第72話 一番大好きな君へ

「そういえば俺、得点を決めたんだよな」



 全国常連の名門校である東橋高校に勝ったことばかりで忘れていたけど、俺は今日玲奈の前でゴールを決めたんだ。

 正真正銘、誰にも文句を言えないぐらい完璧な俺が決めた試合を決定づけるゴール。

 姉ちゃんに宣言していた通り、これはもう告白してもいいんじゃないかってぐらい完璧なゴールだった。



「いやいや、どう考えたって失敗するに決まってる」



 たかがゴール1本決めた所で玲奈に告白してもごめんなさいと言われるのが関の山だ。

 せっかく今玲奈とはいい感じになっているのだから、別に焦らなくてもいいだろう。



「そんなに焦らなくて時期に告白のチャンスは‥‥‥」


「春樹」


「大丈夫だ。落ち着いてやればきっと‥‥‥」


「春樹!!」


「玲奈!? どうしてこんな所にいるの!?」



 確かに玲奈を探していたけど、競技場の外に出た所に立っているとは思わなかった。



「さっき美鈴さんがトイレに行くって言ってたからここで待ってたの」


「そうなんだ。紗耶香達は?」


「まだスタンドにいると思う。同じクラスの人と話してるみたい」


「そっ、そうか」


「何でそんなこと聞くの?」


「いや、俺はてっきりみんなでいると思っていたからさ。ちょっとびっくりしただけだよ」



 ちょっとどころではなく、本気で驚いたとは玲奈には言えない。

 だってそうだろう。紗耶香や楓はともかく、あの姉ちゃんが玲奈の側にいないなんて思わなかったからだ。



「春樹は何でここにいるの?」


「あぁ、ちょっとな。折角だからみんなで帰ろうって、守の奴が言ってたから俺が探しに来たんだよ」


「守君が言っての?」


「そうなんだよ。みんなで一緒に帰るって話だったから、俺が迎えに来たんだ」



 実際は玲奈にお礼を言いに来ただけなんだが、我ながらよく言い訳を思いつくものだ。

 どうせこの後みんなで帰るのだから、嘘は何一つ言っていない。



「それにしてもみんな遅いな。一体どこで油をうってるんだよ」


「美鈴さんが遅いのも珍しい。いつもはすぐ戻ってくるのに」


「本当本当。守もそろそろこっちに来るんじゃないかな」


『ピロン!』


「春樹、今スマホが鳴らなかった?」


「鳴ったな。ちょっとごめん」



 俺は急いでスマホを見る。スマホを見ると守から連絡が来ていた。



守  :ごめん。僕は紗耶香ちゃん達と先に帰ってるわ


守  :春樹も玲奈ちゃんと頑張ってヽ(^o^)丿



「守のやつ!!」



 あいつ俺を放って紗耶香達と帰ったのか。

 女の子と、しかも複数人で帰るなんてなんとうらやましい。呪い殺してやる。



「春樹、どうしたの?」


「あいつ、紗耶香達と先に帰りやがった」


「もしかして春樹、守君に置いて行かれたの?」


「あぁ、どうやら守に出し抜かれたみたいだ」


「そうなんだ」



 くそ!! あいつだけいい思いしやがって。俺は絶対に許さないぞ。



『ピロン』


「あれ? また俺のスマホが鳴ったのか?」


「違うよ、たぶん私のスマホが鳴ったんだと思う」



 そう言ってスマホを見る玲奈。しばらくスマホを見た玲奈は、その場で固まってしまった。



「玲奈、誰からの連絡だった?」


「美鈴さん」


「姉ちゃん? なんて連絡が来たの?」


「友達と帰るから、先に帰ってって。それと‥‥‥」


「姉ちゃんまで先に帰ったのかよ。玲奈を置いて帰るなんていい加減だな」



 まさかあの姉ちゃんまで帰ってしまうなんて、一体どうなってるんだ。

 守も帰ってしまったし、何かが起こっているようにしか見えない。



「そういえば、今日の春樹のプレー凄かったね」


「そう? 俺的にはあのゴール以外は不満が残ったけど」


「そうかな? 決定的な場面何度も防いだり、がむしゃらにグラウンドを走る姿は格好良かったと思うよ」


「ははははは、顔面ブロックの事は忘れて欲しいな」



 あれは俺にとって黒歴史でしかない。

 鼻血を出す程のシュートを体に受けて倒れ、そのままピッチを後にしたのだ。



「でも、あの時の春樹体を張ってて格好良かったよ」


「いやいやいや、あれは格好いいとは正反対だよ」


「そんなことないよ。名門チーム相手に必死に走り回って頑張る春樹はすごく格好良かった」



 玲奈は嬉しそうに話す。その様子は本気で俺の事を褒めているように思えた。



「春樹は何でも自信がなさすぎだと思う」


「そうかな?」


「そうだよ。中間テストの時だって、春樹は目標達成したじゃん」


「あれは玲奈や姉ちゃん達の協力もあって‥‥‥」


「でも結局は春樹が頑張ったから目標達成できたんだよ。春樹はやれば出来る子なんだから、もっと自信を持たないと駄目だよ」


「わかった」


「うん。それでこそ春樹だよ」



 何だろう、玲奈が笑っている所を見ると俺も嬉しくなる。

 それと同時に玲奈を誰にも渡したくないと思ってしまった。



「玲奈!!」


「どうしたの? 春樹?」



 あれ!? 俺は今何を言おうとしていたんだ?

 もしかして告白しようとしていたのか? こんな格好悪い所を散々見せてるのに。



「あっ、あのさ‥‥‥」


「うん」


「俺と‥‥‥」



 玲奈に何を言うつもりだ? 告白したって振られるだけだ。

 ただここまで言ったからには何かを言わないといけない。



「春樹?」


「あぁ、ごめん。やっぱり何でも‥‥‥」



 そこまで言った所で本当にこのまま告白しなくてもいいのかと思った。

 この後は期末テストの後、すぐ夏休みにはいる。もしかすると玲奈はクラスの友達と遊びに行って、親交を深めるかもしれない。

 信仰を深めるだけならいい。でも、もし夏休み中に別の人と付き合うってなったら目もあてられない。

 ここで告白しないでどうする? 覚悟を決めろ!! 春樹!!



「俺と‥‥‥俺と付き合ってくれませんか!!」



 それを言った瞬間、全てが止まった。そして周りの空気が一瞬凍ったような気がした。

 きっと玲奈も困っていることだろう。きっと声も出なくて呆れているに違いない。

 ゆっくり顔を上げると、そこにはポロポロと涙を流している玲奈がいた。



「れっ、玲奈!? ごめん!! 俺が悪かったから‥‥‥」


「春樹は何で謝るの?」


「謝るって‥‥‥だって今玲奈は泣いて‥‥‥」


「涙? あっ!?」



 どうやら玲奈は泣いていることにも気づいてなかったみたいだ。

 ポケットからハンカチを出して涙を拭きとっている。



「涙ってさ」


「うん?」


「嬉しい時にでも出るんだね」


「嬉しいって、それって‥‥‥」


「うん」



 ゆっくりと俺の所に来る玲奈。側に来た玲奈の手を俺は優しく握った。



「春樹はさ、私でいいの?」


「もちろんだよ。俺は玲奈しか考えられない」


「私も。春樹しか考えられないよ」



 こう言ってるとなんだか気恥ずかしくなる。

 玲奈も同じ気持ちなのか、クスクスと笑っていた。



「みんな帰っちゃったし、このまま帰ろうか」


「うん」



 玲奈と手をつなぎ俺達は歩く。そのまま競技場を出た。



「あ~~安心したらなんだかお腹が減ったな」


「私も」


「そしたら帰り、ファミレスでも寄っていく?」


「うん。私サイジ行きたい」


「いいね。そしたら帰りはそこによって行くか」



 帰り道どこにご飯を食べに行くか話す。

 その間も俺と玲奈の手は繋がれたままだった。



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ここまでご覧いただきありがとうございます


次話、エピローグになります。


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