第85話 姉の受難 12

 中間テストが終わってしばらくした後、私は悩んでいた。



「何で私がこんなことで悩まないといけないのよ」



 私を悩ます元凶はと言えば、今頃学校のグラウンドで張り切ってボールを蹴っているだろう。



「はぁ、全くやんなっちゃうわね」



 これもそれも昨日春樹が言い放った言葉のせいだ。

 そのせいで私がこんなに頭を悩ませることとなっている。



「公式戦でゴールを決めたら玲奈に告白するって、どこのサッカー漫画の主人公だよ」



 春樹の短絡的思考に私はあきれてしまう。そう言うセリフは漫画の中だけにしろと本人に言ってやりたかった。



「とりあえず6月まで時間は稼いだから、その間に試合には負けるでしょう」



 うちのサッカー部はどんなに調子が良くても、決勝トーナメント初戦に進出するのが関の山である。

 いかに春樹が凄かろうと、ベスト8までたどり着くことは不可能だ。



「あとは玲奈の方を説得して、時間を稼げば‥‥‥」


「美鈴さん?」


「れっ、玲奈!? どうしたの? 急に来て!?」


「今私の名前が呼ばれた気がして‥‥‥」


「べっ、別に呼んでないわよ!? 気のせいよ、気のせい!?」



 危ない危ない。玲奈が鈍感でよかった。

 今の独り言が全部聞かれていたら、大変なことになっていた。



「そういえば美鈴さん、次の土曜日は空いていますか?」


「まぁ、部活終わった後なら空いてるけど。どうしたの?」


「サッカー部の試合が行われるんですけど、一緒に見に行きませんか?」


「無理よ、玲奈。その日は私達も試合でしょう」


「でも、私達の試合は午前中で春樹達の試合は午後です。準備をすれば間に合うと思います」


「それでも移動まで距離があるし、私達がついた頃には終わっているんじゃないかしら」


「そう思って移動時間を調べてきました」


「えっ!?」


「私達の試合は朝一に始まるので、この時間に終わります。春樹達の試合は午後からなので、この電車を使って乗り継げばギリギリキックオフには間に合います」


「確かにそうね」


「それと勝ち進んだ場合ですが、この日とこの日は時間的に最初からは見れませんが、後半開始からなら間に合います。それとこの日なら試合がないので、練習の都合がつけば最初から見ることも‥‥‥」



 その後も玲奈が立案した春樹の試合を見に行くためのプレゼンは続く。

 その内容は事細かく計画されていて試合が長引いた時のプランから、早く終わった時のプランまでスマホを使って説明された。



「もしお腹が減った時は、ここのお店のテイクアウトを使えば間に合いますので。もし気に入らないようなら、電車に乗る前に美味しいハンバーガ店もあります」


「わかった。貴方の熱意は十分伝わったわ」


「それじゃあ‥‥‥」


「だけど玲奈、試合後しっかり疲れを取ることも重要じゃないかしら? 次の試合に向けて」


「ちゃんと調整もしますから大丈夫です。次の日に試合があっても、120%の力が出せるようにします」



 自信満々に言う玲奈。だけど口で言うだけはあって、しっかりと調整してくるので侮れない。



「やっぱり私は賛成でき‥‥‥」


「美鈴先輩!! 玲奈と何をしているんですか?」


「霧香!?」


「ちょうどいいわ。霧香からも言ってやってよ。こんな計画は無理あるって」


「計画? 一体どんな計画なんですか?」



 私と玲奈の話し合いに首をつっこんできた霧香に、先程の玲奈の計画を伝えた。



「ひぇ~~玲奈も中々えぐい計画を立ててるんだね」


「でも、無理じゃない」


「霧香からも説得してよ。こんな無茶な計画はやめなさいって」


「でも、面白そうだね。私だったらやるかなぁ~~」


「何で霧香も乗り気なのよ!? 貴方サッカーに興味ないでしょ!!」


「確かにサッカーには興味ないですけど、今年のサッカー部に1年生でベンチ入りした人がいるって話でしょ。実はその人の事が気になってるんですよね」


「知ってるの?」


「はい! どんな人が入ったかは知らないけど、先輩達の話題もその1年生の話で持ち切りでしたよ」



 たぶんそれは私の弟だからだろう。小室の弟がベンチ入りしたってことで、同級生は盛り上がっているに違いない。実際私もクラスメイト達に色々言われたし、間違いはない。



「バレーの試合があるからいけないと思ってたけど、玲奈が立ててくれた予定があるなら私も行こうかな」


「それなら一緒に‥‥‥」


「悪いわね、霧香。私と玲奈は一緒に見に行く予定だから、今回はあきらめてね」


「美鈴先輩!! それなら私も連れて行って下さいよ!!」


「玲奈の計画に穴があるかもしれないし、何より霧香に迷惑をかけるかもしれないから」



 そんなことは嘘も方便だ。このままの流れだと玲奈と霧香の2人が一緒に行く流れになってしまう。

 そうなると必然的に春樹も玲奈が試合に来ていることがわかって、そこでゴールを決めたなんて事になったら‥‥‥。



「あの2人が付き合うのはまだ早いわ。せめてもう少し春樹を頼りになるような男に仕上げないと‥‥‥」


「美鈴さん?」


「何でもないわよ!? それよりも今度のサッカー部の試合楽しみね」


「うん」



 笑顔の玲奈とは違い、私は内心冷や冷やしていた。

 どうやって春樹にバレずに試合を見に行こう。その事ばかりを考えるのだった。



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