飛び降りを図ろうとビルの屋上に出向いた男性が、そこでまさかの先客と出会い、対話することになるお話。
全体的に壮絶さの漂う、なかなかブラックな味わいの作品です。取り扱う題材が題材ですので、まあ当然といえばそうなのですけれど。しかし全編を通じて感じられる、この強烈なボディーブローのような重み。主人公は強い動機を持って自ら死を選ぶ人で、しかしその原因となったであろう人生の様々な苦難の、その本当にどうにもならない救いのなさ加減。といっても、実はそこまで具体的には書かれていないのですけど(仔細に書いてあったらあまりにしんどすぎる)、でもチラリと断片を見せるだけでも「あーそれは……うん……」となってしまう、その巧妙な説得力の持たせ方が魅力でした。かける声を失うやつ。無責任に励ますなんて絶対にできない。
きっと解釈の難しい作品、というか、人によって感じることも結論も違ってくるであろう物語で、そしてこのお話が「そういうものであること」それ自体が好きです。ふたりの登場人物、その抱えてきた苦難と、その結果としての自死という選択。そこに至るまでの考えや、そもそもの人生観等々。読者へ向けて投げられたパーツは沢山あって、さてそれぞれに共感するのかそれとも首を捻るか、どうあれこちらに対して〝考えさせること〟を強制してくれるお話。別に彼や彼女に対して好意的な解釈である必要もなく、そもそもにして何か明瞭な正解があるような状況ですらない。それでも(だからこそ)答えを探してしまう、その読書体験自体が本作の醍醐味であるように思いました。
わかりやすく結論を出してしまうには、あまりに深く重すぎる状況。それでも、どうあれ、なんらかの結末はやってくる。そこに何を思うかを含めて、生きることの重さを感じさせてくれる作品でした。