第73話 世界で1番大切な人と


エピローグになります


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 あの激闘の試合から数日経ったある日。俺は相変わらずいつもの日常を迎えている。

 玲奈と付き合って日常が激変したと思っていたけど、実際は何も変わらなかった。



「こら、春樹!! 急がないと遅刻するわよ」


「わかってるよ、姉ちゃん」


「玲奈も外で待たせてるんだから、キリキリ歩きなさい!!」


「誰の準備のせいで遅れたと思ってるんだよ‥‥‥」


「春樹、今何か言った?」


「いえ!? 何でもありません!!」



 危ない危ない。姉ちゃんを怒らせてしまった。

 表情は笑っているけど、侮ってはいけない。いつでも俺に制裁を加えられるように、両こぶしを握りしめているからだ。



「あれ? 玲奈がいない」


「最近玲奈も遅れ気味ね。何かあったのかしら」



 あの俺の告白の次の日から、朝の集合時間を遅れることが多くなった。

 昔は時間通りきっちり来ていたのに、俺達が玲奈を呼びに行くこともここ数日増えていた。



『ガチャ』


「来たわよ、春樹」



 家から慌てて出てきた玲奈は相変わらず可愛い。

 焦って出て来たからか、少し息を切らしていた。



「おはよう、玲奈」


「美鈴さん、春樹、おはよう」


「珍しいわね。玲奈がこんなに遅いなんて」


「ちょっと準備に時間がかかって‥‥‥」


「準備?」


「うん」


「準備っていった、いわ!! 姉ちゃん!! 何でいきなり足を踏むんだよ!!」


「それはあんたの頭で考えないさい!!」


「何で!? 俺何か姉ちゃんに怒られることした!?」


「それもあんたが考えなさい」


「理不尽だ!!」



 結局何も姉ちゃんはヒントを与えてくれなかった。

 一体俺がいつ姉ちゃんの逆鱗に触れたんだよ。



「この空気、どうすればいいんだよ」



 相変わらず姉ちゃんは不機嫌だし、玲奈は俺の事をチラチラしている。

 きっと玲奈の事についてのはずだけど、すぐには思いつかない。



「玲奈」


「春樹!」


「玲奈‥‥‥そういえば、その赤い髪留め昨日つけてた?」


「つけてないよ。昨日部活帰りに美鈴さんと一緒に買ったんだ」


「姉ちゃんと!?」


「うん。このウサギの髪留めが玲奈に似合うんじゃないかって言われて買ってみたの」



 ニコニコと笑う玲奈は、嬉しそうにウサギの髪留めを触る。

 姉ちゃんが不機嫌な理由がわかった。つまり俺が玲奈の変化に気づかなかったから怒っていたのか。



「どうかな? 少し派手かと思ったけど似合ってるかな?」


「めちゃめちゃ似合ってるよ。すごく可愛い」


「ありがとう」



 お礼を言う玲奈はすごく可愛い。

 こんな表情学校では見れない。俺にだけ見せてくれる表情だ。



「おほん」


「!!」


「2人だけの空気になっている所悪いけど、そろそろ遅刻するから行くわよ」


「わかった」


「うん」



 俺達の前を姉ちゃんは歩き始める。

 その後ろを俺と玲奈の2人はついて行く。



「美鈴さん、怒ってるのかな?」


「怒ってたら1人で先に歩かないでしょ」


「でも私達が付き合ってる事を話した時、美鈴さん春樹に怒ってなかった?」


「あれは姉ちゃんなりの照れ隠しだと思う」



 俺達が付き合ったその日、2人で姉ちゃんの部屋に行き交際していることを報告した。

 その時の姉ちゃんは喜んでいるような困っているようなそんな表情である。



「そうなの?」


「あぁ。たぶん内心は玲奈に彼氏が出来た事を喜んでいたんじゃないかな」


「それならよかった」


「そうじゃなければ、『お姉ちゃんと呼んでもいいわよ』なんて言葉出てこないから」



 そして極めつけがこのセリフである。玲奈に向かって、まるで仏のような笑みを浮かべてそう言ったのである。



「むしろ嫌われてるのは俺で、俺に彼女が出来たことに驚いていて、しかもその相手が玲奈ってことで怒っていた可能性がある」


「その可能性はないんじゃないかな?」


「まぁな」



 実際はあるんだけどな。玲奈を家に送り届けた後、俺は姉ちゃんに部屋に呼び出されて言われたんだ。

『玲奈を泣かせたら、承知しない』と般若の形相でそう言われた。

 だから玲奈に変な事をしたら、真っ先に姉ちゃんに抹殺されるだろう。

 あの時の姉ちゃんは人を殺さんばかりの目をしていた。玲奈の事を今まで以上に大切にしようと思ってはいたけど、より一層大切にしようと心に誓った



「2人共、そんなところでゆっくり歩いてないで早く来なさい」


「わかった」



 どちらともなくお互いの手をつなぎ、歩いていく。

 これは付き合ってから、俺と玲奈が行っていることでもある。



「貴方達、手なんて繋いじゃって。相変わらず仲がいいのね」


「姉ちゃん!? 何言ってるんだよ!?」


「別にいいじゃない。貴方達が仲がいいのは周知の事実なんだから」


「ぐっ!!」



 時たまニヤニヤとしながらこうして俺の事をからかってくる。

 玲奈も俺も顔は真っ赤だ。お互い顔を見合わせる。



「玲奈、どうなの? 春樹はちゃんと彼氏してる?」


「うん」


「まぁ、そうよね。春樹が忙しい時以外は、一緒に帰ってるんだし。仲が悪いわけないわ」


「ねっ、姉ちゃん!?」


「何よ、本当の事じゃない。昨日だって私が玲奈と一緒に帰ろうとしたら渋ってたくせに」


「うっ!? それは‥‥‥」


「まぁ、玲奈を独占したいって気持ちもわからなくもないけど。玲奈も春樹と一緒に帰りたがってたし」


「みっ、美鈴さん!?」


「まぁ2人をからかうのは、こんな所でいいでしょう。早く行きましょう。遅刻しちゃうわ」



 姉ちゃんが先に行く。それに俺もついて行こうとする。



「春樹」


「どうしたんだよ? 玲奈?」


「今日は一緒に帰ろうね」


「あぁ。終わったら昇降口で待ち合わせな」


「うん」



 今こうしてこんなに俺が幸せなのは全部姉ちゃんのおかげだ。

 姉ちゃんが俺に色々教えてくれたからこそ、今の俺がいる。

 本当に姉ちゃんに感謝してもしきれない。



「2人共、何やってるのよ!! 早くしないと遅刻するわよ!!」


「今行く! 玲奈、行こう」


「うん」



 俺は玲奈の手をしっかりつなぎ歩いていく。

 この幸せを噛みしめながら、学校へと続く通学路を歩いて行くのだった。



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ここまでご覧いただきありがとうございます


後日番外編の投稿を行う予定ですが、本編はこれにて完結となります。

最後まで投げ出さずに完結までこの話を執筆できたのは、この作品を読んでくれた皆様のおかげです。

ここまで応援して頂いて、感謝しております。本当にありがとうございます。


最後になりますが、新作始めました


神殺しの少年


https://kakuyomu.jp/works/16816700426662068365/episodes/16816700426662111541


両親を殺され魔法が使えなくなった少年が新たに得た力『死線』という能力を使い、両親を殺した犯人を探す物語です。

よろしければこちらの作品もご覧いただければ幸いです。

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