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 ボステナーの客の入りはまあまあといったところだろうか。加奈が忙しそうに動き回っている。

「加奈目当ての客が増えてね」

「いないと帰っちゃう」

「女の子が接客する店とは違うのにね」

 マスターはタクヤの言ったことにうなずく。

「そういえば、加奈ちゃんが友だち連れて隣に来たよ」

「アーティストらしいね」

「そんな感じ。作業服にコート羽織ってて」

「同級生らしいんだけど」

「加奈ちゃんの専攻は何なの」

「よくわからないけど、文学じゃないの」

「違います。家政学」

 加奈はいつの間にかタクヤの隣りにいた。

「あたしは、栄養学科で」

「美麻は被服学科」

「でもね、本当は美術をやりたかったんだって」

「そうなんだ」

「なんか、どうでも良さそう」

 加奈がタクヤに言う。

「そんなことないよ」

「こないだは、アトリエを見せてもらった帰りなの」

「もしかして、お金持ち」

「そうなのかな。お父さんは社長さんらしいけど」

「でも、お金持ちに見えないでしょう」

「あのコート、高いんじゃない」

「どうかな、古着屋で買ったって言ってたけど」

「それじゃ、加奈はそんなに親しいわけじゃないんだ」 

 夢見がサンドイッチをかじりながら言う。

「それどこで買ってきたの」

「そこの通りに最近できたでしょう、サンドイッチ屋さん」

「なんでもいいのよ。お腹に入れば」

「生クリームのフルーツサンドでもね」

「よく覚えてるね」

「あれは衝撃だったよ」

「そうかなあ」

 夢見は胸につかえたサンドイッチを飲み物で流し込む。

「それは」

「野菜のジュースみたいだけれど、まずいよ」

「それより、調査に行かなくていいの」

「優秀な助手がいるから」

「大丈夫?タコニカでしょう」

「違う。マコニカ」

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