第67話 歓喜の咆哮

「はっ、入ったのか!?」



 シュートが入った後、思わずゴールの方を何度も確認してしまう。

 それは敵のキーパーも同じようで、サイドネットに吸い込まれたボールを呆然と眺めていた。



「やっ‥‥‥やった‥‥‥」



 今までの決勝トーナメントの試合で、どんなに頑張っても入らなかったシュート。

 そしてずっと渇望してやまなかった決勝トーナメントでの初ゴール。それがこの試合で達成出来た。



「やった‥‥‥やったぞぉぉぉぉぉ!!」



 シュートが入ったことが嬉しすぎて、思わずその場で叫んでしまった。

 ピッチ一面に響き渡る叫び声。そしてゴールを告げるホイッスルが鳴ると共に観客席の方からも大歓声が聞こえる。



「春樹!!」


「よく決めた!!」


「先輩‥‥‥うわっ!?」



 ゴールを決めた俺に向かって先輩達が順番に抱き着いてくる。

 その重みに耐えかねて、俺はその場に倒れこんでしまった。



「重いですよ、先輩!!」


「うるさい!! 受け止めきれないお前が悪いんだ!!」


「そんな理不尽な‥‥‥」



 口では悪態をつくけど、これはこれで不快感はない。

 むしろ先輩達も過去2試合分の鬱憤を爆発させるかのように俺のゴールを喜んでくれていた。



「よくやったぞ、春樹!!」


「あのワンチャンスでよくゴールを決められたな」


「たまたまですよ。相手が油断していたので、上手くゴール前にいけただけです」



 そうだ。あのゴールは敵が俺の事を軽視して、雑なマークの付き方をしていたのが原因だ。

 今までのDFのように体を寄せて競り合いをされてたら簡単にクリアー出来ていたし、密着マークをしていれば俺も前を向いてドリブルができなかったはずだ。

 全ては『ナイスブサイク』と言って、俺の事を馬鹿にしていたからだ。相手はその代償は試合を決定付けかねない得点という形で払うこととなった。



「油断か」


「そうだな。俺達の事を馬鹿にしていたつけが周ってきたんだ」


「どんな相手でも手を抜かずにやらないと駄目だよな」


「えぇ。相手はその事を身をもって教えてくれました」



 振り返ると敵チームが悔しそうな表情をしている。

 その中には睨むような視線を俺達に向ける人達もいた。



「これで敵チームも本気で来るでしょうね」


「そうだな。負けたら夏の大会が終わる1発勝負だから、相手も必死で攻めてくる。ここからが正念場だぞ」


「そうですね」


「きっと得点を取る為に死に物狂いで攻めてくるだろう。ここが踏ん張りどころだ」


「はい」



 時計を見ると残りの時間はアディショナルタイムを抜かして10分。

 その約10分間、敵の猛攻を耐えしのがなければいけない。



「お前達!! ここから死ぬ気で守れ!! 守備陣はもう1度声を出してマークの確認をしろ!!」


「監督も必死だな」


「相手は去年の全国大会優勝校。ここで勝てば大金星なんですから、必死にもなりますよ」



 テクニカルエリアギリギリまで監督は出て、選手に指示を出している。

 同時に控え選手がユニフォームに着替えているので、選手交代もあるのだろう。



「春樹、ここからが本番だぞ」


「もちろんです。先輩こそ、頼みますよ」


「抜かせ。この試合に勝って、絶対にベスト4に行くぞ」



 先輩と話をしながら自陣へと戻る。その間に守備の簡単な約束事も確認しておく。

 俺の役割は前線に残ってクリアーボールを待つことだが、先輩の話ではある程度は下がってボールを追いかけてもいいという事だった。



「そしたら俺はある程度前線でチェイス(ボールを追いまわす)して、敵のパスコースを制限します」


「頼むぞ。もしそのままボールを奪取できるなら、奪取しても構わないからな」


「わかりました」



 自陣に戻って自分の持ち場へと戻り、キックオフの笛を待つ。

 いまだに得点を決めた興奮が収まらないのか、心臓がバクバクしていた。



「さぁ、ここから大変だぞ」



 1発勝負のトーナメント。どんなに強いチームでも、負けたらそこで夏の試合が終わる。

 だから相手は必死に攻めてくる。少しでもこのチームで戦いたいから、必死に攻撃をするだろう。



「だけど、絶対に俺達が勝つ!!」



 俺がボソッと独り言った瞬間審判のホイッスルが鳴り、敵の波状攻撃が始まるのだった。



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