第8話  情報収集

食事と挨拶を済ませた後、バーリーさんに村を案内してもらうことになった。


「実は当面の課題として、お金を落としてしまったので、手持ちが無いんです」


そう言うと、黒蛇の牙を売ることになった。

もともとバーリーさんはそのつもりだったらしい。


案内されたのは村の中央に位置するギルド支部であった。


――ハンターギルド ガヤ支部――


という看板のある大きな建物に入ると、バーリーさんが職員の人たちから歓迎された。


「支部長、生きてたんですね!心配してたんですよ!」


なんとバーリーさんはギルド支部の支部長だったのだ。


「調査はどうでしたか?」


職員の一人が聞いてくる。


「んあ?なんだっけ?」


「やだなぁ。昨日、聖峰『グリドラクータ』が急に光り出した後、大きな音が聞こえたので、支部長自ら調査に向かったんじゃないですか」


「おっ、あっ!ああぁぁぁ、そうだ。そのとおりだ。なんで今まで忘れてたんだ!すまんな。実はいろいろあって、命辛々なんとか生きて帰ってきたんだ。あそこは今、危険だ。調査はまた、調査隊を組んで行くことにしよう」


その後、一室に案内され、バーリーさんが全ての手続きを済ませてくれた。

通常、戦利品の売買は街の取引所で行うそうだが、この村ではギルド支部が仲介となり、その場で換金してくれるというのだ。


黒蛇の牙は、かなりの貴重品らしく、担当者とバーリーさんの会話は興奮したものだった。


金貨3枚で売れた。


おそらく高額なのだろうが、相場が全くわからない。


さらに黒蛇の遺体から戦利品を回収する部隊を、村の青年団で結成してくれることになった。作業日は明日となり、手数料は戦利品売却額の10%ということになった。


「大勢の人たちを使うのに10%でいいんですか?」


と聞くと、


「大型モンスターを討伐した時のための回収部隊だからな。それだけでもかなり割の良い報酬になるのさ」


と、バーリーさんが教えてくれた。

だとしたら90%をもらえる僕たちは、どれほどの収入になるのだろうか。これは嬉しい。


「すごいっ!私、本物の金貨って初めて手に持ったよ」


嫁さんは楽しそうに金貨を眺めている。

そして、僕に質問してきた。


「……でも、これ、いくらくらいになるのかな?」


「確か日本では、純度にもよるだろうけど、金が1グラム5000円前後はした気がする。そこから考えると、この金貨が1枚10グラムだと仮定すれば、およそ5万円ということになるかな」


「じゃあ、3枚で15万円?」


「いや、それくらいかも、というだけの話だよ」


「貨幣相場を知りたいのですか?」


話を聞いていた担当者が逆に尋ねてくれたので、お願いする。


「今は、

金貨1枚につき、銀貨100枚。

銀貨1枚につき、銅貨100枚ですよ」


「よかった。わかりやすいですね」


現代社会でも金、銀、銅の価値といったら、だいたいそれくらいの比率だったはずだ。


「今はギルド業界が安定しておりますので」


なるほど。社会状況によって相場は変動するだろう。日本で暮らしてきた時と比べれば、この辺も相当シビアに考えなければいけないかもしれない。


「これが今、最も流通している硬貨ですが、古いものや他国のものは、それぞれ時と場所によって価値が異なりますのでご注意ください。大きさもマチマチですし、信用の無い硬貨は取引してもらえない場合もあります」


硬貨が何種類もある。

言われてみれば、昔はそれが当たり前だったのかもしれない。国ごとに鋳造する硬貨が違うだろうし、それが歴史の変遷によって入れ替わっていけば、何種類もの硬貨が存在することになる。


確かなこととして、貴金属としての純粋価値だけは変わらない。


だが、それについても問題はある。

硬貨の中に不純物が混じっていれば本来の価値は下がるからだ。


なんてことだ。

キャッシュレス決済なんてものがある現代人には不便すぎる世の中だ。


さらに、大人1人が1日いくらで生活しているのか、だいたいのところをバーリーさんに尋ねてみる。


「そうだなぁ……銀貨1枚もありゃぁ、1日食ってけるんじゃねえか?」


「そうですか。宿に宿泊する場合は?」


「この村なら1泊食事抜きで銀貨2枚だな」


「ねぇ、蓮くん」


後ろから嫁さんが聞いてきた。


「私、一生懸命計算したんだけど、今までの話だと、金貨1枚で5万円なら、銀貨1枚って500円くらいってことになるよね?」


「僕の仮説では、だけどね」


「1日500円で生活するって、なかなかハードじゃない?」


「そうだね。貨幣相場は何となくわかったけど、物価はまた違うと思うんだ。宿が1泊1000円てことになるし。つまり、日本よりも物価が安いみたいだ」


「なんか、海外旅行みたいだね」


「モノによっても、それぞれ物価が変わるんじゃないかな。この世界では何が高くて、何が安いのか、よく勉強する必要があるね」


「そっかぁ……難しいなぁ……」


ギルド支部を後にし、次に案内してもらったのは本屋であった。


この世界のことを勉強するには本を読むのが一番であろう。人には聞きにくいことも本なら調べやすい。せっかく字を読むことができるのだから有効活用しない手はあるまい。特にこの世界の地理や歴史、そして、魔法についてを基礎から知りたかった。


だが、本屋に行って驚いた。


「たっか!」


本の値段が高い。

どんな本も1冊で銀貨10枚以上はする。


魔法についての書物に至っては、金貨1枚に相当するものまである。


ついさっき物価がわからないと言ったばかりだが、いきなりその問題に直面した。


現代社会ではその存在が当たり前になっているが、そもそも本は貴重なものなのだ。おそらく活版印刷すら存在しないのであろう。ということは、全て手書きによる本になる。高いのは当たり前だ。


仕方なく、魔法の基礎がわかるオススメの書物を本屋の主人に紹介してもらい、1冊購入した。銀貨80枚になるという。さらに歴史がわかる書物を1冊、世界地図と周辺地図を買った。これで合計、金貨1枚と銀貨50枚が消失した。


本屋を利用する客は珍しいそうだ。久しぶりに大口の客が来た、と喜ぶ店主の計らいで、しばらくの間、立ち読みさせてもらえることになった。


僕は一人残って情報収集することにした。


「じゃあ、私は他のところを見てくるね」


「うん、必要なものがあったら買っておいて」


「りょ!」


嫁さんはバーリーさんの案内で、もう少し村を見て回ることになった。

迷子になりやすい子だが、バーリーさんがいれば安心だろう。



僕は勉強をはじめた。

まず世界地図を開くと、大陸地図であった。

大陸の外は未開の地域なのかもしれない。


中央に大きな山があり、それが例の聖峰『グリドラクータ』のようだ。


聖峰を囲むようにして、周辺に4つの大国が存在している。

親切な店主が説明してくれた。


北には、雪国の帝国『イマーラヤ』。

東には、複数の島による鎖国国家『チーナ・スターナ』。

南には、緑豊かな共和制国家『シュラーヴァスティー』。

西には、砂漠とオアシスの王国『ラージャグリハ』。


大国は聖峰『グリドラクータ』とは隣接していない。


バーリーさんが語ったとおり、聖峰周辺には強力なモンスターが多く生息しており、『環聖峰中立地帯』として、どの国家も不可侵の領域とされていた。実際には”不可侵”というよりも”手出しができない”という方が正解のようだが。


”中立地帯”という呼び名から、戦争状態にあるのかと想像していたが、現状は大国同士の睨み合いが長年続いており、大きな戦乱は起きていないということである。


また、大国と大国との国境付近には、それぞれいくつかの小国が存在している。


店主に聞くと、この『ガヤ村』は聖峰の南西に位置しており、西の王国『ラージャグリハ』が最も近く、その次に南の共和制国家『シュラーヴァスティー』が近いという。


夏のような暑さだと思っていたが、ここは一年を通して暖かい気候の地域らしい。


そのお陰でハンター達も活動がしやすく、西の王国と南の共和制国家との国境付近にハンターギルドの総本部が設けられているのだとか。


これで、この世界の概要は分かった。



次に歴史について調べてみる。


歴史書については、正直言って眉唾ものという印象を受けた。どれが史実で、どれが神話に属するものなのか、皆目見当がつかないのである。流し読みしてみたが、あまり有益な情報は見つからなかった。


ただ、頻繁に『魔王』という単語と『勇者』という単語があることが気になったくらいだ。


魔法とモンスターが存在する以上、『勇者』と『魔王』が存在してもおかしくないということか。


しかも、それが本当に史実だとしたら、『勇者』と『魔王』の戦いが歴史上、何度も行われてきたことになる。なんだか、いっきにファンタジー色が濃くなってきた。


歴史については、これくらいでいいだろう。



そして、いよいよ魔法についての調査だ。


魔法の書物は、まさに魔法の入門編といった書物であった。


しかし、この世界の前提知識を持っていないため、概念がわからない単語も多い。そうした単語は、辞書を立ち読みして調べながら、基礎を学んでみた。



まず、『魔法』は『マナ』によって生じる。

また、『マナ』は『魔法』を司る元素として認識されていた。


『マナ』は自然界や生物の体内に存在しており、人間は自身の体内で生成される『マナ』を利用して、『スキル』を使用したり、『魔法』を発動したりする。


自身の『マナ』のみを利用する場合は『スキル』。

自身の『マナ』を媒介として、自然界の『マナ』を利用する場合を『魔法』と定義している。


『魔法』は『精霊』の力を借りて自然界の力を操作する。


『精霊』には、地・水・火・風の四大精霊がいるそうだ。


基本的に一度に契約できる『精霊』は一つに限られており、契約したもの以外の『精霊』は使用できない。


僕が『風』の魔法しか使えなかったのは、このためか。いったい、いつ『風』と契約したのだろう。まぁ、それについては今はどうでもいい。


『魔法』は古来は呪文によって発動していたが、近年は『魔方陣』による術式が定番となっている。



と、ここまでが魔法の概要だ。


『精霊』についてはよくわからないが、この世界の自然と『マナ』を繋ぐ象徴的存在のようである。


あとは読み進むと『魔方陣』に関しての説明がずらりと並んでいた。ここから先はじっくり読んでいかないと理解できなさそうだ。



とりあえず『魔方陣』の研究は後回しにするとして、『マナ』について、さらに詳しく調べることにした。



別の書物を漁ると、『マナ』の豊富な人ほど、その身体が強固になっていくとあった。嫁さんの強さも『マナ』が影響しているのかもしれない。


しかし、『マナ』には一長一短があり、大量の『マナ』は生物の肉体構造にまで影響を与える場合がある。


人間が大量に摂取すれば中毒を起こして死んでしまう。

動物が大量に吸収した場合は『モンスター』へと進化し、凶暴化する。


特に動物は人間と比べて『マナ』の影響を受けやすく、濃度の高い地域では、数多くの強力な『モンスター』が誕生しやすい。


よくある設定だな、と思って読んできたが、ふとここで思う。

ウチの嫁さんは今、果たして人間なのだろうか……と。


しかし、人間が『マナ』によってモンスター化した事例は全く無いとされていた。人間の場合、自分自身の『マナ』が反作用を起こし、自然界の『マナ』を自然に吸収することは無いという。ゆえに『マナ』濃度の高い地域にいてもモンスター化することはない。


例外として『魔王』から直接『マナ』を注入されたものが魔族へと変貌するという。


やはり『魔王』が存在するらしい。


だとしたら、ウチの嫁さんが『勇者』で、『魔王』を倒したら日本に帰れるということはないだろうか。よくある設定だが、その可能性に賭けるのは悪くない。


あくまで仮説に過ぎないが、今まで全くゴールが見えなかった状況に一つの目安となりそうだ。


しかし、日本に帰ることを目的とするなら、まず、この世界に転移してきた原因をハッキリさせなくてはならない。例えば、何者かに呼び出された可能性だ。


そこで店主に聞いてみた。


「『召喚魔法』というものをご存知ですか?」


「『召喚魔法』?」


「ええ、何者かを自分のもとに呼び出す魔法です」


「さあねえ、聞いたことないなあ」


「そうですか」


「ああ、でもあれか、『勇者降臨』は聞いたことがあるよ」


「『勇者降臨』?」


「いや、まあ、おとぎ話さ」


「どんなお話ですか?」


「どんな、っていうより、勇者様のおとぎ話はみんな、どこか別の世界から呼び出されているのさ。人々の願いを受けて、魔王を滅ぼす平和の使者としてね。お兄さん、読んだことないのかい?」


「すみません。故郷が遠いもので」


「子どもでもみんな知っているさ。まあ、ほんとに別の世界から勇者様が来たなんて、誰も信じちゃいないだろうけどね」


「はははは、そうですね……」


どうやら可能性がありそうだ。

僕たちをこの世界に呼んだのは、この世界の”誰か”であるということが。


そいつを探し出すのが第一の目的だ。

ようやく一つの光明が見えてきた。


これで今日の情報収集は完了と言っていい。だが、せっかく本屋に立ち寄っているので、もう一つ店主に聞いてみたいことがあった。


「ところで、これを見て欲しいんですけど」


「なんだい、それ?魔導書かい?」


「ええ、どれくらいの価値がありますか?」


「いやあ、すごいね、珍しいな。骨董品としては一流だよ。どこで見つけたんだい?」


「え、骨董品?」


「しかも、これ新品じゃないか。これなら高く買い取るよ」


「いえ、売るつもりは無いというか、使ってるんですけど……」


「え!今どき?」


「は……はい……」


「へぇーー。『宝珠』は使わないのかい?」


「『宝珠』?すみません。『宝珠』を知らなくて……」


「えっ知らないの?『宝珠』だよ?『宝珠』?」


「……はい」


「はははははっ!そうか、お兄さんの田舎には『宝珠』が無かったのか」


この感じは何だろうか。

例えるなら、スマホが当たり前の現代において、スマホを知らないと言ったら、このような反応をされるだろうか。


「でも、それ。お兄さんが腰にぶら下げている、その杖。そこに付いてるのは『宝珠』だろ?」


「え、これ?」


腰のベルトに付けた小さな杖。これは、この世界に来て最初から持っていたものだった。使い道がわからず、僕自身もその存在を忘れていたくらいである。


「うん。先っちょに『宝珠』が5個も付いているじゃないの」


確かに杖の先端には、大きめのビー玉のようなものが付いている。中央に1つ。それを囲むように4つ配置されていた。一つ一つはスーパーボールくらいの大きさで、半透明の綺麗な結晶体だ。


店主は『宝珠』について簡単に説明してくれた。


『宝珠』は、内部に魔方陣を刻み込むことができ、同時にマナを保管することができる。そこに発動のためのわずかなマナを注ぎ込むことで、いつでも瞬時に魔法を発動できるという。


つまり、『宝珠』には『魔法』そのものが蓄えられているのだ。


『宝珠』は既に広く普及しており、『宝珠』を持たないハンターは皆無だという。


『宝珠』については比較的新しい技術なので、まだ本が書かれていないらしい。現代社会なら、最新技術はどんどん雑誌に載ったり、ウェブに公開されたりするだろうが、そういう時代が来るには、この世界はまだ早すぎる。


実際の詳しい使い方や戦い方は現役のハンターに聞くべきだと言われた。そんなに便利なものなら、是非とも使い方を教わらなくてはいけない。



有力な情報を得たところで、僕は本屋を後にし、バーリーさんの家に戻ることにした。既に夕方になっていた。ずいぶん長いこと本屋に入り浸っていたようだ。


途中、見かけたギルド支部の方面は、やけに賑やかになっていた。ギルド支部の隣が酒場兼宿屋になっているのだが、そこが大繁盛しているようである。



「おかえりぃ。遅かったね」


バーリーさんの家では、既に嫁さんが子ども達と仲良くなり、庭で一緒に遊んでいた。


服も新しいものに着替えている。

太ももを出さない程度で、軽めの服を選んだようだ。


「蓮くんの服も買っておいたよ」


「ありがとう」


「外出するときはフードまで被るけど、家にいるときは普通でいいんだって。庭にいるときでも」


「へぇーー」


「でも、こんな塀も無い庭なのに、家の中と外を気にするなんて、心が広いんだか狭いんだか、わからないね」


笑いながら言う嫁さん。確かにそのとおりだ。


「ところで、どう?」


「うん?」


数秒間の沈黙。

嫁さんは体をこちらに向けて静止しつづけていた。

何が「どう?」なのか理解できず、僕は聞き返してしまった。


「……え、何が?」


「はあぁぁぁ!?え、何が、じゃないでしょ?せっかくこの世界の服に着替えたのに!」


「あ、あぁ、そうだね」


「そうだね、じゃなくてっ」


「いや、いいと思うよ」


「適当に言ってるでしょ」


「いやいや、ほんと、いいと思う」


「ここの人たちから違和感ないように、でもちゃんとかわいくなるように工夫してコーディネートしたんだよ!」


「なるほどね。さすがだよ」


そう説明されると確かに工夫されている。

一見、村の人たちと同じような服を着ているようで、着こなし方が現代風だった。


「だったら、もっとこう、すごい!とか、かわいい!とか、超かわいい!とか、あるでしょう?」


いや、”かわいい”と”超かわいい”に違いはあるのか。

実際のところ、本当にかわいい。

しかし、なんだか悔しいので棒読みで答えることにした。


「ハイ、チョーカワイイです」


「……………」


ジトーッとした目でこちらを見続ける嫁さん。


「ワン・モア・プリーズ」


「……チョーカワイイです」


「しょうがない。よしとしましょう」


服のことには鈍感な僕なので、いつもこの点では嫁さんに怒られる。今回はこれで許してもらえたようだ。

周りでは子ども達が大笑いしていた。


「あははははは。このお兄ちゃん、お嫁さんに叱られてるぅ」


なぜだか、嫁さんに叱られている僕の姿がツボだったらしい。

そんなに面白いことだろうか?


家の中に入ると、バーリーさんには別の来客があるようだった。

忙しそうなので声を掛けるのは後にする。


僕は嫁さんに買い物の結果を聞いた。


ストローさんの食材の買い出しも手伝ったらしく、食べ物に関する知識や物価についても教わったらしい。


「日本円で考えてみたら、食べ物はだいたい半分以下で買えたよ。服はちょっと高めだった」


「服も現代社会のように大量生産されていないからね。全て手で作られているんだろう」


「食べ物も、私たちが知ってるものがほとんどだったよ。見たことないのも少しあったけど」


食材については、僕も是非知っておきたい。

嫁さんが夕食の手伝いをするというので、僕も手伝わせてもらおうと思った。


ところが、


「やだねぇ!男の人が台所に入るもんじゃないよ!」


と、ストローさんからお叱りを受けてしまった。

まるで、江戸時代以前の日本のようだ。


結局、息子さん達の奥さんを含めた女性陣4人で夕食を準備してくれた。


その間に嫁さんが用意してくれた新しい服に着替える。昨日から着の身着のまま、野営までした上、途中でびしょ濡れになったので、服がベタベタだった。新しい服が気持ちいい。嫁さんのコーディネートは素晴らしく、僕にもピッタリ合っていた。


居間に向かうとたくさんの御馳走が用意されていた。こちらの世界、この地域の自慢の料理らしい。お酒まで用意してある。この世界では17歳でもお酒が飲めるようだ。


そして、バーリーさんの向かいには、先程の客人が座って残っていた。30歳前後に見える、筋骨逞しく、精悍な顔立ちの男性だ。


「それにしてもバーリーさんも人が悪い。帰って来てるなら、言ってくれればいいものを」


「いや、すまないな!というより入れ違いだ。まさか俺の捜索にお前たちが動いてくれてるとは、思いも寄らなかったからな」


「しかし、聖峰まで行かなくて正解でしたよ、バーリーさん。今、聖峰の入り口ではドラゴンが出没していますから」


「なに、それは本当か!俺は一度も会ったことがねえ!」


「我々も初めてでした。かなり気が立っていましたね。すぐに撤退したので事無きを得ました。人前にはめったに姿を現さないドラゴンがふもとまで降りて来たんですから、聖峰で異変が起こっていることは間違いなさそうです。しかし、さらに腕の立つハンターを揃えないと聖峰の調査は無理だと思います」


「そうか……」


と、ここで僕が来たことにバーリーさんが気づいた。


「おお、来たか、あんちゃん。紹介するよ。ハンターギルドから来た討伐隊の隊長、『アッシュ』だ」

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