第69話 格好悪い英雄(ヒーロー)
守視点の話です
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「また顔面だね‥‥‥」
「鼻血大丈夫かな?」
「あの子の事だから大丈夫でしょ? ほら、見て。普通に立ち上がってるし、問題ないわよ」
「本当だ。顔に手をあててるけど、問題ないみたい」
「よかった」
春樹がピッチの上で立ち上がり、俺達スタンド応援組はほっとしていた。
先程のように出血してたらどうしようかと思っていたけど、そんな心配はいらなかったみたいだ。
「ちぇっ、また『ナイスブサイク』って言えると思ってたのに」
「美鈴さん!?」
「冗談よ、冗談。次は言い方を『さすがブサイク』に変えるわ」
「どっちも同じですよ」
笑顔の美鈴さんが本気で言おうとしていたかどうか僕にはわからない。
でもこの人ならやりかねない。さっきこの大観衆の中、ナイスブサイクなんて言葉を春樹に向かって言ったのだから、もしもう1度出血して退場なんて事をしたら躊躇なく言っていただろう。
「見て下さい!! 春樹君が前の方でボールを持ちました」
「あれ? 抜け出したはいいけど、中に持ち込まないでコーナーキックを蹴る所に向かってるの?」
「紗耶香ちゃんの言う通りです。ゴールに向かわないのでしょうか?」
「確かに普通に考えたら、コーナーフラッグの方にはいかないよな」
紗耶香達は首をかしげているけど、僕にはわかる。春樹の狙いが。
その狙いに玲奈ちゃんも気づいているからか、紗耶香達みたいに動揺しない。
「ちょっと守!! もったいぶってないで、理由を話しなさいよ!!」
「わかったって。春樹がコーナーフラッグの方に行く目的は‥‥‥」
「春樹はきっと時間を潰すつもり」
「玲奈ちゃん、どういうことですか?」
「言葉通り。残り時間を潰すためにわざとコーナーフラッグにボールを運んでった」
「どういうこと? 私はよくわからないけど‥‥‥」
「玲奈ちゃんの言葉通りだよ。かみ砕いて説明すると、時間も時間だしゴールを狙うよりも時間稼ぎをした方がいいと思ったんだよ」
「でも得点を狙った方がお得じゃない?」
「ゴールが入ればの話だろ? サッカーではゴールを入れることが難しいんだ。仮にシュートをキーパーにキャッチされたら相手ボールになって、カウンターをされるだろう」
「確かにそうね」
「だからあぁやってコーナーフラッグ付近でキープ出来てるんだ。キープの時間が長い程、DFラインも押し上げられてゴールから遠ざけられるし、DFも足を休められて一石二鳥だろう」
「なるほど。それであんな場所に向かったわけね。あっ!? ファールされた!!」
春樹が倒されてファールをもらった。ゴール前でのチャンス。だけど中に入る味方の人数が少ない。
「守!! うちの高校の人達、中に1人しかいないわよ!!」
「サイドにもボールを蹴る人の隣に1人いるだけで、3人しか攻撃しようとしません!!」
「どうやらうちのチームは徹底的に時間を使うつもりだな」
監督はやる事が徹底している。だけどそれぐらいしないと名門校には勝てないんだろうな。
「あっ!? ショートパスをした!!」
「また春樹がコーナー付近でボールをキープしてる」
「でも凄いですね。あれだけの人がボールを取ろうとしているのに、春樹君がキープできるなんて」
「春樹は昔からあぁいうプレイが得意だったから」
「勝つ為にはあらゆる手を使う。春樹らしいな」
ボールをしばらくく保持して、取られたらすぐ戻る。
相手も3人がかりでボールを取ったんだ。前線にクリアするも攻撃の人数が足りていない。
「相手も攻めあぐねていますね」
「あと一歩の所で全部クリアーしてます」
「その守備の全てを担ってるのは春樹」
「中学の時から凄かったけど、更にレベルが上がったわね」
「本当にそうだ」
まさかあの名門校相手にここまで出来るなんて思わなかった。
さすが春樹だと言うしかない。
「玲奈ちゃん、後残り時間どれくらい?」
「アディショナルタイムに入ってる。副審が2分って表示が今出された」
「2分か‥‥‥長いな」
この2人間が1時間以上にも感じられるだろう。そのぐらいピッチにいる選手達は長い時間に思えるに違いない。
「お願い‥‥‥このまま終わって」
「玲奈ちゃん」
隣で玲奈ちゃんが祈る中、時間は過ぎていきボールが大きく蹴り上がる。
それと同時に試合終了を告げるホイッスルがなった。
「かっ、勝ったんですね!!」
「楓、うちのチームは勝ったの!?」
「勝ったんじゃないでしょうか? あのゴールで」
それを認識した瞬間、観客席全体が盛り上がる。
うちのチームがあの全国常連校に勝利したことで、観客席は大いに沸いている。
「春樹はどこにいるんだ?」
「あそこ!! ピッチの中央で倒れてる!!」
「えっ!?」
センターサークル付近で春樹が倒れていた。
ピッチでうなだれる相手チームをしり目に、大の字になって倒れていた。
「春樹‥‥‥」
「大丈夫よ、玲奈」
「美鈴さん」
「あの脳筋ゴリラがこの程度で怪我をするはずないでしょ? 貴方は心配しすぎよ」
『全く』と悪態をつきながらも美鈴さんも春樹を見ている。
ただその表情は正反対で、主君のゴールを挙げた弟をねぎらっているように見えた。
「ちょっと、守!! 味方チームがあんなに喜んでる輪に春樹が全く入れていないわよ!!」
「相変わらずあの子は残念だわ」
今日の試合で一躍時の人なった主人公は、ピッチで寝そべったまま自由気ままに寝そべっている。
あれじゃまるで天然芝のベッドで寝ている人みたいだ。
「格好悪い
主君のゴールをあげた友人を見ながら、僕はクスっと笑うのだった。
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