第30話 白金蓮の憂鬱③
僕、白金蓮は、野営地にて魔法の研究を始めていた。
すぐ近くでは、ダチュラとローズさんが野営の準備をしてくれている。
一刻も早く嫁さんと合流したい。
今夜は徹夜してでも強力な魔法を作り出す決意だった。
宝珠による連携魔法で攻撃威力を高めることについては、【
【
そこで、昨日の魔法陣書き換えが成功して以来、今日一日考えていたことがある。
魔法陣を弱体化させる方向への改造はできたが、強化する方向への改造はできなかったことについて、である。
通常、魔法を発動させるには、魔法陣を介して精霊の力を借り、精霊の働きで特異な自然現象を引き起こす。このとき、術者の魔法力によって、実行できる魔法の強弱が決まるのだ。
早い話が、術者自信のレベルを超えた魔法を発動することはできない。
では、宝珠を使った場合はどうなるのか。
宝珠さえあれば、魔法を使用できない者まで魔法を使うことができる。それは、宝珠の中に魔法陣だけでなく、術者の発動魔力まで登録されているからなのだ。
宝珠に登録された魔法は大きく分けて3つの要素で成り立っている。
・魔法の性質、出力、設定を定める『魔法陣』
・魔法を発動させるための登録術者の『発動魔力』
・魔法の実行で消費される『マナ』
これらについて僕なり理解したところでは、自動車の構造に例えるとわかりやすかった。つまり――
・『魔法陣』は、”ギア”
・『発動魔力』は、”エンジン”
・『マナ』は、”ガソリン”
――という感じだ。
魔法を使用すれば、マナというガソリンが消費されるのでチャージが必要となる。魔法陣の書き換えは、ギアチェンジのようなもので、魔法の内容を変えることができる。しかし、発動魔力というエンジンが強力でなければ、強力な魔法は発動できないのだ。
つまり、もしも上位魔法の宝珠を手に入れることができれば、それをベースに魔法陣を書き換えることで、あらゆる改造魔法を作ることが可能となる。
だが、相当な高額らしく流通も希少なので、ガヤ村には置いていなかった。上位魔法の宝珠さえ購入できれば、その【
そこで、現在の僕は、別の方法で強力な魔法を作らねばならない。
僕はもう一度、魔法の連携について考え直すことにした。
今までは、魔法の発動から次の魔法の発動へタイミングを合わせることで連携させてきた。しかし、これでは魔法ごとにタイミングを計算しなければならないので、成功するまで何度も実験を繰り返さなければならない。
そもそも連携することを前提としていない魔法を、無理に連携させようとしたこと自体が間違いだった可能性がある。
つまり、魔法の”入力”と”出力”の関係に目を向けるべきだったのではないか。
【
僕がやった連携魔法は、空気が”入力”であるはずの魔法に、無理やり既に出来上がった風の弾丸を”入力”として発動し、より大きな風の弾丸という”出力”を形成しようとしていたのだ。
そして、四重陣の時は失敗して暴走してしまった。
「魔法で生成されたものが”入力”であることを前提とした魔法。それを開発できれば、連携がスムーズになるかもしれないな」
独り言をつぶやいて、僕は魔法陣を解析してみた。
「そういえば、魔導書の中に”魔法をかき消す”魔法があった気がするぞ。最上位の魔法だから僕は全く使えないけど」
魔導書を開くと、同じように”魔法を対象とした魔法”がいくつか存在した。
これらをヒントにすれば、うまく行くのではないだろうか。
魔法陣に刻まれた古代文字の意味を解析し、【
さらに”チェック・ディジット”部分についても計算して書き換える。これについては、だいぶ慣れてきた。
早速試してみようと思い、ダチュラとローズさんに迷惑が掛からないよう、少し離れたところに移動する。
新しくできた”魔法に重ねて掛ける”【
ドギュゥゥンッ!
うまくいったようだ。威力も今までと変わらない。
さらに【
「問題は、【
事故が起これば大怪我してしまう実験だ。
慎重に【
しかし、前回と同じように4つ目の魔法陣で魔法が反発し合った。
再び失敗し、爆風を巻き起こしてしまう。
跳ね返った風の弾丸は後方の木を抉って消えた。
「これでもダメか……二度目だったから避けやすかったけど、この実験は危険が伴うぞ……」
「レン、食事の準備ができたわよ。食べよう」
ダチュラに呼ばれた。実験の続きをしたいところだが、栄養を取らなければ頭も回転しない。食事をいただくことにした。
「食料は、あたしからのおごりだ。長旅が多いので全部保存食だけどな」
「ありがとうございます」
ローズさんは食べながら話してきた。
「さっきダチュラから聞いたんだが、君は奥さんを捜しているんだな」
「はい」
「あたしは、てっきり君たち二人が夫婦なんだと思ってたよ」
「あはは、この状況じゃ勘違いしますね」
「喧嘩した奥さんが北側ルートに行ってしまったというのがすごいな。相当、腕に自信が無いとそんな大それた家出はできないぞ」
「家出……」
実際は違うのだが否定しきれない。胸が痛い。
「ところで、さっき君が試していた魔法。あの威力はレベル20の中位魔法を超えていたな」
「ええ。本当はもっと強くできると思ってたんですけど」
「魔法を開発してしまう人間がいるとは驚きだ。世界は広いなぁ」
「ローズさん、どれくらいの魔法が完成すれば、僕たちの同行を許してもらえますか?」
「そうだな。最低でも中位魔法の2倍の威力は欲しい。欲を言えば、レベル35クラスである上位魔法があれば最高だ」
「最低でも2倍の威力……わかりました。必ず完成させます。ごちそうさまでした」
食事を早々に済ませ、僕は実験を再開した。
【
【
4倍ということは、一つ上位の魔法になったのと同じことだ。
その威力の魔法に下位の魔法を重ね掛けようとすれば、無理が生じるのではないだろうか。
そう考えると、下位魔法の【
そこで、【
火、風、水、地、それぞれの魔法を組み合わせて強力な魔法を作ってみるのだ。
まず、火の攻撃魔法【
炎の玉と風の渦が連携され、勢いのある火炎の球体が発射された。
我ながら、魔法の連携自体はかなり手慣れてきたものだ。
「うん。連携はいい感じだ。でも威力はまだだな」
火に風を送ることで燃える勢いを高める。これはなかなか良いアイデアだ。
そこで、まずは【
さて、ここからは危険な賭けだ。
威力4倍の【
また同じように連携失敗して暴走するのではないだろうか。
炎の塊が自分に跳ね返ってくるなど、冗談ではない。
「考えてみれば、強力な魔法を開発するってことは、強力な兵器を開発することと一緒なんだな。実験する僕にも危険が及ぶんだ……」
しばらく考え込んだ。そして、思った。
そもそも魔法の発動を遠隔でできれば楽なのに、と。
宝珠から魔法陣が出る仕組みは、いったいどうなっているのだろうか。
魔法陣を書き換える要領で、宝珠の中のマナを探ってみる。
宝珠の魔法を発動する際、通常は光で描かれた魔法陣が目の前に出現するのだが、それはプロジェクターがスクリーンに映写するような仕組みで成り立っていた。これは魔法を登録した時に自然と出来上がっている機構だ。
「ここを弄ってみるとどうかな?」
手を加えた【
「あ、できた」
この宝珠とは、なんと応用が利くものなのだろうか。
コツさえ掴めば、あらゆることができる。
「ちょっと待てよ。これが可能なら、もっと危ないことがいろいろできるぞ。よし、あとは魔法だけじゃない。科学の時間だ」
調子に乗り、そこから2、3時間、僕は実験にのめり込んだ。
一方、ローズさんとダチュラは焚き火に当たりながら、話をしていた。
「さて、そろそろ寝ようか」
「あの、ローズさん、実はもう一つお話が……」
「ん?なんだ?」
「実は私……」
と、二人が話しているところに僕が割り込んでしまった。
「ローズさん!ちょっと見てください!」
「おっ、どうした?」
「いいですか、あっちの空を見ていてくださいね」
「お、おう」
僕は誇らしげに5つの宝珠を掲げる。
指差した方向、自分たちから30メートルほどの距離に魔法陣が現れた。
ドゴオオオォォォンンッ!!!
突如、魔法陣の付近で大爆発が起こった。
「うおっ!なんだあれは!!」
ローズさんは驚愕の声を上げ、ダチュラは唖然としていた。
「魔法の遠隔発動です。今は30メートルほどの距離が限界ですけど、その距離で”水蒸気爆発”を起こしました」
「え?何がなんだって?」
困惑を通り越し、動揺した様子でローズさんは僕に聞き返してきた。
「ですから、火を3連携、さらに風と水の魔法を連携発動し、わざと暴走させて”水蒸気爆発”を起こしたんです。至近距離で使うと自分が死んでしまう、超危険な魔法です」
「まっっっったく意味がわからない!!」
「発動させる距離は、コツを掴めば意外と楽でした。最短でも10メートルくらい離れていれば、自分に怪我無く発動できます」
「…………」
ローズさんは硬直して動かなくなってしまった。
フォローするようにダチュラが口を開く。
「ローズさん、この人、昨日もこういう感じだったんです。変な人なんですよ。奥さんのユリカだって、同じこと言ってるくらいなんですから」
「いや、すまない……まさか本当に実現してしまうとは……こんな男がこの世に存在したのか……」
ローズさんの驚く様子を見て、僕は自信を持って言った。
「これで明日、同行してもいいですよね?」
「そ、そうだ……な……」
同意の言葉を言おうとしたローズさんだが、なぜか途中からフラフラしはじめた。
そして、突然、僕の方に倒れ掛かってきた。
「え、ちょっ、ローズさん?」
僕はそれを受け止めて支える。抱き合う形になってしまった。
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