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「今更だと思いますけど」
事務所を訪れた大将にタクヤは封筒を渡した。大将はどっかり座っていたソファーから腰を浮かせ、少し身を乗り出してその封筒を受け取る。
「世話になったね」
「逮捕劇の顛末は書いてません。事実だけ」
「あれはミーちゃんの仕事なので」
「そうかい、姐さんがやってくれたんだ」
「完全に出し抜かれました」
「姐さんによろしく」
そう言って満帆の親父は立ち上がった。
「娘さんとは会ったんですか」
「礼を言ってくれたよ、店に来て」
「そうですか」
「夢見さんにも依頼があったんですか」
タコが興味深そうにタクヤにきく。
「タクヤ君も詳しくは知らないみたい」
バーントアンバーのママがカウンター越しにタコに言う。タクヤは黙ったまま、首を振ってうつむいた。
「そうなんですか」
「ニカちゃんは」
「そういえば見かけないですね」
タコがさらりと言った。
「連絡してないの」
「してないっていうか、知らないんです。連絡先」
「でも、加奈さんの友だち、よく協力してくれましたよね」
「あんな危険なこと」
「おとり捜査じゃないですか」
ママが鋭い視線でタコを見た。
「わかりました。詮索はなしですね」
「わるいね、タコちゃん」タクヤがタコに言う。
「いいんです。面白かったし、勉強にもなりました」
そう言ってタコはいつもの指定席に戻った。
「ミーちゃんの依頼って美麻ちゃんからだったの」
「偶然って怖いよね」
夢見は相変わらずサンドイッチをつまんでいる。
「いつも同じもの食べてると思ってるんでしょう」
「あそこのサンドイッチは種類が豊富なの」
「スープも」
「そうスープも」
夢見がにっこり笑ってタクヤを見る。
「あなたに依頼があったとき、情報を仕入れたばかりで」
「結婚式で」
「そう」
「美麻ちゃんの友だちが、随分やられてたみたいだったから」
「ビューティ・セラピストって、なんかわけのわからない資格なんだけど」
「近々国家資格になるとか言ってたみたい、あいつら」
「今度、俺にも買ってきてよサンドイッチ」
タクヤはそう言って立ち上がる。
「大将のところに行くの」
タクヤが無言でうなずく。
「やっぱりすごいよね。以心伝心ていうか」
「娘さんのSOSわかっちゃうんだもの」
「ミーちゃんはもっとすごいと思う」
「タクヤ」
「なに」
「スープはまずいよ」
「それじゃスープはいいよ、インスタントにするから」
満帆の娘 阿紋 @amon-1968
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