一瞬の隙に

深夜にルーアンテイルを出発したため、眠気は極限まで達していた。見晴らしのいい場所で、初めの休憩を取ることになり、それぞれ交代で仮眠をとる。仮眠の間も気を抜けないのが今回の辛い所だ。だが、人間はずっと起きていることなどできはしない。その気になれば数日くらいは寝ずに生活することは可能だろう。だが、それは心身に異常をきたすことを無視した場合の話だ。そんな状態で戦うなど、それこそ無理な話だ。そうでなくとも、幼い子供には、夜通しで起きているなど無理な話で、休憩に入るだいぶ前から、ルナはアランの背中でうとうとしていた。

ハルも休憩と同時に睡眠をとることにしたのだが、意外と眠ることが出来なかった。当然横になって寝ることはできないのだが、それでも目を閉じれば自然と眠れるものと思っていた。それなのに、身体が少しばかり興奮しているのだろうか。いやらしい意味じゃない。これから来る戦いに対して、武者震いでもしているのだろう。実際に震えているわけじゃない。身体が完全に眠りに落ちるのを本能的に避けているのだ。

昨日から一睡もしていないため、少しくらい寝ておきたいのだが、これまたうまくいかないものだ。今は朝日が昇ってすでに数時間は経っている。仲間たちの幾人かは、夢のなかだ。周囲は、平原。見渡す限りの原っぱだ。靡く風はやや冷たく、野宿するにも厳しい環境だろう。敵の気配がないまま時間だけが過ぎていき、時間は無駄に神経をすり減らしていく。

「少しでも寝ておけよ。」

ふいに声を掛けられた。その声は滅多に自分に投げかけられることはなかったから、反応が一瞬遅れてしまった。ドランだった。眠そうな目をしていながら、仏頂面でこちらを見ていた。

「お前は、最重要護衛対象を守ってるんだから。寝とけよ。」

こんな時、どう受け答えすればいいのだろう。なにしろ、ドランのことはよく知らないし、少し不真面目な一面がある彼だ。正直に言えば、ハルは彼を少し蔑んでもいた。朝の稽古でも、打ち合いをしてすぐ隅っこで休み始めるのを何度も見てきた。それが悪いとは言わないけれど、少なくともいい印象は見られない。そんな彼から、心配をされているのか、あるいは、休憩時にしっかり休憩を取らない自分を叱っているのか、よくわからないのだ。一応先輩にあたる人だ。無視したりはしないけれど、あまり積極的に話をしたくはなかった。

「・・・眠れなくて。」

「無理にでも寝とけよ。ずっと起きっぱなしなんだから。」

確かにそうなのだが、そんな言い方をしなくていいと思う。言い方が何というか、嫌味に聞こえる様な言い方なのだ。本人はそんなつもりはないのだろうが、人によっては誤解しかねない言い方だ。

「ドランさんは寝ないんですか?」

相手がそんな態度なのだから、こっちだって少し生意気を言っても咎められはしないだろう。

「お、俺はこれから寝るんだよ。別にいいだろ!」

そうなるとこれだ。都合のいいひと、と思わずにはいられない。ハルより一つ二つ年上のはずだが、どうにも子供っぽい。結局ハルは目を閉じたまま、一睡もすることはなかった。そのほうが気が休まるからだ。無理に眠りについても、起きた時がつらくなるだけだ。逆にドランは寝るとか言っておきながら、ずっと起きていた。人には寝ろと言っておきながら、一人そこら辺をうろうろ、うろうろしていて、一向に落ち着きがなかった。彼は何も変わっていない。初めて彼の醜態を目にした、前の遠征のはじめの時から。新人のはずのハルが、心配になるほどその様子は挙動不審だった。

そんなドランに、ハルは何を思ったのか、つい声をかけたくなった。彼の後ろ姿から、なんとなくわかるものがあったからだ。

「ドランさん。」

「んぁ?お、おぅ。どうしたん?」

何気ない会話でも、大げさに反応して、そして、話しかけたハルから遠ざかるように身を引く。まるで、ハルに怯えているようだ。

「ドランさんも、・・・怖いんですか?」

「はぁ?なにがだよ。」

強気な態度をとっているが、彼は答えようとしなかった。その様子だけで、わざわざ口から利く必要はないだろう。彼にもプライドはあるのだろうし。

「いえ、・・・やっぱりいいです。生きて帰りましょうね。お互いに。」

彼はなおも何か言いそうだったが、どうせなにも、ちゃんとした言葉は言えないだろうから。彼は少々会話能力がひくいようだから。生意気かもしれないが、同じ高校の同級生らに話しかけた時のような感覚だ。意味もなくどもって、まともに会話ができない。友人たちにいわく、自分の目つきがきつくて、なおかつ美人だからだというが、二十歳にも満たない子供たちが、女子の容姿しだいでそんな状態になってしまうなんて、情けないものだ。要は本人の問題なのだから。

一緒に生き残ろうと、言ったものの、剣術の腕ならおそらく彼のほうが上だ。他人の心配をしている暇などない。魔法士を相手に、誰もが未知数の戦いが起ころうとしているのだ。この度で自分は、本当に死ぬかもしれないと、どうしても考えてしまう。今まで自分は、運が良かっただけだ。それは間違いない。誰が何と言おうと、ハルには、運命の導きなどない。こんな血なまぐさい仕事で、偶然生き残ってきたのだ。生きることに必死になるのはそう難しくないけれど、何もない今の時間は、本当に恐ろしい時間に思えた。


護送一日目。日が明るいうちは、できるだけ休み休み行軍し、夜のうちに一気に距離を稼ぐ算段であるが、何も起きない時間ほど不気味なものはない。後ろを振り返ってもそこには見晴らしのいい平原の景色が広がっているだけで、追手がかかっているようには見えない。おとり役二騎が離れた距離から付いてくるだけで、草原には人影一つ見当たらない。

日が沈む前にとった最後の休憩で、ブリガンドがおもむろに話をしだした。

「君たちには、感謝している。よそ者である私たちを、こんなに良くしてくれて。」

「依頼人はルーアンの人ばかりではないですから。気にしないでください。」

「いや、だとしても、君たちには謝らなければなるまい。」

そういってブリガンドは、レリックの前まで来て、頭を下げた。ハルも当然周りの仲間たちもみんな、彼をいぶかしんで見ていた。

「多くを語らずして、依頼を頼んだ我々を恨んでくれて構わない。今回の私たちの背後にいる組織は、王国でもかなりの力を有する者たちなのだ。」

魔法研究を生業とする国の機関とは聞いていたが、言葉の上でしか理解などできはしない。どれくらいの組織なのか、どんな性格をしているのか、実際に聞いていないから、気にすることもなかった。

「言いたくないことなら、話さなくても結構ですよ?依頼人の事情など、さわりだけ理解できれば十分ですから。」

レリックはそういうが、ブリガンドは首を横に振っていた。

「いや、おそらく君たちにも、いずれ大きな影響を及ぼすようなことだ。」

「どういうことです?」

「アストレア王国が、かなり国力を落としているのは知っているだろう?それは確かに事実であるが、・・・。」

ブリガンドはそこまで話をしておきながら、言葉を濁した。

国力の低下は、ルーアンテイルの住人であれば、みなわかっていることだ。アストレア王家に関するよくない噂も広まっていて、王国が滅ぶのは目に見えていた。

「王国は今、正当な王家を新たに見据えようとしている。今の王族に取って代わる権力を建てようとしている。・・・魔力を持つ者を、王にしようとしているのだ。」

彼の言葉を聞いて、ハルは少しだけ嫌な予感がした。レリックや、仲間たちの何人かが、自分をちらっと見てきたのも、偶然ではないだろう。ハルが白髪の君として王族から懸賞金をかけられたのは、そういうことなのではないだろうかと。そういいたいのだろう。仲間たちには、魔法が使えることを全員に話しているわけではない。だがここにも幾人かは、それを知っている者がいる。そこに、ブリガンドが言う、魔力を持つ者を王に据えようとしている王国の陰謀が、何もかも偶然ということにはなるまい。

「魔力を持つ者、というと、魔法士を、ということですか?」

「いや、正式な魔法士でなくとも構わないのだ。君たちには縁遠い話だから、よく分からないかもしれないが。魔力を持つ、まだ魔力の質が定まっていない子供たちを王国は欲しているのだ。」

ブリガンドの話は、確かに一般人には縁遠く、理解の難しい話だった。ルーアンテイルの魔法大学でミランダから幾ばくかの知識を授かったハルでさえも、頭がこんがらがってしまった。だが、かいつまんで言えば、人が持つ魔力、その性質は生まれた時は、まだ無色透明な水のようなもので、成長すると共に様々な色を持つのだ。そして、その色によって、その人が扱える魔法が変わってくる。もちろん大前提として、魔法を発現する才能が無ければ、魔法を行使することは出来ないのだが。そのような色をブリガンドは魔力の質と呼んでいた。魔力の質は、人間の成長過程で人為的に変えることが出来るという。だがそれは、ある種の賭けであり、失敗すれば一度変質した魔力は、元には戻らないという。王国の研究機関では、それによって新たな魔法士を育成していたらしいが、話で聞くよりうまくいっていなかったようだ。だからこそ王国は、あらゆる可能性の芽を手に入れるために、才能ある子どもを魔法士に仕立てようとしているらしい。

「魔法士の、いや、魔法使いの才能は遺伝しやすい。私はもちろん、妻も些細な力だが魔法が使える。そしてそんな私たちの間生まれた娘も、まだその兆しは見えないが、魔法の才能があるだろう。奴らはそれを狙っている。」

「でも、それなら命を狙われる理由にはならないんじゃ?」

そう言う意見にたどり着くのは自然の流れだ。みんながそれを訴えるように視線を投げかけた。

「今話した魔法士の育成法は、正真正銘人体実験だ。表沙汰には知らされていないし、王国民は知りもしない。そんな非人道的な行いを、一国の王族が行っているとなれば、問題視する者たちはいくらでも現れるだろう。そんな事実を知っている私たちを消そうとするのは、当然の流れだろう。」

つまり、これで鷹の団も追っ手の殺しの対象に加わってしまったということだ。そうでなくとも向こうはここにいる全員を抹殺するつもりなのだろうが。

「私は新たな魔法の開発を続けられれば良かった。現に私は、新たな魔法を開発し、それを国に認められ、その魔法を誰でも扱いやすいようにするよう、命令されていた。」

「どんな魔法なんですか?」

「痛みを和らげる、あるいは取り除く魔法だ。切り傷、骨折、頭痛、病気、人間に起こるあらゆる痛みを取り除くことが出来る。医術士からはかなり好評だったよ。大けがをしている患者にその魔法をかけると、比較的安全に施術することが出来るからね。もちろん痛みが無いだけで、傷そのものを取り除いたりは出来ないから、まだまだ研究の余地があるけれどね。・・・私は、本当の意味での、癒しの魔法を編み出したいのだよ。」

ブリガンドの言う癒し魔法とは、おそらく痛みだけでなく、外傷や病原そのものを取り除く魔法の事なのだろう。それこそ、魔法と呼ぶべきまさに奇跡の力だ。魔法を知るものだからこそ、それが難しいことか、彼は理解しているだろうに。この世界の魔法が万能ではないということを。

それでも彼が成した新たな魔法を開発したことは、偉業と言っていいだろう。きっと、ミランダ辺りに話せば、また自分の世界に入って、ぶつぶつぶつぶつ何かを唱え始めるだろう。

「娘が狙われているというのもそうだが、私はあの研究機関ではやっていけないと思った。目指すものが違っていたんだ。私は王国の発展のためにと、日々努力してきたつもりだった。だが、他の研究者たちが求めているものは、戦争のための道具作り出すことだけだったんだよ。」

「戦争?アストレアがまたどこかと戦争するということですか?」

「実際にどこかの国と戦うということでない。だが、今のアストレアが東の国々との戦争を境に衰退の一途を辿り始めたのが、大きく起因しているのだろう。かつては数万の軍勢があったが、今ではもう数千の兵力を維持するのがやっとの国だ。魔法と言う、人知を超えた力に頼り、戦力と数えるのも不思議ではないだろう?」

東の国々との戦争について、ハルはあまり聞かされていないが、侵略国だったアストレアは、東の小国同盟に戦争を吹っ掛けたのだ。戦争中に国王が亡くなり、その後も戦争は続いたが、戦線維持ができずに大敗したという。前国王あっての戦争で、王がいなくなった途端、まとめるものがいなくなった国は、まともに機能がしなくなったのだそうだ。国王が有能だったのか、他が無能だったのか。それが、歴史の教科書に載ってそうな一国の没落までの流れだ。

そんな国が、魔法の力で再び侵略しようと考えているならば、臣民やその他の民たちからはお笑い種と捉えられてもおかしくはないだろう。魔法を知っているものからすればなおさら。魔法士の才能は、そう易々と見出せるものではないし、実現したとしても、その力は戦争を左右するほどの者ではないのだから。

長話をしているうちに、辺りは夜闇に包まれようとしていた。順当にいけば、明日の昼頃には目的地であるパルザンの街へ着く。襲撃があるとすれば、今夜か、あるいは早朝になるだろう。夜の間は、常に移動し続けているから、夜が明けた頃。相手にからしてみれば、それが最後のチャンスになる。街へ着けば、フェロウ一家は、身の安全を確保できる。だが向こうからしてみればその事実を知らない。護衛がついている時より、街中で襲う方がいいと考えているのかもしれない。

あらゆる事態を想定しても、結局は仮定にしかならない。追手がかかっているのかどうかいちいち確かめている時間はないのだから、最速で街を目指すしかない。

二度目の夜の行軍は、さすがに疲れを感じるものだった。馬に揺られているだけと思うだろうが、乗馬は見た目よりも激しく体力を消耗する。大の大人であれど、両足がふらつくほど疲れが出るものだ。ましてや幼い子供には、かなり酷なみちのりだっただろう。ハルの懐で、ルナの意識は朦朧としていた。眠気と、疲れと、緊張が、ぐちゃぐちゃに絡まって小さな体に襲い掛かっているのだ。ハルが、後ろから抱えてやらないと、今にもアランの背から落ちてしまいそうなほどに、その体は弱り切っていた。今この瞬間に、襲撃にあっても、アランを走らせ続ければ、追いつかれることはない。だが、アランを止められてしまったら、きっと彼女の足では逃げ切れないし、地に立つこともできないかもしれない。

目の前の小さな子供の身体を抱きながら、ハルは胸の内が熱くなるのを感じていた。ブリガンドの話を聞いたとき、この子は、命を狙われているわけではないと知ったが、それでも自然と守ってあげたいと思えた。子供に感情移入するほど、自分はまだ大人になりきれていないと思っていた。自分がまだ子供なのだ。それに他人に同情するほどの余裕があるわけでもない。助けてもらえるなら、ハルだって助けが欲しいのだ。それなのに、今こうして誰かのために動こうとしているのが、自分でも不思議だった。仕事だから、という点を除けば、誰もこの子のために死ななければいけないという道理を、拒む権利は誰にだってあるはずだ。死にたくないという、生き物の根底にある本能に逆らえはしないのだから。けれど、人間は守ってあげたいという、目の前の愛に縋り付いてしまうものだ。今ハルが、その愛情と本能を天秤に架けた時、僅かばかり愛が重くのしかかっているのだ。そして、その先の結果に、自分なりの折り合いをつけているからこそ、守ってあげたいと思えるのだろう。



夜の行軍は、順調だった。やがて朝を迎え、空が白んでくると、昨日と同じように身を隠せるような森林や岩場を探す。同じことの繰り返し。ハルはいつだってみんなに囲まれて動く。最重要護衛対象を乗せているのだから。この最重要護衛対象、というのもきっと両親の愛ゆえなのだろう。自分たちが命を落としても、子供だけは助けてほしいと。そういう思いなのだろう。

適当な場所が見つかり、見張りを周囲に散会させて休憩することになった。追手の気配はやはり内容だった。平原の一本道をずっと駆けてきたのだ。見える範囲に敵がいなければ、ブリガンドの警戒も杞憂だったということだ。何はともあれ、あと半日もすればパルザンの街へ着く、この仕事も無事に完了することが出来るだろう。みんなそう思っていたはずだ。

馬から降りようとしたハルは、右肩に突然重石を乗せられたかのような感覚に陥った。心臓の音がドクンと跳ね上がったような鈍い音と共に、全身の血の気が引いていく感覚。肉と肉に挟まる異物感、そこから湧き上がる激しい痛みは、喉の奥から声を挙げそうになる。何が起こったのかを理解する前に、アランの手綱を引き絞って、鐙で横腹を叩いていた。すぐさまアランは駆け出し、今から休憩しようとしていた隊列を突っ切って、岩場から抜け出した。

「ハル!?」

何人もの仲間たちが自分を呼び止めたが、止まるわけにはいかなかった。きっと彼らなら、すぐに体制を整えられると信じて。実際、駆け抜けていくハルを見ていた者たちは、すぐさまその背中に矢が刺さっているのに気づき、武器を抜き、まだ馬から降りていないものは、ハルに着いて行こうとした。だが、敵は悉く先手を打ってきた。走ろうとする騎馬に立ちふさがるようにフードとローブを着こんだものたちが現れ、ブリガンドとリンダに駆け寄ろうとしていた者達には幾本もの矢が降り注ぐ。だがその数は決して多くはない。熟練の傭兵たちは、武器で防ぎ、弾き、無傷とはいかずとも、絶対に致命傷を取らせるようなことはさせなかった。

ハルを除いた17人と護衛対象二人はいつの間に30人近くの怪しげな連中に囲まれていたのだ。この岩場を張っていたのか、あるいはすでに追いつかれていたのか。

「こいつはやられたなぁレリック。」

「ええ。想像もしていませんでしたよ。こんな、手品みたいな登場の仕方をされるなんて。」

音も無く、影すらも見つからなかったのは、単に油断していたというわけではないだろう。彼らはまさしく、どこからともなく現れたのだ。

一人のローブの男が前へ進み出て、ブリガンドを指さした。

「その男を渡せば、貴様らに手出しは加えない。」

「ぬかせ。そんな脅しに屈するようで、傭兵団がやってられるかよ。」

背負っていた大斧を地面に突き刺しながら、グルードが吠えるように返した。

「我らの魔法を見破れぬ貴様らに何ができる。」

「だからって戦わない理由にはならないだろうが。ごちゃごちゃ言ってねぇで、かかってこい。」

囲まれてはいるものの、既に全員戦闘準備は整っている。ブリガンドとリンダを囲むように布陣し、前の敵だけに集中できるように。乱戦になれば、数で勝る相手に勝機はない。

「無駄なことを。逃げた小娘たちには2人でいい。追え。」

前へ進み出た男がリーダーなのか、彼の指示すぐさま二人のローブが反応した。

「ちっ、行かせるな!」

レリックが叫び、こちらも二人が反応するが、追おうとした二人を阻むようにさらに数人のローブが立ちはだかる。

彼らは、地面に手を当てると、手のひらから稲光のようなものを放ち、そこから地面が急に砕け始めた。

「下がりたまえ!奴らの手に触れれば、骨が砕けるぞ!」

砕けた地面は、まるで波のように襲い掛かり、体勢を崩させる。そこへ飛ぶようにローブが襲い掛かり、剣を握る腕を・・・。つかめなかった。寸前のところで、身体をねじり、回避したのだ。そして、その後の追撃も欠かさない。突っ込んできたローブの死角から、レリックは愛刀の長剣を振り下ろす。ローブは躱す素振りを見せなかった。

ガキンッ、というまるで金属同士がぶつかったような音と共に、レリックの剣ははじかれていた。ローブは、腕に小手を仕込んでいるわけでもなく、素肌で長剣を弾いたのだ。

誰もがその光景に驚いていた。魔法とは、こうも出鱈目なものかと。

「我々に剣は通用しない。貴様たちは、その砕かれた地面のように紙屑同然の盾だ。さぁ、ブリガンド、大人しく我々に掴まれ。反旗を翻した貴様にも、まだ役に立てる場はあるだろうさ。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る