第71話 勝利の余韻
ミーティングが始まり30分以上。監督の1人演説会は続く。
最初は全員名門校を倒したというテンションのせいで大人しく監督の話を聞いていたが、10分を越す頃にはさすがに飽きた。
俺の隣にいる守も先程からあくびばかりしており、うんざりしている様子だ。
「春樹、そろそろ監督の話を止めることが出来ないの?」
「無理だよ。あんな監督が気持ちよさそうに話しているんだぞ。あと最低30分ぐらいは話しているんじゃないか?」
「嘘だろ!? さすがに立ってるのが辛くなってきたぞ!?」
「それはこっちのセリフだよ」
全力を振り絞った試合後という事もあり、足がガタガタと震えている。
もはやこれは監督の新手の練習かと疑う程、体はボロボロだった。
「お前達、今日は本当によくやった。あの全国常連の名門校である東橋高校に勝利したのは我が高校至上初めての快挙だ」
「春樹が何とかしてよ。今の言葉、もう3回は聞いたよ」
「それを言うなら守が言えよ。俺に監督は止められない」
むしろ止めようとしても、延々としゃべり続けるような気がする。
この調子だと俺達がいなくなっても、しゃべり続けるんじゃないかとさえ思ってしまう。
『ピピピピピ』
「おっと、すまん。電話が入った。ちょっと待っててくれ」
監督はポケットからスマホを取り出すと、その場で電話を始める。
有頂天だった監督の顔色が徐々に悪くなっていき、声もどんどんしぼんでいく。
「監督、どうしたのかな?」
「さぁな。そんなこと、俺達にわかるわけない」
ただ監督にとってよっぽど都合の悪い事なのだろう。顔色が青ざめているので、それだけはよくわかる。
「はい、はい、わかりました。いますぐ向かいます」
『ピッ』
「というわけで、今日はご苦労だった。それじゃあ解散だ!!」
監督はそれだけ言い残すと、そそくさとどこかへ行ってしまう。
どこへ行くかはわからないけど、あの慌てようは相当だろう。
「なんだかよくわからないけど、無事に終わってよかったね」
「だな。なんか今日は凄い疲れたな」
「あれだけ全力で走ってればそうなるよ。春樹ピッチ中を走り回ってたじゃん」
「しょうがないだろ。敵を封じるには俺も戻らないと行けなかったんだから」
そうでもしないと、相手を止めるのは不可能に近かった。
それだけ相手の方が個人能力が高かったということだ。
「それよりもやったな。得点を決められて」
「まぁな。正直皆には感謝してるよ。あのゴールは俺1人じゃ絶対に達成できなかった」
必死に守って俺にボールをつなげてくれた先輩達や俺を信じてピッチに送り込んでくれた監督等全員に感謝したい。
何より大事な時間をとって付き合ってくれた守や楓、そして俺が落ち込んでいる時に励ましてくれた玲奈にも感謝している。
「春樹にしては珍しく素直だね」
「素直で悪いか?」
「悪くないよ。美鈴さん達の前でも、そう言う姿をもう少し見せた方がいいかもね」
「その案は却下だ。姉ちゃんにそんな姿をさらした日には、その事で強請られて骨の髄までしゃぶられるに決まってる」
考えただけでも恐ろしい。それはもう下僕とか舎弟とか以前に、奴隷となってしまう。
「全く、春樹は素直じゃないな」
「守に言われたくないよ!!」
「だったら玲奈ちゃんにお礼ぐらいはちゃんといった方がいいんじゃないかな?」
「玲奈か‥‥‥」
「そうだよ。色々とお世話になったんだから、それぐらいいった方がいいと思うよ」
「確かにそうだな」
試合前に相談にのってもらったり、色々と玲奈にはお世話になった。
公園での事や学校で試合を見ていた時、それはもう頭が上がらないぐらいだ。
「そうだ! 折角だから玲奈ちゃんとあってきたらどう?」
「玲奈と?」
「そうだよ。折角の試合終わりなんだから、一言ぐらい言葉を交わして来てもいいんじゃないの?」
「でも、姉ちゃんもいるからさっさと帰っているってことも‥‥‥」
「ぐずぐずしないで行ってきな」
「わっ!? 押すなよ、守!!」
「こうでもしないと春樹は動かないだろ!! 早く行って来いよ」
「わかったよ」
俺の隣にいる守は「よし」とつぶやくと、スマホを操作して何かしていた。
「守、スマホなんて見て何をしてるんだよ?」
「わっ!? まだ春樹いたの?」
「いたのって、さっきからずっと隣にいるけど‥‥‥」
「僕の事は気にしないで、早く行こう」
再度守に背中を押され、俺は観客席側の方へと歩いていく。
後ろでスマホを操作している守が気になったが、そのまま観客席の入場口の方へと向かうのだった。
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