第10話 討伐隊

異世界生活3日目。


起床すると、既に嫁さん達が朝食の準備を整えてくれていた。

朝食を済ませて、嫁さんと僕はギルド支部へ向かう。


嫁さんは新しい服に、鎧のパーツを付けている。

そこにフード付きのマントを羽織った。


「これなら、戦いのときにすぐ外せるから、いいでしょ。それに夏でも涼しい生地でできてるんだよ。逆に日焼け防止になっていい感じ」


とのことだった。


既にギルド支部には、多くのハンターが集まっていた。

アッシュさんに挨拶しようと奥まで行くと、大きな声が廊下まで聞こえてきた。


「本気ですか!?女連れを隊に加えるなんて!」


「いや、だから隊には加えない。後方支援に回ってもらう予定だ。強さの方はバーリー支部長からのお墨付きだ。問題ない」


「問題ありですよ!ありまくりですよ!女が隊列に加わること自体、大問題です!不吉です!50人の精鋭を集めてきたんですよ!1個小隊に匹敵する規模です。個人的なパーティーだって、女を加えることが不吉とされるのに、よりにもよって、これから凶暴化したモンスターたちを退治する討伐隊に女を加えるとか、正気の沙汰ではないですよ!」


「そう言うな。二人とも人物としては問題ないし、『ブラック・サーペント』を二人だけで倒すほどの実力者だ。大変な戦いだからこそ、戦力の補強は大事だろう。それに不吉、不吉言うが、そんなものは迷信じゃないか」


「迷信なんかじゃありません!私は、女を加えて浮き足立ったパーティーに出会ったことがあります。しかし、その後、しばらくすると姿を見なくなりました。全滅したんですよ!」


「では例えばの話、最近有名な『女剣侠おんなけんきょう』がいるな。俺もまだ会ったことはないが、仮に彼女が味方になると言ってきてもお前は断るのか?」


「断ります!」


「断るのか……では、俺の預かりということにしてもダメか?」


「隊長の身辺に置くなんて、もってのほかですよ!」


「わかった。わかった。ならば、こうしよう。我々の隊には加わらず、別働隊として後ろから付いてきてもらう。万が一のときは参戦してもらうし、別働隊が後ろでモンスターに遭遇しても、それはそれで我々とは関係ない。どうだ?」


「まぁ、それなら……」


「よし、決まりだ。彼らの案内はリーフに任せよう。あいつは世話焼きなところがあるから、うってつけだ。呼んできてくれるか」


「……了解しました」


奥の部屋で話していたのはアッシュさんともう一人だった。

そのもう一人が扉を開ける。目の前には僕らが立っていた。


「ん?君たちは……」


「ああ、来ていたか。この二人がそうだ。どうぞ入ってくれ」


アッシュさんが呼んでくれたので、僕たちは部屋に入った。


「おはようございます」


「今の話、聞こえてたか?」


「ええ。聞こえちゃいました」


「すまないが、そういうことになってしまった。こいつは副隊長の『トゥイグ』。頭の固いヤツなんだが、他のハンター連中もみな、だいたいあんな考えだ。それでもいいか?」


「ええ、大丈夫です。僕たちは見学できれば十分ですので」


「ふん!どうなっても知りませんよ!」


『トゥイグ』と呼ばれた副隊長は、こちらを睨みつけながら部屋を出て行った。

目が細く、頭頂部のハゲたおじさんだった。


「一応、あれでも腕は立つんだ。それに、慎重派で事務的なことにも向いているので、俺の補佐役としてはとても優秀なんだよ」


そんなおじさんをアッシュさんがフォローした。

さらに嫁さんにも申し訳なさそうに言う。


「ユリカには無礼な会話を聞かせてしまった。申し訳ない」


「ううん。気にしてないから大丈夫よ」


嫁さんが答えると、後ろで扉を叩く音がした。

入ってきたのは、若い青年ハンターだった。


「失礼します。隊長、お呼びですか?」


「ああ、リーフ、お前にこの二人を頼みたいと思ってな」


『リーフ』と呼ばれた青年が、こちらに目を向ける。

やはり嫁さんの方を見て何かを感じたようだ。

しかし、彼より先に嫁さんの方が声を発した。


「あっ、昨日の……」


青年もこちらの顔をよく見て、思い出したようだ。

昨夜、酒場でハンター達から小間使いのようにされていた青年だ。


「あ、あの時の!」


「なんだ。お前たち知り合いか?」


「いえ、一度お会いしただけです」


アッシュさんは僕たちのことを紹介し、簡単に事情を説明してくれた。


「他の連中では絶対に嫌がるだろうから、お前にしかこんなことを頼めないんだよ」


「そうでしたか。女性を連れての旅は大変でしょうね。僕は『リーフ』と言います。なんでも聞いてください」


青年は丁寧に挨拶してくれた。

先程のおじさんとは、えらい違いだ。


「こちらこそ、お世話になります」


こちらも挨拶を済ませ、リーフさんに案内されることになった。

ロビーまで来ると、ハンター達がリーフさんに声を掛けてきた。


「おい、リーフ!お前、今度は女連れのハンターの世話を焼くんだってな。ご苦労なこった!」


「弱えんだから、下働きで成果を上げなきゃな!」


「いや、おい、待て。女連れ?そんなヤツが来たのか?」


「隊には加わらねえから安心しろとよ」


「いやいやいや、狩りに女が付いてくること自体、ヤバいだろ」


「てか、あれじゃねえか?」


ハンター達が僕の隣にいる嫁さんに注目する。


「美人じゃねえか!いいねえ!」


「バカ、お前知らねえのか?女が美人であればあるほど、不吉なんだぜ?」


「そうだったな。ったく、女がどうしてハンターやってんだ!」


「女は俺たちの帰りを待って、酒を注いでくれりゃあいいんだよ!」


聞いてて無性に腹が立ってきた。

なんなんだ、こいつらは。

手がわなわなと震えてくる。


「ここは、うるさいですから、外で話しましょう」


リーフさんが促してくれるので、外に出た。


「蓮くん、私は平気だから」


嫁さんが僕を諭す。怒りで鼻息が荒くなっていたが、少しずつ落ち着いてきた。

どっちみち、喧嘩したって僕では彼らに勝てないだろう。


「蓮くんがそんなに興奮するの珍しいね」


「だって、あいつら百合ちゃんのことを……」


「ふふ、蓮くんが怒ってくれただけで、私は十分だから」


「すみません。ああ見えて、根はいい人たちなんです。あんなこと言いますが、僕がピンチの時は助けてくれたりするんですよ」


と、リーフさんが言う。


「そんなもんですか……」


「ただ、チームに女性が加わることは、やはりみんな嫌いますね。女性が入ると不吉とされているんですが、そもそも女性が戦いで活躍することに反感があるんだと思います」


「それは嫉妬というんじゃないですかね?」


「それもありますね。逆に言うと、戦いは男がするもの、という自覚と誇りもあるんです。どうか、お気を悪くなさいませんよう」


「いや、すみません、リーフさん。もう大丈夫です。いきなりだったので、少しカッとなってしまいました」


「よかった。ところで、僕のことはリーフと呼び捨てにしてください。一番の下っ端ですので。歳も同じくらいですし」


「そうですか……うん。だったら、僕たちにも丁寧語はいいよ。友人として接してもらえれば」


「そうだね。では、レン、もう一人紹介したい人がいるんだ。僕の相棒の『ダチュラ』だ」


リーフに手招きされ、軽装の鎧を身に纏った青年が近づいてきた。


「こちらの方は?」


『ダチュラ』と紹介されたその青年がリーフに尋ねた。

リーフが僕たちのことを簡単に説明する。


「そうか。俺は『ダチュラ』。よろしく」


お互いに挨拶を済ませる。

リーフと比べると口数は少ないが、柔らかい物腰で落ち着いている。

少し背が低めだがイケメンである。彼も人柄が良さそうだ。

すぐに打ち解けることができた。


「ねぇ、蓮くん……」


突然、横から嫁さんが何かを言いかけた。


「なに?」


「……ううん。なんでもない」


「?」


僕に何か言いかけてやめる、というのは嫁さんにしては珍しい。

が、この時は特に気に掛けなかった。

それよりも彼らに聞きたいことがあったからだ。


「ところで、実は聞きたいことがあるんだ。恥ずかしながら……」


僕は『宝珠』について何も知らないので、使い方を教えて欲しいと正直に頼んだ。


「そうか。『宝珠』を知らないのは不便だね。それでは出発まで少しの時間だけど、教えてあげよう」


リーフは何もツッコまずに快諾してくれた。とても親切な青年だ。


「というのは、ちょうどこれから『宝珠』を使用するところだったんだ」


横でダチュラが1個の『宝珠』を取り出した。

さらに紙とペンとインクを用意する。

ダチュラが実演しながら、リーフが説明する。


「これは『地の精霊』との契約魔法【解析サーチ】が登録された『宝珠』だ」


「地属性の魔法か」


「属性?そういう言い方は初めて聞いたかな……」


「あ、いや、『地の精霊魔法』だね」


「そうだね。そして、この【解析サーチ】は『地の精霊』の力を借りて、人の肉体や物質の構成を解析することができる。レン、こっちに来てくれ」


「うん」


「こうして、『宝珠』に対し、マナを送り込む。マナが引き金となって、『宝珠』に登録された『魔法』が発動するんだ」


ダチュラの持つ宝珠が内部から薄く光り出し、目の前に光で描かれた魔方陣が現れた。魔方陣からは別の色の光が照らし出され、僕の体を照射する。光は横に伸びた形をしており、それが頭から足まで順に照らした後、再び頭まで戻ってきた。ちょうどコピー機が紙をスキャンするときのような動きである。


するとペンが空中に浮かび上がって、ひとりでに動き出し、紙に文字を書き出した。


「これが【解析サーチ】だよ」


「解析した情報を自動筆記する魔法なのか。『宝珠』の発動には、魔法に必要な分だけマナを注ぎ込むのかな?」


「いや、魔法そのものに必要なマナは、あらかじめ『宝珠』にチャージしておくんだ。発動には、引き金となる、ごく少量のマナだけで済む」


「ということは、誰でも魔法が使えるってことか?」


「そうだよ。レンのお国では、魔法はみんな使わなかったのか?」


いえ。僕の国では魔法なんて誰一人使えません。

とは、言いにくい。


「まぁ、みんなじゃないな……」


「『宝珠』の発明によって、魔法は特別なものではなくなった。安いものではないので、一般家庭にあることは少ないけど、今は大人から子どもまで、誰でも『宝珠』の使い方を知っていると思うよ」


「マジか……」


聞きながら思った。

これはマズいのではないだろうか。


何がマズいかと言えば、僕は『ワイルド・ヘヴン』における『賢者』のはずだ。しかし、今の話からすると、魔法職でなくても誰もが魔法を使えることになる。『賢者』は、戦闘において出番があるのだろうか。


話をしているうちにペンの動きが止まった。

自動筆記が完了したようである。

書きあがった紙をリーフから渡される。


「これが、レンのステータスだよ」


そこには、この世界の文字でステータスらしき事柄が記されていた。

僕たちの言葉に翻訳すると、以下のようになる。



登録名:レン

タイプ:魔法技師

レベル:16

体力:102

マナ:83

攻撃:53

防御:48

機敏:65

技術:123

感性:26

魔力:152



なるほど。レベル16というのは何となく理解できる。

僕はそこまで強くないからだ。

肉体は逞しくなっているものの、モンスターと戦うには心もとない。


パラメーターも何となくわかる。『体力』がHPで、『マナ』がいわゆるMPだろう。他はそのまんまだ。『感性』というのが、あまり見掛けないが、嫁さんが気配を察知してする特技を持っているので、それと関係するパラメーターかもしれない。


だが、ここで疑問に思う。

『タイプ』の『魔法技師』とは何なのか。


「この『魔法技師』というのは?」


「おや?ここには、『アタッカー』とか『シューター』などのタイプが出るんだけど、『魔法技師』だと戦闘タイプではないということだね」


「え」


「この【解析サーチ】宝珠は、ハンターギルド用に術式を組み込んでもらっているので、ハンターとしてのタイプが表記されるんだ。レンは、魔法専門の人なのか?」


「あ、うん、まぁ……」


「魔法専門だと、技術職として認識されたんだね。戦闘には本来参加しない人、ということになるよ」


聞いていて、変な汗が出てきた。


「『魔法技師』は技術職……戦闘職ではないと…?」


「うん。そうなるね。残念ながら」


愕然とした。

なんということだろうか。


この世界では、

物理職が前衛、魔法職が後衛。

という分類はされていなかった。


魔法職は”戦闘キャラ”ではなく、戦闘に参加しない”職人キャラ”だったのだ。


いくらなんでも不遇すぎじゃないか。

嫁さんばかりがイージーモードで、僕だけハードモードすぎるだろう。


こんなことで、ハンターの討伐隊に参加しても大丈夫なのだろうか。無謀すぎはしないか。


だいたいなんだ?

僕は”職人キャラ”のくせにハンターをやろうとしていたということか?

レースに参加しようとしたけど、そもそも免許を持っていませんでした、みたいな?

これって、かなり痛々しい状況なんじゃないか?


さすがにショックを隠しきれない僕は、嫁さんの顔を見た。

彼女も困惑した表情で僕の方を見ている。


「……………」


沈黙したまま何も言ってくれない。


普段の嫁さんならこんな時、適切か不適切かは置いといて、何かしら明るく振る舞ってフォローしようと努力してくれる。そんなところが好きだったのだが、今回は何も言葉が無かった。そこまで、やっちまった状況ということか。


「……だ、大丈夫だよ。蓮くん!私がちゃんと守ってあげるから!」


ようやく口を開いた嫁さんのセリフは、なんとも僕自身が情けなくなる励ましの言葉だった。


嫁さんに悪気は無い。真心で言ってくれている。しかし、完全な意味で嫁さんに命を預けることになるとは、我ながらなんと悲しいことか。


すると、リーフが感慨深そうに言ってきた。


「レンはすごいね。技師でありながら、奥さんと旅をして来ただなんて。とても勇気がいることだと思うよ」


「え」


「そうだな。俺もそう思う」


無口なダチュラも頷いた。

二人ともイヤミを言うわけでもなく、素直に感心してくれているようだ。


まさか、他人からフォローしてもらえるとは思わなかった。少しだけ元気が出てきた。


「いや、実は嫁さんが本当に強いので、それに頼り切っているんだよ」


平静を装いつつ、こちらも正直なことを言ってみた。


「そうなのか。では、ユリカのステータスも解析しよう」


嫁さんの【解析サーチ】も行われた。


思わず気を許してしまったので、何も言わなかったが、解析が始まった瞬間、僕は後悔した。何か理由をつけて止めるべきだったのではないか、と。


僕自身も嫁さんのステータスは大いに気になる。しかし、既に規格外の強さであることがわかっている嫁さんだ。そのステータスが、もし、あまりにも常識外れのものだった場合、どのような反応をされるのだろうか。どんなにこの二人が気の良い人物であっても、予想できない。


結果が出た。


「こ、これは!」


リーフが見て、驚きの声を上げた。


「なるほど。珍しいステータスだね」


と、続ける。

僕もそれを恐る恐る見てみた。



登録名:ユリカ

タイプ:アタッカー

レベル:15

体力:198

マナ:105

攻撃:126

防御:107

機敏:150

技術:274

感性:912

魔力:101



「……え?」


思わず疑問の声が出た。

予想していたものとは全く違ったからだ。


「レベル15?」


「うん。レベル15にしては、珍しいよ。ステータスが全て3桁以上ある」


と、リーフが言う。


「しかも感性が900もある。こんなのは初めて見た」


ダチュラも微妙な驚きをしている。

二人の反応は、ちょっと珍しいものを見た、という程度のものだ。


「攻撃や機敏は、レベル15のアタッカーとしては標準的だね。面白いのは技術や感性が異常に高いということ。本来なら『シューター』として評価されても良いとは思う」


リーフが言うと、ダチュラが付け加えた。


「なんでもこなせるオールラウンダーだな」


「そうだな。それでアッシュさんに認められたのかもしれないぞ」


「うん」


なにやら二人で納得しているようだが、僕としては腑に落ちない。

リーフに質問してみる。


「レベル15や16というのは、どれくらいの強さなんだ?」


「レベルが10台なら、一人前のハンターというところだよ。僕はレベル13、ダチュラはレベル12だ」


「レベルの違いって、どんな形で表れるんだ?」


「だいたいレベルが10上がるごとにハンターとしてのランクが決まってくるんだ。具体的には……」


ここでリーフは、ハンターのランク付けを説明してくれた。

簡単にまとめると次のようになるらしい。



レベル0~9 :新米ハンター

レベル10~19:一人前ハンター

レベル20~29:ベテランハンター

レベル30~39:名のあるハンター

レベル40~49:国家の英雄クラス

レベル50~59:世界の英雄クラス(いわゆる勇者)

レベル60~69:伝説の勇者(歴史上数人しか存在しない)



「レベル判定は、ハンターに限らず王国の騎士も傭兵も、基準は同じだよ。この討伐隊参加者は、ほとんどがレベル20超えの猛者たちだ。アッシュ隊長はレベル31。副隊長のトゥイグさんはレベル28だったかな。僕たちレベル10台のメンバーは、この討伐隊では前線に出ずに戦利品の回収係りをやることになっている」


と、リーフが解説する。


しかし、それではおかしい。ドラゴンを1撃でやっつけてしまう嫁さんがアッシュさんのレベル31より弱いはずはない。アッシュさんもドラゴンから撤退してきたと言っていたからだ。


「失礼だけど、この【解析サーチ】は失敗することってあるかな?」


「インクを忘れた、とかで魔法が失敗するのは、あるあるだな。でも、書き込まれた数字に間違いは無いよ」


「そうか……百合ちゃん、今日は体調悪かったりする?」


嫁さんに質問してみるが、元気な声が返ってくる。


「ううん。昨日はベッドでグッスリ眠れたから、絶好調だよっ」


「昨日までと比べて、どこかおかしいところは無い?」


「特に無いかなぁ……むしろ、昨日この村に来てから、人の気配にもかなり慣れてきたんだ。今なら、建物の中にいる人の数も数えられるよ」


「それ、逆にパワーアップしてるじゃないか……」


数字に間違いは無い。嫁さんの強さも昨日までと変わりない。

というのは、いったいどういうことなのだろうか。


考え事をしていると嫁さんの方が質問を始めた。


「私からもいいかな。レベルはどうやったら上がるの?やっぱりモンスターを多く倒してレベルが上がるのかな?」


「ユリカは面白いことを言うね。確かに戦いの経験が自身を鍛え上げるってのはあるだろうけど、基本的にはとにかく鍛錬を続けるしかないんじゃないか?ステータスが上がっていけば、自然とレベルもアップするよ」


「地道な努力しかないぞ」


リーフとダチュラが順に答える。


言われてみれば当たり前のことだが、肉体を鍛えればステータスが上がり、ステータスが上がればレベルという評価が上がるのだ。

僕もツッコミを入れる。


「百合ちゃん、ゲームじゃないんだから」


「あはは……そだね」


「そろそろ時間だ」


ダチュラが告げた。


周りに目を向けると、ギルド支部の前には既にハンター達が集まっていた。

建物内にいた連中も外に出てきたようだ。


「そうだな。最後に質問はあるかな?」


リーフが聞いてくれたので、最後にダメ押しで質問しておく。


「レベル70以上は、いないのか?」


「ははははは。何を言ってるんだ。レベル70はこの世に存在しないだろう。魔王だってレベル50と言われているんだ。伝説に登場する大魔王だって推定レベル60だよ。レベル70を超えたら神様になれるんじゃないか?」


「だ、だよな……」


ここでアッシュ隊長も姿を現した。


皆が一斉に隊長の方を向いた。

アッシュ隊長が全員に呼びかける。


「さて、諸君!!いよいよモンスター討伐を開始する!しっかりと飯は食ってきたか!?」


一同から笑い声が起きる。慕われているのだろう。


「現在、各地で大型のモンスターが生息域を拡大しているという報告があり、魔王が復活する予兆だという噂も聞く。だが、我々がやるべきことは、ただ一つ。湧いて出てきたモンスターどもを蹴散らして、報酬を得ることだ!!」


「いいぜ!」


「やっちまおうぜ!」


「魔王だって俺たちで狩っちまえばいいんだ!」


ハンター達が口々に叫び出すが、アッシュ隊長は淡々と続ける。


「これまでに話したとおり、今回は3班に分かれて森を進行する!昨日、斥候部隊が偵察してきた限りでは、モンスターの生息数と規模は、こちらが予想していた通りだ。みな、最後まで油断せず、大いに武功を上げてくれ!!」


「「おう!!!」」


ハンター達が一斉に雄叫びを上げた。


皆が盛り上がっているのを尻目に、僕はそっと嫁さんの手を取って後ろに連れて来た。地面に転がっていた石を拾って、嫁さんに囁く。


「百合ちゃん、これ、握り潰してみて」


「蓮くん、私のこと何だと思ってんの……」


呆れ声で文句を言いながらも、手に持った石をまるでスポンジのようにクシャッと握り潰す嫁さん。


「これでいいの?」


「うん」


やはり嫁さんの超パワーは健在だ。

これなら嫁さんが危険になることはないだろう。


あとは”レベル15”の件をどう考えるか。

一つだけ思い当たることがある。


僕はある恐ろしい仮説を立てていたが、まだこの時は確証が無く、何も言うことはなかった。

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