満帆の娘
阿紋
1
「おやじさん」
「このカニ本物」
タクヤは自分の食べているカニ餡かけチャーハンを見て満帆のおやじに尋ねる。
「その値段で、本物のわけねえだろう」
「カニカマだよ」
まずいことを聞いてしまったとタクヤは思った。これはおやじの話が止まらなくなる。
「いまのカニカマはすごいんだ」
「風味だけじゃなくて、カニの味がする」
タクヤは餡かけチャーハンを少しだけ口に入れる。
「もっとバッといきなよ」
「猫舌だってわかってるくせに」
「でもたしかにカニの味がする」
「そうだろう」
満帆のおやじが自慢げに笑う。偽物食わせといて自慢かよ。そう思いながらタクヤはコショーをきかせたスープを飲む。
「今日は、姐さんはどうしたんだい」
「結婚式の披露宴。前の職場のね」
「前の職場って、警察だろう」
「警察官って酔っぱらうとすごいっていうけど本当なのかい」
「知らねえよ」
満帆のおやじが身を乗り出してくる。タクヤは客が来てくれないかと願った。
「この時間に客なんか来ねえぜ、タクちゃん」
「あの姐さんも乱れるのかい」
「ミーちゃんはじっくり構える方だよ」
「酔っぱらってるのかさえ分からない」
おやじは納得したような顔つきで聞いている。
「それでもな、集団心理ってものがあるからな」
「一人でいる時とは違うんじゃないか」
「そんなに気になるなら、覗いてきたらいいじゃない」
「すぐ近くなんだし、客なんて来ないんだから」
「そうか、ビューホテルでやってっるのか」
「でも、あそこはダメだ」
「なんで」
そんな時、客が一人入ってきた。タクヤが振り返ると、ダークスーツを着た女の子だった。満帆のおやじはその女の子を見たまま固まっている。
「わかるんだ」女の子がポツリと言う。
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