タクヤがバーントアンバーのママと話をしているとき、店に加奈が友だちとおぼしき女の子と入ってきた。いかにもお嬢様の女子大生という洒落たファッションの加奈にくらべると、その友達はこの店の客にお似合いの独創的な出で立ち。

「単純に作業服にコートを羽織ってるだけだよ」

「ダッフルコート」

「似てるけれど違うんだって」

 作業服は絵の具で汚れている。

「アーティスト?」

「加奈ちゃんにそんな友達いるんだ」

 加奈の友だちはタクヤに軽く頭を下げてテーブルのほうに歩いていく。

「タクヤさん」

 タコが後ろからタクヤの肩をたたいた。

「どうした」タクヤが振り返る。

「タコちゃんの好み」

「違いますよ」

「即決だね」

「そうじゃなくて」

 タコは奥のテーブルにタクヤを連れていく。タクヤの目の前には分厚いメガネの女の子。原色の散らばったニットを着ている。

「あの人ですよ」

「青の人」

「違います」

「ごめん、ニカちゃんの服が目に入っちゃって」

「それは、暗に私の服への批判ですか」

 ニカちゃんが、タクヤの目をじっと見つめる。

「いや、良く似合ってるよ」

「ニカちゃんらしい」

「それは、暗に私への批判ですね」

 フランシスコ・ザビエルのような髪型。コンタクトにして、もう少し髪型直せば間違いなく可愛いんだけどね。

「あたしは禿げていません」

「円形脱毛症なだけです」

 ニカちゃんは南米の民族衣装のような原色ストライプのニット帽をかぶる。

「南米じゃないです」

「どちらかと言えば台湾」

「なんでもわかっちゃうんだね、ニカちゃんは」

 タクヤは笑顔をニカちゃんに投げかける。

「それよりも、マコちゃんの話です」

 突然真顔になったニカちゃんがタクヤの視線をつかまえる。

「あの子ですよ、タクヤさん」

「この前あいつと会っていた」

 タクヤは、さっき見た加奈の友だちの顔を思い出してみる。

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