2.1 いざ鎌倉と浪漫を満喫しに転生しました
しかし、戦争か……
よくある話で、我が国も強大国以外の隣国と接している領土がある。実際のところ、国同士でのもめ事はしょっちゅう起きているとは言え、普通ならせいぜい
だが、今回は違っていた。
当初は敵の攻撃に対し、我が方も適当にあしらっていたらしい。それが、相手方の子爵が功を焦ったらしく、普段なら温存しておく魔法兵を戦場に投入したことで話しがややこしくなった。これが一気に殲滅出来るだけの兵力を投入出来るのであれば話しも変わったのだが、所詮子爵が保有する程度の戦力。現代戦で例えれば、紛争地帯に機甲師団や航空兵力で殲滅出来るならともかく、唯一所有する数発の巡航ミサイルを、予告も無しにいきなり紛争地に向けて発射したようなものだろうか。
そんな過剰な兵力で対応した事が発端となり、戦火が拡大。ついには敵の辺境伯自らが動く羽目になった。一時は散々に押し込まれていた我が軍だが、奇襲せんと少数の手勢を集結させていた辺境伯を運良く我が方の斥候が発見。斥候部隊からの連絡で急行した遊撃隊との戦闘により辺境伯自身が傷を負ったことから、撤退に追い込まれたのだという。
こうして膠着状態となったことから国軍による援助の検討がなされ、私も配下の従士とともに、それこそいざ鎌倉とばかりに首都にはせ参じる事になった訳だ。
まあ戦力的にも後ろで控えている予備兵力になるだろうが、魔法のある中世世界だけにどのような戦場か想像もつかない。そういえば、家族伝来とかの甲冑もあるはずだが、全く気にしたことも無かった。
実際のところ、小競り合いはしょっちゅう起こっていたみたいだが、本格的動員となると案外少ないらしい。我が領の地理的・経済的条件が、王都に比較的近いものの直轄にするには旨味が少ない鶏肋な土地柄なのも理由の一つだろう。
ちなみに憑依前の私は、どうも戦場での槍働きよりも幕僚になりたがっていたようで、甲冑に乗り込んで戦場を駆け回るのではなく陣中鎧を纏った状態で将軍達の元にとどまる事が多かったようだ。要するに、謀を帷幄のなかにめぐらし千里の外に勝利を決す、をやりたかったって事か。
って、陣羽織で無く、陣中鎧? 甲冑を駆るってなに?
そう考えたところで、突然記憶が、激痛とともに一気に流れ込んできた。
その記憶の中にあったものは……
「……なんじゃこりゃ」
頭痛とともに流れ込んできた情報を処理しきれず、マジかよと頭を抱える。絶叫するのをなんとか抑えたのは褒めて欲しい。
なんとか落ついたところで、手紙を置いて戻ってきたヴォイチェフに声をかける。
「先ほどの手紙だが、使者殿に渡す前に
「そうですな、久しく使っておりませんでしたし、確かに今回は前線の可能性が高いと思われますので、一度ご確認頂いた方が良いかも知れませんな」
最近、下で働く従者が増えた事もあり、あえて威厳のある言葉を使うようになってきた家令を見て、思わず吹き出しそうになるのを抑える。何か含むところがあるのかも知れないが、何時もと違う態度が、なにげにおかしい。
「
「ああ、使者殿を待たせているから、手間のかからない様に
「あまり褒められたものではありませんが、確かに。では、そのように致しましょう」
時間が無い場合は下級貴族の場合だと勲爵士や郷紳同様に馬に直接またがる事も多いらしいのだが、どうも記憶によると元々馬は苦手だったらしく、普段から
それもあってか、かっての私は歩くには遠いが馬車だと近すぎる、日本で言えば原付とか自転車を使うような距離の場合だと、二輪馬車よりも手軽だが貴族はあまり用いない簡易馬車を結構使っていたらしい。そのため、軽四的な使い勝手の二輪馬車や、原付的な使い勝手の簡易馬車はすぐに動かせるよう準備してある。もちろん正式な
自分で操っても良かったのだが、場所が不明なこともあり、ヴォイチェフに手綱は任せる。領主の館から簡易馬車で約10分走らせたところに、その建物はあった。
「ここに
「はい、表面の
目の前の建物は、いまにも崩れ落ちそうなゴシック教会と言った趣。流れ込んだ記憶からして、ほとんど訪れたことは無いと言うところだろう。感情は相変わらず流れ込んでは来ないが、冷淡な対応から嫌っていたことはうかがえる。
しかし、ワックスがけもしていたとは、まさに万能執事そのものだよなぁ。
さて、一歩建物の中に入ると、そこには思った以上の空間があった。体育館は大げさだが、ちょっとした
そして、その空間に
そこに鎮座するのは、名前こそ
要するに、平たく言えば……巨大ロボット!
まあ巨大は言い過ぎかも知れないが、
なので、一応、巨大ロボットでウソにはならないと思うのだが?
形状は西洋騎士の様で、流れ込んでくる知識からすると、標準型とでも言うものだった。
同時にこの造形、見覚えがある。元の記憶でなく、私の過去の記憶でだ。
はっきりと言えば、ゲームで出てきた機体、その一つによく似ているのだ。
一体は、
足が小型のスキーみたいになってる以外は、いかにも西洋騎士と言うか、リモコンで操作するロボットのような肢体で、背中側には向きこそ横向きと違っているモノの、ロケットもどきまでついている。
……秘匿名称、ツーエイトで良いな。
もう一体は、両手で
何というか、蛇腹剣を持っていないことが不思議なくらいで、白銀のロボット以上に私の
もちろん、どっちも格好いいんだけど。
しかし、ファンタジー世界とロボット。
ミスマッチなようで案外古典的な設定だが……
そんなことはどうでもいい!
なんにしろロボットに乗り込めるのだ!
自分の手足として操縦出来るのだ!
おらわくわくしてきたぞ!
しかし、どうも元々の記憶からすると、乗り込んだ事はあまり無いみたいだ。しかも、片方……白銀の機体にだけで、赤い方には乗ろうとしていない。
なぜ、こんな浪漫あふれる存在を無視しているのだろう?
相当嫌っていたのだろうが、理由がよくわからない。
家風とかそういうものなのだろうか、貧乏男爵にもかかわらず二台存在するわけだが、両方共になかなかに無骨な格好良さを持っていると思うのだが。
「さて、どうしたものか」
「何が、ですか」
「ああ、どちらにすべきかなと思ってな」
「……どうなされたので?……
まさか、御父上の甲冑で無く御母堂様の方をお使いに?」
父の乗っていたと言う銀色の右手に騎槍を持ったロボットでは無く、母が乗っていたらしい弩弓らしきモノを構えた赤いロボットを指し示す。
亡くなった父親はあまり戦場に出ること自体を好まなかったようだが、母親はどうやら武勲で
もっとも父親の方は、領地経営と称しほぼ戦闘には参加せず、もっぱら母親の方が
「どうした、意外か?」
「いえ、まあ、あれだけ嫌がっていたのに」
ヴォイチェフが意外そうな顔で問いかけてくる。しかしホントに驚いたんだろう、もったいぶった最近の言い方で無く、今まで通りのしゃべり方で。
「確かにそうだが、今回は山間で戦っていると聞く。
ならば、騎槍しか無い父上の鎧では不利だからな」
肩をすくめるようにしながら、応える。
そうなのだ、父親の鎧は騎槍以外の武器を一切持たず、精々が盾を持った側に短剣を持つ位だ。もっとも短剣と言っても、人間だと
母親の鎧は、まさにその逆。要所要所に施された防御装甲は運動を妨げない様になっており、逆に言うと漏れも多い。速度は父親の鎧と同程度以上で、可動域が広いだけあって運動性も高い。それ故多彩な武器を使い分けることも可能となっている。
ヴォイチェフはまだいぶかしげな様子でたずねかけてくる。
「ならよろしいのですが……
御母堂の
その言葉と共に流れ込んでくる記憶。いつまでも慣れない感覚だが、頭痛以上に記憶の中身でぞっとした。
王子の取り巻きの父親に転生しました 製本業者 @Bookmaker
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