番外編
第74話 姉の受難 1
番外編スタートです!
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「ほら、見て下さいよ! 美鈴さん!。春樹と玲奈ちゃんが2人で話し始めましたよ!!」
「うるさいわね!! そんなのあの様子を見れば誰だってわかるわよ!!」
春樹の試合が終わった後、私は2人が一緒に帰るのを物陰に隠れて見守っている。
本当は今頃玲奈と春樹を連れてお茶をしているはずなのに、何でこんなことをしているのだろう。
「見て下さいよ、美鈴さん。玲奈ちゃんが春樹の事を見て‥‥‥えっ!? ハンカチを出してるって事は、もしかして本当に泣いてる!?」
「春樹の奴、玲奈の事を泣かして!! 後で制裁が必要なようね!!」
「美鈴さん!? 声が大きいですよ!! 静かにしていないと2人の見つかっちゃいます!!」
「わかってるわよ。ここでは大人しくしてるわ」
「ここでは?」
「何か言ったかしら?」
「いえ、何も!!」
「それならいいわ」
私の心の絶対許さないリストの中に春樹の名前を刻み、体をわなわなと震わせながら2人の事を見守る。
もし家に帰った後この件についてしらを切るようなら、それ相応の制裁をしないといけない。
「美鈴さん、見て下さいよ!! 今2人が手をつなぎませんでしたか?」
「全く、あの2人は仲がいいのか悪いのかわからないわね」
泣いた後に2人で手をつないで帰るなんて、あの子達らしいと言えばらしいと言える。
今私が何で物陰に隠れて春樹と玲奈の事を見守っているのか、それは隣にいる少年のせいであった。
「どうやら上手くいったようですね」
「一体これはどういう事? 守君」
私は自分の隣にいる少年、来栖守の事を見た。
彼は私の弟の親友で、中学の後輩でもある。この状況を作り上げたのは全て彼の差し金である。
「一体どういうつもり? 春樹はまだ玲奈と付き合うのは早いって何度も私は言ったでしょ」
「美鈴さんは厳しいですね。でも2人共もう子供じゃないんですから、大丈夫ですよ」
「何を根拠に言ってるのよ。今の2人じゃ危なっかしくて、こっちが見ていられないわよ」
「そこを2人で乗り越えていくのが楽しいんじゃないですか」
「乗り越えられなかったどうするのよ?」
「美鈴さんはあの2人が幾多の障害を乗り越えられないと思いますか?」
「もちろん乗り越えられるわよ!! あの子達を長年見て来たんだから、それぐらいわかるわ」
春樹はあぁ見えて根性があるし、一途で芯が通っている。
玲奈も春樹以上に一途な上、頭も良く何でもできる。
お互いの事よく知っていて尊重もしているので、この2人程相性のいい相手はいないだろうと思っていた。
「ならいいじゃないですか」
「でも玲奈は恋愛の事になると頭がお花畑になるし、春樹は元々脳筋じゃない」
「それはわかり切っていることでしょ。美鈴さんは過保護なんですよ」
「過保護で何が悪いのよ。玲奈は私の妹のようなものだし、春樹に至っては私の実弟よ。少しぐらい過干渉になるわよ」
「美鈴さんって、意外とブラコンだったりします?」
「馬鹿なこと言わないで頂戴。私がブラコンなわけないわ」
「そしたらシスコンってことですね」
「それは認めるわ」
「そこは否定してほしかったな」
「玲奈は私の妹同然なのよ。あんな可愛い子が側にいれば、それはシスコンにだってなるわよ」
「一理ある‥‥‥ってないですよ!? そもそも美鈴さんと玲奈ちゃんって血が繋がってないじゃないですか!?」
「それぐらい、愛の力で乗り切ってやるわ」
「重たい愛ですね」
遠い目をしている守君は放って置き、2人の事を見る。
よく見ると2人は手をつないだまま、競技場を出て行こうとしていた。
「あぁ。私の玲奈が、他の男と一緒に帰っていく」
「これが寝取られって言うんですかね?」
「守君、もしかして今失恋をした私の事を煽ってる?」
「まさか。大切な妹を奪われ、傷心な姉を見て面白いなんて思ってるわけないじゃないですか」
「それなら何でそんな嬉しそうなのかしら? 答えようによっては、貴方を社会的に抹殺するわ」
「おぉ、怖い怖い。これは単に春樹と玲奈ちゃんの関係が進展したことを心の底から喜んでいるだけですよ」
それにしたってその表情はないだろう。傷心の私を目の前にしてする表情ではない。
「でも、冗談抜きによかったですね。2人の関係が進展して」
「まぁね。これでよかったのか悪かったのか、ものすごい複雑な心境だけど」
「一体どうしてこうなったんでしょうね」
「誰のせいでこうなったと思ってるのよ!!」
私は隣にいる守君を見ながら思う。
どうしてこんなことをする羽目になったのか。その原因は過去にある気がする。
「僕のせいじゃないですよ。元々は入学式に日に春樹が危機感を抱いたことが始まりじゃないですか」
「違うわね」
「えっ!?」
「根本的な原因は、もっと前にあったのよ」
その事を思い返すと今でも頭が痛い。こうして思い返すと、全ては冬のあの日から始まったのかもしれない。
忘れもしないあの日、玲奈達の卒業が迫ったある日のことだ。
「美鈴さん、それはどういうことですか? 教えて下さいよ」
「駄目よ。この事は貴方には教えないわ」
「えっ!? どうしてですか!?」
「貴方には関係ないことだから。それよりそんなところでぼーっとしてないで早く帰るわよ」
そう言って私は踵を返して、競技場への出口へと向かう。
そして今年の冬に起きたとある出来事、その事を思い出しながら家へと帰るのだった。
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というわけで、美鈴視点の話に突入します。
この話は構想段階からずっと書きたかった部分なので、楽しんでいただけるとうれしいです。
最後になりますが、新作始めました
神殺しの少年
https://kakuyomu.jp/works/16816700426662068365/episodes/16816700426662111541
両親を殺され魔法が使えなくなった少年が新たに得た力『死線』という能力を使い、両親を殺した犯人を探す物語です。
よろしければこちらの作品もご覧いただければうれしいです。
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