第68話 待望の瞬間
試合が再開され5分が経った。その間敵の波状攻撃が続く。
敵も必死だからだろう。先程よりも速いパス回しで俺達を翻弄して、ゴールに迫る。
「春樹!! そっち側を頼む!!」
「はい!!」
DFの間で交わされるパス回し。そのパス回しに俺は必死に食らいつく。
パスを奪うことは出来なくても、パスコースを限定することは出来る。
「ナイスだ!! 春樹!!」
パスコースが限定できたが、この相手は今までの相手と一味違う。
自分でドリブル突破をすることが出来る。
「止めろ!! 絶対にそこを通すな!!」
なんとか先輩2人がかりで相手を止める。
ボールはクリアできずコロコロと転がり、ゴールラインを割る。
「コーナーキックか」
「春樹も中に入れ!!」
「はい!!」
俺は先程と同じようにニアポストの所に行く。
そこの中に入り、ボールが蹴られるのを待つ。
「ここ1本集中だ!!」
「死ぬ気でゴールを守れ!! ここを守り切るぞ!!」
「もう1度マークを確認しろ!! 絶対に外すなよ」
敵も必死だが先輩達も必死だ。それもそうだろう、ここを踏ん張ればベスト4に行けるんだ。気合も入る。
「来るぞ!!」
敵が蹴ったボールは低くライナー性のボール。
そのボールはニアに向けられて蹴られたボールだった。
「おらっ!!」
全身全霊を持ってその場に飛び上がる。
俺とは別に2人の長身選手もその場に飛び上がった。
「こいつ!!」
「なんてジャンプ力をしてやがる!!」
ヘディングでシュートを打とうとしてくる2人が体をぶつけてくる。
だが先に落下地点にいたせいか、ギリギリの所でボールをクリアーできた。
「しまった!? ボールがペナルティーエリアの中に!?」
クリアーが中途半端になってしまったせいか、ボールがエリア内をコロコロと転がっていく。
そのボールに向かって、全選手が一斉に走り出していた。
「絶対にクリアーするんだ!!」
「ここで1点取るぞ!!」
両軍入り乱れたごちゃごちゃの混戦になる。それは技術等関係ない肉弾戦。
俺もその中に入って必死にボールを追う。
「くそ!! 全然ボールに触れない!!」
3年生と1年という学年の違いもあるだろう。全くボールに触れない。
ボールを取ろうとしても、相手にはじき返されてしまう。
「あきらめるものか!!」
俺が悩んでいる時、側に付き添ってくれている人がいる。
点が決められず落ち込んでいた時に協力してくれた人達。その人達にもこの試合で勝ちたい。
その気持ちはここにいる誰よりも強い。
「邪魔だ!!」
「がっ!!」
いくら当たっても吹き飛ばされる。だけど俺は何度でもチャレンジをする。
泥臭くてもいい。とにかくゴールを許さなければいいんだ。
「まずい!! 打ってくるぞ!!」
ペナルティーエリア内からのシュート。
そのシュートの軌道はゴールに向かっていく。
「クリアーだ!!」
だがキーパーもそのシュートに反応できていない。
このままじゃゴールが決まってしまう。
「この!!」
体を投げ出すとそのシュートが俺の顔面に当たる。
当たったボールがそのままフラフラとペナルティーエリア外へと飛んでいった。
「一旦外に出せ!!」
ボールが蹴られる音が聞こえる。そしてそれと同時に審判が笛を吹く音が聞こえる。
すぐさま先輩達が駆け寄ってくる。それに対して、俺は鼻を抑えながら立ち上がった。
「春樹!! 大丈夫か!?」
「大丈夫です」
鼻に手をあてるが、赤いものは出ていない。
どうやら出血だけは避けれたようだ。
「今度は鼻血が出なかったみたいだな」
「そうですね」
「不幸中の幸いだな」
先輩の手を取り、俺はゆっくりと起き上がる。
そしてそのまま体に付着した芝をはたき、持ち場に戻る。
「後少しだ!! 気合入れていくぞ!!」
「はい!!」
それから俺は全力でゴールを守る。時にはクリアーしたボールを持ち、コーナーサイドまで駆け上がっていく。
「もう少し‥‥‥後少し‥‥‥」
そう祈りながら審判が笛を吹くのを待つ。
そしてしばらくすると、試合終了を告げるホイッスルが鳴るのだった。
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