満帆の娘

阿紋

「おやじさん」

「このカニ本物」

  タクヤは自分の食べているカニ餡かけチャーハンを見て満帆のおやじに尋ねる。

「その値段で、本物のわけねえだろう」

「カニカマだよ」

 まずいことを聞いてしまったとタクヤは思った。これはおやじの話が止まらなくなる。

「いまのカニカマはすごいんだ」

「風味だけじゃなくて、カニの味がする」

 タクヤは餡かけチャーハンを少しだけ口に入れる。

「もっとバッといきなよ」

「猫舌だってわかってるくせに」

「でもたしかにカニの味がする」

「そうだろう」

 満帆のおやじが自慢げに笑う。偽物食わせといて自慢かよ。そう思いながらタクヤはコショーをきかせたスープを飲む。

「今日は、姐さんはどうしたんだい」

「結婚式の披露宴。前の職場のね」

「前の職場って、警察だろう」

「警察官って酔っぱらうとすごいっていうけど本当なのかい」

「知らねえよ」

 満帆のおやじが身を乗り出してくる。タクヤは客が来てくれないかと願った。

「この時間に客なんか来ねえぜ、タクちゃん」

「あの姐さんも乱れるのかい」

「ミーちゃんはじっくり構える方だよ」

「酔っぱらってるのかさえ分からない」

 おやじは納得したような顔つきで聞いている。

「それでもな、集団心理ってものがあるからな」

「一人でいる時とは違うんじゃないか」

「そんなに気になるなら、覗いてきたらいいじゃない」

「すぐ近くなんだし、客なんて来ないんだから」

「そうか、ビューホテルでやってっるのか」

「でも、あそこはダメだ」

「なんで」

 そんな時、客が一人入ってきた。タクヤが振り返ると、ダークスーツを着た女の子だった。満帆のおやじはその女の子を見たまま固まっている。

「わかるんだ」女の子がポツリと言う。

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