているのだと思い、嫁さんを制止する。

だが――


「いやいやいや……彼らだって魔族の幹部だったんだよ。そんな人間のペットみたいな扱いを受け入れるわけが……」


「「よろしくお願いします」」


「いいのかよ!!」


満場一致で魔族が我が家に住むことになった。


「ウチは亜人タイプだから、そんな器用なことできないミャウ!猫ちゃんに変身するなんて無理ミャウ!」


ただ一人、フェーリスだけがムスッとしている。

すると、嫁さんはさらに思いついたことを口走った。


「んーー、フェーリスちゃんは手足と猫耳と尻尾を隠せば、人間として、やってけなくもないわね」


「「え?」」


疑問に思う一同。

それにお構いなく、嫁さんは用意していた物をフェーリスに着せた。


「こんなこともあろうかと準備してたのよ!大きな手袋をして、靴を履いて、フードで頭を隠せば、ほら!普通のかわいい女の子じゃない!ね?」


彼女の言うとおり、変装したフェーリスは、ただの美少女になった。


50年以上生きているわりに目がクリクリとした童顔。いつも何を考えているのかわからない無邪気な表情。しゃべると残念なところを除けば、アイドルにでもなれそうである。いや、むしろそういうキャラ付けだと設定すれば、現代ならバラエティ番組で活躍できるかもしれない。


だが、それでも納得いかない僕は一言だけツッコんだ。


「家の中でもフードを被らせる気?」


「この世界では、そんなに不自然なことじゃないでしょ」


「まぁ、そうだけど……」


困惑しっぱなしの僕をよそに、問題の当人はウキウキした顔でピョンピョン飛び跳ねていた。


「いいミャウ!気に入ったミャウ!ウチ、人間に混じって生活するの、初めてミャウ!こんな面白そうなこと、ワクワクしてしょうがないミャウ!」


やはりこうなってしまうか。フェーリスには迷惑とか、遠慮とか、そういう概念がほとんど無い。あるのはただ、面白いかどうかという基準だけである。


もう僕にはイヤな予感しかしないので、この際だから今のうちに苦言を呈することにしよう。


「フェーリス、本当に人間の中で生活できるのか?正体が知られたら一巻の終わりなんだぞ?」


「大丈夫ミャウ!ウチ、人間のことはずっと観察してきたから、うまくやれるミャウ!」


「生活スタイルとか、わかるのか?トイレもちゃんと人間のトイレでするんだぞ?」


「バカにしてるミャウ?魔族にだってトイレくらいあるミャウ!」


「寝るのもベッドだぞ?床で寝るんじゃないんだぞ?」


「それもわかってるミャウ!」


歯に衣着せぬ言い方で僕がまくしたてるので、嫁さんが横から呆れた声を出した。


「蓮くん、フェーリスちゃんも女の子なんだから、もうちょっと言い方に気を配ろうよ……」


「いや、だってフェーリスだよ?こいつとは魔族の中で一番付き合いが長いから、わかるでしょ?面白いと思ったら何でもするヤツだよ?」


「まぁ、そこはわかるけどぉ……フェーリスちゃんだけ仲間外れは可哀想でしょ?」


「……よし。ならこうしよう。フェーリスはカエノフィディアと同室だ。一人にさせたら何をするかわからない。カエノフィディア、すまないが、フェーリスと一緒に暮らして、こいつが変なことしないように見張ってくれないか?」


急に話を振られたカエノフィディアは、一瞬だけ戸惑った様子を見せたが、すぐに笑顔で答えてくれた。


「……は!はい!かしこまりました!」


「部屋は今と同じ、僕たちの隣の部屋だ。なるべく目が届く範囲に君たちを置いておきたい」


「はい!喜んで!」


何を喜んでなのかはしらないが、カエノフィディアはやる気満々で僕の注文を聞いてくれた。彼女と一緒なら、フェーリスが暴走することもいくらか抑えられよう。


話が決まると、フェーリス本人は、あっけらかんとした表情で感想を述べた。


「カエノフィディアと一緒の部屋ミャウねぇーー。まぁ、これも腐れ縁ってヤツミャウね。面白そうミャウ。一人きりより楽しそうミャウ」


「いいか、フェーリス。くれぐれも、くれぐれも、注意して生活するんだぞ」


全く緊張感を感じられない彼女に、僕はさらに睨みを利かせて再度忠告した。しかし、ご機嫌のフェーリスは笑いながら僕の首に腕を回し、顔を近づけてきた。


「わかってるミャウよーー♪ちゃんとしっかり人間のフリするミャウ♪よろしくミャウ、ご主人様♪」


言いながらペロッと僕の頬を舐めてくる。

ドキッとすると同時にドン引きした。

既にこの行動が普通の人間ではない。


これには、再び女性陣が爆発した。

ローズとシャクヤが激しい剣幕でフェーリスを罵る。


「おいおいコラ!フェーリス!黙って見てりゃ、すぐに勝手しやがって!!」


「はっ……はっ……はしたないですわよ!フェーリス様!!」


ローズに至っては、叫びながらフェーリスの首根っこを掴まえ、僕から彼女を力ずくで引き離した。フェーリスは口を尖らせて文句を言う。


「なんミャウ。ウチはレンの飼い猫なんだから、これくらい普通ミャウ」


「おっ、お前!今、人間のフリするって言ったばかりだろうが!」


「そうミャウ?まぁ、細かいことは気にするなミャウ」


「気にするわ!レンが心配してるのは、そういうとこだろう!!」


「フェーリス様は、いい加減すぎでございます!!」


僕の代わりにローズとシャクヤが激怒してくれているので、僕は彼女たちに任せることにした。


それにしても、嫁さんから頬にキスされた経験は何度もあるが、女の子から顔を舐められたのは生まれて初めてのことだ。これに嫁さんがどんな反応をするのか、非常に心配である。


ところが、横にいる嫁さんを確認すると、すぐに目が合った。そして、やはりいつものとおり、フェーリスを猫として認識しているような素振りを見せ、ガッカリしていた。


「フェーリスちゃん、蓮くんにばかり懐いてて、ズルいなぁ……」


「あいつは、百合ちゃんのこと怖がってるからね」


「はぁ……敵だった時に脅かし過ぎたかな……」


「牡丹と一緒なら、あいつも百合ちゃんを怖がらないはずだよ」


「そだね……」


「さて、じゃあ、みんなで屋敷に戻ろうか」


牡丹は今もガッルスに抱かれて満足そうにしている。とりあえず『八部衆』は全員、我が屋敷に住むことになったので、もう引き上げることにした。


フェーリスはまだローズとシャクヤから小言を言われ続けているので、最後に僕が口を挟んだ。


「フェーリス、ウチで暮らすなら、みんなの意見はしっかり聞くんだぞ」


「……今、聞いてるミャウ」


「それと……ウチに住むなら、ちゃんと風呂にも入ってくれな」


「風呂?風呂って、あのお湯を掛ける拷問のことミャウ?」


「いやいや……拷問て……」


案の定、猫の要素が強いだけに風呂を嫌うフェーリス。しかも拷問と呼ぶとは筋金入りだ。そして、このやり取りを見て、ローズとシャクヤはクスッと笑った。


「フェーリス、君、臭いってよ」


「ふふふ……やはりそこは魔族でございますね」


「はぁ!?なんミャウ!失礼ミャウね!!ウチはこれでも綺麗好きミャウよ!」


勝ち誇ったような笑顔になるローズとシャクヤを見て、僕も苦笑した。実は、フェーリスには悪いのだが、彼女に抱きつかれるたびに、女の子の匂いと一緒に独特の獣臭も混じっており、なんとも言えない気分になったのだ。さすがにそこまで口にしないが、代わりにローズとシャクヤが代弁してくれた。




この夜から、ストリクス、ガッルス、ルプスは、それぞれ小さくなった状態でペットのように屋敷に住まわせた。嫁さんが旅先で見つけ、飼いならしてきた、とても賢い動物たち。という名目だ。


フクロウを飼う習慣は、まだこの世界では一般的ではない(というか僕たちの世界でも稀な方だと思うが)。しかし、魔法使いにはフクロウの使い魔がいる、というのが、おとぎ話に登場する常識でもあったため、受け入れられるのは早かった。また、動物好きの侍女の中から、すぐにそのかわいさに魅了される者が現れ、世話してくれるようになった。


しかも中身は知能の非常に高い魔族である。ストリクスは、羽を操作する魔法を器用に応用し、自分の体重を支えることで、侍女たちの身体に乗っても重くならないようにした。かつて人を何人も殺してきたはずの残忍な魔族幹部が、今では当家の人気者になってしまった。


彼には、我が家を拠点としつつ、頻繁に外出させ、魔族やモンスターの動向を探る役目を与えた。まさに僕にとっての有能な”使い魔”となってもらったのだ。



ガッルスは、雌のニワトリであるため、最初は使用人たちから卵を産むことを期待されてしまった。しかし、魔族には生殖能力も繁殖能力も無いため、ガッルスは無精卵すら産み落とすことはない。そこは、病気のニワトリなのだ、とごまかすことにした。


彼女は特別扱いで、牡丹と一緒に僕たちの自室に住まわせることにした。ニワトリを部屋の中で飼うのは、我が家くらいではあるまいか。


ガッルスは、複数の人を乗せて飛行することができるという、大変貴重な移動手段でもある。



ルプスは当初、「お、狼でございますね……」と恐れられた。だが、嫁さんに言われるがまま、様々に芸をこなす姿を見せると、あっという間に人気者になった。犬よりも賢い狼。と評され、屋敷内を平然と走り回る、最強の番犬になったのだ。


生命の尊さを誰よりも知る魔族である。彼がいてくれれば、僕たちは安心して屋敷を留守にすることができるだろう。


また、ニオイを覚えた相手を過去24時間に渡って追跡できる彼の能力は、人を探す時に大活躍するはずである。特に”大賢者”の救出を次の課題としている僕は、大いに期待していた。



カエノフィディアは、屋敷の使用人になった。

彼女の、たっての希望である。


肉体的にはレベル45で、単純な力比べではローズよりも上なのだが、記憶を失っているカエノフィディアにはハンターの仕事をこなす気概が無かった。


侍女長であるカメリアに紹介すると、稀に見る美貌のカエノフィディアに目を丸くしていた。「どこぞのお嬢様ではないのでしょうか?」と心配され、恐縮されたが、僕たちにも本人にも素性がわからないため、今はこうする以外に生活の糧が無いのだ、と説得した。


働き者のカエノフィディアは瞬く間に仕事を覚え、力持ちでもあるため非常に重宝された。「こ、これでは、わたくしの地位も危のうございますね」と、カメリアが緊張感を持つほどだった。



問題は、やはりフェーリスである。彼女は、前回の戦いで重傷だったところを助け、ようやく体を動かせるようになったハンター、ということにして住まわせた。屋敷の内外でフードと手袋を絶対に取らないのは後遺症を隠すためだ、と説明するためである。


正直言って、カエノフィディアと相部屋にしなかったら、どんな大惨事になっていたか計り知れない。ベッドを見つけてはその上で飛び跳ね、新しい服を与えては彼女なりに勝手にアレンジし、破いてしまう。嫁さんが風呂に連れていくと暴れる。食事の仕方は乱雑。仕事関係の来客が絶えない家だが、客人に挨拶させるとマナーの欠片も無い。


牡丹だけでも手を焼くのに、輪を掛けて手の掛かる娘がもう一人増えてしまったような感覚になった。


だが、彼女の持つ猫通信の魔法は、世界中に情報網を持っており、これほど有益な能力は無い。ちなみに彼女は自分の能力に名前を付けていなかった。その話題になると命名を頼まれたので、嫁さんと相談し、次のように決まった。


猫猫通信キャッツ・アイズ


この能力と僕の宝珠システムとをリンクさせれば、最大最強の情報通信網を確立することも夢ではなかった。能力面だけで言えば、フェーリスと僕は、まるで小指と小指が赤い糸で結ばれているかのように相性が良かった。いや本当に能力面だけで言えばだが。


とはいえ、ただの居候のまま、ずっと屋敷に住まわせるわけにもいかない。他の使用人たちの面目もある。そこで、ギルドに未登録であるが、ハンターとして素材採取チームの護衛業務をやらせることにした。


もちろん彼女に一人で仕事をさせることはない。危なっかしいことも原因の一つだが、そもそもフェーリスは字が読めなかった。これまで人間の文字を読む必要性が皆無だったのだから仕方ない。


だが、そのことと、やる気スイッチにムラがあることを差し引いても、フェーリスは優秀だった。魔族であるため、モンスターに遭遇しても、こっそり命令して退散させてしまうのである。まったくもって最強すぎる護衛だった。



魔族たちを屋敷に迎え入れてしばらく経った頃、ダチュラとローズはため息交じりに、そしてシャクヤは感慨深く呟くのであった。


「ローズさん……私たち、とんでもない夫婦の仲間になっちゃいましたね……」


「いやはや……まさか魔族と一緒に生活まですることになって……しかもこんなに役立ってくれるんだからな……」


「やはりユリカお姉様とレン様は、異次元の存在でございますわ」

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