夢見が袋を重そうに持って事務所に戻ってきた。

「どうせつまんないものよ」

「あいつが選んだんだろうから」

「ダンナも知ってるの」

「まあね」

 夢見は不敵な笑みを浮かべる。思ったとおり、夢見は酔っているような感じではないとタクヤは思った。飲んでないはずがないのだけれど。

「前の上司がうるさく注ぎにきて大変だった」

「ところで、満帆のおやじがよろしくって言ってた」

「依頼受けたの」

 ソファーに腰を掛けて夢見が言う。

「そうなんだ」

「大丈夫?」

「最悪ボランティアかな」

 タクヤは熱いコーヒーを夢見の前に置いた。

「さすがに、親子なんだね」

「すぐに分かったんだ」

「あれは考えるっていうよりも、感じるんだね」

「本能だね。でもずいぶん会ってなかったんでしょう」

「最後に会ったのは五歳の頃だって」

「そうなんだ」

 あの時に、満帆飯店を訪ねてきたのはおやじさんの娘だった。

「ビューホテルに勤めてるの?」

「そんな女の子いたかなあ」

「関係者らしいよ」

「そうか、あそこは一族経営だからね」

「っていうことは」

 夢見はそう言って天井を見つめた。

「彼女は戸籍上、私生児だって」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る