第66話 渾身のシュート

 ピッチの中に入った俺は、敵のDFがいる最前線に入る。

 さっきまでいた先輩は敵と味方の間、俺の代わりにピッチの中を走り周っている。



「頼みます、先輩」



 前半から走り回っている先輩には悪いけど、なんとか踏ん張ってほしい。

 敵に囲まれる中前線にポツリと1人立ち、ボールが来るのを静かに待つ。



「こいつ‥‥‥ナイスブサイクじゃないか」


「また鼻血を出しながら言われるんじゃないか? 『ナイスブサイク!』って」



 相手のDF達は俺の事をあざけわらっているようだ。

 こいつらの話を聞くだけでぶん殴りそうになるけど、今は我慢しよう。

 こいつらが油断している時、それが唯一のチャンスになる時なのだから。



「本当に弱いよな」


「何でこんなチームが決勝トーナメントに上がって来たんだか」


「こいつ等‥‥‥言いたい放題言いやがって」



 我慢だ。とにかく今は我慢しろ。

 ボールが来ない事には何も出来ない。今は味方がボールを送ってくれるまで、とにかう我慢しろ。



「こんな雑魚チームが頑張った所で、本当に俺達に勝てると思うのかよ」


「監督もキャプテンも警戒しすぎなんだよ。現に俺達が圧倒的に攻め込んでるじゃん」



 どうやら敵は俺の事を完全に舐め切っているようだ。

 現にセンターラインで棒立ちになり、ボールが来ないことを言いことに談笑している。



「我慢だ。とにかく今は我慢しろ」



 きっと先輩達がいいパスを運んできてくれる。

 その1度きりのチャンスを信じて、俺はボールを待つ。



「頼むぞ、先輩達」



 センターサークルで祈りながら俺ボールを待ち続ける。

 試合は防戦一方のサンドバッグ状態。それでも先輩達はフィールド中を走り回り、必死に守り続けている。



「そっちに9番行ったぞ!!」


「誰か14番をマークしろ!!」



 先輩達の叫び声がピッチ上に響く。その声はピッチ内だけでなく、スタンドにまで響く程大きな声だ。



「早く‥‥‥早くボールをここまで届けてくれ」



 あれから何分経っただろう。体感ではわからないけど、かなりの時間が経った気がする。

 相手も俺達の自陣でボールを回し、点を取るタイミングをうかがっている。



「くそ!! 中々点が取れない」


「おい!! もう時間がないぞ!! このままじゃ延長戦だ!!」



 敵が焦っているのが伝わってくる。中々点が取れないから、焦っているのだろう。

 チャンスはここだ。先輩達がボールを奪ってくれることを願って、センターラインで待ち続ける。



「っつ!? しまった!?」


「よし!! クリアーだ!!」



 ゴールラインから蹴りだされた山なりのボールがセンターライン付近に飛んできた。

 フラフラと力なく上がったボールが俺の方へと向かってくれる。



「よっしゃ!!」



 ふわふわと力ないボールが俺の前に落ち、そのボールをトラップ。

 運がいいことに敵が体を寄せてなかったので、簡単に反転できた。



「(あいつら、俺の事を過小評価しているな)」



 だがそのおかげで俺は簡単にトラップできたし、前を向くこともできた。

 DFが3人もいて、体も寄せず競り合いもしない。あまつさえ簡単に前を向くことができる。



「俺の‥‥‥俺達の事を過小評価した事、後悔させてやる!!」



 俺はボールを持つとその場でドリブルを始めた。

 人のいなさそうなサイドの方へと走ってついてきた1人をスピードで振りぬいた。



「こいつ‥‥‥予想以上に速いぞ!!」


「距離を詰めて対応しろ!! 急げ!!」



 今頃気付いたのかよ。だがもう遅い。俺はトップスピードに入っている。



「何!?」



 体を左右に振って抜く高速のボディーフェイント。

 敵の2人目のDFは俺のボディーフェイントをを棒立ちで見送っている。



「何やってるんだよ!! 相手は弱小校だぞ!!」



 3人目のDFが慌てて俺の元へと来る。

 このDFにも俺は高速フェイントをかけるが、中々のってこない。



「さっきの2人のおかげで、お前の動きは見切った!!」


「それなら‥‥‥」



 俺はボールをアウトサイドで右側に振る。振ったと同時に、敵が体を寄せてきた。



「よし!! 取れる」



 相手はそう思ったことだろう。そこから俺はボールを止め、高速でボールと体を左に振った。



「何!?」


「やった」



 緩急をつけた高速のフェイント。敵もその緩急に対応できず、その場で尻餅をついてしまった。



「3人抜いた!!」


「あとはキーパーだけだ!!」



 俺が敵を抜いたことで、スタンドが湧いている。その声は今までの比にならないぐらい声が大きい。



「いけ!! 春樹!!」


「ここで点を取らなきゃ男じゃないわよ!!」



 スタンドにいる姉ちゃん達はいいご身分だ。

 こっちの事情も知らずに、散々言ってくれる。



「絶対止める!!」


「くそ、コースがない!!」



 残りはキーパー1人だけど、いかんせん角度が悪すぎる。

 場所は左斜め60度。シュートコースは前に出てきたキーパーに全て塞がれている。



「どうすればいいんだ!!」



 シュートコースが全くない。キーパーが前に出ている分コースが狭くなり、シュートを打つ場所がどこにもない。



「シュートコースがないこの状況。お前ならどうするんだ?」


「ちっ」



 思わず舌打ちが飛び出してしまう。このままシュートを打っても入るわけがない。



「DFが戻ってきてます」


「春樹!! さっさとシュートを打ちなさい!!」



 そんなのわかってると返したいところだけど、いかんせん打つ場所がない。

 どうすれば、どうすればゴールすることが出来る?



「これだけ前に出ればシュートコースはないだろう。さぁ、打ってこい!! どんなシュートでも止めてやる!!


「キーパーが前に出てる‥‥‥そうか!」



 あった、唯一のシュートコースが。その場所をめがけて俺はシュートを打つ。



「えっ!?」



 俺が打ったコースはキーパーの真上。ちょうどキーパーの頭を上を越す弾道で打つループシュート。

 キーパーが前に出ているってことは、後ろには誰もいないということだ。



「頭を超すシュートを打てば、キーパーも取れないはずだ」



「くそ!! 届け!!」



 無駄だ。このシュートは丁度キーパーの手の届かない所へとコントロールされたものだ。

 ギリギリ手が届かないかつ、ゴールのサイドネットに入るように調節した。絶対入る。



「この!!」



 必死に手を伸ばすキーパーの指先を超え、シュートは真っすぐゴールへと飛んでいく。

 そのボールはゆっくりとゴールマウスに向かっていく・



「入れ!!」


「入るな!!」



 力なく飛んでいったボールはゴールの方へと向かっていく。

 そのボールは真っすぐ飛んでいき‥‥‥ゴールポストに当たりサイドネットを揺らすのだった。



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