第70話 英雄(ヒーロー)の帰還
「やっと終わったか」
試合が終わった時、俺は思わずセンターサークルの中央で寝そべってしまう。
さすがに今日は小中学生含めて、試合で過去一番走ったに違いない。
いつもピッチを駆け回っているけど、今日は別格だ。アドレナリンが出ているからといって、我ながらよく走り切ったと思う。
「走りすぎて、一歩も動けない‥‥‥」
よくよく足を見ると両足がぶるぶると震えて痙攣している。
どうやら自分の限界以上に走っていたみたいだ。
「でも、勝ったんだよな。今日の試合」
あの名門校相手になんとか競り勝った。
下馬評では9分9厘相手が勝つと言われていた試合で、俺達が勝ったんだ。
「春樹、やったな!!」
「先輩!?」
「勝ったんだよ!! 俺達が!! あの名門校に!!」
興奮状態のキャプテンが俺に手を差し伸べる。
その手を取った俺は何とかかんとか立ち上がった。
「やりましたね」
「あぁ。それもこれも春樹のおかげだよ!! ありがとう、春樹!!」
「わっ!? 先輩!? 抱き着かないでくださいよ!!」
先輩が来たからか、他の先輩達も俺達の所へと来る。
そしてみんながみんな俺の事を称えてくれた。
「ぐぉ!! 重い!!」
足が痙攣しているからだろうか、先輩達の事を支えきれない。
いつもはこの人数に抱き着かれても平気なのに。一刻も早くどいてくれないと、俺が潰れてしまう。
「さすが今日の主役」
「今日の試合のMVP」
「ナイスブサイク」
「それはやめて下さいよ!!」
先輩達まで姉ちゃんの変なあだ名を鵜呑みにしているのか。これは厄介なことになったぞ
このままじゃこの名前が学校でも定着してしまう。それだけはなんとしても避けなくてはならない。
『ピッ』
「ほらほら、審判が呼んでますよ!! 早く整列しないと!!」
「そうだな」
「行こう」
急いで整列に行くと、相手チームも整列していた。
整列している人の中には、悔しくて涙を流している人までいる。
無理もない。これで相手は夏の大会が終わり3年生では引退する人もいるはずだ。
負けて悔しいに決まってる。
『ありがとうございました!!』
最後にお互い頭を下げてベンチへと戻る。
ベンチに戻ると監督が狂喜乱舞。めちゃくちゃ喜んでいる姿が見えた。
「よくやったぞ、春樹!! あの場面で決めるなんて、さすがスーパールーキーだな!!」
「どうも」
ベンチに戻った瞬間、俺は監督にぐしゃぐしゃにされる。
監督だけじゃない。ベンチにいた選手達からもバシバシと背中を叩かれた。
「あのシュート、さすがだったぞ」
「あれは相手が俺のことを軽視していたからですよ」
「それにあのコーナーフラッグでのキープはさすがだった」
「とあるプロサッカーチームを見ているかのようだったよ」
「ははははは」
実際あの行動はそのプロチームがよくトーナメントの試合でやっていた事なんだけど、それは言わないでおく。
よくパソコンで試合巧者、特にトーナメントに強いと言われているチームの動画を見ていたのが役に立った。
「今日はこの後祝杯だな。みんなで飲みに行くぞ!!」
「監督落ち着いて下さい!! 俺達はまだ未成年なんで、お酒は飲めませんよ!!」
「それもそうか。今日も寂しく一人酒か」
先程のテンションをどこに行ったのか、寂しそうな顔をする監督。
相手は去年全国優勝をした高校に勝ったのに、1人悲しそうにしていた。
「監督どうしたんでしょうか? あんなに落ち込んで?」
「実は春樹、監督は去年奥さんに逃げられたらしい」
「えっ!?」
「今は離婚調停中ってどこかで聞いたことがある」
「先輩、それ本当ですか!?」
「あぁ、本当だ」
嫌だ。そんな話、こんな所で聞きたくなかった。
試合に勝って折角のお祭りムードが台無しになる。
「監督監督!! 大丈夫ですよ!!」
「今日の試合結果を見れば、きっと奥さんも戻ってきてくれるはずです!!」
「そうか‥‥‥そうだよな‥‥‥今日の結果を見れば、嫁も戻ってきてくれるはずだよな」
急に元気になった監督は高笑いをし始めた。
本当この人は情緒が不安定だ。奥さんと別居中なら、理由がわからないでもないけど。
「今日はこの後ミーティングが終わったら解散だ」
「わかりました」
「それじゃあ全員スタジアムの外に集合しろ。スタンド組も併せて、部員全員でミーティングを行う」
「はい!!」
その後俺達はロッカールームに戻って着替えを行い、ミーティングの準備をするのだった。
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