小競り合いと別れ

ルーアンテイルからフレーデルの街までは、徒歩で一月もの時間がかかる。早馬で駆けても一週間はかかだろう。王国軍の一団がフレーデルの街を占拠している情報経て、ルーアンテイルから出陣した第一陣は、そこから少し離れた丘の上に陣を構え、常に王国軍ににらみを利かせていた。そして、第二陣はフレーデルから西に二日ほどの距離にある大平原に、簡易的な拠点を建設していた。この拠点は、フレーデルからルーアンテイルまでの間にいくつも建設し、防衛線として機能するものだ。簡易的とはいえ、棘柵に囲われていて、戦闘面においても申し分ない作りになっている。もっとも、王国軍がこちらへ進軍してくることは、ほとんどないだろうが。

第二陣の中には、鷹の団の後衛隊、すなわち精鋭が名を連ねていた。リベルトは、その中でも小隊長を任されており、普段共にしている団の仲間たちのほかに、義兵団のいくらかとも作戦を共にしているのだ。

「リベルト殿、第三陣からの伝書鳩がついています。」

「おぅ、後ろもやっと動いたか。ずいぶん遅かったなぁ?」

まだ若い義兵団の少年がリベルトに小さな伝書の筒を渡してきた。彼は、リベルトの身辺の雑務をこなす、いわば補佐官だ。

「詳しいことはわかりませんが、ルーアンの街が、一度襲撃にあったそうです。」

「襲撃ぃ?まさか、軍隊があの都市に向かっていたのか?」

「いえ、少数による夜襲だったそうです。住民からも被害出るほど、かなり激しい戦闘になったそうで。」

淡々と語る少年とは違って、リベルトの眉根はぎゅっと寄っていた。都市に残った仲間たちが無事かどうか確かめたいが、今は勝手に動けない状況だから、もどかしい気持ちだった。息子であるレリックだって、腕は自分でも認めるくらいのものだが、万が一ということもある。それが戦争というものだ。せめて、こちらからも文を送れればいいのだが。

「それと、今日から三日後に第4陣が最後の拠点建築に向けて出立するそうです。」

「・・・そうか。やっと、体制が整うわけか。まぁ、補給拠点を4つも立てれば、前線への補給も楽になるだろうなぁ。」

この拠点を立てる目的というのは、単に防衛線を張り巡らすというものではない。フレーデルとルーアンテイルの間には、街も村も存在しない。そんな距離を、言ったり来たりしなければならないのは、効率が悪いし、何より、前線での情報が届くまでに時間がかかる。それを解消するために、等間隔で拠点を張り巡らし、情報や物の行き来を短くさせるのだ。そして、最終的にはこの拠点は、新たな開拓地となり、村となり、街となっていく予定だ。ミズハは戦争に負けることは考えていない。この戦争は勝って当たり前のもの。しかし、ただ勝つだけでは何も得られない。せめて、この戦争によって、ルーアンテイルに新たな風が吹くように、その下準備を始めているのだ。

リベルトにしてみれば、負けを考えないという点は、気が合うのだが、実際に戦わされる身としては、やや複雑な思いがあった。現状、王国は東の小国連合とドンパチしている状態だ。こちらに戦力をまわす余力はないだろう。しかし、それは王国の戦力をある程度把握していればの話だ。ミズハどれくらい敵の戦力を把握しているかは知らないが、それを上回る数が王国にあるのだとすれば、ただ座して勝てるほど楽な戦争ではないだろう。それに、補佐官の少年が伝えてきた伝書には、厄介な話も混ざっていた。

どうやら、魔法士が戦争に参加しているらしい。都市の襲撃は、魔法によって強化された人間を送り込まれたそうだ。並の人間では、太刀打ちできない化け物だったらしく、ますます不安要素になっていた。

「おやっさん。めし、もってきだで?」

天幕の向こうで炊き出しをしているシジョが、暖かなスープと握り飯を持ってきた。

「おお。悪いな。」

「坊主の分もあるで?」

「ありがとうございます。」

シジョの体格は、少年の三倍はあろう巨体だから、少年もそこそこの体つきをしているのに、まるで赤子のように感じられた。

温かいスープを喉に通すと、体の芯から温まっていく。うまいもんを食べれば人は誰しも心が満たされるものだ。やや大きめの握り飯にかぶりつきながら、机の上に広げられた周辺の立地を記した地図に目をやる。

「連中、どこからルーアンテイルに、向かったと思う?」

同じく食事をとっている、少年に向けてそう聞いてみた。少年は口の中のものを飲み込んでから、少し考え込んでいた。

「そう、ですね。フレーデルの街から部隊が出発すれば、第一陣から連絡が入ると思います。フレーデルとルーアンテイルは、街道の一本道ですし、最短で向かおうとすれば、我々とどこかでかち合っていたはずです。」

「つまり、違う道を通って、ルーアンへと向かっていた。しかも、タイミング的に俺たちが年を出る前に王国から出たとみていいだろう。」

リベルトにとっては、それが予想外のことだった。この戦争はミズハが、小国連合と結託して起こしたものだと思っていた。王国はそれを予期していて、先に動いていたというのだろうか。それほどに頭の切れるものが王国にいるということだろうか。国王不在の国など、恐れるに足らないと思っていたが、そこは腐っても侵略国家ということだろうか。

「あるいは、別の拠点があるのかもしれません。」

「うーん。あるとしたら、どのへんだろうな。」

フレーデルから西の街や村には、王国の手は伸びていない。国力の落ちたアストレアは、かつてはルーアンテイルを飛び越え、さらに西のグレイモアの街まで統治していたが、それも過去の栄光だ。それぞれ、力のある貴族や起業家が、取りまとめてはいるが、彼らは王国に力を貸したりはしないだろう。もともと各都市や街から、戦争のための兵力をかき集めていたのだ。自治区の未来ある若者を道具のように扱う王国は、当時から民衆の反感を買っていたのだ。

それでも、可能性としてはない話ではない。ルーアンテイルを襲撃する程度の、小部隊を匿う程度の協力。そもそも、旅人などにまぎれれば、わざわざ協力を得る必要もないのだから。

リベルトはしばらく考えた後、少年に大隊長への伝言を頼んだ。第二陣の総隊長である、義兵団隊長のキラ。面識はなかったが、向こうはどうやらこちらを知っているようで、今ではなかなか信頼してもらっている。そんなキラ総隊長殿に頼んだ内容は、鷹の団の人員を使って、周辺の警邏を行う許可が欲しいというものだ。ここにきている仲間たちは六十人くらいいるが、総数の少ないルーアンテイル軍にとっては貴重な戦力だ。それを割いてまで、警邏をしたほうがいい理由も、少年に伝え、自分は仲間たちの元へ向かった。

「リベルト、仕事か?」

「あぁ。少し気がかりなことがあってな。」

仲間たちに、第二陣の拠点周辺にある街や村へ駆けまわるように指示を下した。キラからの返事は来ていないが、断られる理由もないし、全員を生かせるわけではないから、問題ないだろう。

「よろしく頼むぞ、お前ら。くれぐれも気を抜かずにな。グルードみてぇなって帰ってくるんじゃねぇぞ。」

リベルトのまなざしは真剣そのものだった。仲間たちはそんな団長の表情と声音を理解し、気を引き締めて馬で駆けだしていった。

「また、魔法士がいやがんのか?」

後ろで斧を磨いていたグルードが、苦虫をかみつぶしたような顔で聞いてきた。

「ああ。どうやらそうらしい。お前さんの腕をめちゃくちゃにした魔法を使う輩も、いるかもしれねぇなぁ。」

グルードは、以前、魔法士にやられた腕をさすりながら、

「あの野郎のせいで、両手で獲物を振れなくなっちまったからなぁ。」

と、悔しそうにつぶやいた。グルードは、フェロウ一家の剣で、腕こそ無くならなかったものの、重いものを持てなくなってしまっていたのだ。

「ハルのやつでも、連れてくればよかったんじゃねぇか?」

「あいつは狙われてるんだ。こんな前線に持ってこれるわけねぁだろう。」

「いやぁ、あいつだけなんだぜ?体がボロボロになっていなかったのは。魔法に関しちゃ、あいつのほうが、俺たちなんかよりも上手だろうさ。はっはっは。」

リベルトは、そんなグルードの様子に驚いていた。珍しい冗談を言ったかと思えば、本気で言っていたらしい。リベルトも、彼女の潜在能力には驚かされてはいるが、そうはいっても、まだ十七の娘っ子だ。下手なことはさせられない。

「まぁ、向こうも大変みたいだがな。あいつだけじゃなく、みんな無事だといいんだが。」

団長として、そして人の親としても、心配の種は尽きないものだ。グルードも、所帯は持っていないが、同じような気持ちだろう。戦争で誰も死なないなんて言う、そんな奇跡は起こりはしないのだ。



一度相手にしたからと言って、また同じように戦えるかと言われると、そんなことはない。戦いに慣れることはあっても、戦いそのものに慣習というものは絶対にない。相手が正体不明の化け物ならなおさらだ。

「ハル!そっち行ったよ!」

アンジェの鋭い掛け声に反応し、小さくも頼もしい重量の小盾を構える。そこへ、とんでもない速度の拳が突っ込んできた。無理に受けようとすれば、こっちの腕がいかれてしまうから、あえて食らうがままにされ、体制を崩さないように吹きとばされた。そして、地面を転がるようにして勢いを殺し、素早く立ち上がる。盾で受けた腕は少々痛みがあるが、致命傷にはなっていない。これが、一度目の襲撃で立てた、対怪物戦術だ。

襲撃があったのは早朝だった。日が昇り、視界が晴れている状況の中、あの怪物が城門を力ずくで破ってきたのだ。まさか、正面突破をしてくるとは思ってもいなかったが、あいにく、城門付近には、多くの義勇兵や、魔法士たちも控えている。すでに対策は済んでいたのだ。

怪物はなおもハルを追っかけてまっすぐに、無謀に突っ込んでくるが、その体はすぐに地面から浮き上がり、空中で静止した。

「矢の用意を!」

誰かが指示を出しているのが聞こえる。こうなってしまえば、どんな相手だろうと抗えはしない。矢を素手で止められるというのなら、それはそれで構わないが、宙に浮いた状態では体をひねることすら出来ないのだ。後ろからの攻撃には対処できないだろう。

「何やってるの。早くゆみを!」

朝早いせいか、防衛部隊の動きはやや鈍かった。ハルとアンジェは、見張りをしていたから、全然目が覚めているが、今しがたたたき起こされた人たちは、そうはいかないだろう。

「私がやります。」

ハルは、近くに並べてある槍を一本持ってきて、そのやりに魔法で火を纏わせた。ハルの意図を組んだ魔法士が、当てやすいように高度を下げてくれた。軽い助走をつけながら、至近距離で燃える槍を怪物の背中へ投げ刺した。鋭い槍先は、貫通こそしなかったものの、怪物の分厚い筋肉に突き刺さり、そのまま怪物の体を焼き始めた。以前は、火をつけても動き続けていたから、このくらいじゃ死なないと思っていた。だが、当たり所が良かったのか、怪物は体を痙攣させた後、ぐったりとして動かなくなった。

「・・・やった?」

「まだ、わかりません。・・・囲んで手足を墜としましょう。」

集まりつつあった兵士全員で怪物を囲み、魔法士の合図で一斉に切りかかった。魔法が切れても、怪物は身動き一つ取らず、されるがままに手足を切り落とされていった。燃えたまま、体が五つに分解されたが、やはり絶命しているようだった。それを見届けてようやく、ハルは大きく息をはくことが出来た。集まった人たちからも、緊迫した空気が抜けていくのが感じる。どうにか、以前よりもスマートに対応できたようだ。やり方は酷く残虐だが、相手が相手なだけに、こうする他ない。

すぐに魔法士たちが集まってきて、消火された遺体を調べ始めた。いったいどんな魔法が使われているか調べているのだろうが、死んだ体の魔力を調べるのは難しいのだろう。

「やったね、ハル。」

アンジェが近寄ってきて、握りこぶしを突き出してきた。ハルも表情を緩めて、その拳に合わせるように、自分の拳を突き出した。こつん、と拳同士をぶつけて勝利を勝ち取ったことを祝った。

「それにしても、また、こんな怪物が来るなんて。」

「あたしは初めて見るけど、本当に化け物だね。人に見えるけど、本当に形だけだね。」

城門は木材と鉄の複合素材でできていたが、その扉をいとも簡単に、馬鹿力で突破してきたのを見れば、いかに恐ろしい敵か、アンジェも思い知ったことだろう。

ただ、今回は以前のような奇襲ではなく、文字通り正面から突っ込んできたのだ。というのも、見張り塔から、やつが城壁に近づいてくるのが丸見えだったのだ。だからこそ、対応も早くできたし、応援を呼ぶ暇だってあったのだ。だから、城壁内では万全の準備が整えられ、それでも飛び込んできたということは、

「この怪物には、意思がないんじゃ・・・。」

魔法によって操られているのか、それとも何か指示を下されると、それしかできなくなるか。とにかく、この怪物には裏をかくような、駆け引き的な知能はないのかもしれない。獣のように、本能で動いているのだろう。

「二人とも、少しを状況を聞かせてくれ。」

このあたりの指揮を任されている義兵団のものに、ハルとアンジェは呼び出された。天幕の中で、ことの一部始終を報告した。

「今回は一人だけか。」

「そうみたいです。それに、奇襲って感じでもなかったです。」

「うむ。とにかくご苦労だった。昼の番と変わって、よく休んでくれ。必要であれば、夜の番も代わりをつけよう。」

大きな怪我もないので、それは遠慮しておいたが、すぐに昼の見張り役が来て、交代することが出来た。アンジェと共に、駐屯所の炊き出し場に向かいながら、襲ってきた怪物のことを考えていた。

一番最初の奇襲から、すでに一月近くの日数が経過していた。見張りの仕事も板についてきてはいたが、ルーアンテイルは定期的な襲撃にあっていた。ハルたちが直接遭遇したのは、今日が初めてだったのだが、大体二日に一回くらいの頻度で、あの黒い怪物が襲撃に来ているのだ。最初の襲撃がってから、ルーアンテイルは城壁買いに外出することを禁じ、物資運搬以外の出入りを制限していた。つまり、外から来るのは、敵か周辺都市からの物資供給のみで、後者であってもかなり厳しい検査の上、入場できる状態だ。そのおかげもあってか、怪物の襲撃はいつも城壁外で対処できており、住民からの犠牲者が出ることはなくなった。だが、城壁内にこもっているせいで、敵がどこからやってきているのか、いまだにわかっていない状況だった。

炊事半から、温かい朝食もらって、適当な席に着いてから、アンジェが先に口を開いた。

「これで、何回目だろうね。人的被害が出てないとはいえ、こうもひりついていたら、みんな参っちまうねぇ。」

「そうですね。せめて、敵の出所がわかればいいんですが・・・。」

近いうちに遊撃隊を編成して、打って出るなんて話も合ったのだが、今はまだ前線とのバイパスをつないでいる最中だから、下手に部隊を動かせないらしい。ましてや、街の中の守りを薄くするなんてもってのほかだ。

一度は住民たちも恐怖におびえる夜を過ごしてはいたが、今ではどうにか平時に近い状態に戻ってきているように見える。それでも、食事や生活に必要な物資を制限されての生活は、人々の精神をすり減らしているだろう。

「はぁ、団長たちも、もう簡易拠点を作り終えた頃かな。」

「拠点が出来上がっても、戻ってこれるわけじゃないんですよね?」

「ああ。もっとも、東の主戦場次第じゃ、全軍で突撃する予定もあるそうだから。長くはなら兄と思うよ。」

戦争が早くに集結してくれるのは喜ばしいことだが、どちらにしろ、待つ立場は辛いものだ。この温かい食事も、無限に食べられるわけじゃないのだ。どれだけ栄えた都市であっても、限界はある。こうも襲撃が続けば、周辺都市からの物資供給も安全とはいいがたい。戦略的に城壁内にいれば安全であっても、物資供給が途絶えれば悲惨なことになりかねない。ある意味閉じ込められているといっていいだろう。それぐらい、あの怪物は脅威と呼べる存在なのだ。

「でも、連中も馬鹿なのかどうかわからないけど、攻めるなら一気に攻めればいいものを。どうして一人や二人ずつしか送り込んでこないんだろう。」

アンジェの疑問はもっともだ。あの体が、ミランダたちの推測通り、魔法によるものならば、何十体も作り出せたりはしないのかもしれないが、わざわざ小分けにして攻めてくる意味が分からない。強大な戦闘力を有していても、少数ではどうにもならないことは向こうもわかっているはずだ。

「何か。目的があって送り込んでいる、ってことですかね?」

「目的って言ったって、あんな脳筋に、戦う以外何ができるってんだい?あいつらに、ものを考える能があったとして、あんな風に暴れ始めたら、隠密どころじゃないだろうに。」

「そうですね。」

目的が見えない敵ほど恐ろしいものはない。ただ、こういっては何だが、敵は本当に何も考えていないように思える。何の戦略性もないことに向こうが気づいていなければ、間抜けとしか言いようがないが。

「ん?あれ、監視についてた坊やじゃないか?」

肉まんのような料理を片手にアンジェが指さした先には、確かにエイダンの姿があった。義兵団の制服ではなく、軽装鎧を身に纏い、他の義兵団たちと共に、城門のほうへ向かっていた。もしかしたら、依然話していた、交易路の開拓を行う部隊として、出立するのするのかもしれない。

「やけに少ないね。まぁ、戦力はできる限り減らさない方針なんだろうけど。」

確かに、彼の隊長であるグラハムの姿もあったが、一部隊としては少なすぎる気がする。工作部隊といっても、それを行うのは兵隊ではなく住民たちだから、それを守れるだけの戦力が必要だと思うのだが。

「・・・わたし、ちょっと挨拶してきます。」

「あ、ちょっとハル・・・。」

料理を頬張っているアンジェをおいて、ハルは、エイダンの元へ駆けて行った。彼の後を追いかけると、すでに城門付近には、かなり少数のキャラバンが出来上がっていて、そこには馬にまたがるエイダンの姿もあった。出発にはまだ時間があるようで、準備に勤しむ人の中をかき分け、ハルはエイダンの馬の元へ寄っていった。

「エイダン。」

「ハル・・・。」

こちらが声をかけると、彼はウマから降りて、頭につけている額あてを外した。

「行くんだ。」

「ああ。ようやく体も動くようになってきたからな。最も、俺に合わせて出立が遅れたわけではないが。」

本当ならば、もっと早くに工作部隊は出ていくはずだったのだが、怪物の襲撃があってから、延期されていたのだ。

「今朝も、攻撃があったそうだな。」

「うん。こっちは任せて。」

「任せてって、あんたに任せるのは少し不安だな。あんなヒョロヒョロ剣術じゃ。怪物相手は難しいだろう。」

「ちょ、なによそれ。魔法だって使えるんだから、十分な戦力でしょ?」

「どうだろうな。あんま無茶はするなよ。」

やっぱりこの青年は、なんとなく気に入らない。特に剣術を披露してからは、あからさまに見下しているような気がする。いや、確かに頼りないかもしれないけれど、わざわざ言わなくてもいいだろうに。

「どれくらいで帰ってくるの?」

「ん?あぁ、交易路の安全確保が目的だからな。そう日数はかからないさ。十日か、最長でも十五日しか食料を積んでいないから、それまでには帰ってくる。」

「そう。・・・頑張ってね。」

「ああ。」

話しているうちに、キャラバンの準備が整ったらしく、ハルは、景気づけに彼の肩をバン、と叩いてやった。それに対してエイダンは笑って答えてくれた。

数にして約三十人ほどのキャラバンが、やや駆け足で城門をくぐっていった。戦地へ赴くわけではないにしても、危険がないわけでもない。彼のことは、やっぱり気に入らないが、またあのめんどくさい言い回しを聞けることを、ハルは、心の奥底で願っておいたのだった。

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