第88話 姉の受難 15

 それからなんやかんやあって、今2人は私の前にいる。

 サッカー部のベスト8の試合を見終わって家に帰ってきたら、春樹に呼び出された。



「それで、私に何の用があるの?」


「それは‥‥‥」


「美鈴さん、1つ質問してもいい?」


「どうしたの、玲奈?」


「何で私は椅子に座ってるのに、春樹は正座なの?」


「そうだよ!! 姉ちゃん!! こんなの絶対おかしいよ!!」


「黙りなさい!! どうせあんたがまた玲奈にセクハラとかしたから、その仲裁を頼みに来たんでしょ!!」


「そっ、それは違うよ!!」


「ふ~~ん、じゃあどういった用件かしら」


「それは‥‥‥」



 しどろもどろになる春樹。その様子は何かを言うのを迷っているような気がする。



「春樹、私が言おうか?」


「いや、大丈夫だ」



 春樹が私の方に向き直る。その瞳は私に何かを言おうとしているみたいだ。



「まぁ、何を言いたいかは大体わかるけど」


「姉ちゃん、何か言った?」


「何でもないわよ。あんたは気にしないで」



 この2人が揃っているという事はきっとそういう事だろう。

 言わなくても大体わかる。



「姉ちゃん、実は俺と玲奈は「付き合ってるんでしょ」ってえぇぇぇぇぇぇ!? 姉ちゃん知ってたの!?」


「知ってるも何も、2人同時に報告があるって事なら簡単に想像できるでしょ」



 2人は知らないけど、手をつないで競技場を出ているのも見た。

 だから何となくそうなのかなと思ったけど、どうやらそうらしい。



「う~~ん」


「姉ちゃん、どうしたの?」


「何でもないわ。気にしないで」



 正直な気持ちを述べると複雑である。春樹が玲奈と付き合ったのは許せないけど、玲奈が私の義妹になるのは素直にうれしい。



「美鈴さんには言わないといけないと思って、改めてご報告させていただきました」


「そうね、おめでとう。玲奈」


「ありがとうございます」


「姉ちゃん姉ちゃん!! 俺には何かないの?」


「あんたは一旦地獄に落ちなさい」


「何故!?」


「こんな気立ての良くて可愛い子、あんたにはもったいないわ」



 本当なら私がもらってあげる予定だったのに。

 同性だったのが妬ましい。私が男なら、絶対玲奈を幸せにしていたわ。



「まぁでも、良かったんじゃない? 彼女が出来て」


「姉ちゃん」


「それと玲奈」


「何?」


「これからは私の事をお姉ちゃんって呼んでもいいわよ」


「えっ!? でっ、でも、それは美鈴さんに迷惑が掛かるんじゃ‥‥‥」


「別にいいわよ。迷惑じゃないから。遠慮せず、私の事をお姉ちゃんって呼んで」


「うん。わかった」



 戸惑っていたようだけど、玲奈も無事了承してくれた。

 後は春樹をどう始末するかを考えるだけだ。



「姉ちゃん、何か不穏な事を考えてない?」


「そんなこと考えてないわよ。それよりも玲奈達はこれからどうするの?」


「春樹の部屋で遊ぼうって」


「うん」


「春樹の部屋で遊ぶ? 一体何のために‥‥‥」



 そこで私はある考えが浮かぶ。まさかと思うけど、とりあえず聞いて見ようとした。



「春樹、貴方お風呂は入った?」


「もちろんだよ。だって入らないと姉ちゃん怒るだろ?」


「たっ、確かにそうね。玲奈は?」


「私もお風呂に入ったよ」



 まっ、間違いない。この子達はきっと春樹の部屋であれをする気だ。

 玲奈も何故かもじもじとしているし、春樹もどこか私によそよそしい。



「駄目よ!! 2人共!! 部屋でそんな事するなんて」


「そんなことってどんなことだよ」


「それを私に言わせる気!?」


「変な姉ちゃんだな」


「変なのは貴方達の方でしょ!! 駄目よ、駄目駄目!! 今日は私の部屋で3人で遊ぶわよ」


「はぁぁぁぁぁぁ!! 何だよ、その陰湿ないじめ!!」


「何、なんか文句ある?」


「いえ」



 少し圧力をかけたら春樹も黙った。

 今のところはこれでよし。後で春樹が玲奈が帰った後に、玲奈に変な事をしないように言っておかないと。



「それで、何して遊ぶんだよ」


「もちろんWindのライブBDの鑑賞会よ」


「えぇぇぇぇぇ!? よりにもよって何でそれをチョイスするんだよ!!」


「別にいいでしょ。玲奈もそれでいいわよね?」


「うん」


「れっ、玲奈~~」


「そんな情けない声を出さないの。それよりも早く見ましょう!! 今準備するから」



 こうして私達はWindのライブBDを鑑賞する。

 興奮する私と玲奈とは違い、春樹はどこか退屈そうにしているような気がしたのだった。


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